JAの活動:未来視座 JAトップインタビュー
農業理解に"つながり"大切 JA東京スマイル・眞利子伊知郎組合長(2)【未来視座 JAトップインタビュー】2023年6月2日
農業理解に"つながり"大切 JA東京スマイル・眞利子伊知郎組合長(1)から続く
JA東京スマイル組合長眞利子伊知郎氏(左)と大金義昭氏
持続可能な世界 自己改革で道筋 反発心こそ逆風払う力
大金 その時の思いは?
眞利子 やはり「反発心」ですかね(笑)。「農協改革」という名のJAバッシングが吹き荒れ、「なぜ?」と思ったんです。もちろんJAにも反省すべき点はあります。JAが真に農家のために役立ってきたのかとか、職員が農業のことを良く知らないとか。しかし、そうした問題や課題は、JAの不断の「自己改革」によって解決していくべきものです。あの折のJAバッシングにはそれによって利益を得る人たちの「ためにする」思惑が強く感じられたからです。
JAは、農業を「強み」として生かすことのできる唯一の金融機関です。その「強み」をなぜ生かさないのか。そんな危機感もあって、JAは「組合員の総合コンサルタント」として原点に立ち返り、「自己改造」に積極的に取り組むべきだと考えました。
大金 それを役職員と共有するためには? 「JAL再建」を引き受けた稲盛和夫さん(当時、同社会長)は、就業時間以降に缶ビールと簡単なつまみで幹部職員との対話を重ねたことが知られています。
眞利子 コロナ禍でそれができなかった。組合員の要望も容易に聞けませんでした。辛かったですね。しかし昨年、感染を気遣いながら思い切って「合併20周年記念」の観劇会を開催し、また、信用事業部門の観劇招待行事では、のべ3600人以上が明治座に足を運んでくれました。すごく喜ばれました。総代会も昨年から「実開催」し、組合員組織も視察に出かけたり、懇親会を開いたりしています。
大金 協同組合にライブな「ふれあい」は欠かせませんものね。
眞利子 ウクライナ戦争や円安などの影響で肥料が急騰したので、組合員が購入した肥料代の「20%助成」も決めました。どこで買っても、領収証さえ持ってきてくれたらJAが支払う。そうしたらJAの肥料売り上げが700万円以上増えました。他所では買わないのです。地区座談会で「肥料の高騰をどうするんだ。何とかしてほしい」という組合員の声に応えました。
この3月にはまた、昨年に大日本農会の功労賞を受賞した花き農家や東京都品評会で農水大臣賞を受賞した小松菜農家の祝賀会なども開催しました。これまで祝賀会を開いたことがありませんでしたので、関係者の皆さんには大いに喜んでいただきました。誰にとっても厄介で大変な時代ですから、お互いに励まし合い、喜びを分かち合う機会は大切にしたいと考えました。
大金 そうした志を役職員とどのように共有していますか?
眞利子 組合長になってから、定例の常勤役員会を「週1」で始めました。正副組合長、専務理事、各担当常務などの6人で月曜日朝9時から開催しています。時には厳しいディスカッションになり、そこでJAの方針や態度を固めています。
22年度は約7億円強の利益が出て経営は良かったのですが、5年後をシミュレートすると支店の統廃合も考えていかなければなりません。支店をなくすと地域の拠点がなくなるので、サービス機能を確保するために直売所や相談所、ATMがある「ふれあいプラザ」を支店の後に残そうと話し合っています。「利益が出ているのに、今までと違うことをなぜしなければいけないのか」という話がよく出てきます。そんな時は「農協ってさぁ」という話から始めないといけない。また、コロナ禍で役員室のドアを開放し、風通しが良くなったと言われるようになりました。(笑)
大金 農業は「都市の生命維持装置」です。東日本大震災後、2015年に都市農業振興基本法が成立。2018年には都市農地貸借法がスタートしています。「都市農業」を巡る市民意識も変わりました。かつては「都市に農地はいらない」と言われ、言葉に尽くせぬ辛酸を舐めてきた嵐をかいくぐり、家族農業は今また新たな課題に直面しています。政府による食料・農業・農村基本法の見直しも進行中です。都市の農地を守るべく法・税制の措置なども重要ですが、「都市農協」が当事者としてなすべきことは?
都市農業の多様性守り
眞利子 「都市農業」には食料供給・環境保全に加えて防災・農業体験・景観維持・農業理解への醸成など様々な機能があります。東京都内のJAでは、経営基盤の確立に努めながら「持続可能」な農業を追求し、「都民と『食』『農』『JA』が織り成す地域社会の実現」を共通目標にしています。農地は徐々に減少していますが、結論から言えば、できる限り未来に農地と農業を残すこと。そのための営農支援にしっかり取り組んで農家を守り支え、組合員をいかに維持していくかが最大の課題だと考えています。管内では行政と一体の運動で、特定生産緑地制度による対象農地の91%がその指定を受けています。
具体的には、農家所得増大のための肥料代の助成や農機のレンタルなどに取り組んだり、JA自身が農地貸借の受け皿になったりする。直売所や「移動販売車」による「地産地消」や学校給食への食材提供さらには区民農園、学童農園、ふれあい農園などの交流型農業にも力を注いでいます。
さらに准組合員のための農業教室やJAの遊休不動産を活用した貸農園などにも挑戦し、消費者の皆さんを巻き込んだ農業理解を地域に広げていきたい。「農業と緑のある環境を守り、安心で笑顔あふれる地域づくり」が目標です。組合員や地域の皆さんから「農協がなきゃダメなんだ!」と言われることが、農業のイメージを変えることにもつながるのだと確信しています。
【インタビューを終えて】
時々「まりこ&いちろう」の2人に間違えられるとご本人。うらやましいくらいしゃれたお名前だ。いつも変わらないアット・ホームでフレンドリーな気風に潜む外柔内剛の志の由来が伺えた。江戸・下町の粋やゆかしさに魅せられたような時間があっという間に過ぎていった。「都市農業」と「都市農協」の立役者の一人として、ますますのご活躍を祈念したい。
(大金)
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