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JAの活動:JA全農新部長訪問

【JA全農 新部長訪問】高橋龍彦畜産総合対策部長 農場から販売まで一貫体制へ2021年9月3日

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JA全農の畜産事業はグループ全体で2兆円を超える。変化の激しいマーケットでより消費者に近い事業を展開し畜産生産者の経営の安定につなげることが課題のひとつだ。6月に就任した高橋龍彦部長に今後の事業の方向を聞いた。

高橋龍彦畜産総合対策部長高橋龍彦 畜産総合対策部長

バリューチェーンを強化

--新部長として今後の畜産事業の重点をどう考えていますか。

全農は今、来年度からの中期計画を策定しようしていますが、今回は従来型の3か年計画ではなく、2050年を念頭に置きながら2030年にどんなあるべき姿になっているのかを考え、それを実現するためにどういう手を打っていくかを検討しています。

そのなかで畜産事業は、まず1つには非常に変化の激しい川下にどう切り込んでいくか、もう1つは川上から川下へと非常に長いバリューチェーンをどう強化していくか、これらが重点ポイントになると考えています。

伝統的にわれわれが得意としてきたのは川上に位置する産地と結びつき、素材や原料といった加工度の低いものを供給するという分野でした。ここは肉も卵もJAグループが強みを持っています。

しかし、鶏肉を例にとると過去10年ほど日本人の消費量は増えていますが、スーパーで鶏肉を買ってきて調理することが増えているのかといえば決してそうではありません。たとえばコンビニのレジ横のホットスナックであったり、あるいは輸入調製品として入ってきた串焼きやナゲット、さらに外食などのさまざまな形をとって日本人の口に入っているため消費が伸びているということです。

つまり、パイは増えていますが、われわれの事業領域ではないところで増えているということです。ですから、今後はより直接、消費者に販売する事業を強化していかないと、生産者のみなさんと一緒になって生産基盤を作ってもうまくいかなくなるのではないか、つまり、川下、出口をしっかり考えていかなければいけないということです。

そのためには新しい商品を新しい顧客に新しいチャネルで売る、といった考え方が大事です。新しいチャネルとはたとえば今回のコロナ禍で伸びているeコマースです。あるいは昔は生肉など生鮮品が売れるとは考えていなかったドラッグストアも今は新しいチャネルです。

より消費者に近い事業へ

商品の形態もかつては2kgのパック詰めの鶏肉をどんどん作るというプロダクトアウトの世界でしたが、そうした原料ではなくより食品に近い、消費者が手に取る最終商品を作ることも考えていかなければなりません。その点でいえば、これまでわれわれはともすると取引先のバイヤーが顧客だと思っていたところもありますが、そうではなく食べてくれる消費者を顧客と考えるという意識転換も図っていかなければなりません。

その具体的な事業の1つが量販店の店頭に並べる「包装肉」です。これは、われわれの強みである素材や原料の分野との結びつきを生かしながら、一歩、消費者に近づこうということです。生協や量販店ではバックヤードの人手が不足していますから、包装肉のニーズは間違いなくあります。一方で、こうした事業を全国レベルで手がける業者は少なく、われわれにはノウハウがある分野ですから、それをきっかけにしてさらに顧客ニーズに応えられるように、たとえばセントラルキッチン機能への発展なども考えていきたいと思っています。

もちろん川上に軸足を置いて対応するということに変わりありません。食品のマーケットはこれからも想像以上に変わっていくでしょうが、家畜をと畜し食肉にするという川上の部分は変わりませんから、そこはしっかり押さえていきます。

これがいわば川下戦略ですが、今までは品目別、事業別にやっていた仕事に横串を刺していきたいと考えています。たとえば包装肉事業は全農ミートフーズのノウハウを鶏肉では全農チキンフーズが担う体制を構築するといったことです。さらにこうした加工品の分野では営業開発部やフードマーケット事業部などの力も借りながら取り組んでいきたいと考えています。
地域実態に応じた事業構築

--では、川上の生産現場ではどう事業を展開しますか。

事業計画策定に向けて、2030年の畜産について、マーケットや生産基盤、あるいはJAグループのシェアはどうなっているのか、シミュレーションしてみました。

その結果、社会環境の変化、大規模化の進行や担い手の不足などの動きはあるにせよ、本当に大きな変化はむしろ2030年以降に顕在化してくるのではないかと考えられます。
そのころには、残念ながら現在の担い手がリタイアして、また、TPPなど経済連携協定によって関税撤廃や削減が今よりも一層進みますし、消費でもエシカル消費、アニマルウェルフェアといった新たな選択基準も広がっていくこと考えられます。

