JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
JAの総合事業は地方創生の原動力 JA全中・冨士重夫専務2014年11月4日
農業協同組合が地域を創る
・農地集積どう進める
・直売所から新時代を
・田園回帰を取り込め
・地域支える単協単協支える中央会
・総合性がビジネスモデル
地方創生のためには何といっても農業をはじめとする第1次産業の復権が重要だ。都市への豊かな食を供給するだけでなく、農業という営みが次世代を育み地域の持続につながる。こうした動きを作り出し支えているのは農業振興とともに地域に貢献する事業を展開している総合農協であり、その役割はますます重要になっている。農協改革をどう考えるべきかを含め、JA全中の冨士重夫専務に聞いた。(聞き手は谷口信和・東京農業大学教授)
地域社会への貢献
協同組合こそ実現
谷口 「地方創生」が叫ばれています。どの地域も高齢化の進行と人口減少が課題ですが、たとえば農山村では高齢者でも農業をして“寝たきり高齢化”ではなく“健康長寿化”へとつなげることができる。また、女性が元気に働ける場の創出が人口減少対策には必要ですが、この問題では農業を軸にしたJAの役割が重要になると思います。
冨士 地方創生が強調されるのは、日本全体の人口減少に加え、さらに消滅可能性都市などという指摘も出てきて、地域によっては危機的だとの認識があるからでしょう。しかし、地方の人口減少といいながら、実は出生率は農村のほうが高く、大都市のほうが低いという問題があります。つまり、大都市に人口が集中したけれども、こういう矛盾を抱えているわけです。では地方としては、どう雇用を確保するのか、あるいは地域ぐるみでいかに子育てが円滑にいくようにするかといったことが大事になると考えれば、当然、農業をどう振興するかということになります。つまり、改めて地方創生と言っても出発点の課題は農業だといえると思います。
◆農地集積 どう進める
谷口 その農業振興に向けて、国は地域農業の担い手を創出すべく農地中間管理事業を実施に移しています。どのようにみていますか。
冨士 この事業は結局、都道府県の農業公社が農地中間管理機構となり、そこから市町村に事業を任せているというのが実態です。しかし、実務が回っていない、システムが未整備だといった声を聞きますから、まだ積極的に推進する状況にはなっていないのではないかと思います。
業務委託を受けるJAは211JA、30%程度にとどまっているということですし、農地の出し手を支援する地域集積協力金も予算の関係で県によって対応がばらばらになっているという問題もあります。これまで先進的に農地流動化を進めてきた地域ほど取り組みが進んでいない状況です。
現場の意見を率直に受け止めてシステムなり事業内容なりを見直してもらうためにも、国がもっと関与する必要があると思います。
谷口 担い手育成は急務ですが、各地で調査すると大規模経営が地域農業を、自己完結的に担っているところはほぼありません。逆に大規模になればなるほど、水管理や除草を地域に任せています。本紙でレポートした富山県の大規模法人も3?4割は地域の人々に再委託して初めて300haの水田経営が成り立っていました。しかし、どうも農地中間管理事業でめざしている経営体づくりはこの方向に合わないのではないかという気もします。
冨士 たしかに多様な複合農業経営を想定しているのかといえば、そうではなくて単作の大規模経営といった姿を追求しているといった印象があります。大規模な集落営農組織を見ても、地域の人たちが野菜づくりを担うといったかたちで当然、複合経営をしています。その仕組みのなかで農地を維持して経営が回っていくような姿を想定して農地を集積していくことも大事だと思います。
谷口 つまり、農地を集積することは大事ではありますが、そこでどんな農業を展開するのかを考えなければいけないということですね。その日本農業の再生に向けては、実はこれまで考えてきた以上にJAが主導して運営している直売所の意味が大きいと思います。
(写真)
JA全中・冨士重夫専務
◆直売所から新時代を
冨士 まさに地域活性化の大きな拠点になっていると思います。今、JAのファーマーズ・マーケットは全国で2300所あります。年間売上げは2700億円程度で年々伸びています。
生産者も高齢者から女性の方々まで、それぞれの営農条件のなかで活気を持って取り組んでおられますし、自分で値段をつけて売るという、生産から販売までの喜びが直に感じられる場所になっています。さらにファーマーズ・マーケットを拠点にして学童農園や食農教育など地域の暮らしに密着した取り組みに拡大していくという非常にいい方向に進んでいます。
谷口 今まで農協と付き合いのなかった生産者も参加して地域農業の新しい結びつきが生まれているような気もします。
冨士 協同組合間協同の場としても重要ですね。自分たちの地域では作れない農産物を北から南から供給するネットワークをもっとつくることも求められると思います。これは物流の合理化を考えることにもなり、JAグループによる恒常的な全国ネットワークを組むことでもっとコストを安くすることも実現できると思います。
それからインターネット販売もファーマーズ・マーケットを拠点に展開することもあり得ると思います。直売所はストックポイントにもなりますから、それをネット販売と組み合わせる発想もあっていい。どう活用していくか戦略的に考えたいですね。
(写真)
谷口信和・東京農業大学教授
◆田園回帰を取り込め
谷口 同時に定年帰農者や新規就農者の動きをみると、地方・農村・農業への見方に大きな転換が生まれています。こうした流れをどう見ていますか。
