JAの活動:第59回JA全国女性大会
【特別座談会】女性パワー発揮へ 能力生かしJAで輝く女性に JA女性常勤役員意見交換会2014年4月9日
意見交換会出席者
・佐々木昭子さん(JA岩手ふるさと常勤監事)
・吉田重子さん(JA越前丹生(福井)常勤監事)
・前田栄子さん(JA大阪中河内常勤監事)
・藤川延子さん(JA美馬(徳島)常勤監事)
・齋藤曜子さん(JA板野郡(徳島)常勤監事)
・栗原幸子さん(JAにしたま(東京)代表理事専務)
・樋口直樹氏(前JA全中教育部部長)
JAの女性役員数が昨年7月、1117人となり、初めて1000人の大台を突破した。JAグループが目標とする女性理事等2人以上を達成したJAは419JA、60%となり、、少しずつではあるが着実に女性参画が進んでいる。また、安倍内閣は、経済再生のための3本の矢の一つ「成長戦略」の一環として「女性の力の活用」を重点施策に取り上げており、これを受けて民間企業での女性管理職の登用などが、にわかに脚光をあびている。JAにおいても、食やくらしを中心とした分野では、生活者としての視点が必要であるが、女性職員の登用については、あまり進んでいないのが実態である。そこで、現職で活躍している女性常勤役員に、JAの職場で女性パワーを発揮してもらうためには、どうしたらよいかについて話し合ってもらった。
(写真)
意見交換するJA常勤役員
(左から佐々木さん、吉田さん、前田さん、藤川さん、齋藤さん、栗原さん)
◆後輩育てる仕組みづくりが急務
現在、全国に女性のJA常勤役員は13人いる。このうち、意見交換に出席したのは、JA岩手ふるさと常勤監事・佐々木昭子さん(岩手)、JAにしたま代表理事専務の栗原幸子さん(東京)、JA越前丹生常勤監事の吉田重子さん、JA大阪中河内代表監事(常勤)の前田栄子さん(大阪)、JA板野郡常勤監事の齋藤曜子さん(徳島)、JA美馬常勤監事の藤川延子さん(同)の6人。
ほとんどがJAの職員として勤務したのち、実力が認められて役員に登用された女性であり、現職時代には管理職として仕事をした経験を持つ。また結婚・出産で退職し、その後再就職した人もいる。
意見交換では、JAの仕事の中で男女の違いを感じる場面や、子育てや家事などのハンディを持つ女性の働き方、それを支える家族や周囲の支援の必要性など自らの経験に基づいた意見や提言が多く出た。意見交換にはJAの人づくり研究会座長の今村奈良臣・東京大学名誉教授、JA全中教育部の樋口直樹前部長も加わり、助言した。以下に参加者の発言の要点をまとめた。
★佐々木昭子さん(JA岩手ふるさと常勤監事)
「知性を磨き、意欲持って」
JA岩手ふるさとの佐々木昭子さんは、2009年にJAを退職して1年後、任期途中で病気療養のため退院した監事の補欠選任で非常勤監事になり、その後11年から常勤監事となって2期目。
女性役員が今後多く出るきっかけになればという思いで引き受けた。「女性管理職や役員の適任者が多くおり、頑張って欲しいという期待はあるが、『私にはできない』と引いてしまう。そこに問題があるのではないか」と、女性職員の意識改革の必要性を指摘する。
また「職員はいろいろな考えを持っている。現場を回って、考えや意見をしっかり聞くのも女性役員の重要な役割の一つ」と考えている。日々頑張っている女性職員に「悩みや苦しみを先輩や仲間に相談するなかで知性を磨き、仕事への意欲を燃やして欲しい」と、エールを送る。
★吉田重子さん(JA越前丹生(福井)常勤監事)
「働きやすい職場ルールを」
JA越前丹生の吉田重子さんは、銀行勤務を経て35歳で農協に入り、平成21年に監査室長になり、23年に退職して常勤監事に。教育部門を担当し、職員の組合への愛着心を醸成する「エンゲージメント担当」としても職員を指導する。また、女性職員との懇談会「女子会」を開催し、後進の育成に努めている。
女性の働き方としては、「人事面の配慮も必要だが、残業を減らしたり、振替休日をとったりしやすい職場のルールづくりを考える必要がある」と指摘。また、「『女性ならでは』とは言っても、『女性だから」とは言わないという気持ちが大事」と、自らを戒める。
★前田栄子さん(JA大阪中河内常勤監事)
「職員の意向、職員台帳で」
JA大阪中河内の前田栄子さんは常勤の代表監事2期目。結婚退職後昭和57年に復職して30年。その間、合併を2度経験して同JA初の女性管理職になり、共済、監査部長を経て平成21年、これも女性初の常勤役員になった。「後に続く女性のため結果を残したい」と仕事に意欲を燃やす。
能力については、全く男女差は感じない。男女差が、あるとすれば、経験の差だ。新規採用の男性は1年間窓口業務を担当し、それから渉外に回るが、大金を扱い、またバイクで移動するということで、「所属長が心配して女性を渉外担当に出さない傾向がある。だから仕事はできても渉外を経験しないと管理職になれないことから、昇進にも差がでてきてしまう。と言う。
