JAの活動:第59回JA全国女性大会
【特別対談】JA役職員と女性組織は、車の両輪で地域づくりを 大川原けい子・JA全国女性協会長、伊藤澄一・JA全中常務理事2014年1月22日
・作物の善し悪しは愛情で決まる
・知らない家に嫁ぎ生きていく女性の力
・一番の理解者は、すぐ隣にいた
・フレミズが本気になれば、+1の世界がつくれる
・高齢者問題を学べる場をつくることが大事
・生活面でのサポートでJAへの見方が変わる
・平時の活動は有事のための訓練
・トップが本気で仕事を女性に任せられるのか
第26回JA全国大会決議では、今後のJAの姿として女性の正組合員や総代、理事等について数値目標を盛り込むなど、女性参画を積極的に進めることとしています。農業はもちろん、食や環境、高齢者福祉・反TPPの取組みなど農村での暮らし・地域づくりに果たす女性の役割は大きく、この女性の力をJA運営の基盤強化につなげていくことが各地で求められています。この女性の力を引き出し、発揮させていくためには何が必要なのかを、大川原けい子JA全国女性組織協議会会長と伊藤澄一全国農業協同組合中央会常務に忌憚なく話し合っていただいた。
心を通いあわせて
地域の諸課題に対応
◆作物の善し悪しは愛情で決まる
伊藤 会長は、永年にわたってJA女性部の活動に従事されてこられました。また、農業の担い手、ご家族の中心にいる母親、さらに東日本大震災の被災地の代弁者として、重責の中におられます。まず、農業の担い手としてどのような農業に従事をされているのですか。
大川原 米が中心で5ha作付けしています。減反対策としてソバを1ha、そして20aの畑で自給自足の野菜作りをしています。田んぼとソバは家族みんなで一緒に従事し、野菜作りだけは私の担当になっています。
ソバは集団で作付していますがみんなが機械を持っているわけではないので、順番に収穫作業をしています。そして23年度からは大震災で作付できない浜通りの分を受託しています。
伊藤 遊んでいる農地は…
大川原 ありません。周囲では手が回らなかったり、経営的に合わなかったりして作付しなくなる人はいます。
伊藤 家族で農業をというお話でしたが、後継者の方がいらっしゃるのですか。
大川原 サラリーマンだった夫は65歳で、同じく息子が40歳でこの息子が機械類を担当して田植え作業などをやってくれますし、中学2年と小学5年の孫が手伝ってくれます。これまで、農業経営の全般は私が担当してきましたが、今では家族全員で助けあいながら、取り組んでいます。私自身も親の働く姿をみて育ちましたが、家族や孫が手伝ってくれるのは嬉しいですね。家族が一つになれる仕事です。
伊藤 私も農家の息子ですから、親の農作業する姿は深く記憶に刻まれていて、いまでも忘れないですね。
大川原 両親が必死になって働いている姿を見て、働く喜びを知っていますから、農業が嫌だと思ったことは、一度もないです。
伊藤 そうはいっても農業は、作物の生長や天候などによって毎日変化していますし、それに合わせていかなければならないなど、ご苦労が多いわけです。が、そういうことはなかなか世間では理解されませんね。
大川原 子育てと同じで気を抜けません。種を播いてから生長していく過程で手を抜けばその分生長が悪くなるので、いつも目配り・気配りしてはじめていいものができるわけです。
伊藤 消費者の方にもこれだけは知っておいて欲しいということは…
大川原 料理や子育てと同じように、ものつくりには「愛情」が必要なんです。そして作物の出来不出来をみて「あのときのあれがまずかったんだなあ」と同じことが二度とないように反省し、いつも神経を使っています。そして昔から作物は「主人の足跡」といわれ、作る人が数多く通った足跡が多いほど旨いものができるのです。
伊藤 ほ場にしょっちゅう通って生育状況をみながら手をかけるということですね。
大川原 いまは組織の役員なので時間が足りませんから東京に出てくるときには日の出と同時にほ場に行き、野菜に声をかけてから上京します。そうすると作物は正直に返してくれます。作物への思いやりですかね。それが農業をしている喜びですし、好きですね。
(写真)
大川原会長
◆知らない家に嫁ぎ生きていく女性の力
