JAの活動:第58回JA全国女性大会特集
【座談会】震災復興と女性の力 高橋専太郎氏・高野秀策氏・菅野孝志氏・小山良太氏2013年1月23日
・震災で再認識された女性の底力
・地域を励まし復興に立ち上がる
・支店を核にJA職員とも連携被災者に寄り添い支援
2011年の「3・11」東日本大震災。被災者の支援、震災後の復興で、これほど協同組合であるJAの重要性、そして地域の人と人の"絆"(きずな)の大切さが明らかになったことは過去にない。被災地のJAでは職員、組合員らが自らも被災しながら、被災者の支援に当たった。特に女性部は組織を挙げて炊き出し、避難所での生活支援などを行い、さらに直売や加工などで地域農業の再生に取り組んでいる。女性の力はJAだけでなく、地域農業の将来にとっても欠かせない存在であることを示した。被災地のJAいわて花巻、JA仙台、それに先行きの見えない原発事故とたたかっているJA新ふくしまの3JAに、「3・11とJA女性」について語ってもらった。
震災で再認識された女性の底力
◆経験のない大きな物的・精神的ショック
小山 「3・11」東日本大震災・東京電力福島原発事故では、被災者の支援だけでなく、被災後の地域の生活・営農再建にJAが大きな役割を果たしてきました。あらためてJAの役割、支援活動の中心になった女性部の役割について、それぞれどのようなことを感じましたか。
高橋 経営や財務状況の悪いJAを吸収合併し、5年間全国のJAの支援を受けて立て直し、これまでなんとかやってきました。しかし3・11では、これまで経験のない大きな物的・精神的なショックを受けました。管内は内陸部から沿岸部に渡っていますが、28支店のうち沿岸部の3支店がすべて津波にのみ込まれました。
高野 「3・11」では2000haの農地が海水をかぶりました。JA仙台の管内は、JAいわて花巻と同じように山形県境から沿岸部までありますが、20支店のうち7支店の管内で津波の被害があり、沿岸部の1支店が全壊しました。住宅は約1200戸が流失、100人以上の住民が犠牲になりました。職員は全員無事でしたが、家族を失った職員がいます。
被災直後から継続して、全国のJAから義捐金やお見舞品、ボランティアなど、さまざまな支援をいただき、感謝しています。一時はどうなるかと思いましたが、おかげ様でなんとか復興の見通しが立ったかなと思っています。
農業面では昨年度650haに水稲の作付けができました。除塩が進み、今年は新たに900haの農地が復旧し作付けができる見通しです。さらに残りの農地を復旧し、26年度にはとんどの農地が再開できると思っています。
(写真)
JA仙台代表理事組合長 高野秀策氏
◆営農継続の方針を明確にして農家の不安防ぐ
「JAは組織活動に尽きる」――高橋氏
菅野 地震の被害は軽微で、内陸部なので津波の被害はありませんが、原発事故の被害は、精神的に農家を大変苦しめています。国、県の行政が方向を示せないなかでJAがやらなければならないことが多くありました。
その中で、農業は長い歴史があり、われわれはやはりそれを基点にすべきだと考え、「被害で打ちしおれていてはだめだ。組合員の元気を取り戻すためには、やはりわれわれは農産物を作るしかない」と、営農継続の方針を出しました。これがよかったと思っています。放射能汚染の不安のなかで、JAは組合員の気持ちに寄り添っていくことができ、貴重な教訓を得ました。
小山 地震、津波、塩害、そして風評被害と、各地でさまざまな、これまで例のない対策を迫られました。JAいわて花巻は合併で、内陸部と沿岸部のJAが一緒になりました。地理的に言えば横の合併でしたが、今度の災害ではこれが効果的だったのではないでしょうか。またJA新ふくしまは原発災害で農産物の検査、除染、風評などの問題を抱えています。岩手県でも一部牧草の汚染で基準値を超えるものが出ました。JA仙台では除塩とその後の営農再建があります。それぞれJAはどのような取り組みをしていますか。