育休は、同期の男性に比べて女性のハンディになるが、「産休・育休は最長1年半。その間、勉強して、自分のためになる資格をとるようにも勧めている。野菜ソムリエの資格をとった女性がいるが、このような女性を直売所に配属したら、能力を発揮できるのではないか」と考えている。
また人を育てるために、「職員台帳」づくりをすすめる。職員がどんな資格を持ち、あらたに何を取りたいと思っているかを知り、それを実現させるような人事のシステムが必要。得意分野で仕事ができるようにすることが重要だ」と言う。
★藤川延子さん(JA美馬(徳島)常勤監事)
「女性登用に雰囲気育つ」
JA美馬の藤川延子さんは農協を退職して1年後、平成18年に常勤監事になり、いま3期目。女性役員の役割について、「女性が十分働けるようにできるだけバックアップすることだ」と言う。同JAはある6支所のうち4支所が女性支所長。彼女たちの悩みを聞き、相談にのりアドバイスしている。「『常監に相談してよかった』と、あらためてやる気になってくれる」と言う。
また2人の理事と同じく2人の監事が女性で、研修会への参加など積極的に指導。職員も男女を問わず資格試験をとるように指導している。こうした取組みが可能になったのは、「経営者が、男女の区別なく実力ある者を積極的に生かそうという雰囲気が出てきたためだと思う」と、職場風土の変化を感じている。「JAや先輩が後押ししないと女性は長期の研修会には参加できない。これは私たちの常勤役員の重要な仕事だ」と考えている。
★齋藤曜子さん(JA板野郡(徳島)常勤監事)
「経験生かし、細かい配慮」
JA板野郡の齋藤曜子さんは、41年間農協に勤め、昨年6月常勤監事になったばかり。管理部門から支所長、参事の経験を生かして役に立ちたいと思い、職員のさまざまな悩みや相談に応じている。特に育児、介護を抱えた女性職員には、気を配る。「大変なことはよく知っているので支所監査に行ったときは、渉外担当や、お茶を出してくれる若い女子職員にも、必ず何かひとこと声掛けするようにしている」と、細かい心遣いの大切さを指摘する。
同JAでは、共済の事故課は男性だけだったが、いま女性が1人配属されている。「女性の感性で細かい対応ができて好評」と、女性ならでは働き方の重要さを感じている。「仕事の悩みや育児、介護休暇など、なんでも相談して欲しい。そして育児が終わってからでも、地域の活動の場や趣味のサークルなどに参加して、JAで輝く女性になってほしい」と後輩にエールを送る。
★栗原幸子さん(JAにしたま(東京)代表理事専務)
「現場を回り常に声掛け」
JAにしたまの栗原幸子さんは、50歳過ぎで地方公務員を退職後JA女性部に入って地区の支部長、JAの女性部部長を経て、22年にJAの非常勤理事、そして昨年「これからは女性の時代。JAをよく知らなかった人から、職員のために新しい風を入れて欲しい」と招かれ、代表理事専務に就任した。
「JAのお母さんとして男女を問わず、若い職員を見守っていきたい。困ったときはいつでも相談にきてほしい」と言う。
ただ、JAは大型化して、役員の顔を知らない職員も増えた。それだけに「こちらから声を掛けないと悩みや相談事も分からない」と、JA支所などの出先や直売所を時間をみて回るようにしている」と言う。
女性の管理職については、「男性が先と言われて後回しになり、これまで女性の能力が十分に生かされなかった。そしてある年齢になって管理職になれといわれても『いまさら無理』という思いが女性にはある」と、人事政策上の問題を感じている。そして「特に家族の支えがないと、女性は第1歩が踏み出せない」と、周囲の理解と支援の必要性を強調する。
★樋口直樹(前JA全中教育部部長)
「愛されるJAは、女性に期待」
人材の育成に取り組んでいるJA全中の樋口直樹前部長は、「女性の常勤役員は、まだ少ないものの、最近は総務や人事など職員全体をマネジメントする管理畑で女性の課長や係長も増えきた。すそ野は着実に広がってきており、少しずつ変わってくるのではないか」と話す。一方で、コア人材などの研修は、圧倒的に男性の受講が多いのも実態であり課題も多い。
また、強まるJA攻撃に対しては。「今まで男性は井の中の蛙だったかも知れない。女性がもっと関わり、組合員や地域に根差した幅広い活動を展開することで、みんなに愛されるJAづくりに務めていただきたい」と、女性の力に期待を込めた。
◇
WEF(世界経済ファーラム=ダボス会議)によると、世界の女性の地位の高さは135か国の調査で、日本は101番目で、前年より3位下がっている。「男女共同参画」がとなえられているなかでこれは何を意味するのか。この意見交換会を機に、JAにおける活躍する女性の取材を通じて、女性パワーを発揮するための環境づくりについて考える企画を随時掲載する。