伊藤 そして母親としても生きてこられているわけですが、母親としてはどんなことを思われていますか。
大川原 やはり愛情ですね。押し付けるのではなく精一杯できることはやってあげて、子どもたちに感じてもらえるようにやってきました。
伊藤 農家の女性は結婚すると今までと違う環境で生活することになります。新しい環境に慣れるのも大変ですね。
大川原 結婚した当初は分からないことだらけでした。実家の祖母が「嫁ぎ先を一所懸命やれ。家から出た人たちを大事にしろ」といわれました。そして「その家には後から入った人間なんだから、一歩下がっていく生き方もあるんだから」といわました。その時はよく分かりませんでしたが、年月が経つにつれてこの言葉はためになりました。
置かれた場所つまり嫁ぎ先で一所懸命やっているとその家から出た人たちが優しくしてくれました。ああ、そういうことなんだなと感じました。
伊藤 私が女性はすごいなと思うのは、知らない土地の知らない家に嫁ぎ、自分の生きる場所を見つけて、そこで子を産み育てていくわけです。この忍耐力とか生きていく大変さが社会一般には十分に説明されていないし、理解されていないと思います。
そのことを十分に説明し社会的な手助けをすることで、家庭のなかの仕事だけではなくて、地域社会に出ていってできる女性ならではの仕事がたくさんあると私は思っています。
そうした女性の役割についてどうお考えですか。
◆一番の理解者は、すぐ隣にいた
大川原 私も農作業に従事し子育てとか両親の介護をしているころは女性部に入っていてもあまり活動できませんでした。でもそれもやらなければいけないと努めてきた後で女性部とかの役員の話がきたときに、夫が「いままで頑張ってきてくれたから、自分は安心して外で働けた。こんどは自分の勉強のために外に出てやってくれ」といわれました。
そのときに、いままで苦労してやってきたこと、辛かったことをぱあーと忘れるくらいにありがたかったですね。嬉しかったです。そしてちゃんと見てくれていた人がいたんだと思い、後押ししてくれる人のためにも役員を引き受け頑張らなければと思いました。
伊藤 一番の理解者がすぐ隣にいたわけですね。今年は「国際家族農業年」ですが、日本の家族のモデルです。
大川原 はい、応援してくれる夫がいたからこそ、できたと思います。その時々は夢中でした。
だからそうやって送りだしてくれた家族のために、外での役割を引き受けたからには一所懸命やらなければという思いがあります。作物をつくるのと同じようにいい加減なことはできません。
伊藤 人にこれをやりなさい、という前に、ご自分もその行動や動作を通じてみんなと一緒に前に進んでいく。そういう力ずくではないものを会長に感じることがありますが、いまのお話をお聞きして納得できる感じがしました。
大川原 私は何かしなさいというよりは、仲間と仲良くして、仲間を頼って参加型でやっていくことで、みんなと心一つになれてやってこられたと思います。それだけ仲間に恵まれていますし、とても感謝しています。
(写真)
伊藤常務
◆フレミズが本気になれば、+1の世界がつくれる
伊藤 昨年の10月30日にフレッシュミズの大会が開催され体験発表がありました。その入賞作品を読ませていただきました。フレミズの活動はさまざまな分野におよびみなさんはいろいろな資格をもっておられます。例えば食育インストラクターとか大型特殊運転免許、船舶の免許、家畜人工授精士、コメ粉料理講師などの資格を取得している方もいますし、そのほか目を見張るものがあります。これはフレミズの優しくも逞しい姿だと思います。
大川原 頼もしいですね。役員になると炊事の時間にはピチッと炊事をするというように、時間を上手に使うようになります。自分のためだと思って組織の活動をするのと、やらされていると思ってやるのでは全然違います。自分のためと思えば時間を大事に使います。それはフレミズの人も同じです。
伊藤 情報の共有化もいまは進んでいますから、フレミズの皆さんが本気になったら+1の世界をつくりやすいですね。
いまのフレミズのみなさんに伝えておきたいことがありますか。
大川原 あなたのためにという押しつけではなく、気持ちとかハートとハートがつながった時に、仲間づくりができると思います。