高橋 ご指摘の通り、JAの東西の合併はよかったと思っています。沿岸部にある釜石市、大槌町3つの支店で49人の職員が津波に遭い、5人が遺体で見つかり、2人が未だに行方不明のままです。その後、生還した職員も大きな心の傷を負っており、精神面のケアが必要でした。一緒に働いていた仲間が流された現場を見ているのですから。今でも水が怖くて湯船に浸かりたくないという職員がいるほどです。
3・11のとき、国道をはじめ主要な道路は交通が制限されていたため苦労しましたが、職員4人を何とか被災地へ行かせました。現地は酷い状態でした。まず食べ物がない。JAに玄米はあっても電気がなくて精米できず、白米を直ちに届けることができませんでした。
このため、内陸部の組合員に米一升運動を呼び掛けたところ、他の支援物資と一緒に一週間で46トンの米が集まりました。この時、中心になって動いたのが女性部です。呼び掛けに応じてどんどん部員が駆けつけ、米の分配や全国からいただいた支援物資の整理、仕分けをしました。トラック100台分くらいになりましたが、それをJA職員が手分けして運びました。
そのときは、本当に組合員や全国のJAの仲間のありがたさを感じました。これこそがまさに相互扶助の協同組合の原点です。合併していてよかったと、沿岸部の組合員や住民に大変喜ばれました。
部員約4000人の女性部ですが、組織を挙げて支援に取り組みました。被災地へ行って「被害はあなた一人ではない。みんな一緒に頑張ろう」と励まし、被災者の心のケアにも努めました。炊き出しも女性部があってこその支援でした。57ある農家組合もフル活動で、この時ほど、JAの組織力のすばらしさに感動したことはありません。
職員も頑張りました。大外傷を負いながら屋根で孤立していた支店長を助けたこと、職員全員を避難させた後、流されて遺体で見つかった支店長代理が金庫の鍵をしっかり握っていたことなどドラマがいくつもあります。
高野 「3・11」の翌日、津波の被害がひどかった沿岸地区にある支店の一つが急遽避難所になり、組合員を中心に多いときには150人くらい、常時70?80人が寝泊まりしていました。震災後一週間程度は停電していましたが、暖房、水道、トイレが使えるので緊急の避難所として提供しました。
一階は信用事業を扱う支店なので不安はありましたが、職員が2人体制で24時間常駐するなどの対応を行い、仮設住宅ができるまでの約2カ月間、食事などの支援を行いました。後日、正規の避難所として行政に認められましたが、直後は支援物資を正規の避難所から分けて頂くなど対応が大変でした。
地震から3、4日は携帯電話が通じず、職員の安否さえも確認できませんでした。また安否を確認しようにも、警察や自衛隊による捜索が優先で家に入れないということもありました。さらに、天井まであと40cmというところまで冠水した七ヶ浜支店では、支店長が窓ガラスを破り脱出し、その際骨折の重傷を負いましたが職員は全員無事でした。乗っていた車ごと津波にのまれ犠牲になった人が多かったのですが、その日はたまたま研修があり、渉外で外を回っている職員がいなかったのも幸いしました。
小山 本当に現場では大変な苦労をされ、JAが大きな役割を果たしたことがよく分かりました。農業、特に農地の復旧はどうでしょうか。
高橋 三陸の沿岸部は農地が少ないのでこの分野での被害は少ないですが、大槌町で、国の直営事業による営農研修センターの設置を計画しています。釜石市では復興組合が組織され、農地の復旧が行われております。
(写真上から)
・JA新ふくしま代表理事専務 菅野孝志氏
・JAいわて花巻代表理事組合長 高橋専太郎氏
・支援物資でそうめんをふるまった(JAいわて花巻)
地域を励まし復興に立ち上がる
◆ファーマーズマーケットを復興のシンボルに
「震災を風化させない運動を」――高野氏
高野 沿岸部は農業地帯で稲作が中心です。水田は現在、除塩をしながら水路などの復旧工事を行っています。仙台市の沿岸部では来年度、残りの400haの復旧工事を行う予定ですが、今秋には一部で野菜などがつくられる予定です。津波で被災した農地では、復旧工事と併せて大型区画への圃場整備を国営で進めています。
