JAの活動:今さら聞けない営農情報
みどりの食料システム戦略12【今さら聞けない営農情報】第108回2021年7月3日
令和3年5月12日に決定された「みどりの食料システム戦略」では、「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現」を目指し、2050年までに目指す姿と取組方向が示されました。前回より、それらの考え方とその具体的な方法についての掘り下げを試みており、今回は化学方法肥料に関する項目について考えます。
「2050年までに、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量の30%低減を目指す。」とありますが、なぜ化学肥料を減らさなければならないのでしょうか?
それを理解するには、N2Oという温室効果ガスのことを知らなければなりません。
温室効果ガスには多数ありますが、農業から排出される温室効果ガスの主なものは、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)の3種類です。全ての産業が排出する温室効果ガス排出量(CO2換算)は12億4000万トンで、そのうち農業の排出が5000万トンで全体の4%にあたります。N2Oは、農業全体の5000万トンのうち18.8%にあたる940万トンが排出され、これは農業分野全排出量の約0.8%にあたります。
化学肥料に含まれる窒素質肥料の多くは、化石燃料(ナフサ)を原料として製造され、主にアンモニア態窒素と呼ばれるかたちで製品に入っています。これが土壌に施用された時、アンモニアイオン(NH4+)の形で作物に吸収されるか、吸収されなかったものは、土壌中微生物の働きなどによって硝酸体窒素など別の窒素化合物に変化します。その変化の過程で一酸化二窒素(N2O)と呼ばれる窒素化合物が発生し、大気中に放出されるのです。
つまり、窒素質の化学肥料を土壌に施肥するということは、土壌由来のN2Oを発生させることにつながるのです。
ということは、土壌由来のN2Oを減らすには、N2Oのもとになる窒素質肥料を減らせば良いというわけで、それで化学肥料30%低減というわけです。化学肥料を30%減らせばどのくらいN2Oを減らせるかは、使う肥料製品や土壌、栽培形態によって異なるため一概にはわかりませんが、全体の排出量抑制には、それほど大きなインパクトではないと思われます。
それよりも、窒素質肥料は作物生育に必須のもので、それがないと作物がうまく育たず、収量も期待できませんので、使用を単純に削減するよりも、土壌診断をしっかりとやって、過剰な化学肥料の使用をやめ、微生物制御などN2Oの発生量を減らせる技術を開発・普及することで土壌由来のN2Oの発生を抑制し、化学肥料を使用するメリットを活かした方が得策ではないでしょうか。
まずは、化学肥料のメリットとデメリットをじっくりと精査した上で施策を検討してほしいものです。
もう一つ、輸入原料を減らすことも視野に入っていますが、そもそも日本で使用される肥料の原料は、99%が輸入品であり、国内で賄える肥料原料は1%しかありませんので、原料輸入量を3割も減らすとすると、現在の国内農業生産は賄うだけの肥料は供給できなくなり、現在の生産量は維持できなくなります。これは、自給率向上、輸出拡大をもくろむ政府の方針と真逆な対応になるように感じるのですがいかがでしょうか?
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日