JAの活動:震災復興と協同組合
【現地ルポ】JAいわて花巻(岩手県) 沿岸部の園芸産地化に全力2013年7月31日
・農家組合が活躍
・「だぁすこ」新設
・復興組合が推進力
・支店の歴史大切に
・復興組合に女性の力
東日本大震災による大津波で壊滅的な被害を被ったJAいわて花巻管内の沿岸部。JAは被災者の生活再建を農業にかける。もともと沿岸部は漁業が中心で、農業は自家用の野菜づくりが細々を行われていた程度だが、夏は冷涼で冬は温暖な気象条件を生かした園芸に目を付けた。それを推進するのが現地につくられた農業復興組合である。JAは産地づくりの施設整備や営農指導などの体制整備に重点的に取り組んでいる。また、震災直後の支援から生まれた内陸部と沿岸部の組合員を中心とした人のつながりは、農業復興にとって大きな力となっている。
◆農家組合が活躍
地域営農センターのある内陸部の遠野市の中心から50km余り。沿岸部の大槌支店前でプランターに花の苗を定植するJA農家組合のメンバー。東日本大震災からの復興の過程で、こうした農家組合による活動が広がった。沿岸部の大槌町、釜石市を含むJAとおのが、合併でJAいわて花巻と一緒になったのは震災の3年前。漁協はあったものの規模が小さく、経営状態も悪く、女性部が解散する漁協もあった。大震災はJAいわて花巻とその組合員にとって、新たに協同活動を展開する場となった。
相互扶助は被災地支援で遺憾なく発揮された。震災直後、白米一升以上の救援米緊急呼び掛けに約46tの白米が集まった。そのほかの食料品や毛布・衣類などの確保に全力を挙げた。このとき大きな力になったのが、救援物資支援の呼び掛けや取りまとめを行ったJAの農家組合や女性部などである。
また、営農再開のため、農家組合が中心になって集めた募金を財源に行ったJAの支援事業で、草刈機が釜石、鵜住居地域の復興組合(グループ)に贈られた。営農再開を支援する組合員組織の支援が被災地にとって、モノだけでなく、精神的にも大きな支えになっている。
(写真)
JAいわて花巻管内の被災地でボランティア活動として花作りをする遠野の農家組合のみなさん
◆「だぁすこ」新設
一方、被災後、物流が途絶えて、収穫期を迎えた出荷先のない農家のため、大大槌町にある営農センターの直売所や、花巻のファーマーズマーケット「母ちゃんハウスだぁすこ」で、「復興支援野菜」として販売した。いち早く再開したJAの直売所は、買い物を通じて被災者の情報交換の場となり、コミュニティの役割を果たした。
この直売所の延長線上にあるのが、国の農業復興総合支援事業による「東部営農センター」だ。事業主体は大槌町だが、運営はJAで営農事務所や直売所、農産物加工所、会議室などを備える。町の復興事業のシンボルと災害時の防災施設としての機能を持ち、完成は来年3月の予定。新設の直売所は「だぁすこ沿岸店」になる。この直売所と加工所は所得の向上と雇用の確保の場となる。漁協との提携も計画している。蓄積したJAの生産・販売、組織、さらには地域づくりのためのノウハウ、人材を可能な限り投じて運営する方針である。
◆復興組合が推進力
こうした農業を中心とした復興の取り組みに被災農家の期待は大きい。園芸導入の母体となっているのが農業復興組合で、大槌町、釜石市。鵜住居(いまは復興グループ)の3地域にある。任意団体で農家組合の協議会的な性格を持ち、復興のための国や県などの復興事業の受け皿としての機能を持つ。
「今までは基幹産業の漁業の陰に隠れ、発展可能性を見出すチャンスが少なかったが、気象条件からみて沿岸部は園芸作物にとって魅力のある地域だ」(JAいわて花巻の?橋勉専務)と、園芸による農業再建に期待する。現在瓦礫置場になっている5haほどの土地があるが、JAは大槌町とともにここを園芸団地として整備し、観光農業などを取り入れて東部営農センターと結びつけ、地域農業の拠点にする考えだ。
