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JAの活動:私の農協物語

【私の農協物語】熊本・JA菊池前組合長 上村幸男氏(下) 自らの常識への挑戦2022年12月3日

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熊本・JA菊池前組合長 上村幸男氏(上) "協"の道を追い続け から続く

上村さんの自著上村さんの自著

これからは農協の常識が問われる時代と考え改革に挑戦するなかで、多くの先生方に出会い、背中を押されました。農協は保守的、内向的で革新的な知恵も勇気もなかなか出できません。常勤役員になったとき、「産業能率大学」の通信研修で1年間学び、「革新管理上級」の資格を取得しました。日ごろ職員に必須の資格を取得するよう勧めていた手前、私も勇気をもって挑戦したのですが、そこで事業の革新やマーケティングについて学び、「きくちのまんま」のブランド戦略に役立ちました。役員は指示するだけでなく率先垂範の責任があると思います。

役職員が成長しないと農協も地域もよくなりません。一生懸命仕事をして大きな成果となれば涙して喜ぶ、その経験が人を大きく育てます。私も職員を泣かせ、ともに泣いてきました。一生懸命やると見えないものが見えてきます。本当につらい、悲しい思いをしないと見えないものがある。目に見えるものは一部分です。組合員の喜びや悲しみなど形にないものを大切にしてほしい。そこに協同の価値があります。

農は命を守る原点

農協の役員を辞めて、今は一農家として自分でエゴマをつくっています。農業は食と命を守る原点です。健康を守るための農業を最後の仕事として全うしたいと考えています。小さくてもいいのです。

食べる人が楽しみ笑顔になる"食"を創造する。作る人がそれを受けとめ技術を高め食べて納得。食べる人に伝える距離が縮まり大きなうねりとなる。これが理想です。食べる人を知る。伝える。この技術を磨き強める事が重要です。この作る人、食べる人の物語は新たな協同活動から生まれます。

人の一生には、それぞれ大きな転機となる出来事があると思いますが、私の忘れられないことは、1992(平成4)年、USIA(米国文化情報局)の招きで1カ月単独で米国の農業を視察したことです。48歳のときでした。

なぜ私が選ばれたのか不思議でしたが、それ以前にJA青年部の九州地区の委員長として仲間と連れ立って、福岡市にある米国領事館へ、貿易自由化への抗議は受け付けないというところへ無理やり押しかけ、領事と貿易問題について2時間にわたり意見交換したことがあります。

率直に日本の農業の実情について話すことができて有意義な話し合いでした。その後も、米国大使館の人が、当時の細川護熙知事を訪ね来熊したとき、青年部で熊本県の農業を案内したことがあります。それらの縁で名前があがったようです。それまで大学の先生や官僚は招かれていたようですが、農業の現場からは初めてだったと聞いています。

米国の農業と貿易政策の奥にあるものを知りたいと思っていたところでしたので歓迎でした。国や州、郡、生産現場まで訪問プログラムに入れました。当時、米国とは貿易政策で対立していましたが、私が希望する訪問先は全て受け入れてくれました。

当時米国は、日本だけでなく他の国からもこのような招待プログラムを行っており、米国の懐の深さを感じました。また、さすが米国は世界一の農業国だけに、すべての州の大学に農学部があり、大学や試験場、普及所、農業団体などが一体となって、生産・政策遂行しているのに感心しました。

政策面で、大規模な企業農業は共和党支持が多く自由貿易を推進し、一方で家族農業は民主党支持で所得補償を要求するなど、政党によって政策の違いがはっきりしています。それぞれの政党は農民の支持を得るため、自由貿易を進める一方で圧倒的に数の多い家族農業には所得補償も十分行うなど、重層的な政策が確立しています。

また農業団体は政策面の専門職員を擁し、政府や政党との交渉にあたっています。従って具体的な政策要求となり、そこで組合員との強いつながりが生まれます。日本の政策要求は概して短期的で総花的になり、農協にも専門家がいないのではないかと言われました。

規模の大小にかかわらず、データの収集・分析もパソコンを駆使し、実に緻密にやっています。特にコスト意識が高いのには感心しました。いつ種まきし、収穫をいつにしたら収量が最大になるか、肥料は何を使い、どのようにして運ぶとコストを減らすことができるかなど徹底して分析しています。

"競"の中の"協"問う

この点、日本の農業は大まかで米国の農業の強さを感じました。また販売面でも日本は卸売市場出荷で産地間競争に翻弄され、他者が価格を決めています。米国はパソコンで各地のデータを分析して消費者を探り、長期的視点で市場開拓しているのです。

このように政策、コスト、市場開拓の日本との格差は大きいものがあります。いま市場開放が進み、この格差をどうするか、日本の農業・農協の力が試されています。それは国際競争の中で協同の力をどう組み立て直せるかが問われてことでもあります。

日本の農業・農協の進化に期待しています。米国で学び、日本の農協の良き時代の逆バージョンの時代と思って前を向いて歩いてきました。私の農協人生は「自らの常識への挑戦」と肝を据えて"競"の中で"協"の道行きを力の限り探し求める旅で悔いはありません。

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