それは私たちミドルとフレミズの人たちとの間でも一緒だと思います。私たちの経験を語るのも大事ですが、聞いている人たちが、芯からやらなければと思わなければ心から動けないのではないですか。
◆高齢者問題を学べる場をつくることが大事
伊藤 JAグループでは、フレミズ世代を中心に全国で女性大学が盛んになってきています。幅広くいろいろなことを学ぶ場が準備されているわけです。そしていま高齢者問題が大きな課題になっており、これも一人ひとりが対応するのではなく、組織として対応した方がよいと思います。
大川原 かつてJAグループではホームヘルパーを養成しました。それがとても役立っていると先輩から聞いています。
伊藤 当時は8万人が資格を取り、これまでに12万人ほど資格者がいます。
大川原 JAによっては、その人たちを活かす場がなかったため、JA外で活動せざるを得ない人もいました。また、ホームヘルパー制度も後退してしまい、介護の入り口のヘルパー3級もなくなりました。
伊藤 フレミズの皆さんが、生きていくうえで、世代として不可避的に訪れるテーマが高齢者問題です。これは、これまでのように家庭や個人の経験や努力で突破しなさいとはとてもいえません。何か社会的なあるいは制度的なもののほかに地域の力が必要だと思います。
大川原 JAの理事をしているときに、母親が認知症になって途方にくれている方がいたときにJAに電話したらすぐに対応してくれ「助かった」といわれました。そのときに、これからの時代は、人に必要とされるときに即対応ができるJAでなければならない。これが地域に根ざしたJAだと感じました。
そういう意味でこうした日々の生活の問題を学びあうことをJAが呼びかけてもいい時代になったと思います。女性は知らない土地に嫁いでいき一人ぼっちのことが多いので、地域の人も含めて、同じ目的で学びあいをする手助けをJAがする必要があるのではないでしょうか。
伊藤 厚生労働省が昨年の6月に8つの自治体を調査し、認知症の方の推定値を発表しました。現在、日本の65歳以上の高齢者は全人口の25%にあたる3200万人です。農村の場合は50%を超えていると思います。そのなかで認知症の方が462万人、それに加えて軽い認知障害症の方が400万人、合わせて862万人、高齢者の27%の方が認知症かそれに近い症状を抱えているとの発表でした。
これに対してJAグループでは、介護保険事業に取組むとともに、日頃の活動として「健康寿命100歳プロジェクト」に取組んだり、地域で認知症についての正しい知識をもとうということで、認知症サポーター研修などが行われていて、11万2000人のサポーターを養成しました。日本の企業・組織では断トツです。
これをJAのすべての役職員、女性部や青年部のみなさん、そして組合員のみなさんに広めていきたいと思います。
大川原 私もですが、やがて通らなければいけない道で、認知症についての基本的な理解があるかどうかで対応の仕方がまったく違います。みんなが気まずく生きるようになるよりは、理解して声かけとかが柔らかく対応できるような形にJAが中心になって学べる場をつくってくれるとすごく魅力的だと思いますね。
◆生活面でのサポートでJAへの見方が変わる
伊藤 女性大学の講座として設けて、この講座を受講したら認知症サポーターの資格を取れるというように、必須のものとして入ってくると思いますね。簡単な研修です。
大川原 そうした生活面もサポートしてくれれば、JAをみる眼も変わってくると思います。誰もがいずれむかえることですから、JA全体での取組みとしてあるべきではないでしょうか。
伊藤 日本のJAのおよそ半分が介護保険事業に取組んでいます。これからもこの事業はますます必要になると思いますが、その際に助けあい組織とか女性部のみなさんの力がさらに必要になります。
大川原 ホームヘルパーを養成した時に、助けあい組織と女性部とは別の組織にし、十分な連携がとれなかったことが良くなかったと思います。組織のなかで同じ目線で同じ問題に取組めるようにした方がいいと思います。気持ちさえ通じ、心一つになれば、その力は倍にも3倍にもなるけれど、バラバラだと何の実にもなりません。
