JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
中央会解体はJA潰し JAは何を主張すべきか 石田正昭・三重大学招へい教授2014年11月5日
・JAなき農業は幻想
・改革の背景にTPP
・農協の総合性の発揮と地域貢献を法制度に
今回の農協改革案にはいくつかの特徴があるが、最大の特徴は中央会改革に切り込んだこと。中央会という系統組織のシャッポを取ることによって、ともすれば分化に走りがちの各事業連を統合する機能が失われ、各事業連が思い描く絵柄で組合を動かせるようになる。
全農の株式会社化や信用・共済事業の代理業制度の普及促進はその際たるものだが、その行く末は総合農協がバラバラに解体され、総合農協でなくなることを意味する。
もう一つの特徴は、農協改革とほとんど関係のない農業の成長産業化を前面に押し出していること。総合農協をバラバラに解体して農業振興が図れるというのは幻想で、総合農協だからこそ農業振興が図れる。一部の突出した担い手だけを対象とした農業の成長産業化は農協の求める姿ではない。
◆JAなき農業は幻想
現行農協法で中央会は「特別民間法人」と規定されている。この規定によって全国に一つ、都道府県に一つの設置が可能となっている。今回はこの規定を外し、自律的な新たな制度に移行させると主張している。
その有力な形態は農協法の規定に基づかない一般社団法人だが、その見本は日本経団連。全国中央会が日本経団連と同等に位置づけられるのは光栄だが、片や業種、資本関係を超えた大企業中心の経済団体、片や理念も同じ、資本関係もある経済的社会的弱者の経済団体を、一緒くたにする議論は受け入れられない。
特別民間法人は悪の根源のように言われるが、農協系統組織の一員である農林中金も、全国各地の商工会議所を束ねる日本商工会議所も、中小企業等協同組合法で規定された全国中小企業団体中央会も、さらには今回改革の遡上に乗せられている全国農業会議所も、みな特別民間法人だ。
なぜ農林中金や全国中小企業団体中央会がよくて、全国中央会がよくないのか、理屈はない。全国で約700の農協の自主・自律を縛っているというのが政府・政権側の主張だが、それを言うなら、行政庁が握る認可権、監督権をどうするのかも議論しなければ不公平だ。
農協の自主・自律を縛っているのは中央会ではない。農協を攻撃してやまない行政庁である。規制改革とは、本来、行政庁が握って離さない既得権益の解放に向かうべきものだ。
(写真)
石田正昭・三重大学招へい教授
◆改革の背景にTPP
中央会改革の真の狙いは、そんな理屈の世界ではなく、TPP反対運動を続ける全国中央会を黙らせることにある、というのは誰しもが認めるところ。
にもかかわらず、9月30日に全国中央会から発せられた「中間とりまとめ骨子」はアンビバレント(両面価値的)な内容を持つ。一方で政府・政権側をおもんばかる姿と、他方で協同組合のアイデンティティを確保する姿とが混ざり合っている。行政庁によって保育された歴史から完全には解放されていない姿が読み取れる。
交渉事だから、この段階で手の内を見せるべきではないが、全く言及されていないのが中央会の組織の在り方だ。政府・政権側のマスコミ操縦術は長けていて、10月15日の日経新聞は「JA全中、一般社団法人への転換容認」、17日の朝日新聞は「全中の自己改革案、組織は現状維持で」という両極端の観測記事を載せている。
私見であるが、これについては4つの選択肢がある。[1]農協法に措置されない一般社団法人、[2]農協法に措置された一般社団法人、[3]農協法に措置された連合会、[4]現行法通りの特別民間法人。
日経は[1]、朝日は[4]を掲げたが、法律の裏づけのない組織で中央会事業を維持するのは難しく、また現行法通りでは安倍首相の責任問題に発展する。どちらもあってはならない選択だ。
妥当なのは[2]と[3]だが、[2]は全国に一つ、各都道府県に一つという設置数(指定法人として措置)と、中央会事業の独禁法適用除外を書き込む必要があり、結果的に現行法とどこが違うのかという議論になる。
協同組合のアイデンティティの確保という点から見ても、法改正の手続き面から見ても、[3]の連合会が自然な選択と考える。連合会だから、独禁法適用除外は法定化されている。事業も農協法10条に書き込めばよい。名称も「〇〇中央会農業協同組合連合会」でよい。問題は設置数だが、これは自己改革で達成すべきものだ。
このように考えると、今回の中間とりまとめ骨子で、中央会機能について、これまでの統制的・一律的な指導を排し、農協の自律的な発展を支援する立場から「経営相談・監査機能」「代表機能」「総合調整機能」に集約したことは評価できる。
◆農協の総合性の発揮と地域貢献を法制度に
連合会を選択することによって、中央会以前の指導連に先祖返りすると考えるのは早計。かつての指導連は農事指導の指導連であって、経営指導を含む多面的機能を発揮できなかった。だからこそ中央会制度が措置されたのだが、今回構想すべき連合会は「農協のアイデンティティと総合性」を担保するための支援組織とすることが重要だ。
蛇足だが、指導から支援へ、という脈絡で捉えれば、農協事業を規定する農協法10条1項1号の「農業の経営及び技術の向上に関する指導」は「支援」に改められるべきだ。
中間とりまとめ骨子でもう一つ重要なことは「農協の定款等を一律的に規制する模範定款例の廃止」を謳ったこと。地域の状況に応じて多様な展開をみせる農協を一律的に規制するのは望ましくない。これは当然だが、模範定款例を廃止しても、行政庁の認可権が今のままならば事態は何も変わらない。あるいはもっと悪いことになる。
農協改革の肝は組合員制度の自由度を高めることにあるが、これを可能とするには行政庁の認可権の縮小、実務的には「総合的な監督指針」を書き改めることが重要だ。これが措置されないまま、模範定款例だけを廃止するのは適切ではない。
(写真)
「協同組合の力で農業と地域を豊かに」を決議した第26回全国大会(2012年10月)。今こそ結集力が問われている。
◆大きな問題は監査
ここでは触れないが、中央会改革の隠れた大きな問題は監査士監査。これについて、正真正銘の外部監査化を求める政府・政権側と監査士監査の法定化を求める農協側との攻防となっているに違いない。
各地の講演会で実感することだが、組合員と一般職員の関心は薄い。これにはそれぞれの理由があるが、一言で言うと「他人事」という点にある。中央会ならびに全農の在り方は、組合員にとっても、一般職員にとっても、自らの関心の外側にある。
今回の改革論議は、「組合員参加」を大切に考えてこなかった農協側と、農協の「自主・自律」を無視してきた政府・政権側の、お互い様の感が強い。組合員参加は協同組合原則の第二原則、自主・自律は第四原則だが、これらをお互いに尊重してこなかったのだ。
改めて強調したいのは、戦後農協は、戦前の産業組合(信用組合を基点とする四種兼営組合)、行政補完的な農会、米国の販売農協(ケンタッキー州ビングハム販売協同組合)の三元交配から生まれた。このため生まれながらにして地域組合と職能組合との複合的性格を持つ。この歴史的事実を忘れた議論は砂上の楼閣となる。
農協の役割は農業所得の向上にあると西川農水相は言うが、今や担い手の所得の源泉は農産物販売ではなく、政府の直接支払いにある。この現状をどう考えているのか、農水相に問い質したいというのが心ある農業者の本音ではないか。
何はさておき、真に議論すべきは農協法1条の「もって国民経済の発展に寄与する」という条文を「もって地域の発展に寄与する」に書き換える点にあると主張したいが、地方創生を謳う安倍首相はどう考えているのであろうか。
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