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世界に示せ!「地域と家族」の旗印 板橋衛・愛媛大学農学部准教授2014年7月30日

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・自主性無視に怒り
・家族農業に危機感
・どう進める自主改革
・農協の姿勢鮮明に

 規制改革会議・農業WG「農業改革に関する意見」において、「農業協同組合の見直し」が提起(以下「意見」)されたことを受け、国内外の協同組合セクターから反論があがっている。
 6月5日にブリュッセルで開催された国際協同組合同盟(ICA)理事会で村上光雄全中副会長が規制改革を巡る情勢について報告されたこともあり、特に海外からのメッセージとして、協同組合の組織に対して大きな問題になるという認識での反響が示されている。ICA理事会は、日本における協同組合セクターのあり方に重大な影響を及ぼしかねない「意見」について調査するため組織を立ち上げると言われている。

◆自主性無視に怒り

板橋衛・愛媛大学農学部准教授 日本政府による農協への「改革」要求は今回に始まったことではないが、日本の農協組織の頂点的存在である中央会の制度や協同組合の根本に関わる理事や組合員のあり方に言及している点が特徴である。そのため、協同組合組織のあり方という点で多くの海外からメッセージが寄せられたのではないかと思われるが、そのメッセージの背景と意味すること、および日本の農協関係者に問われていることを考えてみたい。
 メッセージの代表的位置づけになるICAによる「規制改革会議による農協組織の改革案に反対する声明」では、「ICAは、協同組合の基本的原則を攻撃するとともに、国連の家族農業年という年に、農家による協同組織の結束と繁栄を脅かすような日本の農業協同組合の組織改革案を非難する」と述べており、主に、協同組合原則と農家(家族農業経営)の2つの側面から「意見」を批判している。他の国や国際機関からのメッセージもアクセントの場所は様々ではあるが、この2つの点は共通している。「農業改革」の内容が、農協のみではなく家族農業の存立にも及ぶ内容であることを正確につかんでいるとみられる。
 「協同組合の基本的原則を攻撃する」とは、1995年に改訂された現在のICA原則では第4原則「組合の自治・自立」に対するものである。
 この第4原則は、かつて「政治的・宗教的中立」として、表現の違いこそあれ、ロッチデール原則や1937年ICAパリ大会で決められた原則に盛り込まれていたものであるが、1966年ICAウィーン大会では削除されていた。それは、当時、社会主義国や植民地支配から脱却した新興国において、一党独裁的な国が多く見られ、それらの国における協同組合をICA組織として認める必要性があったためであるが、協同組合の国家への従属という状態が生じ、協同組合の信頼を失わせる問題にも至った。その反省もあり、1995年マンチェスター大会では、「協同組合の自治・自立」という表現で復活したのであり、協同組合のアイデンティティを明確にした原則でもある。今回の「意見」は、組合員による民主的管理、組合員の自主性を無視した内容であり、明らかに政府による協同組合の自治・自立への攻撃である。再定義した原則の内容を重視する点でも協同組合陣営としては看過できないのである。

(写真)
板橋衛・愛媛大学農学部准教授

 

◆家族農業に危機感

 さらに、農家・農業者の権利が奪われること、すなわち家族農業経営の危機につながる内容を「意見」が含んでいることにも憂いを示している。農協理事への非組合員枠の拡大の可能性や農業生産法人制度の見直しが読み取れるからであろう。 これは、2014年が国際家族農業年であることにもよるが、世界の農業協同組合運動の関係者は、協同組合年と家族農業年を連動的にとらえていることによるのではないかと考えられる。つまり、グローバル金融資本の暴走がもたらした2008年からの世界同時不況から脱却するためには、協同組合運動を発展させることが必要である(協同組合年)が、グローバル金融資本が進める自由貿易の名の下に各国の農業政策が解体し、特に小規模家族農業経営が危機的状況に陥っていることが、食料の安定的生産と流通を脅かしており、家族経営を支える(家族農業年)ことが協同組合運動を発展させることにつながるとの考えである。
 つまり問題の背景は同じであり、協同組合の発展と家族農業の発展は関係が深いということを共通の認識としている。

 

◆どう進める自主改革

 また、ICAは国際協同組合年をスタートとして協同組合をさらに発展させるために、2020年を視野に入れた世界的な目標や戦略をまとめた「協同組合の10年に向けた計画(ブループリント)」を2013年2月に発表している。そこでは、「参加」と「持続可能性」の点であらためて協同組合が他の組織や事業体に比べて優れていることを確認しており、協同組合とは何かという「アイデンティティ」を確立し、世界に広く伝達していくことを目的としている。そのために「法的枠組み」や「資本」の確保を検討しているが、「意見」による日本の農協への攻撃は、まさにこの法的枠組みの点で協同組合運動を阻害する要因になりかねないものと映ったのではないかとみられる。
 このようにみてくると、今回の「意見」がいかに国際社会の期待に反した内容のものであるかが明らかになる。「自己改革」の検討を要求された形になる系統農協側であるが、これらの海外からのメッセージが、自主・自立的に改革を進めていく上で大きな応援となり、勇気を与えるのではないかと思われる。
 しかし、この自主・自立というのは、協同組合原則の「協同組合の自治・自立」と関わることであり、きわめて重い意味を持つと同時に、農協側に相当な覚悟を求めることになる。

 

◆農協の姿勢鮮明に

 今回の「意見」は、農協のあり方に限定された内容ではなく「農業改革」に関する提言であり、その背景には、安倍政権が進めるアベノミクス農政がある。これは、2013年12月に「農林水産業・地域の活力創造プラン(以下「プラン」)」として発表され具体化が進められており、農地中間管理機構の設置で大規模経営が飛躍的に増加することや、農家や農村段階で6次産業化を進めその加工品の輸出が展望できるなど勇ましい内容ではあるが、そこでの担い手は企業の農業参入を前提とした農業生産法人である。また、TPP交渉で関税率引き下げの受入れを前提とした施策であり、大多数の家族経営による農業が成り立つ内容のものではない。
 農協系統は、2014年4月に「JAグループ営農・経済改革プラン」を発表しているが、アベノミクス農政の「プラン」を受けた形であり、その枠組みで、大部分の内容が構成されていることは否めない。
 今回の海外からのメッセージは、震災後の農協の地域における取組みなど、地域社会における農協のこれまでの役割が述べられており、総合事業を営む日本の農協の特徴とその意義が十分理解されているとみられる。しかし、政策との関係や中央会の成り立ちなど、きわめて特殊な日本の農協の実態を正確に理解しているかどうかは疑問である。そのため、「協同組合の自治・自立」に対する認識は日本の農協陣営が考えるそれと全く同じではないと思われる。
 メッセージを寄せた海外の国や機関に対しては、協同組合としての農協の回答が求められており、地域農業と家族経営を守る組織としての農協の明確な方針を示す必要がある。
 協同組合の原則や理念の点で、「意見」に対する反論は可能であろう。しかし、求められていることは、地域農業や国民のための食料確保という視点に立った農協陣営の取組姿勢であり実践である。これまでの農協運動の中で、そうした優れた実践は地域段階で積み重ねてきている。「意見」が示す内容は、地域農業の活性化に反するという実態を背景にした明確な主張、「自主改革」の方向性と実践が求められる。

【著者略歴】
いたばし・まもる
1966年栃木県生まれ
北海道大学農学部卒業、同大学院農学研究科博士課程修了、95年(社)北海道地域農業研究所専任研究員、96年南九州大学園芸学部講師、2001年広島大学生物生産学部助手、准教授、08年愛媛大学農学部准教授。


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