JAの活動:農協時論
【農協時論】女性パワー 活動振り返れば常に時代の先頭 根岸久子・JCA客員研究員2023年11月28日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回はJCA客員研究員の根岸久子氏に寄稿してもらった。
根岸久子 JCA客員研究員
米消費の減少が続き、今や家計支出は米よりもパンが上回る。その出発点は第二次大戦後に学校給食を再開するにあたって、総司令部サムス大佐が「米食偏重の食生活を改め、栄養改善を図る」との意図を指示し、パン給食が始まった。アメリカの食料戦略のスタートである。しかし、今、アメリカではパン等の小麦製品摂取による健康被害が広がり、米粉の消費が右肩上がりで伸びているという。
さらに、今や人工肉(大豆で作ったひき肉、遺伝子組み換え酵母、20種の添加物で作る。ハンバーガーパテとして販売)や、培養肉(細胞バンクや卵から採取した細胞を培養)が、安全性調査なしで流通許可され、国内スーパーでも表示なしで販売されている。さらにゲノム編集の野菜や魚も流通している。こうして食料生産の形が大きく変わるなかでは安全な「食べ物」の選択は難しくなっている。それゆえ安全な食べ物を求める人たちにとっては産地や生産者(加工者)が分かるるJA直売所の求心力は増していくのではなかろうか。そのためにも「食べ物や農業」に関する多様な情報発信を期待したい。
その直売所の原点は、1960年代以降の減反政策のなかで農業収入が減り続け、兼業化が進み農家にも消費的暮らしが浸透するなかで、家計のやりくりに頭を悩ます女性たちが暮らしの課題解決を目指し、全国各地で取り組んだ「農産物自給運動」である。
「金がとれないなら金を使わない暮らし」を目指し最初に取り組んだのが農家の強みを生かせる「自家用の農産物」づくりであった。とはいえ、消費者的暮らしに慣れた女性部員の多くは「いまさら何で自給か」と冷ややかだったという。そこで、まずはできる人から始まった。
さらに「買って食べるもの」の問題が顕在化してきた時でもあり(有吉佐和子著「複合汚染」等)、その正体等を調べたり(実験、工場見学等)、健康不安を訴える人も少なくなかったので「食生活と健康の調査」等も行いながら「自給」の必要を訴えていった。
こうして徐々に「自給」への理解が広がってくると、野菜づくりに取り組む女性が増え、育てる野菜の種類も生産量も増加、さらには加工品づくりへと進展していった。やがてJA施設の軒下や駐車場、広場等で販売する取り組みが全国に広がり、なかには自前の常設店舗を開設した女性部もあり、「自給運動」は「直売事業」へと発展し、それはJAの直売所事業へとつながっていった。
振り返ってみると、直売事業のほかにも生活用品の共同購入事業や葬祭事業、福祉事業等、女性たちが声をあげ、活動を積み上げつつ事業化に至ったものが少なくない。それゆえ、今や課題山積の農業やJA経営の意思決定の場への女性参加は「まったなし」と言えよう。これまでの歴史が証明しているのは危機的状況に立ち向かい、新たな地平を築いてきた「女性パワー」恐るべし。
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