JAの活動:農協時論
【農協時論】分断から理解へ 協同社会目指す 岩佐哲司・JAぎふ組合長2025年3月14日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回はJAぎふ代表理事組合長の岩佐哲司氏に寄稿してもらった。
JAぎふ組合長 岩佐哲司氏
先日、ある組合員から「紹介したい人がいる。一献どうだろうか」とお誘いがあった。彼は5年前脱サラ、路地栽培でホウレンソウ、枝豆、大根を生産し、農協の共撰共販を利用しながら、規格に合わないものを自ら販路を開拓する農家である。
私は、嫌いではないのでお誘いを即諾し、会場に行くと農協とは縁がなさそうな30代の男性が現れた。聞けばミュージシャンであり、今春、岐阜の1700人収容の会場でライブを行う予定で、既にチケットは完売とのことであった。
話が弾み、彼から「農協は、会社から農産物を買って、それを売るのですか。」との質問を受けた。私は、「農家の多くは、一人では大資本に対抗できないので協同して販売している。それをお手伝いするのが、農協の仕事です」と簡単に説明をした。
同席した組合員からは、「世間では農協のことを悪く言う報道もあるが、実は組合員は感謝しているんだ」と付け加えてくれた。
世間の農協に対する理解はこの程度なのかと改めて感じるとともに、若手生産者から感謝していると直接聞いて、小躍りしたくなるほど嬉しく思うとともに、いままでの農協の仕事のやり方が間違いではなかったと思った。
世界では、米国におけるイデオロギー対立、中東における民族対立、東欧における領土対立など、分断が益々激しくなっている。
問題を解決する手法には大別して二つあると思う。一つは、相手を理解し妥協し落としどころを図る方法、もう一つは、相手に高めの要求を突きつけ攻撃し屈服さる方法である。世界のあちこちで後者の方法が行われるようになってきている。
まだ記憶に新しい「農協改革」においても、「農業改革」が知らない間に「農協改革」にすり替えられ、気が付けば、農協・農業者対消費者の構図が出来上がり、全中を一般社団法人にすることで一応の決着を図ることが精いっぱいであった。その後遺症に今もJAグループはもがいている。
誰が仕組んだかは知る由もないが、これも前述の後者の手法に、我々は敗れたのだと私は思っている。
今、JAや農業者を取り巻く情勢には、分断をさせるネタがゴロゴロしているのではないだろうか。農林中金の巨額赤字問題、全中のシステム開発問題、そして米価高騰問題である。
農林中金と全中問題は、社会に対し真摯な対応と丁寧な説明を行いガバナンスを向上させることで理解を得られると思うが、米価高騰問題は対応が難しい。
農家は、長年続いた農産物価格低迷で疲弊し続けてきた。ようやく息をつくことが出来、将来に希望が見えてきた状態であるのに対して、消費者は、価格急騰で悲鳴をあげている状態であり、立ち位置が真逆である。
我々生産者側は、誰も暴利を貪ろうとは思っていない。農業を維持し、国民の食を守りたいと思っているだけである。そのためにも消費者に対して今まで以上に丁寧に説明をしなければならない。しかし今までのように農家だけで農業を守り維持し、国民の食を守ることには限界がある。だからこそ対立構造にしてはならない。
JAぎふでは、理解を得ることを目的にいろいろな活動を行っている。例えば、対話のきっかけとして、「地産地消」ではなく「地消地産」と言うようにしている。想いは、地域の消費者の皆さんが必要とするものを地域の生産者が作るというものである。これを具体的にしたものが、消費者が望む農産物の独自基準「ぎふラル(Gifu Natural Farming)」の普及活動である。
もう一つは、今年で3回目を迎える「食と農の祭典」である。この活動は単に農産物を販売するのではなく、日本の食料事情や地域の農業や農産物について、地域の消費者に理解を得るためのパネル展示や講演などを交えた「地域住民に対する食農教育」という側面も持たせている。
それぞれの地域で消費者との対話の方法はいろいろと考えられる。
それぞれの地域で実情にあった方法で、分断から理解へ、そして協同へ発展させることを考えなければならないのではないだろうか。今こそそんな火を灯す時代であると思う。
我々JAグループや生協等の協同組合の発想や想いは、まだまだマイナーなものであるが、対立構造の罠に陥ることなく協同する社会を目指していきたいものである。
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