現在、圃場整備推進委員会で検討していますが、元の農業に戻すのではなく、1haの大規模圃場で効率的な農業を行い、6次産業化も含めて将来を見据えた農業生産地帯にしたいと考えています。
集落営農も麦や大豆転作のためではなく、国のリース事業を活用した担い手づくり、農協出資型の営農組織など、新しい農業の形を目指します。3月にはリース事業を活用した大型農機も導入されます。こういった復興支援事業なども活用し、3カ所ある営農センターごとに地域営農のモデル組織をつくり、若い人の就農をサポートする事で営農を軌道に乗せ、担い手を農業再生に誘導していくのがこれからのJAの役割です。
仮設住宅の生活は今でも大変な状況にあります。部屋はせまくて、親子、孫の2世帯が一緒に住む事は難しく、家族がバラバラに生活しています。また、アンケート調査でも分かりましたが、昔から住んでいるお年寄りは気持ちが落ち着くと元の土地に戻りたいという思いが強くなりますが、息子の世代は戻りたくないと思っているようです。このように親子で住む場所の意向が食い違う家族も少なくありません。
復興への具体的な動きでは、震災直後から地域の農業者が奮起し、共同で園芸作物の栽培を始めたグループがあります。このグループには農機やビニールハウスなどをJAが貸し出し営農再開を支援しました。また、若い農業者が集まり約4haの農地を借りてトマトやイチゴ、葉物などの施設栽培を目指す農業法人も立ち上がっています。こういった農業者にJAでは販売面の支援として、一昨年10月にリニューアルオープンしたファーマーズマーケット「たなばたけ」で農産物を販売しています。「たなばたけ」は農業復興のシンボルです。
菅野 震災による直接の被害はなかったのでやれやれと思っていましたが、3月13、14日になって状況が一変しました。13日から毎日、炊き出しで4000個のおにぎりをにぎりました。米はある。水道は使える。こうしたライフラインをマネジメントできるのはJAであり、これを4月10日まで続け、合計10万個近いおにぎりをつくりました。女性部を中心とした組合員、地域の婦人会、さらには学校が休みになった中学生も参加しました。
放射性物質能汚染の問題は3月19日ころからクローズアップされました。農水省が川俣町の調査に入ってからです。それまではスピーディ(放射能予測ネットシステム)の情報が隠されていたので分かりませんでした。これは大変なことになったと思いましたが、すでに果樹の作業が始まっており、いま作業を止めることはできない。できたものはJAが責任をもって商品にするので、ともかく農業を続けようと呼び掛けました。1年目の農産物の被害は心配したほどではなかったのですが、汚染の程度が分からないことの不安のなかで、国の暫定値のあやふやさで風評被害が広がりました。
(写真上から)
・グリーンカーテンプロジェクトで「フウセンカズラ」を植え付ける高野組合長(JA仙台)
・炊き出しのおにぎりをに握る女性部員(JA新ふくしま)
◆作付制限による気力の萎えを克服し、農業再生へ
「絆は“本気”の成果」――菅野氏
菅野 このように1年目は果樹、水稲、畑作物は作りました。しかし2年目、米の作付制限が出され、汚染問題は時間が経過するにつれて深刻化し、じわじわと農地をむしばみ、農業を再生させる上で大きな障害になってきました。農家の心が萎える。これをどう再生させるかが、JAの大きな課題でした。
とにかく、心が萎えるセイタカアワダチソウがはびこる荒廃農地はつくらないようにしようと、農家だけでなく市民にも呼び掛けて運動を広げようと考えております。またホットスポットの川俣町の山木屋地区を中心に、4年前に導入した花の栽培が伸びています。JAが農地をあっせんするなど力を入れてきたことで、今月、花卉(小菊)販売1億円突破の記念大会を開きました。それが汚染地区になり、これからJAがどう支援するかが問われます。
