JAの活動:未来視座 JAトップインタビュー
農業理解に"つながり"大切 JA東京スマイル・眞利子伊知郎組合長(1)【未来視座 JAトップインタビュー】2023年6月2日
「未来を視座」するJAトップインタビューシリーズ2回目。今回は自他ともに都市型JAを任ずる JA東京スマイルの眞利子伊知郎組合長。都市農業ならではの課題も多いなか「都民と『食』『農』『JA』が織り成す地域社会の実現」を目指す。インタビュアーは農協界に詳しい文芸アナリストの大金義昭氏。
人との出会いが困難突破の力に
JA東京スマイル組合長 眞利子 伊知郎氏
大金 江戸の下町、江東3区(足立・葛飾・江戸川)にある3JAが合併して20年余。JA東京スマイルは「都市農協」として信用・共済を中心に宅地等供給・遺言信託の資産管理・運用や利用(葬祭)など幅広い事業を展開しています。営農指導事業・活動も重視する野菜の農業地帯も擁しています。組合長に就任して3年目の眞利子さんとはJA全青協役員時代からのお付き合いです。
眞利子 そうですね。JA全青協副会長になったのが39歳でした。食料・農業・農村基本法(1999年)に「都市農業」という言葉が入った頃で、東京の農業がようやく認められたと、とてもうれしかった記憶があります。江戸川区の農家の10代目で、小松菜に取り組み、その経営を今は息子が継いでくれています。
SDGsに小松菜通ず
元は水田地帯でしたが、消費地が近く、青果物の生産も盛んでした。小松菜は徳川8代将軍吉宗時代からの「地域ブランド野菜」なんです(笑)。将軍が鷹狩りに出て食した地名の「小松川」が名前のゆかりと伝えられています。経営面積が45アールと小規模なので、ハウスを導入して5~6回転させ、実質的な規模拡大に挑んできました。沖積土壌に有機質肥料を投入し、は種から最短3週間で収穫できる。JA管内はSDGsに先行する安心・安全第一の野菜産地だと自負しています。
大金 小松菜の生産者として組合長に就任されるまでの来歴は?
眞利子 高度経済成長期の1959年生まれですから、「百姓はやらないぞ」と決めていました(笑)。大学が法政の英文科で教員になりたかったのですが、縁あって母校職員に就職しました。1985年に父が亡くなり、農地を長男の私が相続すれば、当時のお金で3億円近い相続税が長期に猶予されるということで就農を決心しました。27歳でした。銀行からは「土地を売らないか。一生遊んで暮らせる」と追いかけられるような毎日でした。近くを通りかかったお子さん連れのお母さんからは「ちゃんとしないと、ああなっちゃうのよ!」と言われたことなどもあります。「土ぼこりが迷惑」と言われるような時流に「反発心」しかなかった(笑)。「このまま下を向いて黙っていてはいけない」。農業のイメージを変えたいと強く思いました。
大金 逆風の中で!
眞利子 JA青年組織に入り、JA東京都青協に引っ張り出されたら、先輩の故本橋優一さんや白石好孝さんたちが「都市農業」を守る農政活動などに懸命で、とても心強く思いました。志を共有できる仲間たちと出会えたことが、今も大きな励みです。思いを一つにすると、困難が突破できる部分もあるのだと教わりました。
文芸アナリスト 大金義昭氏
大金 農業を続けながらJA青年組織や都下の農業経営者クラブのリーダーを務め、二足・三足のわらじで奮闘して何か新しく取り組んだことがありますか。
眞利子 江戸川区農業経営者クラブ会長時代には、区の都市農業育成事業を活用してビニールハウスの張り替えやトラクターの購入などに取り組みました。そんな時に区民から「ここの小松菜はどこで買えるのですか」と尋ねられました(笑)。市場出荷が当たり前でしたから、地元の皆さんには無縁だったのです。これではいけない。農業を理解していただくには食べていただくのが一番と、「庭先直売」を始めました。小松菜のほかに夏はトマト、キュウリ、ナス、冬はキャベツなどと家族総出です。消費者団体とも積極的に交流し、視察を受け入れてきました。
大金 都内にも魅力的な農業があると?
眞利子 それしかなかったですね。農業経営者クラブの活動に長年取り組みながら、2017年にJAの非常勤理事になり、3年目に専務を務めさせていただくことになりました。常勤になるので、勤めていた息子に相談しました。下手(したで)にね(笑)。息子は仕事が面白くなってきた頃のようでしたが、給料分以上を保障すると説得し、就農してくれました。専務を1年務めたら、組合長です。思いがけない展開でした(笑)。
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