JAの活動:女性協70周年記念 花ひらく暮らしと地域
【花ひらく暮らしと地域―JA女性 四分の三世紀(4)】豊かさを求めて<上>地位向上に産声上げる2021年8月2日
「国破れて山河あり」と言われた飢餓の夏から、コロナ禍を乗り越えて新しい時代に挑む今夏まで75年。その足どりを、「農といのちと暮らしと協同」の視点から、文芸アナリストの大金義昭氏がたどる。
■希望に燃える草創期
組織や団体の歴史は、草創期が面白い。やることなすこと不安やリスクが伴い、その不安やリスクを背負って困難を乗り越える、志や勇気を備えた人びとが数多く登場するからだろう。
「経営の神様」と言われる松下幸之助に、知る人ぞ知る言葉があった。「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ成功になる」
「幸運は高い志を好む」と語ったのは、平成27(2015)年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智だった。個人にも組織・団体にも、「やり遂げる熱意」が求められるということか。
この国で刊行された社史約1万3000点のうち、1万点に目を通した村橋勝子が『社史の研究』(ダイヤモンド社)を上梓したのは、平成14(2002)年3月だった。話題になった同書の「まえがき」で、村橋は次のように述べている。
社史を調べて見てつくづく感じ入るのは、明治時代の企業家や、第二次大戦後の焼け跡から会社を興した人々の志の高さである。特に、明治期に創業した人々の多くは20代の若さであった。彼らは、国を近代化するため、人々が豊かで幸せになるために、事業を興している。私たちは、それらの人々の遺産で食いつなぎ、生きてきたのではないかとさえ思ってしまう。翻って、近年の起業の理由は「ビジネスチャンス」すなわち「金儲(もう)けになる」からである。昨今の経済の沈滞化は、こういう面も大きく影響しているように思えてならない。
「どの会社も、出発のときは夢と希望があった」と村橋は指摘し、「創業者の情熱や使命感、理想に触れ、それを思い出して生きて」ほしいと呼びかけた。
JA女性組織も、草創期が躍動的だ。
昭和20(1945)年10月。占領軍は「無条件降伏」を受諾したこの国に「五大改革」((1)婦人解放(2)労働組合の結成(3)学校教育の自由化(4)秘密警察などの廃止(5)経済機構の民主化)の速やかな実行を命じた。このために政府は、憲法・選挙法・民法・労働法などを次々に改定して公布する。
「男女平等」が謳(うた)われ、参政権を得た女性が晴れて選挙権を行使したのは、昭和21(1946)年4月だった。
■山を動かす女性の力
農業・農村も、農地改革や農協法(昭和22〈1947〉年11月)などに基づき、「民主化」を推し進めた。農協婦人部は、制度やルールが一変する渦中で産声を上げた。
農協婦人部の皆さんへ!
農村の不況は日増しに深刻になって参ります。私達はその対策として私達の生活に一番関係の深い農業協同組合をますます強固なものに盛り立てねばなりません。
農業協同組合は、私達農民の経済上の拠点であると共に文化生活への基盤となるところであります。特に婦人の地位の向上は農業協同組合を中心として行なわれなければならないとおもいます。
私達農村婦人はこのような考えで今回農協婦人部を結成いたしました。私達はいよいよ結束を固くして農民の社会的経済的地位の向上を図るとともにお互いの教養を高め明るい農村建設への一翼をになおうではありませんか。
これは、全国に先駆けて県域の組織を立ち上げた滋賀県農協婦人部連絡協議会が、昭和25(1950)年春に大津公民館で開催した第1回大会の呼びかけ文である。県内で進む婦人部結成に向けた「檄文」だった。
全国でも早いところでは昭和20年代前半から婦人部が組織され、その動きが同30年代にかけて各地に広がった。宮城県の石巻市農協婦人会(後に婦人部と改名)が、結成大会で採択した事業計画を見てみよう。
1.組織の充実を図る事項 (イ)婦人の解放と農村民主化の徹底 (ロ)婦人会組織の自主性を強調する (ハ)部落組織の整備
2.文化厚生に関する事項 (イ)食生活の改善 (ロ)保健育児 (ハ)農業労働と家事労働の調整 (二)衣料改善 (ホ)冠婚葬祭費逓減 (ヘ)農村健全娯楽の昂揚 (ト)情報の提供並蒐集
3.其の他の事項 (イ)生活物資の共同集配 (ロ)日常生活の合理化による貯蓄運動の推進
大会はアトラクションの演芸大会も含め、活況を呈した。昭和20年代半ばだった。引用したそれぞれの行間からは、戦後不況のあおりを受けて苦境に立たされた農協が、女性の結集に寄せた期待も窺える。
現に、発足した婦人部は農協の出資増強・貯蓄推進運動や生活物資の共同購入運動の先頭に立ち、その期待に応えた。いずれの運動も、女性にとっては身近な「生活改善」の一環だった。なぜなら、農家の貧しい暮らしが、女性の双肩に収斂(しゅうれん)していたからだ。
先の第1回滋賀県農協婦人部大会は、(1)必需品の購入、生産品の販売は全面的に農協を利用する(2)農村婦人の副業奨励(3)受胎調節(4)農家経済簿の記帳(5)結婚改善(6)農談会・講習会の開催――などを運動の主要目標に掲げている。
とりわけ「生活改善」の中でも、暗く寒々とした「台所」の改善は、「壁をくり抜いて窓をつくり、そこに太陽と空気を採り入れる」女性の宿願だった。
「山が動く」という言葉がある。戦後の混乱期に立ち上がった「山の神」の底力に救われた農協は少なくない。ここで言う「山の神」とは、女性に対する「敬称」だ。シリーズは回を追うごとに、男性に対する視線が厳しくなるかもしれない。なぜなら、女性パワーに支えられながら、これに目をつぶり続ける男性が今もって多数を占めているからだ。農業が今日のように追い込まれたのも、女性パワーを十分に生かせなかったからではないか。
戦後の農村女性が体現した「進化」は、卵から幼虫・蛹(さなぎ)を経て蝶(ちょう)に変身していく姿を思わせる。視点を変えれば、「家畜」並みの「嫁」の時代をくぐり抜けて「人」並みになり、夫と同じ目線の高さでものが言える「妻」の時代から「パートナー」の時代に到る歩みとも言える。その足どりは、鹿野政直が『婦人・女性・おんな』(岩波新書)で繙(ひもと)いた女性の戦後史にも重なっている。
梅雨が明けたら、青田の彼方に小高い山波が迫って来た。
(文芸アナリスト・大金義昭)
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