「優れたJAは女性が輝いている」
今村奈良臣・東京大学名誉教授
「農業ほど男女差別のない職業はない」。佐野房さんのこの一言をある研究会で聞き、私の胸にズシンときた。当時、青森県JA田子町の専務理事(現在JA八戸の常勤監事)であり、その苦悩の中での発言の重みは私の胸に迫った。
当時、JA田子町はニンニクの日本有数の産地であったが、貿易自由化で安価な、しかし品質は劣る中国産ニンニクの輸入攻勢にあえいでいた。その中で、佐野房さんを先頭に、かねてから私の説いていた「農業の六次産業化」、つまり生産だけにとどまらず、農産物を消費者の求めるように多彩な加工を施し、さらに多様なルートで販売し、所得を高めるという新たな路線で、中国産に太刀打ちしていた。
この中で女性の発揮する力量と役割は多大で、田子にんにくの声価は改めて高まったのである。全国を見渡してみても、「農業の六次産業化」を展開している先進地域、先進JAでは、女性が躍動し、リーダーシップをとっているところが多い。とりわけ農産物直売所を拠点として飛躍しているところは、女性の多彩なリーダーシップがいかんなく発揮されている。
さらにいま農村の高齢化はますます進んでいる。しかし、私は農村の高齢者を「高齢者」とは決していわず、「高齢技能者」と呼んできた。農村の高齢者は頭の頂きから足の先まで、知恵と技能、技術に充ちているからである。その知恵や技能を活かし、行動に起き上がらせるのが中堅や若い女性たちの力量であり、その結合が必要である。高齢化時代における農村の女性の役割はますます高くなってきたと思う。
さて、「農業ほど男女性のない職業はない」とい説いてきたが、いま求められているのは「JAほど男女差のない職業はない」ということである。この課題を現するには、JA役員、幹部にその基本路線と政策を考え、実行に移してもらうしかない。私のこれまでに知見から、「優れたJAでは女性が輝いている」と自信をもって言える。
最後に、参考のため、小川理恵著『魅力ある地域を興す女性たち』(「JA総研研究叢書」第10巻、平成20年3月農文協刊)を是非読んでもらいたい。全国の優れたJAの優れた女性群像が分かりやすく、楽しく書かれている。私がJA総研の研究所長時代の教え子が足で歩いて書いたもので、みなさんの糧になると思う。
(写真)
今村奈良臣氏
「継続して働ける職場風土を」
JA全中女性組織対策室
第26回JA全国大会決議では、「女性パワーの積極的位置付け」を掲げ、JAが女性大学など場の提供に積極的に取り組むこととしました。また、「女性のJA経営参画目標を、引き続き、正組合員の25%以上、総代の10%以上、理事等は2名以上とするほか、女性職員の管理職への登用をすすめるなど、女性の視点による地域に根ざしたJAの事業・活動をすすめます」としています。
女性のJA経営参画3目標は、平成25年7月末では、正組合員19.8%(前年同期19.2%)、総代6.9%(同6.5%)、理事等1,117名(同969人)と少しずつですが着実に増加しています。また、JAの女性管理職については、数値目標は設定していませんが、課長職以上で6.1%(25年)です(民間企業(係長相当15.3%、課長相当8.1%、部長相当5.1%)。
JAにおいて女性パワーを積極的に発揮するには、前述の3目標のように、女性組合員がJA経営へ参画することはもちろん、それを支える職員についても、管理職や役員など、経営の中枢に入る女性を増やしていくことも必要です。
民間企業では、大きな買い物の決定権を女性が握っている実態を踏まえ、新車や家電の開発プロジェクトなどへの女性登用など、女性の感性をとりいれた事業となる工夫がすすめられています。
JAでもプロジェクト等に積極的に女性を登用する事例もありますが、出産や育児・介護などのライフイベントがあると、就業時間的がかなり制約されるため、管理職としての登用には壁があるのも事実です。
まずは、育児休業制度など各種制度の導入などにより、意欲ある職員が継続して働ける環境をつくることが不可欠です。これに加えて、制度を利用しやすい職場風土に変わることが必要といわれています。また、ロールモデルとなる身近な先輩の存在も大きく、今回意見交換にご出席いただいた女性常勤役員の方々はそうした役割も担っています。
女性職員の積極的な登用は、JA事業に女性の視点や感性を生かすだけでなく、多様な働き方をする職員が増えることにつながり、ひいては、職場全体の業務の見直しや、効率化も期待できるかもしれません。
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