JAの活動:未来視座 JAトップインタビュー
「泣こよか ひっ飛べ」胸に JA鹿児島きもつき組合長 下小野田寛氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年2月21日
JA役職員一丸となった「チームきもつき」で組合員と地域を支える農協運動の先頭に立ってきたJA鹿児島きもつきの下小野田寛組合長。農協人として30年の節目を迎える今年5月、次世代に託して勇退する。これまでの歩みを振り返り、地域の未来への思いを聞いた。聞き手は文芸アナリストの大金義昭氏。
チームきもつき 前向く原動力に
JA鹿児島きもつき組合長 下小野田寛氏
大金 驚いたのですが、組合長を勇退されるとか!?
下小野田 今年5月の総代会で理事を退任させていただく決断をしました。JA鹿児島きもつきは1993年に六つのJAが合併してスタートしました。農業が盛んな地域のためにお役に立ちたいと私はその翌年から理事になり、理事だった30年のうち半分は常勤役員でした。組合長も合計4期重ねています。出処進退は潔く自分で決断したい。自ら身を退くことで、次の世代が育つと考えました。(笑)
大金 反響は?
下小野田 昨年10月、地元の地区総代の集まりで初めて表明しました。「まだやれるじゃないか!」と言われましたが、「私は恰好良く辞めたい! ただそれだけです」と。(笑)
大金 「男の美学」ですか?
下小野田 初めて組合長に就任したのは44歳の時でした。その時は組織・制度・仕組みにばかり目を向け、孤軍奮闘しましたが、なかなか改革が進まず1期3年で辞任することになりました。その後9年間理事を務め、2度目の組合長に就任しました。1度目の反省を踏まえて組織・制度・仕組みだけに目を向けるのではなく、それを支えて運営する「ヒト」にも目を向けることで改革を進め、現在はある程度の成果が出つつあります。
大金 改革路線は継続できますか?
下小野田 この3期9年間、私が主導して進めてきましたが、「チームきもつき」としてみんなで取り組んできた改革です。私一人が退いても「チームきもつき」の改革が止まることはありません。
大金 ご自身で「直情径行」とも言われていますが?(笑)
下小野田 まあ、気が短いところは親父をはじめ受け継いだものがあって(笑)。鹿児島大学農学部に入ったのも、女手一つで親父たち9人兄弟を育てた祖母が農業をずっと一人でやっていたからです。息子たちが農業を継がず、それを嘆いていた祖母の言葉が心にあり、農学部に進みました。35歳でJAの理事選挙に出るときは、祖母の名義の組合員資格を引き継ぎ、総代のお宅を一軒一軒訪ね歩き、改革の志を訴えて一番で当選しました。
大金 お若かった!
人なくして改革ならず
下小野田 他の理事は経験豊富な50~60代でしたが、私は30代。飛び抜けて若造でした!(笑)。早速、厳しい現実にぶつかりました。(笑)
大金 大学を経て上京し、JA共済連に入ったのは?
下小野田 狭い鹿児島をいったん出て広い世界を体験したい、と思いました。長男でしたからいずれは戻ろうと考えていましたが、母が病気になり8年で帰郷しました。ちょうどJAが「平成の大合併」に取り組んでいた頃で、合併JAの理事改選に手を挙げたわけです。
41歳で経済担当常務になり、3年後に組合長に就任しました。経営収支が厳しく、リストラを含めた構造改革を強力に進めました。時代が早すぎて反発が強く、1期で頓挫しました。9年たって再び組合長に手を挙げることになり、前回のこともあったので、厳しい組合長選挙でしたが何とか勝ち抜き、ようやく改革のスタートに立つことができました。(笑)
大金 「人づくり」に目を向けたのは?
下小野田 最初の組合長の2年目に、娘が白血病になりました。その後の9年間に娘の看病、子育て、本業の保育園で理事長・園長などを体験し、私自身も変わり、幸い娘も元気になりました。「人の命」を考える有難い時間になりました。
思いが先走った1度目の反省から、「人なくして改革は成らず!」と役職員一人ひとりに目が向きました。就任した12月、600人ほどの職員に賞与を支給する際も、直筆で「チームきもつきをみんなで創り そしてみんなで幸せに」と認(したた)めました。青臭いと思われたかもしれない。照れもありましたが、率直な気持ちでした。その後、JA便りやあいさつの中で「チームきもつき」を役職員だけでなく、組合員や地域の皆さんに大きく発信しました。次第に土壌ができ、今では行政や地域の皆さんも「チームきもつき」を口にしてくれています。
難局打開へ行動 一緒ならできる
文芸アナリスト 大金 義昭氏
ネクスト10 攻めに転換
大金 改革の目玉は?
下小野田 1度目は「縮小均衡」路線でした。2度目に就任したときも、発想はみんな縮小均衡。それでは「ダメだ」と「成長拡大」にかじを切り替えました。その中心は「産地のポテンシャルを高める生産・販売だ」と唱え、3年後の2018年に「ネクスト10」(10年構想)を総代会に諮り、承認を得ました。
そこに数字を二つ書き込みました。貯金額と販売額です。1000億円の貯金は組合員の財産です。販売額は300億円です。10年後に貯金額を2000億円、販売額を400億円にしよう、と。営農を盛んにして所得を向上させ、農家の財産を増やしたい。そういった意味合いです。
大金 「大風呂敷を広げて!」といった反応は?
