JAの活動:今さら聞けない営農情報
有機農業とは44【今さら聞けない営農情報】第163回2022年8月20日
前回、有機農法で栽培した農作物の安全性について、農薬を使用した慣行農法と比較しながら整理し、「有機は○で慣行は×」とする現在の世論イメージは、イメージ先行で事実と必ずしも一致していないことを紹介しました。
では、化学肥料はどうでしょうか。化学肥料が農地に施用されることで、過剰分が農地から河川などに流出して富栄養化を引き起こしたり、製造過程でCO2を排出することなどが問題視されています。しかし、農薬と同様に化学肥料使用量を少なくすれば、どれだけ環境影響が減り、CO2削減に貢献できるのかといった削減効果の詳細は示されていません。
そもそも、作物は生育に必要な栄養素を無機化されたものを根から吸収しています。例えば、必須元素のひとつであるNは、アンモニア態窒素(NH4+)という無機化合物になったものを根から吸収します。このアンモニア態窒素は、化学肥料由来であっても、有機肥料由来であっても同じものを作物は吸収しているのです。何が異なるかというと、アンモニア態窒素を土中に供給できる速度の違いです。化学肥料が施用後速やかにアンモニア態窒素を土中に供給するのに対し、有機肥料は、その主成分である有機物が土壌中の微生物によって分解される過程を経て、緩やかにアンモニア態窒素を土中に供給します。化学肥料は生育の途中で栄養不足がわかった場合などに、足りないものを必要な量をすぐに作物が利用できるかたちで施用してあげることができます。このように、化学肥料にしかできない特性と役割があるので、単純に減らせばいいというのは、いささか乱暴です。
一般的に、作物の収量は施肥量に大きく影響を受けますので、化学肥料を減らして同じ収量を得ようとすれば、それに見合う肥料成分を有機肥料で補ってあげて、施用時期を有機質の分解の時間を計算に入れて施用しなければなりません。しかし、汚泥などの未利用資源は、その資源中に含まれる肥料成分の量が採取地や時期などによってまちまちで、施肥量をコントロールするのが難しい資材です。加えて必要量を確保するのに、含まれる成分量が少なければ、多めに施用しなければならず余計なコストがかかる場合もあります。
このように、問題は化学肥料の使用量減ではなく、作物の生育に合わせていかに必要な栄養素を、必要な分だけ化学肥料と有機肥料を上手に使い分けて施用してあげられるかにかかっています。そのためには、まずは自分のほ場に含まれる養分量の把握する土壌診断の実施が必要になります。化学肥料の削減目標をたてるよりも、すべての生産現場で「土壌診断に基づく適正施肥」が実施されるようことを目指す方が理に適っているのではないでしょうか。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日