JAの活動:新世紀JA歴代会長座談会
【特別座談会】新世紀JA研究会・歴代代表が語る 組合員目線で政策提案を2014年5月26日
【出席者】
萬代宣雄氏・初代代表=JA島根中央会会長(前・島根県JAいずも組合長)
鈴木昭雄氏・2代目代表=福島県JA東西しらかわ組合長
藤尾東泉氏・現在代表=岩手県JAいわて中央組合長
(司会は総合JA研究会主宰の福間莞爾氏)
・現場の声を挙げ、「体制内改革」へ
・組合員のニーズ、リスク負っても
・大会のアピール、要請活動で実現
・発酵飼料稲に期待
・国民にアピールを
・土地の束縛脱して
・見聞を広く求めて
全国のJAの組合長をはじめとする常勤役員や幹部職員の自己研さんと情報交換の場である新世紀JA研究会が2006年に誕生し、年2回開催するJA持ち回りのセミナーは15回を重ねた。大きく変化する農業環境の中で、その都度、時宜を得たテーマを設定して討議。その結果をもとにアピール文を採択し、農水省や全中・全農・全共連・農林中金などに要請の形で改善や新施策などを提案し、実現してきたことも少なくない。発足して8年目を迎え、歴代の代表を務めてきた3人が、研究会設立への思いとその成果、さらには農業や農政への展望について意見交換した。
全国の常勤役員が相互研鑚
(写真)
新世紀JA研究会の意義を語る歴代代表(右から藤尾、萬代、鈴木の各氏)
――新世紀JA研究会設立のきっかけは。
萬代 当時、協同組合経営研究所(現在JC総研)のセミナーの後の懇親会で、最後まで残った数人のなかから話が出た。こうした居残り組みのだべりのことを出雲地方では「ゴザなめ」と言うが、おうおうにしてこのような偶然の集まりで新しいことが実現するものだ。組合長になって日が浅く、何かしなければという気持ちを強く持っていた。全国連の会議などに出て全国の組合長がせっかく集まっているのに、情報を交換する機会が欲しいと思っていた。それなら自分たちでそうした場をつくろうと言う話になった。研究会を旗揚げしたとき、「JA内に別の農政組織をつくるのか」というような批判もあったが、そんな大げさなものではない。
◆現場の声を挙げ、「体制内改革」へ
現場の意見を上げるには支店長、組合長、県連会長、全国連となる。もちろんこの手順は大事にしなければならないが、日進月歩の変化と、地域間の格差が大きくなっている今の時代には、地域のJAの意見をストレートに全国連や行政に伝える仕組みが必要だと思っている。
当然全中がそういう役目を果たしているが、全国を隈なく歩いて、地域の声を聞くのは難しい。やはり現場から声を挙げていく必要がある。新世紀JA研究会のほかにも「販売高200億円サミット」などもあるが、このような組織がもう一つや二つあって、さまざまな問題をぶつけあってもよいのではないかと考えている。全中、県中と情報を共有しながら侃侃諤々の議論をすることでよい結果を出すことができる。よい酒はよく混ぜないとできないものだ。
鈴木 しかし、農協の世界では上位下達の空気が強く、新しい動きはとかく誤解を受けやすい。ところで、セミナーの後の懇親会で、私も最後まで残ったうちの一人だが、その前の農協が合併した直後に、専務として全中のマスターコース(JAの常勤役員対象)の研修に参加した。合併した後で、新しい農協のあり方を模索していたこともあり、全国のJAを回って勉強したことが大変勉強になった。だったら全国でセミナーを開いて勉強の機会をつくったらいいのではないかと考えた。これが、研究会つくるにあたっての私の原点だ。
――そのとき鈴木組合長は、マスターコースの修了論文でブランド戦略をまとめられ、いまJA東西しらかわで"みりょく満点"のブランドを確立しています。JAの役員クラス層を対象にしたマスターコースは、いまはなくなっている。理由は、授業料などJAの負担が大きいということだったようです。
藤尾 私も鈴木さんと同じマスターコースで学んだ。大変勉強になった。やはり同期に、新世紀JA研究会役員のJA東京みどりの高橋信茂組合長もいる。
(写真)
藤尾東泉・現代表
◆組合員のニーズ、リスク負っても
萬代 研修の費用が高いと見るか安いとみるかは、そのJAやトップの考え方次第だ。農協運営の原点は、それが「組合員のためにどうか」ということにある。いろんな意見が出た時、この視点でみて、組合員の役に立つことであれば、多少のリスクは負っても検討することが大事だ。その決断をするのがトップの役割である。農協は役職員のために経営しているのではない。そのような組合員目線で見るとことのできる常勤役員を育てていくべきだ。
藤尾 新世紀JA研究会のセミナーにはJA兵庫六甲のとき(2009年7月、第6回セミナー)から参加しているが、全国的に右肩下がりのなかで農産物販売高を伸ばしていることに感心した。これはやはり現場で実際に聞き、見ることで実感できるものだと思った。
――現在、研究会の会員は40JA、14連合会で、年2回のセミナーを開いていますが、この現状と成果をどうみますか。
