JAの活動:日本農業の未来を創る元気なJA
【現地ルポ・JAみなみ信州】「JAを活用」し地域を活性化 「支店」を地域住民の企業が受託運営2013年1月9日
・事業所は暮らしの拠り所
・事業改革の波のなかで
・地域住民の組織と連携
・地域の「へそ」として活性化
経済事業改革を進めるためにJAが打ち出した事業所閉鎖方針は中山間地域に暮らす組合員に衝撃を与えた。「協同の心はどこへいったんだ? 弱いものを助けるのが農協ではないのか」、「いつの間にこんな農協になったのか」??。こんな声が噴き出すなか、何とか地域の拠点を残そうと組合員とJAが話し合い住民組織が運営を担うかたちで事業所を存続させたJAがある。この取り組みはJAの「支店延命策というよりもJAを活用した地域活性化の取り組みだった」と関係者は語る。JAみなみ信州の生田事業所を訪ねた。
農協という拠点を残す
◆事業所は暮らしの拠り所
長野県の飯田市と下伊那郡の6JAが平成9年に合併して誕生したJAみなみ信州には現在、16の支所がJAの組織と事業基盤を担っている。
このうち松川町をエリアとする松川支所生田事業所は平成19年3月から地域住民が出資した(株)活性化センター生田が経済事業を運営している。事業所のある「生東区」は役場や松川支所のある町の中心部から天竜川沿いの道に出て、さらに山に入って20分ほどの山間部にある。
JA全体の組合員数は正・准合わせて約2万9000人。生田事業所管内では約400人だが、この生田事業所を主に利用している生東区は戸数約180戸、人口550人ほどの小さな集落である。
今、事業所の入り口には松川町役場生田支所の看板もかかる。平成21年からは事業所内に役場の支所も開設されたのである。この事業所はJAから引き継いだ生活店舗と給油所、農協食堂を運営するほか、役場の機能も果たすようになった。事業所はJA職員として下澤洋貞事業所長がマネジメントし、ほかに(株)活性化センターの社員1人と役場職員1人の合わせて3人がいる。
下澤事業所長はこの生東地区の住民でもあり、長くこの事業所を担当してきた。「何か困ったことがあると自宅にも相談の電話がかかってくるような地域。農協は暮らしの拠り所、という気持ちが強い集落だと思ってきました」と話す。
(写真)
JAみなみ信州松川支所生田事業所
◆事業改革の波のなかで
事業所を地域住民がつくった企業体によって存続させることになったのは、JAが事業改革方針のなかで、金融店舗の再編や生活・生産資材店舗の統廃合を打ち出したからだ。
平成18年11月、臨時懇談会でJAは生田事業所の廃止方針を説明した。当時は金融業務も行っていたが、貯金量や職員数などJAバンクの存置基準に達していない店舗は閉鎖しなければならず、また、生活用品や生産資材、ガソリンなどの燃料事業を合わせても年間3000万円ほどの売り上げで1人分の人件費を確保するのがやっとの状態だった。
当時、同JAは地域事業本部制で運営しており、まつかわ事業本部長だった奥村充由氏(現在はJAサービス取締役、=写真右)は赴任直後にJAの方針に即し生田事業所の廃止問題にあたった。 臨時説明会が開かれた2階の畳部屋を埋め尽くした組合員に説明をすると「1人は万人のために、の精神を忘れたのか」、「なぜ弱いものをいじめる」といった意見が出た。 JAの大島愼男理事(=写真右)はそのときの様子を「蜂の巣をつついたような」と振り返る。現在の事業所は昭和49年に建てられてというが、大島理事によると「ここは生田の農協発祥の場所」だという。99年も前になる大正3年に結成された産業組合の製糸工場に始まり昭和34年の生田農協発足以来、合併しても「農協」といえばここのこと、昭和30年代の水害で大きな被害を受けても場所を変えずに再建した。かつては目の前に診療所も交番もあった集落の中心、そこから農協の建物もなくすというのだから大島理事には「いよいよここまで来てしまったか」との思いもあったという。
奥村氏によればOBからは「いつの間にこんな農協にしたのか」と言われもしたが、一方で他地域の懇談会では「生田を助けてやってほしい」との声もあった。そんな声を受けて「金融店舗は無理でも、何とか生活・生産資材店舗は残したい」(奥村氏)と存続の方策を検討することになった。
