JAの活動:日本農業の未来を創るために―JAグループの挑戦―
【現地ルポ・JAいずみの(大阪府)】多様な担い手育成に力、都市農業継続へ法人も2013年11月13日
・農業振興に定年帰農者
・所得の増大直売所新設
・出資法人が若手を育成
JAいずみのが掲げる「10年後にめざす姿」は「多様な営農形態による農業の継続」だ。そのために定年帰農者や新規就農者などの確保に努めるとともに、直売所や加工・交流施設の新設で所得の向上や、地域住民との交流などにも取り組んでいる。「なにより農業に関わる総人数を増やすこと」と強調する谷口敏信専務を訪ねた。
(写真)
農産物直売所「愛彩ランド」。農業所得を得る喜びを定年帰農者など多くの農家に感じてもらう場として開設した。
【JAいずみのの概況】(平成24年度末)
○正組合員数=6944人
○准組合員数=3万2329人
○販売事業実績=11億円
○購買事業実績=8・8億円
○直売所事業実績=12億円
○長期共済保有高=7280億円
○貯金高=4746億円
◆農業振興に定年帰農者
JAいずみのは平成21年に3JAが合併して誕生した。管内4市1町(岸和田市・和泉市・泉大津市・高石市・忠岡町)の人口は53万人ほど。“都市”のイメージが強いが丘陵地にかけて優良な農地が多く、大阪府下でも有数の農業地域だ。 谷口敏信専務は「都市農業だからすべてが不利だ、という意識はありません。たしかに生産基盤は小規模で水の確保などの面でも厳しさはありますが、消費地に近く販売チャネルを複数化することもできるし、雇用力もある。純農村地域とは違う良さもありますから、地域では『農業をしている』という意識です」と語る。
昔から大阪市場への野菜や果実の供給地だった。丘陵地にはミカン畑が広がり、モモ、イチジクの生産も盛んだ。モモ、イチジクは完熟に近い状態で出荷できるから市場の評価も高い。タケノコや花き、冬瓜、水ナス、軟弱野菜なども盛んでそれぞれに生産出荷組合がある。
しかし、都市地域だけに後継者の多くは他産業に流出、担い手不足によって農業生産が減少してきた。そのためJAは平成5年ごろに担い手確保のための専任部署をつくった。大阪府下でもいち早い取り組みで農家の次世代への就農支援などに力を入れた。
また、平成19年からJAは団塊の世代の定年を見据えて定年帰農者を確保しようと週末を中心に農業技術講習会を始めた。
「専業的な農家だけでは地域農業は守れない。多様な担い手を確保していこうと戦略を転換したわけです」。
講習参加者はおもに農家出身だが、他産業に就職したサラリーマンなど。したがって、これまでに農業体験が皆無というわけではない。
「だから、蛙の子は蛙だろうと思っていたんですが、意外にそうではなかった。伝承とは簡単なことではないなと思いました」。
農業経営をめざす人だけではなく、定年後に農地を守りながら地域で暮らしていく、そんな「多様な地域の担い手」を掘り起こそうという考えだったが、農「業」である以上、やはりしっかりと技術が受け継がれていかなければ農地の維持もできないことに気づかされたという。つまり、多様な担い手も本気で育成することが必要なのだ。講習会には夫婦で参加するなど意欲的な人たちが増え、卒業生は初年度150人ほどになった。
◆所得の増大直売所新設
研修会によって定年帰農者を確保する道筋が見えてきたものの、では、彼らにどこで活躍してもらうのか?
