JAの活動:今さら聞けない営農情報
有機農業とは57【今さら聞けない営農情報】第176回2022年11月19日
みどりの食料システム戦略で、「化学農薬の使用低減に向けた技術開発・普及」の取組課題の1つとしてRNA農薬の開発というのがあります。同戦略では、RNA農薬の開発によって従来型の化学合成農薬が減らせ、周辺環境への影響を減らすことが可能な技術として期待されているとしています。
では、RNA農薬とは何でしょうか? このことを知るには、少しRNAのことを知る必要があります。植物に限らず全ての生物は、生命体の設計図(遺伝子)であるDNA(デオキシリボ核酸)の情報をもとにしてRNA(リボ核酸)がタンパク質を合成し、それを部品にして生命体を形作っています。
遺伝子は、4種のアミノ酸、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)が並んだ鎖状のもので構成され、通常は、DNAが二本鎖のラセン構造で、RNAが一本鎖で存在します。ところが、RNAがある一定の役割を持って、二本鎖RNAになる場合があり、それがRNA干渉という現象を起こすことが発見されました。このRNA干渉とは、2本鎖RNAが特定の遺伝子の発現を抑制する現象のことをいい、ウイルス感染に対する防御機構など生体内のさまざまな局面で重要な役割を担っていることが分かっています。この現象を活用して、RNA干渉応用医薬品、新規がん治療法の開発が進められています。
では、これをどうやって防除に役立てるのでしょうか? 防除の対象である病害虫雑草はいうまでもなく生物であり、固有の遺伝子を持っています。その遺伝子を解析して、病害虫雑草の生育に関わる重要な遺伝子、つまりその遺伝子が働かないと病害虫雑草が生育できなくなってしまうものを見つけ、その重要な遺伝子の働きを邪魔(阻害)する二本鎖RNAを作って、病害虫雑草に施用(投与)します。そして、病害虫雑草の体内でRNA干渉を起こさせることができれば、施用された病害虫雑草は正常に生育できなくなり、結果として防除効果を発揮できます。
課題は、病害虫雑草の生命にとって重要で二本鎖RNAを干渉させる対象となる標的遺伝子を見つけることと、どうやってRNA干渉を起こさせるかの2点です。前者は、病害虫雑草の遺伝子解析が進んでいますので、病害虫雑草毎に標的遺伝子は判明していくと思いますが、後者が課題です。害虫の場合は、経口(食べさせる)ことでRNA干渉を起こさせることができますが、病害や雑草の場合には、散布しただけでは病害や雑草の体内に取り込ませるのは難しいと考えられます。
そのため、RNA農薬は当面、害虫対象の新しい農薬として開発が進むものと思われます。
ただ、このRNA農薬は、防除対象とする病害虫雑草に特異的作用し、周辺環境や他の生物にはほとんど影響がないと考えられ、安全性が非常に高く、的確な農薬として期待されています。
一日も早く開発が進み、多くの病害虫雑草を的確に防除できる農薬として世に出てきてほしいものです。
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