JAの活動:JA全農新部長訪問
【JA全農 新部長訪問】高木克己輸出対策部長 輸出で若手農業者に夢を2021年8月3日
JA全農の最重点実施施策のひとつが海外戦略であり農畜産物の輸出拡大にも期待がかかる。今回は6月に就任した※高木克己輸出対策部長に輸出の取り組みの意義や新部長としての抱負などを聞いた。
高木克己 輸出対策部長
目的は国内生産基盤の維持
--国産農畜産物の輸出がめざすことを改めて聞かせてください。
全農がなぜ農畜産物輸出に取り組むかといえば、国内生産基盤を維持していくためです。農業に限らず日本の生産年齢人口が減っていくなかで、農業の生産基盤を大きく拡大することはなかなか難しいだろうと思いつつも、輸出することによって生産基盤がしっかり維持されていけば、農業へ参入する人が増えるかもしれません。若い生産者のみなさんに夢を与えるという意味でも、自分で作ったものが海外で売られて、世界の人たちが喜んで食べてくれているんだという情報をわれわれがうまく伝えて活性化につなげていきたいと考えています。
戦略としては「マーケットイン」と「アライアンス」、「投資とリスク管理」を掲げていますが、まず大事なことは出口戦略であり、売り先がきちんと決まっているということです。売り先が決まらないと生産者も意欲がわきません。
それからこれまではどちらかといえば海外で産地間競争が行われており、同じ日本産どうし海外で戦ってどうなのかいう声も確かにあり、それを払しょくするために海外で店舗(売場)を確保し日本ブランドとして販売することが大事だと思っています。そのために複数産地が連携して南から北へ、北から南へと輸出する商品をシフトさせてなるべく日本産の商品を長期間にわたって取り扱っていただくということです。
そうしたリレー出荷の取り組みは現在は甘藷で実現していますが、これを他品目に展開していきたいと思います。
--オールジャパンとしての輸出の取り組みが大事だということですね。
海外の農産品の品質レベルが向上しているのはまちがいありませんが、まだまだ日本産に優位性があると思っています。これを維持してぜひ日本ブランドを浸透させていきたいと思っています。
そのために相手の要望に沿った品種の生産や出荷時期、ロットなどに応えていく必要がありますが、ぜひ小さな取り組みでも輸出向けの生産を始めてもらい、それを横展開していければと考えています。
幅広い業種と連携を
--「アライアンス」(連携)のポイントはどこでしょうか。
アライアンスについては輸出適性のある品目、品種開発という研究機関との連携の取り組みもありますし、実際に海外で事業を展開している小売業者とのアライアンスで輸出を拡大していくという取り組みもあります。こうした幅広い取り組みが必要だと考えています。
--米輸出のために寿司ロボットメーカーとタイアップするなど、これまでの輸出の取り組みにはなかった発想だと思います。
今までは米、牛肉といった素材型の輸出を追求してきましたが、今は食べ方や調理の仕方なども含めた輸出を考えていかなければならないということだと思います。日本の米を日本の水と炊飯器で炊くと非常においしいご飯ができますが、現地の水ではおいしくできないといった例はいくつもあります。ですから調理方法や調理器具も含めて一緒に輸出していかないとなかなか浸透していかないということだと思います。それがまた付加価値を高めることにつながります。
そういう意味で食に関係する業界と幅広く連携していくことが大事なんだろうと思います。たとえば、先ほど話した甘藷の輸出は焼き芋として現地で非常に評価されていますが、焼き芋の機械なども日本産がいいだろうということも聞きます。
香港では給食製造の企業とタイアップして弁当を販売する事業を始めてもらいましたが、それも日本産米を使うわけですから炊飯ラインを日本から現地に持っていって製造を始め、それが好評を得ているということです。
--コロナ禍で生まれた人々の行動の変化が輸出にどう影響しますか。
コロナ禍の影響からはとくに北米、アジアでは回復の速度が早いとみています。実際に国の通関統計をみても輸出量は増えてきています。
とくに巣篭りを強いられたなかでeコマースによって自宅に居ながらにして商品が手に入る便利さに慣れた消費者にとって、このチャネルは廃れませんから、私たちは強化していくべきだと考えています。
とくに今でいうSNSを活用した販売方法が浸透しつつあるということで、これはとくにアジアでみられることです。
ライブコマースで産地から発信
実際、香港の消費者に向けては日本の産地にカメラを持ち込んで生産者から作り方や苦労などをお聞きしながら、その画面を通じてものを買えるというライブコマースという取り組みを始めています。これがかなり評判でこうしたSNSを使った取り組みを強化したいと考えています。これまでに宮崎のマンゴー、山梨の桃などで実施しています。
これはいわばリアルタイムなテレビショッピングのインターネット版です。直接消費者に販売する方法ですから、もっとも反応が分かりやすいですし、それを生産者のみなさんにお返しすることがしやすいというチャネルです。ダイレクトに声が届くという意味で非常にいい方法だと思います。さらに買ってもらった消費者が拡散してくれているということもあります。
日本の農産品輸出の輸出額1位は香港ですが、日本に対する関心は高く、コロナ禍の今はともかく年に何回か来日する人は大勢います。日本食材に対する思い入れは強いということですが、来日できない今はどこでどのような農産品をどう作っているのかということはとくに知りたい情報ではないかと思っています。
輸出事業の「見える化」で手取り向上へ
--素材型の輸出でも、新しいツールを使って産地や生産者からの生の情報発信につなげるということですね。
輸出するというだけでなく、いずれ旅行ができるようになったら農泊のような取組みにもつながることだと思います。単に店頭に並べているだけではどうしても価格競争に巻き込まれがちなので、優位性をきちんと説明する必要があると思っています。その意味では新しいツールは有効だと思っています。
今までの輸出、とくに青果物は農家にとってどこに輸出されているのか分からないということもありましたが、売り先をわれわれがきちんとつなげて、産地から輸出先国での販売先や消費者まで目に見える取り組みをしていきたいと考えています。
こうした「見える化」によってニーズに応じた作り方や、さらに生産量にも無駄がないようにしてもらい、手取りの向上につなげていきたいと思います。ぜひ輸出を意識して生産していただきたいと思います。
--今後に向けた意気込みを聞かせてください。
何度も繰り返しますが、輸出のための輸出ではなく、われわれは国内生産基盤の維持拡大が主眼です。輸出はそのためのツールであり、チャネルであると認識しています。これを忘れず、同時に輸出を伸ばすことが若い農業者にとっての夢を与える柱にもなるという思いで取り組んでいきたいと思います。
(たかぎ・かつみ)1965年生まれ。長野県出身。明治大学政治経済学部卒。1988年入会。生活リテール部ネット宅配事業課長、同部店舗事業課長、同部次長を経て2019年輸出対策部次長、21年6月同部部長。
※高木克己氏の『高』の字は本来異体字です。
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