下小野田 3年後なら無理でも、10年後ですから(笑)。「中期3カ年」より、もう少し先を見つめたいという思いで「ネクスト10」を作りました。
大金 数値目標が達成できなければ、トップの責任を問われますが。
下小野田 数値目標を皆さんはあまり意識しなかった(笑)。「ネクスト10」は「具体的に取り組むべきこと」を明記しています。たとえば直売所「どっ菜市場」をオープンしましたが、それも「ネクスト10」に書いてあります。初年度は1億円の赤字で、さすがの私もうなりましたが、その後順調に売り上げを伸ばし、地域内外への発信力や存在感が高まりました。そういう具体的な施策が数値も含め、すでに5~6割は実現しています。
大金 「ネクスト10」は役職員のプロジェクト・チームで練られた?
下小野田 いいえ、ほとんど私が(笑)。そうしないと、突き抜けたものは作れません。「できるはずがない!」がみんなの第一声でした。(笑)
大金 でも「やるのだ!」と?
失敗恐れず行動ありき
下小野田 総代会にかけてオフィシャルになり、役職員に浸透していきました。当初はガムシャラでしたが、近年は「人材育成」とくにマネジメントできる人材育成を意識してきました。海外研修制度や職員に権限を委譲する本部長制度もその一環です。
大金 職員にはどんなメッセージを発信してきましたか?
下小野田 職員は組合員の重要なパートナーです。「失敗を恐れずに挑戦し続ける。とにかくやりなさい! 責任は持つから」と叱咤(しった)激励してきました。やれば結果がはね返ってくる。その経験を積むことで人が育ち、事業が伸びていきます。
大金 初めに「行動ありき!」ですか。大規模農家対策は?
下小野田 販売額がこれだけ増えたのは、大型農家がJAに目を向けてくれるようになったからです。大型農家には「JAのいいところを利用してください!」と言っています。ご相談いただければ、JAは可能な限り懇(ねんご)ろに対応していきたいと思います。
大金 子会社の位置づけは?
下小野田 地域ブランドを創り、守るにはボリュームが必要です。私のJA管内も高齢化が進み、離農者が毎年出る。放っておけば農業生産力が落ちる。それを補完するために和牛繁殖と養豚と園芸農産の事業分野で四つの子会社を作っています。JAも自ら農業生産に励む。和牛は家畜市場を持っていますから、月に3日間の子牛せり市には全国からお客さんが買いに来てくれます。子会社を立ち上げてからは頭数減が止まり、農業の担い手も育っています。
大金 「女性登用」については?
下小野田 理事は16人中3人が女性です。今年5月の役員改選からは選出の仕組みを変え、女性理事枠を4人、青壮年枠を2人にします。総代も500人中90人ほどが女性で、県下では比率が一番高い。9年前はゼロだった女性管理職(課長以上)も逐次増やし、去年4月、金融部門で女性が部長級になりました。「あなたが引き受けることで、次世代の道が開けるから!」と説得し、応えてもらえました。
大金 薩摩は幕末・維新の雄藩として突出しましたが、敬愛する志士は?
下小野田 土佐の坂本龍馬や長州の高杉晋作、もちろん薩摩では西郷隆盛や大久保利通とか。彼らには「青雲の志」をかき立てられますね。この国の現状を突破するためにも精神的な励みや支えになる存在です。最近の若い世代にも、ジャンルは異なりますが大谷翔平や藤井聡太などがいます。
大金 JAグループの皆さんに「贈る言葉」は?
下小野田 厳しい現状だからこそ、JA同士の横断的なつながりが大切で、互いに助け合い支え合いたいですね。能登半島地震にしても、一人ひとりの力はわずかでも、みんなで協力すれば必ず復興できると信じています。被災地の皆さんは大変な状況ですが、この国は常にひとつになって難局を乗り越えてきました。私たちのJAも含め、日本や日本人の素晴らしさを再確認し、「チーム日本」で手を取り合っていきたい。
鹿児島には「泣こかい 飛ぼかい 泣こよか ひっ飛べ」という言葉があります。困難に遭遇したら「泣くより飛べ! 行動しろ!」と私たちの背中を押してくれる言葉です。人も組織も地域もつい「守り」になりがちですが、今こそ輝く未来に向かって日本も地域もJAも「攻め」の構えで臨みたい。「攻める」と決めたら即行動する。そうすれば、道はきっと開けます!
大金 「一の太刀を疑わず」「二の太刀要(い)らず」と言われる示現流の極意に通じるような気合いですね。(笑)
【インタビューを終えて】
来る5月に勇退とは「寝耳に水」だった。斬新な発想やオープン・スタンス、オープン・マインドの行動力、的確でナウい「キャッチ」の発案など抜きん出た美質や実績に触れるたびにさっそうとした風が立った。
1959年生まれだから、本来これからが本番ではないかと一抹の寂しさを禁じ得ないが、協同組合に寄せる高い志をどのように継承するか。JAやJAグループの真価が問われるところだ。思いがけない喪失感にくじけず、下小野田さんご自身の「ネクスト10」を楽しみにするほかない。(大金)
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