沿岸部の中では比較的農地がある大槌町地域農業復興組合では8人のメンバーが10棟のビニールハウスを持ち、イチゴ、トマト、キュウリなどを栽培している。また釜石地地域復興組合は水田の復旧に重点を置く。専業農家は「ゼロに近い」(同市水産農林課)という地域だが、メンバーの34人の大半が水田を持つ唐丹地区が冠水した。昨年、塩害の土の入れ替えを終え、現在は圃場整備中で、本格的な営農再開は来春の予定である。市全体の町づくり計画のため、農地の復興は後回しになっているのが実情だが、再開後の農業は、「営農組合による農機のリース事業を取り入れて集団化し、野菜づくりも共同でできるようにしたい」(同)という構想を持っている。
園芸による農業再開と並んで、JAが取り組んでいる課題は、被災者の物心両面で拠り所となる支店機能の強化である。ほぼ全壊した大槌、鵜住居、2階部分まで浸水した釜石の3支店は全力を挙げて再建し、窓口業務を再開した。特に災害時は支店が地域のコミュニティの場になった。JAは今年策定の中期経営計画の中で支店重視の考え方を鮮明に打ち出している。それが支店行動計画で、コミュニティとしての支店運営、地域との絆を強める生活相談活動などを掲げている。
◆支店の歴史大切に
沿岸部の組合員にとっては合併して3年目の大災害だった。共済はもとより、物心両面の支援で「内陸の人に助けられた。合併していてよかった」とJAへの評価が高い。だが「支店にはそれぞれの歴史があり、文化がある。これを大切にする」(高橋専太郎組合長)というのが合併以来の同JAの方針。特に湾ごとに発展した沿岸部の市町村には独自の風土、文化があり、上からの目線では組合員が離れる恐れがある。支店行動計画は27の支店すべてで樹立するが、特にコミュニティ再生の必要な沿岸部でこの計画の持つ意味は大きい。
行動計画では、[1]担い手を明確にし、集落経営体の育成を図る[2]次世代組合員とJAとの絆づくりをすすめる[3]歴史的伝統文化を継承した支店運営に努める[4]地域の人づくり、地域の組織づくりを支援するーの4つを基本的な検討項目として挙げている。この中にJAの地域を重視した被災地復興への姿勢がうかがえる。
◆復興組合に女性の力
沿岸地域の被災地の農業再建の原動力になっている大槌町地域農業復興組合のメンバーの一人、上野昭子さん(48)は、自宅とともに義母が経営していた6棟のビニールハウスが流された。やはり津波で勤め先を失い、あきらめていた義母を説得して3棟を再建。震災後義母は亡くなり、いまは仮設住宅から通いながら、一人で2棟のトルコギキョウ、1棟の野菜を栽培する。
震災前までは、農業はお手伝い程度だった上野さんが、義母の跡を継いで農業をやろうと決心したのにはきっかけがある。震災前の秋に植えたキャベツが瓦礫の下から芽を出していた。震災後に、「みんなで食べたキャベツの味が忘れられなかった」。このキャベツはJAの広報誌で「根性玉菜」として紹介された。トマトは「復興トマト」として出荷。近くには「復興の赤い果実」として話題になったイチゴ栽培の女性の農業者もいる。
(写真)
トルコキギョウと野菜の栽培に生活再建を託す上野さん
【特集 震災復興と協同組合】
・【座談会】協同の力で農業再建へ 被災地3県の取り組み (13.07.25)
・【提言・震災復興と協同組合】福島第一原発事故・県民と協同組合の苦闘続く 小山良太・福島大学経済経営学類准教授、うつくしまふくしま未来支援センター・産業復興支援部門長 (13.07.25)
・【現地ルポ】JA仙台(宮城県) 「農」のコミュニティ再建へ (13.07.31)
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