伊藤 介護保険制度が見直され、自治体や地域・家庭などで補っていかなければいけない方向に進んでいます。女性部や青年部、農家組織などJAのさまざまな組織を動員してこの問題に立ち向かっていかなければいけません。家庭内の女性の問題にしては絶対にいけません。
ホームヘルパー、認知症サポーター、そして女性部もエルダー、ミドル、フレッシュミズという3つの層などが、共通のテーマで会話をしなければいけなと思いますし、JAも女性部のみなさんと会話しなければいけません。
大川原 将来を見据えてきちんと手をうってきたところと、そうでないところでは、長い目でみればはっきりと差がでます。人の気持ちは大変なときに手助けしてくれたことは忘れませんからね。この問題はJAのテーマです。
(写真)
対談する大川原会長(左)と伊藤常務
◆平時の活動は有事のための訓練
伊藤 東日本大震災から3年近くが経ちました。全体で2万1000人を超える犠牲者と27万人を超える避難者の方々がおられます。会長のご出身県である福島県は、地震・津波そして原発事故の3つの被災を受けた地域です。改めていま率直に感じていることをお聞かせください。
大川原 3月11日は福島市のJAビルにいましたが、いま思えば生きているだけで幸せです。
伊藤 JAの女性部は炊き出しとかされたのですね。
大川原 JA女性組織は、JAと連携して、野菜やコメなどを持ち寄り、炊き出しをしました。JA新ふくしまに大勢の人が避難しているので、おにぎり約9万個以上つくった例もあります。
あのときはナイナイ尽くしでしたが、自分たちもいつ誰に世話になるか分からないから、あるったけのモノを出しました。そして農業をしていてよかったと思いました。農家だから出せましたが、そうでなければ…
伊藤 そうでしょうね。
2年前のJA全国女性大会で、当時の大川原副会長がパネリストとして発言された言葉が印象深く思い出されます。女性部の日々の活動はみんなで協力し勉強しそして活き活きと生きていく場だが、大震災が起きたときに平時の生き方をしていたみなさんが一気に有事の活動をはじめた。女性部の平時の多様な活動は有事の「訓練」だったのだといわれました。このご発言を忘れることができません。
大川原 普段から助け合い、思いやりのグループ活動をきちんとしていたから、スピードをもって対応できたと思います。これがJA女性部です。
伊藤 昨年も全国各地で局地的な異常自然災害が起きましたが、有事のときにどれだけ力を合わせられるかを示唆したのが、東日本大震災のときの女性部の活躍だったと思います。
◆トップが本気で仕事を女性に任せられるのか
伊藤 最後に、男女共同参画をすすめJAを女性パワーがちゃんと発揮できる職場にしていこうと取組んできました。そしてJAの女性役員が1100名を超え、このほかに参与が160名ほどおられます。女性正組合員が90万人、約20%となり、女性総代が約2万1000人で約7%になりました。昨年は、女性役員が1000名を超えたということで一つの節目の年になりました。
日本は女性の力を社会的に制度的に発揮できるようになっておらず、世界の先進国のなかでも非常に損をしている国だと思います。その損をしている国が男女共同参画を成長戦略の一つに掲げています。この分野でもJAグループが国のモデルとして手本を示したい。
日本で十分に開発されていないエネルギーが自然エネルギーと女性の持っているエネルギーだと思っています。
大川原 女性はある程度の責任や権限を与えられたときに、真面目ですから本気で取組みます。そして女性はやりくり上手ですから、その点を考えてもっと育てて欲しいと思います。
育てるためには、JAのトップの気づきが大事です。これは本当にそうです。トップから本気で女性に任せているといわれたら、ハートが動きますが、数合わせだとハートはなかなか動きません。認められれば立ち上がりは早いですよ。
そういう意味でJAの役職員の理解があり、意見を聞いてくれる、本気になっているJAは素晴らしいですよ。女性部と話し合いができ、ハートとハートが通じ合えればいい仕事ができます。
伊藤 今回は、TPP問題には触れませんでしたが、次の機会に意見交換したいと思います。本日はありがとうございました。
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