JAの活動:農協時論
【農協時論】ウクライナ侵攻―食と農と命守る 「今、行動の時」 菅野孝志・JA全中副会長(JA福島五連会長)2022年5月6日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、菅野孝志・JA全中副会長に寄稿してもらった。
菅野孝志・JA全中副会長
人生の中で、記憶に残る偶然という日が幾つかある。
その1、2月24日は、私の70歳の誕生日である。世界の政治経済を揺るがす歴史的な出来事ロシアによるウクライナ侵攻である。
その2、湾岸戦争の勃発の1991年1月17日、松川町農協時代に役員研修の一環で米国の農業事情視察を計画しサンフランシスコの空港に到着、米国に一歩踏み入れた。
その3、1993年1月20日、オードリーヘップバーンの逝去のニュースが世界を駆け巡ったその日ローマに到着した。役員を含む35人でヨーロッパ研修旅行を企画「ロンドン・パリ・ローマの旅」である。
ロシアのウクライナ侵攻は、なぜなのか。諸説あるようだが、プーチンによれば「ロシア、そして国民を守るにはほかに方法がなかった」ロシアは、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟を目指していることは、相容れないことと西側に敵視されて来たというものであるが、早期の収束を願わずには居られない。
湾岸戦争は、1990年8月2日、イラクによる隣国クウェート侵攻をきっかけに8月8日にはクウェート併合を発表した。これに対し諸外国は第2次世界大戦後初となる国際連合が多国籍軍の派遣を決定し1991年1月17日にイラクを空爆して始まった戦いである。同年2月8日クウェート解放により終結した。
「戦争」はなぜ起きるのか疑問を持つことが多い。歪んだ国益により、歴史は繰り返されるようだ。我々は、戦場に居ない。映像のみを通して視聴し本当の惨状を知る由もない。湾岸の時も、忘れ去られている2021年2月1日、ミャンマーの軍事政権による市民の犠牲は、国民を分断し民主派を武装組織化に駆りたて憎しみのみが増幅される。ウクライナ侵攻も多くの人々には、遠い国の出来事なのである。
が、私と福島にとって近い国ウクライナなのである。2011年東日本大震災・福島第一原子力発電所爆発事故からの復旧復興再生に向け、同年10月31日~11月7日と2013年6月1日~11日の2度、ウクライナ・チョルノービリ(チェルノブイリ)に出向き、農地再生対策、放射性物質被曝軽減対策、子ども健康対策等多くを学んだ。当時の情報の隠ぺいにより多くの子どもたちの被曝を止めることが出来なかった。広大な農地には小麦・牧草がなびき「欧州のパンかご」とも呼ばれていた。
湾岸戦争では、空爆の当日ということもあり入港審査や空港内の警備は厳重を極めた。福島県出身のコメ農家田牧農場視察や現地の農場、観光果樹園、ロサンゼルスではスーパー視察も実現した。その間戦争ということを感じさせることは皆無であった。
「ローマの休日」=オードリーヘップバーンゆえに追悼放映されホテルで視聴した。
「欧州のパンかご」ウクライナ、世界の日本の食と命と平和の問題を惹起したロシアによるウクライナ侵攻に対し遠い国の出来事と捉えているようだ。
今、食の源泉である農業・農村と国民生活を守ること、さらに平和を守ることが如何に大切かを、国民が考え行動する最高の機会・チャンスなのであるが、うねりを起こす足音は、聞こえてこない。
世界経済がコロナ感染拡大、燃油高騰、穀物・材木の高騰、ロシアとの漁業交渉は進展したが魚介類の高騰、生産材や半導体等調達の遅れ(日本の買い負け)、輸送コストの高騰のほか、生産国による輸出規制(自国優先)=輸入国日本の危機を多くの場面で感じている。我々は、「寄り添うことと国民理解の醸成」という言葉を頻繁に使い、その運動を具体的に展開しなければならないと掲げているが、農業・農村・JAと国民にとり「今、行動の時である」。
我々は、第29回JA全国大会において「持続可能な農業と地域共生の未来づくり」を掲げ、10年先を見据え、今後3カ年の方向性を示した。思いを同じくする多様な方々と「食とみどりと平和を守り子どもたちの未来を拓く」ことと、晩年のオードリーの皺に刻まれた「高い理想と、現実に愛を注ぎ・包みこんだユニセフ活動」を同胞の宝にしたいものである。
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