汚染のモニタリングでは47台の測定器を入れ、2カ所のモニタリングセンターで2万7000検体を超える青果物の検査を行い、米に於いては982万袋余りの全袋検査を行いました。土壌は、福島大学、JAグループ、生協連などの協力を得て、10アール3カ所くらいで一筆ごとに全圃場検査しました。実態に即した除染が必要で、そのための基礎的資料作成のためです。
除染は無駄なく効率的に行うべきで、あるいは30年かかるかもしれないという息の長い対策が必要です。ただ一番の問題は農家の心。「まあいいか」ではなく、「なんとかしなくては」という気持ちでないと。そのためJAは一緒になってやります。戦後60数年、守ってきた農業・農村の原点に立ち返り、前向きな姿勢でのぞんで欲しい。この意味で3年目の今年が一番厳しいかも知れないと思っている。
小山 先の見えない原発事故で農業再生の計画を立てるのは難しく、行政にもできません。しかし、困っている人が現実にいるのだから何とかしなければなりません。農家を勇気づけないと、いくらいいプランであっても、そのとき実行する人がいなくては再生は不可能です。これはJAの新しい地域貢献だという気持ちで取り組む必要があります。
全国のJAもそうですが、特に被災地ではJAや女性部、農事組合などが、直接地域にかかわってさまざまな課題に直面し、乗り越えてきました。そのなかで、いくつかのモデルケースが生まれています。これを面的に広げていくのが、3県のJAの役割ではないでしょうか。
この取り組みのなかで、女性部が変わったなと思うことはありましたか。
(写真)
福島大学准教授 小山良太氏
◆女性支店長と女性部が二人三脚で
高橋 広域合併しましたが、この数年JAの事業取扱高が減ってきております。これは管理費を削り、支店を縮小したことで協同活動の場が減ったためです。支店の活動強化、支店を中心とした農業再生の取り組みが必要です。現在、集落営農の法人が9つ、担い手による経営体が70経営体ありますが、その指導、支援を支店でやっています。JA全国大会のテーマにもありますが、次世代組合員から「あってもなくても同じだ」といわれるようでは駄目です。そうさせないようにするのが支店の役割だと考えています。
農家組合の再編も必要です。現在576の農家組合がありますが、20や30戸では駄目で、80戸から100戸くらいへの再編を進めています。経営の支援、組織の担い手育成、集落営農の法人などを支援するのが支店であり、支店の全職員が一体となって取り組むよう指導しています。やらないと配転されるというくらいの覚悟で臨んでほしい。いまはもう美辞麗句ですまされる状況ではありません。
広域化すれば組織が弱くなるのは予想されたことです。現在28支店ありますが、うち7支店が女性の支店長です。やる気十分でリーダーシップもあります。そこに女性部の活動が加わり、職員と一体になった活動が生まれてきています。こうした日頃の取り組みがあったからこそ、震災時に、女性部がすぐ反応し、JAの考えを理解してくれていたのです。
高野 転作組合の女性たちが、自分たちのつくった米、大豆を使い味噌加工をしているグループがあります。好評だったこの組合の加工場が流されました。相談を受けてJAが土地を手配すると、すぐに加工場を再建し、震災から1年後には味噌の生産を再開しました。この時のお母ちゃんたちのパワーには感銘しました。お父さんたちも刺激され、「じゃあ、原料の米づくりに励むか」と元気を取り戻しました。
こうした人たちが、女性部の中心になって被災者に対し2カ月間近く、炊き出しなどを行っており、女性の力をまざまざと見せつけられました。765人の部員を持つ女性部の力をさらに引き出すにはどうするかがJAの課題です。支店の来客調査を毎日行っておりますが、平均的に女性が多い状況です。女性は家庭の主婦であり、農業の実質的な担い手でもあります。JAはこうした女性を大事にして、意見や要望を聞いていかなければなりません。