JAは平成21年に地域農業戦略を改めて打ち出す。テーマは「農家による農家のための農業ビジネスの構築」である。
「一言でいえば収穫の喜びだけでなく、農業所得を得るという喜びを感じてもらうことです」。
戦略の柱は▽農産物直売所による農家の直接販売、▽農産物の加工・販売、▽食農教育による住民の集客である。
この構想は平成23年に直売所「愛彩ランド」と地元食材を使ったバイキング形式のレストラン、加工施設、交流施設のオープンでスタートした。直売所の開設には組合員から「JAは営農指導中心ではないのか。なぜスーパーのような事業を手がけるのか」との異論もあったが、目的は多様な担い手を確保して将来にわたって地域農業を守るためだと強調して合意を得た。出荷登録者は1100人。年間来店者は60万人を超え、25年度の販売額はレストランと合わせ13億円ほどの見込みだという。
年間数十万円の売り上げという出荷者が平均的だが「直売所がなかったころは販売額はゼロで自給的農家とされていた人たち。それが所得を得て消費者とも交流し、地域農業の守り手として表に出てきたことが大きい」という。100%地元農家の出荷品で品揃えするのが目標で現在は80%を超えた。
隣接するレストランで使う食材はこの直売所で仕入れる。リーダー的なシェフはおらずメニューはスタッフ20人全員で月に1回、旬の食材に合わせて考えている。交流施設は「楽しい学びの交流館」と名づけ、子どもたちに料理教室を開いている。講師はレストランのスタッフ。JAの女性会も手伝う。
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JAでは地元野菜を使った子ども向けの野菜レシピコンクールも開いている。入賞作品が料理雑誌のようにきれいに撮影されて直売所で紹介されていた。
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バイキング形式のレストラン。地元の食材を使ったメニューを提供。店外で順番待ちする人もいるほどのにぎわい
◆出資法人が若手を育成
直売所に並ぶ多彩な農産物、それを買い物カゴ一杯に購入する消費者、レストランの外で順番待ちをする人々などを目にすると地域農業が元気になってきたことが感じられる。ただし谷口専務は「直売所の品揃えは地域農業の縮図。売上げを気にする前に地域農業をどう活性化するかを考えなければならない」と強調する。
実際、60歳以上の農業者が7割近くとなっているのも現実だ。次世代につなぐため、さらに担い手育成を進めることが急務となっているなか、今年8月にはJA出資農業生産法人・ファームいずみのを設立した。
法人設立の目的は農作業の受委託などによる遊休農地の減少と持続可能な都市農業の実践だ。そのための大きな役割として担い手の育成・研修も掲げている。若い農家子弟のなかには就農したい意欲を持つ人もいる。その若者たちに農業技術を教える場としても法人を機能させようという考えだ。
ただ、「法人の役割はセミプロ程度のレベルにまで育成すること。その先は地域の専業農家が仕上げる」のが方針だという。
JAの組合員組織には先にも触れたようにミカン、イチジク、水ナス、軟弱蔬菜など品目別の組織があるが、それぞれ「生産出荷組合」が名称だ。生産については農家の組織自らがレベルを上げるのが方針という意味が込められている。したがって、非農家出身者にはJAが農地のあっせんなどは行うが、育成した「セミプロ」青年農業者を「プロ」に育てるのは生産出荷組合とJAとの役割分担を行っている。
水田集落とは違い、この地域では品目ごとの生産出荷組合のリーダーなどが広域に点在し、それぞれの中心メンバーが巡回しながら若手農業者を育ててきた。それによって地域全体として多彩な農産物を生み出してきた。
さらに今後は農業者育成の役割も重要になる。
「高齢化が進むといっても、元気な高齢者が増えるということ。その人たちが他人とはいえ孫を育てる感覚で支援をしてくれれば。地域の農業を持続させることにもなるし、食の一端を担っているという生き甲斐にもなるのではないか」。
さらにプロになった青年農業者のもとで、高齢者が雇用されれば経営発展の可能性も広がる。そもそも人口の多い地域。非農家を農業が雇用することもあり得る。
こうした農業振興をめざしてJAとしては農業経営支援のため施設・機械リース事業や農地確保に力を入れるほか、生産者と実需者との契約栽培などにも力を入れて行く方針だ。
「とくかく農業に関わる総人数を増やすことです。地域食材を使った料理教室など食農体験もアグリビジネスと捉え、農業への入り口を広げていきたいと考えています」と谷口専務は話している。
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上:農産物直売所「愛彩ランド」の売り場。ミカンをはじめ地域の農産物が豊富に並ぶ。
下:JA出資法人・ファームいずみのが管理するハウス。地域特産の水ナスの委託育苗が行っていた。定植するまで一括管理することで、その間、個々の農家は軟弱野菜などを生産しているという。役割分担で農業振興をめざしている。
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