JAの活動:農協時論
【農協時論】先送りの痛み―協同の力を信じ課題解消に挑め 飯野芳彦・元JA全青協会長2022年2月8日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は元JA全青協会長の飯野芳彦氏に寄稿してもらった。
飯野芳彦・元JA全青協会長
8月31日この日は、毎年後悔にさいなまれながら宿題を必死にやっていた日です。本来であれば夏休みの宿題は、コツコツと毎日勉強をする癖をつけるためのものです。しかし、私は勉強よりも夏休みを満喫することを優先して、すべての宿題を後回しにしてしまうだらしない子どもでした。今思い出しただけでも心が痛くなる出来事です。当時の自分を擁護するならば、辛い宿題よりも大切で楽しい事を最優先しただけのことかもしれません。この考えが間違っていることに気づかされるのが8月31日その日なのです。結局辛いことを後回しにしても、辛いことは消えてなくなるのではなく漏れることなく100%積みあがっていくだけなのです。
特にこのことを痛感したのは、農業という仕事を生業にしてからです。野菜の異変に気付きながらも、その対処をおこたり先送りすると出荷に値する品質ではなくなり大きな損害を受け収益がなくなるのです。まさしく8月31日のあの悲惨な光景なのです。辛いことを後回しにして、目を背けることで後々悲惨なことになるのは農業に限ったことではありません。特に、今直に自分の利益にならないこと、労力の対価が自分でなく他人に分配されることや、成果が出るのが遠い未来だったりすることは、特に後回しにしたくなるのが世の常かもしれません。
農業経営の現場では資材費の高騰、消費減退によって資材費は4%上昇し、農産物の取引価格は3%減少するという調査結果を目にしました。私の経営帳簿と照らし合わせてもこの調査結果と遜色ありませんでした。それに人件費の上昇も加わる三重苦であることもわかりました。なぜこのような状況になってしまったのだろうか。コロナのせいにすることは簡単な事ですが、課題を先送りして招くべきして起きたことではないのかと過去を振り返っています。生産性の向上、高品質多収栽培、規模拡大――考えられることはやってきたつもりです。その半面、生活者の方々との距離は遠くなってしまったように感じます。
これはいたし方のないことかもしれません。しかし、現在声高に叫ばれているSDGsや脱炭素社会の具現化には生活者の方々との共同歩調がなければなりません。なぜなら、具現化のために生産現場では、人件費や資材費など生産コストが増大することとなり、そのコスト負担を生活者の方々にお願いしなければならないからです。生活者・生産者ともに未来へ後回しにしないためにも新たな投資が必要になったとコロナの影響を受け感じています。
農業協同組合においても、社会的信頼と組合員の利益最大化に取り組んだ結果、効率が良い大きな組織となりました。その半面、国内消費が基本である日本農業であっても、資材費の高騰からもわかるように国際的影響を受ける産業になっています。信用・共済事業は営農よりも多くの国際的影響を受けるようになっています。
今後は、地域農業協同組合が組合員、地域に信頼を得られるだけでなく国際社会から信頼を得られる組織になっていくことが大切になっていくのだと思います。
その様な業務増大が予測されるにも関わらず、人口減少などによって慢性的な人手不足は避けられません。その解消のために信用・共済・営農分野で様々なシステムが導入されていくことになるのだと思います。システム導入は人手不足だけを補うものではなく、組合員にも地域にもそしてなにより国際的に信頼を得る為でもあるのだと思います。ですがこのシステムを維持するためには大きなコストがかかっていくことになります。そのコスト負担は組合員に負担をお願いしなければ組織は維持できません。これは課題を後回しにしない大切な投資であるように感じます。だからこそ組織が大きくなることで大きな弊害が生まれた課題を後回しせず解決に取り組む組織であることが必要なのです。
「継続は力なり」。あの8月31日の宿題を精算するようなことがないように組合員一人一人が少しづつ力を貸すことが必要なのです。「万人は一人のために、一人は万人のために」
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