女性理事、女性総代の拡大にも取り組んでいます。女性枠で理事2人、総代で60人弱、およそ1割が女性です。女性の感性をJAの経営に生かすことが大事です。
(写真)
女性部ふれあい文化祭のようす(JA仙台)
支店を核にJA職員とも連携
被災者に寄り添い支援
◆震災支援をきっかけに交流の輪が広がる
菅野 女性部は約2500人の部員がおり、研修や交流会など地域や小グループ単位の活動は活発でした。震災後、放射能汚染で女性部員が家にこもりがちでしたので、これではいかんと考え、一緒に炊き出しなどをしたこともあり、一つにまとまって研修しようということになりました。
震災の年の11月、230人の部員が千葉県のJA長生に行き、恵方巻きのつくり方を学び、また震災の激励にきたJA香川県の女性部から縁起物の「南天九猿」(なんてんくざる)のつくり方を学ぶなど、他県との交流が広がりました(関連記事)。
女性部員が増えない、役員のなり手がないといいますが、部員がやりたいことと、やっていることがうまくマッチしなかったのではないかと思います。出られるところには出て、出られない時は欠席するというように、お互いが支え合っていけばいいのです。
また、近くのJAとの交流が意外と少なかったのですが、防災頭巾をつくるグループが、隣のJA伊達みらいからの要請で指導に行ったり、JAみちのく安達で米粉利用で交流したりしました。さらに宮崎県の女性協との交流もありましたが、これらは震災による支援がきっかけになったことが大きく、女性部活動の新しい動きです。
また、女性部のさわやか部会は、「地域の茶の間」活動に取り組んでいます。JAには合併前の支店、34カ所を支店・地区活性化センターとして残し、そこに子ども含めた交流、地域の伝統・文化継承の場として位置付けています。世代間の交流の中から、地区の行事・催事をJAのカレンダーに使いました。これらは今回出てきた新しい動きです。女性部から大きな力をいただき、母ちゃんたちの力を感じます。6次産業化に向けたささやかな動きですが、次第に広がりつつあり、JAも大きな期待をかけています。
高橋 JA間の連携も進んでいます。姉妹JAとしてJA紀の里やJA横浜、友好JAとして、JAあいち知多やJA東京むさしなどとの交流を深めています。女性部も相互に交流を深め、視野を広げています。ファーマーズマーケットも全国37店舗と産物のやり取りがあります。全国のJAがお互いの利便性を求めることで、必ずしもJA系統で統一して取り組まなくてもできることがあるものです。
また、当JAが取り組む食農教育スクール「はなまきKid's農業塾in東京・横浜」で子どもたち19人がJA横浜や東京・大手町で米や餅を販売しました。「これはうちのおじいちゃんがつくったものです」などと書いた手紙を添え、消費者に感動を与えました。この活動を理解し後押ししているのは女性部です。
菅野 消費者に感動を与えることは大切なことです。これまで土壌分析で生協連の消費者と14回も交流していますが福島県の農家一人ひとりが、それぞれの思いを、いかにして消費者に伝えるかが大切だとつくづく感じています。
小山 女性部の魅力は、地域、消費者、異文化との交流ではないでしょうか。それを活動としてきっちり組み立てられるかがポイントだと思いますが。
(写真)
「南天九猿」づくりで県外交流研修会(JA新ふくしま)
◆自主性尊重し、下から盛り上げる活動を
高橋 ファーマーズマーケットの「母ちゃんハウスだぁすこ」を作ったのも女性部の発案です。提案があったときは半信半疑でしたが。意見を組み入れることで女性部がやる気になりました。合併後には、遠野に農産物加工場もつくりました。下からの盛り上げがあるとうまくいきます。こうした取り組みは上意下達ではだめです。
高野 ファーマーズマーケットの旧店舗に「ベジキッチン」と名付け、移動調理台を備えた研修施設をつくりました。ここに3人でも4人でも女性部員以外の方を誘って調理に利用してもらったり、イベントに参加してもらったりと女性部の仲間作りをしてもらうことで新しい部員が加入しています。