萬代 セミナーは継続しなければならない。会員の増強も継続的にやっていくべきだ。これまで培ってきた全国的な人間関係を生かしてつながりを強め、それが中央につながって成果が出ている。組合員目線からみた現場からの政策提起によって改革された実績もあるので継続的にやっていくことが大事だ。
世の中は激しく動いている。即応することが必要だが、組織は大きくなると、ややもすると小回りがきかないという面がある。これをフォローするのが新世紀JA研究会だと考えている。
――3・11東日本大震災の時も、2カ月も経たない5月の連休前には研究会のメンバーによる原発事故の南相馬市でお見舞いと現地視察をした。その時は鈴木組合長から"被ばく"による差別発生についての指摘があり、翌年の冬にJA会津で開いた第11回セミナーで、この問題を討議しアピールしましたね。
鈴木 当時、福島県ナンバーのトラックということで通行を止められるなどの差別があった。広島、長崎の被爆と同じような差別が生じるのではないかと心配し、正面からこの問題に取り組むことが必要だと考えた。
◆大会のアピール、要請活動で実現
――セミナーの大会アピールに基づいた要請活動も研究会の重要な役割で、具体的な成果が上がり、研究会の存在感を高めていますね。
鈴木 WCS(稲発酵粗飼料)や米粉などの新規需要米も研究会から問題提起したことが政策に反映されたと思っている。われわれは新規需要米を定着させるためには、現場感覚では当然だが、食用米を作った場合と同じ所得がなければ実現しない。そのことを農水省の担当局長に提案した。今では水田フル活用対策による飼料用米などの作付で10a当たり8?10万円の補助金交付について誰もおかしいと思わなくなった。
――JAバンク支援基金の掛け金の凍結も、研究会で要請を行い農林中金、農水省などに提案し、実現した。このほか、補助金による施設の10年使用で目的外使用を可能にしたことや、JAによる農業生産、JA役職員研修「協同の翼」の実施など、研究会の提案を反映して実現したと思われる施策や事業も少なくありません。
萬代 当時、JAいずもでも貯金保険機構とJAバンク支援機構に対して、でそれぞれ3000万円づつ、合せて6000万円の掛け金負担をしていた。私が組合長に就任した当時、掛け金の支出について稟議があがっていなかったくらいで、JAでは当然の支出と考えられていた。今は、JAでも内部監査や行政の検査が厳しく行われており、従来のような放漫経営が許されるような時代ではなく、債務超過や経営破たんの可能性は小さくなっている。
制度をやめるべきだと言っているのではなく、これ以上の積み立ては不要だということだ。このことを農林中金は分かってくれたのだと思っている。
鈴木 農林中金は教育や自動車、住宅ローンだけでなく、農業金融に力を入れるべきだ。今年200億円の農林水産業みらい基金をつくったが、われわれも具体的な意見をぶつけていく必要があると思う。
(写真)
鈴木昭雄・2代目代表
◆農協の農業経営参入に筋道
――新世紀JA研究会の要請活動で、ミカン地帯の組合長から、放置園が増えてスプリンクラーが作動できないので、農協が直接生産にかかわることができないかという意見が出て、農水省や全国連へ要請しましたね。
萬代 要請したときは、農家と競合するということで農水省が反対していたが、その後、直接生産できるようになった。
鈴木 もともと企業が農業に参入できて、農協はできないというのはおかしいと思っていたが、いまでも農協が農地を購入しようとすると、農業委員会は農地保有合理化事業でやってほしいといってくる。そのため農協が農業をやろうと思うと、別会社をつくることになる。JA東西しらかわでも、農地の集める場合、生産法人をつくって対応している。昨年末から稼働させた植物工場も、結果的には株式会社にした。
◆発酵飼料稲に期待
――水田利用では、いま飼料稲のホールクロップが期待されていますが。
藤尾 現地では大変評判がよい。ただ難点は機械が高いことだ。一台1500万円くらいする。また飼料稲のホールクロップは固形成分がアップし、乳質がよくなるが、流通経費がかかるという欠点がある。飼料工場が県内にある青森県ではどんどんやっている。地元で消費できればいいのだが。
鈴木 うちでは100%、地元の畜産農家に売っている。ホールクロップは養鶏が一番適しているが、その養鶏が少ない。それで肉用牛に期待している。
藤尾 今は補助金で成り立っているが、飼料稲はまだまだ研究の余地があるのではないか。
鈴木 補助金なしでできる唯一の作目はトウモロコシだ。輸入価格を下回って生産できる。畜産はいかに飼料価格を下げるかがポイントだが、その鍵の一つに不耕起栽培がある。刈りながらラッッピングできる牽引・自走型の収穫機を農研機構が開発しており、これらの技術を導入し、繁殖牛100頭規模のモデル農場を計画している。これを中山間地の農業の決め手にしたい。
――生産コストを下げる水田直播の将来性はどうですか。
