JAの活動:農協時論
【農協時論】JAグループとしての気候変動対策の行動計画を 蔵王酪農センター理事長・冨士重夫氏2022年11月29日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様などに胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は元JA全国中央会専務で、現在、宮城県の蔵王酪農センター理事長の冨士重夫氏に寄稿してもらった。
蔵王酪農センター理事長 冨士重夫氏
迫られる暮らし方、働き方の大変革
COP27(国連気候変動条約第27回締約国会議)は、期間を延長して11月20日、気候変動による「損失と損害」に対する資金支援の基金を創設することで合意し、基金の具体的な内容は、来年のCOP28で詰めることとなった。
「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」=2050年のカーボンニュートラルや、2015年パリ協定で合意した「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5度に抑える」ことは、国の制度や政策、経済システム、社会システムといった大枠から、地球で住む人間一人一人の暮らし方、働き方の大変革、転換をしなければならないものとなっている。
地球の平均気温は、すでに1.1度上昇しているので、余裕は0.4度しかない。「1.5度の約束」を果たさなければならない。人々の暮らし方や価値観を抜本的に変えていかなければならない。持続可能な経済社会へ取り組み目標を掲げ、行動を促すSDGsも、気候変動の危機と新自由主義の反省からきている。
今、この気候変動に関する取り組みの行動の中心は、世界中の若者達だ。2030年も2050年も彼らは、この地球で生きていかなければならないからだ。切迫感を持っている。CO2削減へ向けた生き方や、SDGsに取り組む働き方が、彼ら若者達の行動の基本になってきている。
日本は2011年の東日本大震災、原発による甚大な被害を受けた。今、まだその復興の途上にある。そしてロシアのウクライナ侵攻による戦争によって、エネルギー危機、食料危機に直面し、農業生産コストが倍増し、その価格転嫁ができない農畜産物を生産する農業経営、農家が危機にさらされている。
農業生産の持続可能・安定なしに子・孫の食料安定をはかれず
農業は元々、生命の営みを基本に置いたものであり、持続可能を根本に据えた産業である。農業生産が持続可能で安定していなければ子や孫の食料の安定をはかれない。
協同組合も、組合員、地域の暮らしを豊かにして幸せを実現するために、人々がつながり協同する仕組みである。
農業も協同組合も、仕事自体がSDGsであり、地球の良好な自然環境を守ることが前提となっている仕事だから「1.5度の約束」も「カーボンニュートラル」も「持続可能な経済社会」も当たり前であり、ことさら意識することが希薄になっていないだろうか。
企業の脱炭素化の動きを奨励する認証システムがある。パリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標を掲げ、CO2排出削減に取り組む企業を認証するSBTという仕組みであるが、この認証を取得することで、企業の競争優位性を獲得できるという企業心理が働いているところが、うさんくさい。
JAグループ全体で「1.5度の約束」実現への行動計画を
JAグループ全体でJA、連合会、全国連それぞれの段階で「1.5度の約束」を実現するための行動計画を取りまとめて公表し、それを実行する実践運動を展開して行く必要がある。
肥料も飼料も小麦も輸入だから値上がりする。
電気代もLPガス、石油、石炭や原発だから値上がりする。JAグループ各段階は、
①自然再生エネルギーによって地域の電力需要をまかなうため、小水力発電、地熱発電、太陽光、バイオマス発電などによって電力の地域自給率100%へ向けて年次計画を確立して一歩一歩行動します。
②利用高配当の半分は「1.5度の約束基金」に毎年積み立て、その基金から具体的な対策費を支出する。
③JAの営業車両など逐次EV電気自動車に転換し、地域の充電ステーションを整備して行きます。
④農業の持続可能性をより一層向上させるため、水田、畑、牧草地など農地の最大限の利用をはかり、耕作放棄地ゼロとする年次計画を確立して行動します。
例えば、このような具体的行動計画をJAグループ全体としての「1.5度の約束」という気候変動対策のもとに体系的に整理して公表する。そして、組合員や地域自治体と共に意識を持って実践運動を実施して行くことが今、とても大切な時期になっているのではないかと思う。
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