◆地域住民の組織と連携
この一連の事業改革について組合員に理解を求めるなか、JAは経済事業の「委託者」がいれば事業所の存続を認めることにした。しかし、厳しい経営をわざわざ他の地域からやっていて引き受けるような組織や個人はいない。そこで奥村氏が話を持ちかけたのが(株)活性化センター生田である。
組織の前身は「アルプスの森・シェルパ倶楽部」。地域にある松川町東小学校が児童数の減少で存続が危ぶまれたころ、行政の力を借りずPTAが中心になって子どもたちの山村留学を受け入れる活動を始めた。平成6年のことだ。自然のなかで子どもが育ってほしいという都会のニーズと外の力を借りて地域を活性化できないかという思いがかみあって児童数や定住家庭が増えた。ただ、受け入れ家庭の高齢化などで現在は山村留学の取り組みはなくなったが、同時にこの組織をもとに地域を活性化させる事業を創り出そうと住民の約半数が株主となって活性化センター生田を立ち上げたのである。
当初は松川町が建設した保養施設の指定管理事業者などを受託していた。 ここにJAの経済事業の受託を持ちかけたのだが「農協が経営して赤字の店をわれわれでできるはずがない」と言われてしまう。それでも話し合いを重ね農協が果たしてきた機能と存在を残そうと臨時株主総会で事業受託が承認される。
JAから受託した事業は生活用品、生産資材とJA?SSを施設ごと経営移譲を受けたガソリン販売、そのほか支所管内の灯油の配送業務、女性部が行っている共同購入品の地域分の配送、コイン精米機のメンテナンスなどである。灯油の配送業務は冬期に限定されているが、配送は生東区の住民が担うため地域に仕事をつくることにもなった。
(写真)
上:事業所には松川町生田支所も開設されている
下:事業所長の下澤氏
◆地域の「へそ」として活性化
また、(株)活性化センター生田はJAから経営を委託されていた「料亭」の経営も行っていた。マツタケ観光を当てにした古くからの料亭だが経営者がかつてJAに売却してしばらく後からは、活性化センターに経営委託していた。しかし、事業改革方針では老朽化した料亭は解体する予定だった。それに対して住民から若者たちが集まる場になっているとの強い訴えがあり、そこで事業所内の宿直室と湯沸かし室を自分たちで改装し「農協食堂」をオープンさせてもいる。地区の会合の際の慰労会場はもちろん集落の居酒屋として人々が集まる。また、JAは事業改革を進める一方で、この事業所で月に1回、ミニデイサービスも実施するようになったが、その際の食事提供も受注する。
そのほかJAからの受託というかたちに移行することによって、事業所は土曜日でも半日だが営業するようになったほか、肥料や農薬、出荷用のダンボールも購入できるようになったという。JAの事業改革方針では生産資材の取り扱いは資材センターに集約させるというもの。しかし、生田事業所は経済事業を委託したこから、その方針通りの品揃えをする必要はない、ということである。
たとえば生田地域はかつて栄えた「龍峡小梅(リュウキョウコウメ)」に代わり今は切り花の生産が盛んで松川支所管内の販売額1.5億円のうち5000万円を占める。その出荷用のダンボールも方針通りの事業改革が実施されれば地域の「農協発祥の場所」であるこの事業所では購入できなくなっていたかもしれない。それが活性化センターが運営することによって変わらず利用できるようになった。 金融店舗の機能は残すことができなかったものの、自分たちが考える事業所の姿を作り出したといえるだろう。
大島理事は平成18年に事業所廃止の方針が示されたとき、組合員・地域住民の「『農協』とは何かと話し合った熱気が地域から忘れられてはならない」と話すと同時に、この経験から「やはりJAは集落組織や生産部会など下からの運動が大事」と強調する。
奥村氏は「地域住民が出資してつくっていた活性化センター生田という組織があったことが大きい」と話す。これはいわば地域住民の協同組織とJAとの協同だともいえる。その視点から奥村氏はこの地域のこれまでの取り組みを「JA支所の延命策などではなく、地域住民がJAを利用した地域の活性化」と位置づけている。
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