また、JAには女性の支店長が必要だと思いますが、一気に支店長というわけにはいきません。管理職として職員を育てなければならず、それができる職場風土づくりも必要です。昨年、一度に9人の女性課長を誕生させました。女性の管理職は相談しやすいと、女性部に好評で、女性管理職としてもやりやすく、相乗効果が出始めています。是非ともこの中から女性支店長を誕生させたい。
菅野 38人の理事のうち8人が女性です。経営管理委員会のときは5人いました。今年1期目ですが、理事会で少しずつ女性の視点が出てきました。女性課長は2人、支店長3人ですが、管理職を任せられる女性が育ちつつあります。これまで女性の管理職はJAの都合で配置してきたところが大きかったが、そうではなく女性の能力を生かすという人事制度の仕組みづくりが必要で、ようやくその段階に入ってきたように感じています。
高橋 農業の担い手は、60歳前後の人が900人くらいいる。平均経営面積はおよそ7ha。たまたま高齢化はしているが、まだまだ農業はできる。現場では65歳はまだ若い。その人たちがいま頑張っています。
小山 確かに一律に考えるわけにはいきません。しかしてこ入れが必要なところもあります。特に原発事故の福島が深刻ですが、担い手をどうしたら元気づけることができるのでしょうか。
菅野 平成12年につくった直売所の会員が1400人いますが、中心は女性で、軽トラで搬入するのは6割が女性。さまざまな細かい作業を積み重ねてここまできました。
発足時をみても、ふれあいグループなどが集まってできたもの。また講習会でも剪定は男性が多いですが、摘蕾、摘果など女性が中心です。女性の思いや活動をJAは支援しなければなりません。JAはあまり前に出ないで後押ししていく。これでないと、そういう組織は伸びないでしょう。農業再生に向け打って出ていますが、農家の気持ちは間違いなく落ちています。
先が見えないことが最大の問題です。JAは2016年までに農業を再生させるという目標をたてています。単に言葉を並べるのではなく、25年度の一番の大切なことは再生のためにどうすべきかを具体的に示していくことだと考えています。
小山 農地は重要な地域資源であることを確認し、何の作目をどのようにつくるかを示すべきです。行政がやらなければJAがやる。その気持ちでいわて花巻、仙台、新ふくしまの3JAが取り組んでいます。さらに5年、10年、20年後の地域農業ビジョン、方向性を示す必要があります。原発事故は、農村、農地、若者など、重要なものを失ってみて、初めてその価値が分かったといえます。こうした地域資源の存在と価値を被災3県で再確認する作業が必要ではないでしょうか。担い手として65歳が若いことも失ってみて初めて分かったことです。最後にひとことずつ。
高橋 JAは組織活動に尽きる。ちゃんとできていればJAもどんどんよくなる。個人プレーではだめだということが今回の震災でよく分かったはず。農村で培ってきた歴史的文化を地域資源として活かすべきであり、環太平洋連携協定(TPP)の農村に及ぼす影響が、いかに問題であるかが分かります。われわれが農業再生の核と考えている集落営農も、生産の基盤である農地も深刻な影響を受けます。JAいわて花巻の目標は一経営体の耕作面積50haです。地域農業マスタープランでモデルとする20?30haの経営体では、とてもアメリカ、オーストラリアの農業には対抗できません。
(写真)
被災地での雛人形工作(JAいわて花巻)
◆協同組合間の絆を大切にして震災の体験を後世に
高野 今年は震災3年目になります。原発事故もそうですが、時間の経過とともに風化してしまいます。住めず、生産できず、農村は荒廃、JAも存続できなくなる恐れもあります。さらに新しい震災発生の可能性もあり、今回の貴重な体験をしっかり将来に伝えていかなければなりません。
今回、支援を頂いたのをきっかけにJA東京むさし、また現在も職員を派遣していただいているJAおちいまばりの2JAと姉妹協定を結びました。この2月にはJAとぴあ浜松とも協定を結びます。
