JAの活動:日本農業の未来を創る元気なJA
【現地ルポ・JAこうか】担い手組織の多彩な役割で地域を支える2013年1月9日
・担い手育成と地域農業のサポート
・集落を超えて担い手を育成
・地域を超える第2世代の青年農業者たち
・100年先の絵を描け!
滋賀県の南東部、甲賀市と湖南市を管内とするJAこうかは米・麦・大豆を中心とした水田農業地帯だ。兼業化や高齢者が進むなか、30年以上前から担い手への農地集積に取り組み始め、いまでは農業法人、集落営農組織など集落等の実態に合わせた担い手が活躍、若い後継者たちも育ってきている。
最近ではこうしたさまざまな組織が連携し、地域の新たな課題解決のための取り組みも進めているという。ここでは県下でもいち早く農業機械銀行をつくり規模拡大と協業化の取り組みを進めてきた甲賀市水口町の地域農業づくりを中心に紹介する。
協同組織の「協同」が力を発揮
◆担い手育成と地域農業のサポート
高性能で大型の農業機械による効率的な農業を作業受委託のかたちで広く地域に広めようと設立された水口町農業機械銀行は、今年で35年めを迎えた。
設立の契機となったのは昭和30年代後半から40年代にかけての農業構造改善事業によるほ場整備。これによって各集落に生産組合が組織され大型機械による協業化が始まる。しかし、設立30周年記念誌では、当時は組織リーダーの奉仕的作業になりがちだったり、機械管理の責任体制があいまいだったなどの問題で役割が十分果たされなかった、と振り返っている。
その後、明確な利用料金を設けて作業受託を行う請負耕作組合が誕生、それが機械銀行の母体となり、設立当初からJAが事務局を担ってきた。
この機械銀行の目的は高性能の大型機械による作業受託と合わせて大規模な経営体を育成することでもある。水田農業の経営発展のためには規模拡大が必要だが、一方では高齢化などによる作業全面委託の希望や、あるいは耕作放棄の懸念も地域には生まれてきていた。
そこで地域の農地を維持していくためにも事務局であるJAが農地の利用調整をして担い手への集積を図っていったのである。同時にJAは大型機械を購入、それを担い手と専属利用契約を結ぶという方式によって担い手に大型機械を導入させていった。
この担い手の組織が農業機械銀行の「受託者部会」だ。受託者部会は水口町内全域を対象に希望が上がってきた農作業に共同であたる、というのも役割である。共同作業の内容は、水稲・麦・大豆の防除と麦・大豆の収穫。作業スケジュールの調整については事務局のJAが行い、メンバーがそろって一気に作業を行う。
つまり、受託者部会のメンバーはJAによる農地利用調整によって自らの規模拡大を図るとともに、「町全体の農作業請負いも行う」(JAこうか)ということである。
◆集落を超えて担い手を育成
受託者部会のメンバーは現在20名。現在の小嶌信一部会長は20年ほど前からメンバーになった。当時の経営面積は5haほど。規模拡大をしたいとJAへ相談したところ機械銀行の仕組みを説明され部会に入った。
経営面積は年々増え、現在は水田が40ha、そのうち麦・大豆の転作が15haほど。そのほか最近では丘陵地に発生した耕作放棄地4haを再生させ麦・大豆を作付けているほか、経営発展のために白ネギ、ニンジンなどの野菜も手がけている。
小嶌さんは「個人ではとても規模拡大はできなかった」と振り返る。今は長男の茂さんに経営を任せている。後継者も育った。
受託者部会のメンバーが規模拡大を果たすことができた要因のひとつにJAが集落ごとに担い手を特定していったことも挙げられる。町内には20集落あるが、それぞれの地域で担い手を決め、そこに農地をまとめて集約することにした。
実は小嶌さんが規模拡大を決意した当時、すでに同じ集落で担い手が活躍していた。したがってこの20年、小嶌さんが規模拡大してきたのは自分の集落外ということになるが「外に出るのは当然と思っていた」し、JAもこれを前提に利用集積を進めた。集落によっては、たとえば水管理の慣習などが違ってとまどったこともあったが、助けてもらったことも多いといい今ではその集落の支え手だ。それを茂さんが引き継いだということになる。
