JAの活動:女性協70周年記念 花ひらく暮らしと地域
【花ひらく暮らしと地域―JA女性 四分の三世紀(13)】エンパワーメント<下>「介護・福祉」の現場から2022年3月14日
「国破れて山河あり」と言われた飢餓の夏から、コロナ禍を乗り越えて新しい時代に挑むこの早春まで76年。その足どりを、「農といのちと暮らしと協同」の視点から、文芸アナリストの大金義昭氏がたどる。
悲喜こもごものドラマ
鬼のように思えた舅や姑でも寝たきりになれば、食事・下着の交換・下の世話などの介護は主に嫁が担うことになった。最期を看取るまでに、多くの嫁が家事や野良仕事に加えて舅姑(きゅうこ)の介護に明け暮れる日々が続いた。
亡くなる前に舅や姑が残してくれた「ありがとう」のひとことに、「長年の苦労が吹き飛んだ」と涙ながらに語る話をよく耳にした。半身不随でリハビリに励む姑に手を貸した嫁に、こんなエピソードがある。
「いらん事するな、クソッ、なんて情けないざまだ、ちきしょう」
姑は、こけた自分に腹を立て、泣きながら己を罵倒するのです。床に物体のように転げている姑を抱き起こしながら、その悔しさが私にも伝わってきて、共に泣いてしまったことも度々でした。このような日を重ねているうちに、姑に対する私の気持ちは少しずつ変わってきました。口は荒いけれど、ほんとうは純粋であったかい人柄なのだというように感じ始めたのです。(中略)
言葉が荒い姑を心まで荒いと決めつけて、拒否してきたこの年月が取り返しのつかない日々に思えてきました。
「めんこくないガキドモだ」
怒鳴られながら、おばあちゃん、おばあちゃん、とまぶれついているこどもたちを不思議に思ったことさえありましたが、子供たちはきっと姑のあたたかさを肌で感じていたのでしょう。
私は姑の人柄を読みとれずにきた自分がとても恥ずかしくなりました。
北海道で生活改良普及員を務めた鈴木千恵の『私の見聞記 嫁と姑の玉手函』(平成2〈1990〉年2月・柏林書院)にある逸話だ。こんな話もある。
姑が半身不随になったのは、二年前でした。(中略)姑は六十九歳、戦争未亡人として二人の子供を育て、苦労を重ねてきた人です。それだけに気性がきつく、嫁の私は姑の心に近づくことが出来ないまま、二十年が経っておりました。
いくら不仲とは言っても、病気の姑の世話をするのは、長男の嫁である私が大半を背負わなければなりません。ぎこちない気持ちを抱きながらの看病は、姑にとっても苦痛だったろうと思います。
その日、私は布団の中に手を入れて、姑の硬直して冷えた足をさすっておりましたが、いつの間にかうたた寝をしてしまったのです。ふっと背中に人の手を感じ、私はうっすらと眠りから覚めましたが、思いがけないことに、姑が私の背中をなでていたのです。(中略)
「すまんなあ、疲れているのだろう、ありがとね」
万感こめた姑の声が聞こえてくるようなあたたかさでした。(中略)
今までの気持ちの行き違いはなんであったのだろうか。(中略)
あるいは、姑も私も相寄りたいという気持ちを抱えながら、そのきっかけがつかめないで今日まで来てしまったのかもしれません。
一つ屋根の下での介護には、悲喜こもごものドラマが生まれた。その真ん中にいたのが、嫁の立場で介護を担った女性だった。
SDGsを先取り
全農婦協が寝たきりなどの高齢者を抱えるメンバーを対象に、昭和60年代前半に半年かけて実施した「ねたきり等のお年寄りの看護者に関する実態調査」がある。その分析によれば、「介護者の6割までが嫁」で「介護にあたる女性の年齢は45~54歳が41・5%」を占め、「75歳以上も6・3%いる」という結果が出た。
また「副介護者のいない家庭が2割」もあり、高齢者の5割が完全な寝たきりで、認知症が「6割以上に達する」実態も浮かび上がった。さらに介護年数は「4年未満が6割、7年以上が2割に達し、毎日の介護時間も4時間以上が4割に達している」と報告している。
昭和60(1985)年には、総人口に占める65歳以上が10%を超えている。爾来(じらい)、高齢化率は令和3(2021)年までの36年間に29・1%に跳ね上がり、この国は世界屈指の長寿社会に突入する。この間に、介護が必要な高齢者を「いつでも・どこでも・誰でも」社会全体で支える仕組みが強く求められるようになった。要介護者の増加や介護期間の長期化、核家族化の進展、介護家族の高齢化などにより、家庭内での互助機能が急速に低下したからだ。
このため、平成9(1997)年には介護保険法が成立し、平成12(2000)年に施行された。少子・高齢化が激しい農村部を擁した農協も、平成4(1992)年の農協法改正で事業範囲を拡大し、高齢者福祉事業・活動に着手。前年には、農協中央会などを中心に「ホームヘルパー養成研修会」を開始。これに農協婦人部が飛びつき、平成12(2000)年までに3~1級の有資格者延べ9万5000人余を輩出している。
資格を取得する大多数が、家庭内介護に役立つ3級課程に挑む。その後、上級の2級課程を取得していく女性の背後には、高齢者を自ら介護しなければならない切羽詰まった事情があった。また、いずれ誰もがそういう立場になることを覚悟していたからだ。
農協婦人部の事務局を担う生活指導員が、上級資格をいち早く取得していったことは言うまでもない。先の農協法改正も、女性のこのような熱意が後押しをしている。「せっかく取得した資格を地域で活かせる機会が少ない」といった声も聞かれたほどだ。そんな勢いでボランティア精神に長(た)けたJA女性組織の「助け合い活動」が生まれ、JAの高齢者福祉事業・活動の下地をつくった。
長野県JAあづみと「特定非営利活動(NPO)法人JAあづみ くらしの助け合いネットワークあんしん」との連携事業・活動などは、その優れた事例の一つである。コミュニティーを守る両者の取り組みは、「生き活き塾」、ミニデイサービス「あんしん広場」、有償在宅サービス、移動販売車、訪問介護・居宅介護支援・デイサービス事業などを組み合わせ、「安心して幸せに暮らせる里づくり」に挑んできた。「誰ひとり取り残さない」SDGs(持続可能な開発目標)を先取りした組合員・住民参加型の取り組みだ。
「子育て支援」なども含め、女性の出番が増えている。「格差と分断と貧困」が広がる近年は、JA女性組織が「子ども食堂」を開設する動きも見られる。「子ども食堂」が大人を交えたコミュニティー広場にもなっている。
いっせいに梅の花が開き始めた。
(文芸アナリスト・大金義昭)
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