JAの活動:農協時論
【農協時論】生産者の思い伝わる物語で販売戦略を JAみっかび・後藤善一前組合長2022年9月28日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様などに胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、静岡県のJAみっかびの後藤善一・前代表理事組合長に寄稿してもらった。
後藤善一さん
「三ケ日みかん」が機能性表示食品に
機能性表示食品制度で三ケ日みかんが生鮮として一番に受理されました、どのように申請をおこなったのか話をしてほしいと講演を頼まれ、いろいろな産地を訪問する機会がありました。しかし、どこに行っても高齢者ばかりで若い後継者がいません。耕作放棄地もたいへん増えており、若い就農者が少ないのは、日本の農業の生産性が低く生産者が儲からないからだとも思っています、また他人ごとではありませんが人間力というものが低下していると感じています、それは誠実、勤勉です。昔と違い自分の仕事に真剣に打ち込んでいる人が少なくなっており、日本の農業生産基盤が大きく劣化しつつあります。
私は三ケ日という産地を一つの工場、経営体だと考えています。農産物を扱うには三つの力、「売れるモノを作る力」、「それを売る力」、「それらをマネジメントする力」が必要であり農協がその中心にいたいと思っています。販売戦略だけでみかんを優位に売ることはできません。
リスクあっても一番の受理に意義
農協役員になってから「三ケ日みかん」のブランド強化に取り組んできました。サントリーとの協業「三ケ日みかんハイボール」、みかんの皮を剥くと動物になる「新しいみかんのむきかた」、今までになかったみかんを食べる新しいシチュエーション「オフィスみかん」の提案などですが、機能性表示への取り組みもそのひとつです。申請をする時いろいろな方に相談しましたが、ほとんどの人は「急いで申請することはない、他の産地がやってうまくいったらやればいい」と無関心で、最初にトライするリスクばかり心配していました。しかし私は一番に受理されることにこそ意義があると思っていました。リスクはあっても新しいこと、変わったことに取り組む組織の仕組み、姿勢がこれからは必要だと思います。
私が講演などで機能性表示について話をさせてもらう時お願いしていることは、「できるだけ多くのみかん産地で制度に取り組むべきであり、一つの産地の問題としてとらえるのではなく日本の柑橘産業、もっと言えば日本の果樹産業のためになると考えてもらいたい」ということです。そうでないと柑橘の機能性食品としてのカテゴリーは広がらず、売り場でも扱いが弱くなりメディアも一産地に肩を持つことになり広がりはなくなります。
私はみかんのことを自然のなかで育ったサプリ「ナチュラルサプリ」と呼んでいます。当時私が狙っていたのは、みかんを無機質なサプリメントではなく、昔から身近にありおいしい果実、そして機能性を併せ持った健康食品として優位に立てるブルーオーシャン戦略です。血みどろの戦いをしなければならないレッドオーシャンではありません。世界的食品メーカーであるネスレが健康産業の企業と積極的に協業を始めています。国内ではアミノ酸の研究開発の老舗「味の素」などとですが、おいしいだけの食品販売ではたかがしれていると考えているからです。
農産物のストーリー性活かすべき
今まで私共のみかんは嗜好品のカテゴリーで扱われてきましたが、これからは健康食品としての要素も併せ持った食品としての販売をすべきです。また機能性を利用した生鮮品の販売戦略には「誰が、どこで、なにを大事にし、どんな仕組み、きまりの中でなにをしているか」という消費者の健康を気遣っている生産者の思いが伝わる物語が必要です。機能性表示に取り組もうとしていた時、マスコミの方が言われた「制度がはじまったら報道機関はまず無機質なサプリではなく農業関係者の所に取材にいく、それは農場、農業者、生産物、選果、荷造りなど農業にはわかりやすい画になる物語があるから」ということばが印象に残っています。農産物にはストーリー性があり消費者に受け入れてもらいやすい条件が多くあるということです。それを活かすべきです。受理後のマスコミの動きを期待していましたが、多くの関係者の取材を受け、「三ケ日」、「三ケ日町農協」、「三ケ日みかん」という言葉が全国で何回もテレビ、新聞、経済雑誌などで使われ、好意的に扱ってもくれました。大きな宣伝効果があったと思っています。当時、マスコミ関係者からは「広告料にしたら数億円だよね」とよく言われました。とにかくがんばります。
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