(写真)
水口町機械銀行の受託者部会の小嶌信一部会長
◆地域を超える第2世代の青年農業者たち
部会長の小嶌さんの経営をはじめ、実は受託者部会20人のメンバーのほとんどは第2世代だ。しかも法人も多い。若き社長が登場しているということである。
その第2世代は15年前から新たな組織をつくり、地域内はもちろんそれを超えて活躍をしている。平成10年に設立した(有)共同ファームがそれ。第2世代の青年農業者が共同出資して転作を請け負う法人だ。
代表は今井敏さん。自らが社長を務める(有)るシオールファームの社長でもある。今井さんはJA職員を退職し義父が経営する同社に就農した。
共同ファーム設立のきっかけになったのは、他の経営体の2代目とともに共同で野菜づくりをしたこと。「後継者には時間に余裕があったから」というのが理由だったが、それが仲間と話し合ううち小麦の播種の協業化へと進み、兼業農家などの第三者から作業を依頼されたことから地域の転作を請け負うこの法人を設立。出資者は12人で平均年齢38歳の若手農業者集団である。メンバーはそれぞれの農業経営に携わっており、共同ファームからは役員報酬のほか、自らオペレーターとして出役、作業料がそれぞれの経営体に支払われるという関係とした。麦・大豆の専用機は所有しているが、汎用的な機械は各経営体から借りリース料を払うかたちもとる。
この法人が立ち上がったことにともない、農業機械銀行が行う転作部分の委託作業は一手に共同ファームが受託するかたちにした。 経営面積は発足以来、年平均10ha規模で増えていき、24年産で同社が請け負った面積は麦220ha、大豆350ha、さらに無人ヘリ防除は1000haまでになった。
作業を受託するのは今や地域を超え草津、大津など滋賀県内はもちろん、昨年は三重県と愛知県の無人ヘリ防除を請け負った。
(写真)
上:「共同ファーム」の今井敏代表
下:ねぎの栽培にも力を入れる
◆発想は「みなさんが喜んでくれればいい」
これほどまでに依頼が増えてきたのは、彼らが高い技術を習得し委託者からの信頼が高いからである。作業は全員で協力して行うが企画立案は麦・大豆・水稲の各部門に担当を分け責任を持たせ、過去の稼働時間に基づく作業計画づくりと資材発注、ロスのない作業のための綿密な打ち合わせなどに務めている。
「高いレベルのチームワークをめざしてきました。自分の経営感覚を磨くことにもつながっています」と今井さんは話す。たとえば大豆の播種は今や1日に25haをこなすという。
こうしたことから、たとえば集落営農組織の転作委託が増えている。「兼業農家中心の集落営農では集落の人々が運搬作業などに出役できる土日に収穫作業を終わらせることが求められます。それを私たちがきっちり行えば、受託したほうがコストダウンになる、ということです」。
また、共同ファームや機械銀行が行う共同作業の存在は、集落営農組織の立ち上げを促進する役割も果たしている。麦・大豆の専用機を備えなくても「委託すればいい」との考えが生まれるからで、少ない投資でも効率的な集落営農の運営ができることになる。
このように地域の課題解決の役割を果たす法人はほかにも立ち上がっている。
共同ファームのメンバーでもある小嶌信一さんの長男、茂さんが仲間と立ち上げた「うしのごちそう生産組合」は専用機を導入し畜産農家のデントコーンとWCSの収穫を受託しているほか、最近は畜産農家と提携してWCS生産を行っている集落営農組織からも依頼を受けているという。
いわゆるコントラクター組織だが、水田農業のみならず畜産も支援する役割を果たしている。集落や地域、さらには品目をも超え、さまざまな担い手が重層的に補完している姿がここに実現している。
小嶌信一さんはこうした地域の動きを「みなさんが喜んでくれればいい、という発想がすべてのもとです」と話す。
◆100年先の絵を描け!
