JAの活動:農協時論
【農協時論】農業版BCP―防災空間有用も 再開へ難問山積 JA東京スマイル 眞利子伊知郎組合長2024年3月8日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、JA東京スマイルの眞利子伊知郎組合長に寄稿してもらった。
2024年の幕開けは衝撃的であった。4年ぶりにコロナウイルスによる規制のない正月を迎えられたが、午後4時10分に震度7の能登半島地震が発生したのだ。いつ起こるか分からない自然災害の怖さを改めて実感させられた。犠牲者は240人以上にのぼり、発災後60日以上が経過してもなお復旧の道のりは遠い。私たちもJAグループの一員として、復旧への支援には手を惜しまないつもりだ。改めて、被災された皆さんにお見舞いを申し上げます。
私は、JAの組合長であり、農業も家族経営で行っている。組合では、災害時においても事業継続をすることに最大限努めるための"事業継続計画(BCP)"があり、事前の備えや、発災時以降の業務体制を定めている。しかし、個人の農業では、BCPを策定することなど思いもよらなかった。私は、小松菜でJGAPの認証を受けており、現在の2016年認証基準では問題はないのだが、次期更新時の2022年認証基準では、BCPの策定を求められる。GAPは生産工程の管理が目的で、災害時の生産工程の管理も当然、必要なことだということだ。家族経営であろうとも、従事している人の安全・安心は最優先に取り組まなくてはならない。
昨年12月、農水省が作成している農業版BCPのひな型があるということで、ホームページからダウウンロードし作成を試みた。法人を対象にしていると思われるが、何とか記入をしてみた。
農水省のBCP(ひな型)は、被害を抑えるための事前の対策や、被災後の早期復旧・事業継続に必要な対応をまとめているもので、発災後48時間で出荷を目指す計画を立てた。しかし、私の住んでいる東京で、仮に能登半島地震と同規模の地震が起こった場合、とても48時間以内の出荷など無理に等しい。私は、江戸川区農業経営者クラブを通じて災害協定を行政と締結しており、災害時には、車両の提供や地下水の利用、そして、一時避難場所としての農地の提供などがあり、被害が大規模になればなるほど、出荷などおぼつかなくなると思われる。
また、2019年に発生した台風19号の大雨では、かろうじて洪水の被害は受けなかったものの、仮に堤防の決壊による洪水が生じた場合には、水が引くまで数週間がかかると予想されている。さらに、江戸川区のハザードマップでは、命を守るためには? ここにいては危険? と書かれているのだ。そのような場合、農業の再開には数カ月を要するだろう。
一方、BCPは発災後だけでなく事前の準備を行い、被害をいかに軽減するかも目的の一つだ。もう一度自分のBCPを見直し事前の備えを重視したものを策定する必要もある。そして、農業が再開できるのは地域の復興がある程度進まないとできないことも、明記するつもりだ。
29年前に発生した阪神・淡路大震災により、都市農業が貴重な防災空間としての役割があると認識された。そのことを明記することも自分版のBCPにつながるであろう。
最後に今回の能登半島地震の報道で、ビニールハウスで避難生活を送っている被災者を見た。もう10年以上前になるが、葛飾区ではビニールハウスに泊まる防災訓練を実施している。暖かいイメージのあるビニールハウスだが、実際には水分を含んだ地面からの冷気により、とても寒く寝ることはできなかったと聞いた。能登半島の皆さんも床を張り冷気を閉じ込めるなど、大変な苦労をされていた。少しでも早く平穏な日常が戻るよう改めて願うばかりである。
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