冨士 われわれも関わって「ふるさと回帰100万人運動」を展開してきましたが、これは活況を呈していて定年帰農だけではなく若い人の田園回帰もどんどん生まれています。つまり、田舎に戻るという動きと、田舎はなくても定年後は農村へ、あるいは定年前に農村にも住居を持ち週末はそこで暮らすというライフスタイルを選択する人もいます。それに加えて30代、40代の若い世代が農村で子育てをして家族一緒に豊かな暮らしをしたいという価値観も出てきました。その変化が重要だと思います。
それをJAがサポートするため、定年帰農や週末営農の方などにきめ細かく対応できるような受け皿づくりをやっていく。そこから地域に住みたいという人を増やし活性化につなげる。これは市町村と一緒にやっていくことが大事だと思います。
谷口 農業以外の組織とのコラボレーショも重要だと思います。たとえばIT企業も農村部に拠点を設けたりしていますが、それをJAがバックアップして農村部に新たな人材を呼び込むといった発想も期待したいです そうした農村部での暮らしを支えるJAの事業は農業だけでなく総合事業として地域社会の維持・発展に貢献できたと思われます。
今、農協改革が課題になっていますが、全中と単協は車の両輪であって総合農協制度を支えていると思います。改革論議をどうみていますか。
◆地域支える単協 単協支える中央会
冨士 中央会は総合企画部だと言われます。全中は全国情勢のなかで、県中はその県版で方向を示す。中央会が総合企画をしてくれるから単協は自分のことに専念できる。そういう機能を果たしていると思います。
しかし、農協改革のこれまでの議論では、中央会がどういう機能を果たしているかの議論がまったくない。とにかく農協法上いらない組織だ、というだけです。
これから10年先、20年先を見据えたとき、何が中央会という組織に求められるのか、そこを整理して議論し、ではそれをきちんと機能させていくための組織形態や法律上の位置づけはどうなのか、と整理していく議論が必要です。
ところが今の議論はまったく逆さま。組織形態ありき、一般社団法人でなければだめだ、という話でしかなく、まったくおかしなことです。
地方創生、地域再生というのであれば、改めて職能組合と地域協同組合の性格を併せ持った総合農協の意義を位置づけるべきです。ところが単協についても専門農協化や事業分離、さらには准組合員の利用制限というような話でしかない。
冨士 今の時代環境を考えても農業振興と地域振興を合わせ持って事業を展開してきたことは、一種の有力なビジネスモデルと考えるべきだと思います。世界がうらやむ総合事業体としての協同組合であり、まさにこれをきちんと法的に整備することが大事なのです。
(写真)
インタビューのようす。冨士重夫専務(右)と谷口教授
◆総合性がビジネスモデル
冨士 われわれも第26回JA全国大会で決議した「食と農を基軸にした地域に根ざした協同組合」が基本的スタンスであり、持続可能な農業と豊かで暮らしやすい地域社会を実現することをめざしています。そのためにさまざまな役割を発揮しているわけですから、そこに必要な法的な手当をきちんとする。それを壊すということでは地域はますます弱体化し、コミュニティの拠り所や結節点というものがなくなって、それこそ地域がばらばらになり人口はさらに減少するということになります。
谷口 今回の農協改革は単協を活性化させることが表向きは強調されています。しかし、考えなければならないのは総合農協を問題視している点です。実際に中央会がなくなれば総合農協は運営できますか、ということだと思います。農協は農業振興に専念をといいながら、実は地域を支える農協の総合性を破壊していく論議なんだということをもっと前面に出して批判していかないといけません。
冨士 単位農協が総合事業体として存在するのは、各事業を補完する連合会の役割と、それを束ねて一体のものとして成り立つよう支えている中央会があるからだということです。中央会、さらに補完する連合会もなくなれば、単協の総合事業も成り立たなくなる。そこに持っていこうとする方向感がにじみ出ている。
しかし、金融まで含めた総合事業は問題だと言われますが、イオン銀行やセブン銀行はどうでしょうか。同じ店内でワンストップ対応し多様なニーズに応えているではないですか。地方に行けばいくほどこうした総合事業体が求められているわけで、まさに総合農協は地域振興のためのビジネスモデルです。そこを壊そうというのはまったく理解できません。
谷口 その視点は非常に重要でもっと発信し議論を深める必要があります。ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
全国事業本部を起点として各地にチェーンで展開するコンビニが商品の販売だけでなく、各種のサービス提供、はては金融にまで事業を広げて総合化するビジネスモデルを繰り広げている。
一方、農業を起点とした地域の経済・社会を支えている有力な担い手が農協であり、その存続は事業の総合性によって初めて担保されているにもかかわらず、総合農協を事業ごとにバラバラにして効率化を図るというのが政府の農協改革方針だ。
しかも、系統農協の60年間に及ぶ全中―県中央会―農協という組織のどこが”岩盤”であり、どんな問題を抱えているのかが明確にされていないにもかかわらず、これにドリルで穴をあけるという。こんな手前勝手な議論には負けられないという冨士専務の静かなる闘志に感動した。心から応援したい。(谷口)
(特集目次は下記リンクより)
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