これからも震災を風化をさせないよう、協同組合運動の絆をしっかり守っていきたい。今回は、本当にJAの協同組合運動のありがたさを感じました。
菅野 地域の課題、問題をきちんと押さえ、本気で取り組むことが重要です。どういう成果を求めるか難しいところはありますが、本気があれは世の中助けてくれます。本気、気力、あきらめないことで共助が生まれます。絆が叫ばれていますが、本気で取り組んだことの成果です。その中から組合員、地域の願いが形になるのだということを学びました。
小山 本日はありがとうございました。
※高野組合長の「高」の字は正式には旧字体です。
座談会を終えて
「JAは変われるか?」これは、この十数年間ずっとJAグループに突きつけられてきたテーマであった。外圧も含め、組織、事業、経営の「改革」が断行されてきた。震災前からも直接所得補償やTPP問題に関するJA不要論など、あたかもJAの役割は終わったかのような論調が展開されてきた。
東日本大震災から2年が経過しようとしている今、被災地域に存在し、地域から逃げることのない組織、地域課題に取り組むことが組織命題であるJAの存在意義を改めて確認することが出来た。通常時、在ることが当たり前であったJAには、それぞれの既存の事業方式の問題や、組織基盤の脆弱化および農業・農村が直面する諸課題への対応の遅れやJA間での偏在化など問題のみが顕在化し、課題だらけの組織像が前面に押し出されてきた。しかし、「想定外」(JA管内が全村避難する事態を誰が想定していただろうか)のアクシデントに対し、国、自治体が混乱し、現実の地域住民・農家の暮らし・生活、営農の継続が危ぶまれる状況下で実際に困難に対応してきたのは、地域に密着した組合員組織とその活動であった。避難者への炊き出し、生活物資の搬入、土壌・農産物検査など放射能汚染問題への対応など多岐に及ぶ。この自主的な活動を支え育ててきたのが地域のJAであり、今回の3JAはその最先鋒である。さらに言えば、JAグループとしての支援体制、JA間の協力関係など、協同組合間協同の実践が問われた事象であったといえる。
想定外のリスクへの対応には、常時から他地域、多世代、異文化との交流が必要であり、これこそが協同組合組織の強みである。今回の座談会で共通して指摘された点は、その先駆けとなっているのが生活文化活動であり、その担い手としての女性部であったという点である。これからのJA組織活動の方向性はこの点に尽きるのではないか。
(小山良太)
◇ ◇
「農業に生きる女性が、どんな思いでいるか、全国のみなさんに知ってほしい」。福島市で放射能汚染に立ち向かってきた女性農業者が、その体験を綴った文集「記録集」をつくった。先の見えない原発の事故による放射能汚染に打ちひしがれるなかで、なんとか農業に生きようとする女性の思いがひしひしと伝わる。
文集は、福島市の女性農業委員らが呼び掛け、JA新ふくしまの女性部や同市女性認定農業者協議会のメンバー100人ほどが投稿した。この中で多くの女性が「米の安全宣言が出て安心していたのにがっかり。早く元の生活に戻りたい」と心情を訴える。営農再開への望みは強く、「これから何年かかるか分からないが、風評被害とたたかいながら農業を続ける」「放射能ゼロの果実はできるのか、学習は始まったばかり」と、決意を込める。
また、「農協は責任を持って販売するから作ってくださいと励ましてくれた。農協の存在に気づき、協同組合の理念を感じた」「黙る、あきらめるのでなく、アンテナを張り巡らして声を出していきたい」と、農業の再生に向け、JAに期待 の声も。
呼び掛け人のひとり、JA女性部員でもある同市女性認定農業者協議会の油井妙子会長は「福島の現地に来てほしい。何かを感じてもらうことで、すべきこと、あるべき方向を共有することができる。記録集がそのきっかけになれば」と訴える。
写真=農業女性の思いを綴った文集「記録集」
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