藤尾 岩手県でも取り組んでいる。全農が勧めている鉄コーティング技術だが、種が水に浮かばないので、カルパー被覆より成功率が高いようだ。
鈴木 不耕起栽培はアメリカや中国でもやっている。耕起しないので土壌乾燥による土壌流出を防ぐことができる。従来の農業の考え方を変える技術だ。データと映像でみると、不耕起区の根の生長が明らかに優れている。地盤が固く、根がしかっり張っており、台風が来も倒伏しない。
萬代 鉄コーティングは全農でも取り組んでいるが、我々は酸素供給のため水田の耕起は避けられないという先入観があった。
◆国民にアピールを
――これも新世紀JA研究会の要請項目に入れて、農水省に認識してもらう必要がありそうですね。ところで、やはり全国連への要請で、JAの統一広報の強化を挙げました。
萬代 TPPの問題にしてもそうだが、もう少し一般国民に広くアピールする必要がある。全国紙一斉に広告をうつなど、思い切ってやる必要がある。
――農業を工業生産と同じようにみている人が多い。まして一般国民は農業を理解しているとは思えません。
鈴木 その通り。工業や商業と同様に農業を競争するものとしか見ていない。彼らは、農業は現状に甘んじており、それを助長しているのは農協だ。農協があるので日本の農業は発展しない。だからいっそ農協をなくしてしまえという論理で、特に今回全中と全農を槍玉に挙げてきた。
――ただ、我々も協同組合がどういうものかということをもっと真剣に考える必要があるのではないでしょうか。
藤尾 経団連などの話を聞いていると、彼らは、農業のことを知らない。農協に調査や視察にきて現場を見ても、「そういうことがあるんでしょうか」という程度の認識で終わってしまう。もっと農業と農協のことを知ってもらうためのPRが必要だ。
鈴木 農協が本来何をしなければならないかという議論が少ないように思う。無くなると何が困るか。真剣に考えなければならない。
――今の社会で協同組合的なやり方が有用で、会社とはこういう違いがあり、優位性があるのだということを我々も意識しないと。こうあるべきだという信条も大事だが、それを実現するためはどうするのか。方法を示すことが大事だと思いますが。
藤尾 3.11の大震災の時、農協はすばらしい組織だと認識されたが、この熱い思いが次第に薄くなってきたように感じる。その間、我々がどのような取り組みをしてきたかを考える必要がある。
鈴木 いま取り組んでいるモデル農場の畜産経営は地域から出資を募ろうと思っている。地域の人も参加し、利益が出たら配当する。本来の農協のスタートはそういうところにあったはずだ。
参考にしたのは脱原発を推進しているドイツの再生エネルギー事業の経営・組織形態だが、こうした地域で支える組織をどんどんつくっていったらいいのではないかと考えている。
バイオ発電施設建設には、ドイツでも最初は反対の意見があったようだ。しかし、住民が参画することで理解が得られたのだという。植物工場もそのような形態でできないかと思っている。集落営農もその方向で考えたい。
ただ、集落営農については、土地に固執しすぎではないかと思う。まず土地からでなく、最も効率的な経営はどのようなものかというところから入り、それに合った経営組織をつくったらいいのではないかと思う。
(写真)
萬代宣雄・初代代表
◆土地の束縛脱して
――営農組織づくりは大切だが、中山間地域には、ともかく人がいない。どうしたらいいでようか。
萬代 後継者いないのは再生産できる農業所得が得られないからだ。だからアメリカでも膨大な補助金を農業に出しており、日本の中山間地域で補助金なしでやれるわけがない。農業は大事だという国論を起こさなければならない。
鈴木 全中も農水省も農業経営規模拡大というが、1haのハウスで米の10倍の所得を上げることもできる。この視点が必要だ。またほとんどの農家は複合経営で成り立っている。単品の作目でみると収支は厳しいが、農家の実態はそういうところにあるのではない。総体として農家は貧しいわけではなく、むしろすばらしいところが多い。我々はこれをもっと宣伝していかなければならない。それによって生産者の自尊心、自負心、将来の生きがいにつなげたい。
◆見聞を広く求めて
――職員の育成、特に教育のあり方について、どう考えますか。
萬代 JA事業のどの部門であれ、教育なしでは成り立たないだろう。その中で農協の職員は、普通のサラリーマンプラス精神的な運動家的な発想、ボランティア精神、農家組合のためにという思いを心をどこかに持つようにして欲しい。
そのためには国内だけでなく、広く海外にも見聞を広める必要があり、かつての「青年の船」を復活させ、青年部のリーダーの海外研修を企画した。こうした研修でいろいろな体験をした人との接点を持つことは、大変勉強になる。われわれが新世紀JA研究会でやっているのも同じことだ。後継者にそういう機会を与えることが重要だ。
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