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JAの活動:未来視座 JAトップインタビュー

外からの風入れ多様性育成(2) 茨城県JAやさと組合長 神生賢一氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年6月5日

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有機栽培部会が日本農業賞(集団組織の部)大賞を受賞するなど茨城県のJAやさとが注目を集めている。神生(かのう)賢一組合長は「つながりを大事に新しいアイデアや行動にチャレンジしたい」と先を見据える。JAの考え方や地域戦略を文芸アナリストの大金義昭氏が聞いた。

JAやさと組合長 神生賢一氏【未来視座 JAトップインタビュー】
外からの風入れ多様性育成(1)生協と有機耕やす 担い手と手を組み から続く

「顔の見える」ご縁 異業種とも連携

茨城県・JAやさと組合長 神生賢一氏茨城県・JAやさと組合長 神生賢一氏

大金 「やさと」は馬蹄形に東に開かれた地形のために開放感があり、背後を筑波山系に抱かれているような安心感が得も言われません。「日本の里山100選」に選ばれている丘陵地に果樹園が広がり、低地は田畑に恵まれた美しい景観が懐かしい「ふるさと」のようです。移住したくなるような!(笑)

里山の風景守りたい

神生 ありがとうございます(笑)。その「里山の風景」を守るためにも農業を守り、農家の暮らしを守りたい。ところが果樹園などは屋敷のそばにあって貸借のネックになっています。もっと利益が上がれば後継者も増えるので、そこにJAの役割もあります。直販で成功している果樹園などをモデルにブランド化を図りたい。JAの園部直売所は柿の季節になると特ににぎわいます。柿岡直売所はフルーツラインに移転し、コンビニを併設した小さな「道の駅」のようにしたい。JAは温泉施設「ゆりの郷」も運営しています。筑波山麓の立地を生かし、農業と観光を結びつけて農地の荒廃を食い止めたい。里山の人と自然に触れる子どもたちの「八郷留学」に取り組むグループなどもあるんです。

大金 大規模農家対策は?

神生 若いJAの職員が、地区を盛り上げたいと農業法人の設立に関わっています。

大金 それは頼もしい! ところで「神生」というお名前はめずらしい。

神生 水戸の戦国史に「神生の乱」が出てくるのは天正年間(1580年代)です。戦に敗れて逃げ延び、帰農したようですが寺も消失し、記録がありません。

大金 千葉大学園芸学部の農業別科を修了され、なぜ「切りバラ」だったのですか。(笑)

神生 もともと米麦を中心に父親が養豚に取り組んでいましたが、学生時代が高度経済成長期で都市緑化や花卉(き)園芸がブームでした。ある時、美しいバラに魅せられ(笑)、大学修了後に愛知県西尾市で2年間の研修を経て帰郷し、74年に350坪(約11・6a)のビニールハウスでバラ栽培を始めました。バラの切り花は病害虫もあって難しいのですが、「茨城県ばら切花研究会」を結成し、研鑽してきました。

大金 時代が変わり、家に花を飾ったりプレゼントしたり......。

神生 その波に乗って800坪(約26・4a)までハウスを拡大し、6年目にはバラの専業農家になりました。

大金 お連れ合いとは?

神生 青年団体が主催する「であいの船」で「出会い」ました!(笑)。その後「日本ばら切花協会」の県の会長をしているうちに全国の協会に送り出され、消費宣伝の担当役員を務めました。作れば売れた時代から、バブル崩壊で生産過剰になりました。

消費宣伝の要はマスコミ対策でした。本紙にも登場された加藤登紀子さんの『百万本のバラ』がヒットしていた頃でしたから事務所にアタックし、お客さんに配るバラを各県支部で開催されるコンサートごとに提供し、バラの消費宣伝を図りました。NHKスタジオパークで品評会を開催した際も加藤さんのミニコンサートをお願いしました。バブル崩壊後も東日本大震災やコロナ禍で需要が落ち込み、その都度どうやって売っていくかが課題になりました。

大金 山あり谷ありですね!

作る半分、売る半分

神生 本当にそうでした! 農畜産物の販売促進も、バラの消費宣伝の経験を生かして取り組みたい。「作るの半分、売るの半分」で、作っても需要にマッチしなければ売れません。人と人とのつながり、「ご縁」を大切にどう売っていくか。それと差別化。産地のブランド化を図り、異業種とも積極的に提携する事を大切にしていきたいです。

JAの専務理事に推されて就任したのを機に、7年前に経営移譲した息子は現在およそ1250坪(約41・3a)の「バラ園」を経営しています。50aの畑で枝物を栽培したり、ケーキ屋さんなど異業種とも進んでつながったりしているようです。

大金 かつての「たまごの会」もそうでしたが、外から来た人たちから受ける刺激や影響は大きいですね。

大金義昭氏

文芸アナリスト 大金義昭氏

神生 時には外からの風がないと改革は難しい。

大金 来る人も来た人を迎える人も、「やさと」は懐深く風通しが良い!

神生 人の気持ちをお互いに思いやる。変わらないのは人と人との結びつきです。「4Hクラブ」時代の仲間たちと、自宅の持ち回りで毎月1回の定例会を40年間続けてきました。酪農家も野菜や花卉(き)の農家もおります。かつて青年団やJCで出会った人たちとの集まりもあります。

大金 「ご縁」を続ける?

神生 よく会ってよく聞き、「つながり」を大事に新しいアイデアや行動にチャレンジしていきたい。

大金 「話し上手は聞き上手」と言われ、昨今は「聞く力」が話題になっています。

神生 話はうまくありません!(笑)

大金 いやいや「やさと」の申し分ない「スポークスマン」です!(笑)

神生 ともかく「聞く」。むろん譲れないところはありますが、JAやさとには幸いに「多様性」を尊重してきた歴史があります。生協などとの深いつながりもあり、様々な声を反映した組織・事業・経営を次代に引き継ぐ。これが私の役割です。

職員教育や給与の引き上げ、そのために必要な収益の確保など課題は山ほどありますが、「守る」だけでは進歩がありません。積み重ねてきた先人の歩みを外さずに、わたしたちの夢をどう膨らませていくかが勝負です。

【インタビューを終えて】

宇都宮から高速を走って車でおよそ90分。インタビュー前の連休中、秘かに「やさと」を訪ねた。風光明媚(めいび)な「理想郷」を思わせる景観に言葉をのんだ。1953年生まれの神生さんは「日本ばら切花協会」の会長も務めた。「対話」と「ふれあい」を大切に「自然を守り、自然に守られる」生き方を、JAをよりどころに追い求める。『百万本のバラ』の花を「あなたに、あなたに、あなたに、あなたに、あなたに」あげたいと。(大金)

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