JAの活動:農協時論
【農協時論】食料自給率向上や温暖化防止へポイント制導入を国民運動に JA菊池組合長 三角修氏2023年3月8日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は熊本県のJA菊池組合長の三角修氏に寄稿してもらった。
JA菊池組合長 三角修氏
SDGs、カーボンニュートラル、みどりの食料システム戦略、食料安保、食料自給率向上と、多くのキーワードが飛び交っている。国連が定めた2030年までのSDGs、農水省が昨年法制化したみどり戦略、そしてロシアのウクライナ侵攻によってもたらされた食料、エネルギーの奪い合い。農業は環境と共生していくことに意義があり、その上に国土を保全し、日本人の胃袋を満たすのが使命だと私は考える。
私がJA菊池の副組合長に就任した2008年、リーマンショックにより飼料、燃油高騰にさらされた。畜産農家をはじめ多くの組合員が国の家畜飼料特別支援資金、県の飼料、燃油高騰対策資金を借りて経営を継続することができた。その金額は当JAで25億円。時を同じくして、農水省より飼料用米の作付け試験依頼があった。1年目は30a、2年目は1・5ha。畜産動物(牛、豚、鶏等)の餌となるトウモロコシのほとんどは米国等からの輸入に頼っている。穀物のひっ迫、原油の値上がりにより船便運賃の上昇等で、畜産経営で生産費の割合が一番高い餌を安定的に供給することが厳しくなってくる。そのため畜産農家の経営安定につながるのではと始まったのが飼料用米の作付けである。2次的には主食用米の需給調整、国土保全の面から水資源の確保、涵(かん)養があったものと考えられる。
私はカスミソウ生産を主体とする農家で一時期、輪菊も生産していた。1回目を11月に収穫し、2回目を春の彼岸に出荷すれば高い価格で販売ができる。しかし、そのためには真冬の1月に花芽をつけるため、17~18度の夜間温度を保つ必要があり、暖房機は一晩中燃焼し続け重油を湯水のごとく使用していた。ちょうどその頃、京都で地球温暖化防止京都会議(COP3)が1997年12月に開かれ、CO2削減についてのルール決定があった。そのことを受け、私は作型や品種を変更したりして最低限の加温による菊を収穫できるようにした。その経験もあり、米国からトウモロコシ等を運ぶ船が放出するCO2を、飼料用米供給によってわずかでも削減ができないものかと真剣に考え行動に移した。その後、その飼料用米を8%(現在20%)配合飼料に混ぜて牛に給与し、えこめ牛(エコ+コメ+牛)として販売。米の風味があり、赤肉で高齢の方もたくさん食べられると大好評となった。
次は畜産排せつ物の有効利用である。環境3法が2004年に施行され、野積み等が禁止となった。当JAでは三つの有機支援センターを有し、2008年からはペレット堆肥を生産している。みどりの食料システム戦略が施行されてからはN.P.Kを混ぜ合わせた堆肥入りペレット複合肥料を全農と共に開発。作物(ゴボウ、ニンジン、スイカ、カスミソウ、米、麦)試験を終え、4月に発売予定である。これによりばら堆肥に比べ輸送効率の改善、散布時の大型機械(ライムソアー、ブロードキャスター等)の使用が可能となり、ハウス等園芸農家でも背負い動噴、手での散布も容易となった。広域流通させながら耕畜連携ができ、農家からはコスト削減もできると大きな期待が寄せられている。
このような事を具体的に進めてきた当JAは次のことを国民運動として提案したい。「国消国産」「地産地消」「旬産旬消」「身土不二」の言葉がある。お盆の仏様へのお供えは輸入品のバナナやパイナップルではなく、国産や地元の梨やブドウでよくないだろうか。旬のものを旬にいただくことは四季がはっきりしている日本だけの特典である。
提案とは、スーパーの買い物の際、例えば「えこめ牛」を買ったとき、一般商品に比べて「えこめ牛」は菊池産の飼料用米を混ぜてあるのでCO2排出量がフードマイレージで23・5%削減されているので、購入者にはスマートフォンを利用して、レジで10ポイントを付与するというもの。これは農水省、経済産業省、デジタル庁等の横断的な取り組みによりポイント付与を行うという仕組み。また、貯まったポイントは税金等の優遇に充てるのが分かりやすいと考える。これには財務省の関与が不可欠である。
これから先、食料、環境、エネルギーを融合させ、国民が自国の食料をいただき、できるだけ地元産で生産されたものを食べ、そして旬のものをいただくことにより、SDGsの目標13「地球温暖化に具体的な対策を」につながるのではないか。農家生産者に限らず国民の皆様に理解、協力していただくことが大切である。そうすることにより食料自給率の向上が果たせ、食料安全保障の一因に寄与すること間違いないと確信する。これを国民運動に展開したい。
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