そのなかで生販一貫体制をどう構築していくかが課題です。生産から販売まで一貫した体制、とよく言いますが、農場から加工、販売までそれぞれが効率よく稼働するにはさまざまな課題があります。

ブロイラーを例にすると今は生産も処理・加工も1つの事業になっていますが、それは事業全体で価値を最大化しなければならないからです。理由の1つはバリューチェーンのなかに食鳥処理場という大きな装置が組み込まれているからで、常に安定して入荷していかないと稼働率が悪くなりますし、かといって食鳥処理場単体では利益は生み出しにくい。また、数十年単位で大規模な投資も必要になってきます。

ですから農場から販売まで事業全体の利益を最大化して、必要なところに、たとえば食鳥処理場の建替えや農場建設などに再投資していくという考えで運営されています。

ところがこれまではブロイラー以外の牛や豚では農場と食肉センター、さらに販売会社が別々の経営体ですから、様々なボトルネックが生じることがありました。例えば、顧客からは豚肉の脂身の厚さなど、一定のスペックが求められることがありますが、カット場でこうした対応ができずに、価格以外の面で輸入品に負けてしまうような例もあります。

このような課題を解決するために、事業体としてはそれぞれ別でもいいのですが、生産から販売までを1つの事業のように一貫してできないかというのが食肉事業の最適化ということです。

食肉事業の最適化を実現

そこで食肉センターについては県を超えて集約し広域化したり、あるいは単にと畜や部分肉加工だけではなく、さらに一歩、川下に近づいてみようといった機能の拡充を検討したりしていこうということです。これも一律ではなくて地域ごとにベストな方法があると思いますから、それに取り組んでいるということです。
耕種部門の作物は畑から収穫した時点で食品になりますが、牛や豚、鶏は農家にいる段階では生き物であって食品ではありません。われわれが手にする食品にコンバートする機能が必要で、それが食肉センターが必要不可欠な理由であり、農家が家畜をお金に替えるという機能を持つわけですから、バリューチェーンのなかにしっかりと位置づけていく必要があるということです。

産地から食卓へ「襷」を渡す事業

--将来の畜産をどう考えるかも重要だと思います。

キーワードは持続可能な事業ということになると思います。今、われわれは和牛を育てている高校生を対象に和牛甲子園を開いて将来の担い手を励ましていますが、彼らが実際に40代、50代の働き盛りになったときに、こんなはずではなかったということに日本の畜産がなってはいけません。

もちろん現在進めている和牛の輸出による生産振興も必要ですが、たとえば昨年はコロナ禍でも販売が回復したのは手頃な価格になったからということでした。そうしたよりリーズナブルな和牛を生産する技術も考えていかなければならないかもしれません。あるいはSDGsの観点からメタンガスを少なくするように肥育期間を短くしたり、より飼料穀物の使用量が少ない飼養形態の研究といった観点もあるでしょう。そのように畜産物の新たな価値をより磨き上げていって生産者が自信をもってできるようなあり方を提案していかなければならないと考えています。

グループ会社まで含めると全農の畜産事業は2兆円を超えて非常に大きなウエイトを占めており、それはまた、ミシシッピ川上流の穀物農家から日本人の食卓までつながっている事業でもあります。
それは私のなかでは駅伝のように襷を渡していくイメージでとらえています。リレーというのは同じトラックを走ってバトンを渡していきますが、駅伝は長い区間やスピード勝負の短い区間、登り坂がある区間など、いろいろな区間を走りながら襷を次の人に渡していくことになります。

そのなかで畜産販売会社の社員に強調しているのは、みなさんはアンカーだ、ということです。その意味はアンカーが倒れてしまえばそれまで襷をつないできた人の努力が全部無になってしまうということです。

仕事の目的を共有する

--改めて新部長としての意気込みを。

生販一貫と言いますが、違う立場の人にリスペクトがなければいけないということです。どの業界でもあることですが事業がうまくいかないと工場が悪い、いや営業が悪いとなりますが、それを乗り越えるのは共通の目的、ミッションだと思います。何のためにこの仕事をしているのか、そこで同じ方向を向いていると役割が違っても理解し合えるというだと思います。

全農が今までやってきたことが決して間違っているとは思いませんが、今までと同じことをやっていてもこの先、海を渡っていけるとは限りません。柔軟な発想で将来に責任を果たしていく必要があると思っていますが、事業は一人でやるものではなくてグループ会社やさまざまな部門と協力してやっていくものです。最後はやはり人ですから、後に続く人を育てることが大事だということを今は実感しています。

(たかはし・たつひこ)1964年生まれ。山形県出身。北海道大学経済学部経済学科卒。1989年入会。2015年(出向)全農チキンフーズ(株)グループ事業戦略部長、2018年4月本所畜産総合対策部次長を経て2021年6月から畜産総合対策部長。

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