滋賀県は集落営農づくりも盛んな地域だ。今回はその代表格である農事組合法人・酒人ふぁ?むの代表理事組合長の福西義幸さんも訪ねた。
設立は平成14年。改めて集落営農づくりを振り返ってもらうと「きっかけは、集落の100年先の絵を描けという区長の指示でした」と語る。
昭和が終わるころ、この酒人集落は90世帯全部が第2種兼業農家、若い世代は流出し、農業崩壊と集落壊滅の危機が迫っているという意識が高まった。そんななか、福西さんを含め30?40代の集落後継者8人が集められた席で言われたのが「100年先を描け」だった。
「だから集落の維持存続が第一に突き付けられた問題であって最初は“営農”という言葉もなかったわけです」。
昭和30年代の地域の発展策は企業誘致。それによって生活は向上したかもしれないが第2種兼業農家ばかりとなり、農業そのものへの関心や熱意も薄れて、55haの農地の約半分が他集落の大規模農家が入作をしている状態だったという。ほ場整備も進まず小規模区画の水田で「米」をつくっても展望はない。
しかし、集落での暮らしは行事にしても地域の付き合いにしても「農」と絡んでいることに気づき、「農を外しての集落存続はない」との認識を福西さんら若い世代が共有し、ほ場整備を進めると同時に「集落1農場」の組織営農に取り組む方向を打ち出した。
「集落営農という方式もその後の法人化も集落を維持するための“手段”だというのが原点」と福西さん。効率的な経営体づくりが主眼だったわけではないことを改めて強調する。
(写真)
「酒人ふぁ?む」の福西義幸代表理事
◆全員参加の農業の意味
地権者からもこの構想への合意を得て1ha区画へのほ場整備も進んだ。もっとも地権者に働きかけたというのは実際は「子や孫の世代が親父を口説いたということ」。次世代が負担も含めて引き継いでいくとの決意でもあっただろう。
こうして発足した酒人ふぁ?むは41.5haを利用権設定している。残り10haほどは「この集落をそれまで助けてくれていた他集落からの入作ゾーン」として残し、協力関係を維持した。
さらに集落営農組織の発足時には非農家も農作業に参加してもらい、地域住民ぐるみで農地を維持していく方針を明確にした。
こうした方針のもと農作業の中核を担ってもらう55歳以下のオペレーターグループのほか、米、麦、大豆に加えて野菜のハウス栽培を経営に加えるための女性中心の「なごやか営農グループ」、おもに水稲の育成管理と露地野菜づくりを行う65歳以上の「すこやか営農グループ」、さらに高齢者にボランティアで参加してもらう「やすらぎ営農グループ」を組織している。
経営は米、麦、大豆が柱で機械銀行に委託せず自己完結で行っている。また、大豆は種子を生産し高収益につなげている。この選別は手作業が求められるがそれをすこやか営農グループが担っている。
ボランティア以外、こうした農作業への出役には作業料金が酒人ふぁ?むから支払われる。非農家にとっては集落営農組織がなければ農業に関わることもなかった。福西さんは「自分で食べるものを自分でつくることほどぜいたくなことはない。それを味わえる農村集落を維持していこうということ」という。そのうえで「オペレーターなど中心的な構成員のための集落営農か、それとも地域のためなのか。私たちはそこをよく考えてきました」と話していた。
(写真)
農事組合法人・酒人ふぁ?む
野菜振興に取り組む「JAこうか」
水田農業の規模拡大に取り組む一方、取材した法人など地域の生産者は経営発展のために野菜生産に力を入れると語っていた。
JAもかぼちゃ、キャベツ、タマネギを重点3品目として契約栽培に力を入れる。また、忍者の里をイメージしてもらう新ブランド野菜として「忍葱」(しのぶねぎ)」、「忍忍人参(にんにんにんじん)」なども。JAは販路拡大のため「甲賀のゆめ丸」商人隊を組織し、コンビニや管内の飲食店(JAこうか地産地消協力店)、直売所などへの営業活動を展開し実績を上げている。
JAこうかの営農指導課によると、こうした新たな品目をJAの生産販売戦略として提案、実践していくには機械銀行の取り組みで生まれた担い手との連携、支援が重要になるとしている。
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