JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
【現地ルポ・JAはだの(神奈川県)】JAは地域のバックヤード2014年11月6日
・市民農業塾「農」をとりまく「やりがいづくり」
・農産物直売所新規就農に販売の場
・組合員教育地域のリーダー育成
・組合員との絆が職員育てる
首都圏の中都市、神奈川県秦野市を管内とするJAはだの。都市近郊ではあるものの、信用・共済事業中心の大都市型JAではない。しかしながら管内では急速な都市化の進展に伴い、農業従事者の高齢化、後継者不足、兼業化などが進み、都市型農業への移行を余儀なくされている。大都市地域と農業地帯の中間に位置する当JAで、どのようにして、地域に「農」を中心としたやりがいを醸成し、農業の再生を実現しているのか。そして、地域を支えるJAとして、職員のモチベーションをいかにして高め、人材育成に結び付けているのか。その仕掛けづくりと根底に流れる「協同」への想いを取材した。(JC総研・小川理恵)
◆市民農業塾 「農」をとりまく「やりがいづくり」
今年で8年目を迎える「はだの市民農業塾」は、新規就農を中心に、様々な形で農業参画を希望する市民を対象とした農業塾だ。地域の都市化が進み、総体的な農業生産力が低下するなか、中核的な農家へのサポートと、一般市民の農業への参画を促すために、秦野市・農業委員会・JAはだのが共同して立ち上げた「はだの都市農業支援センター」が手掛ける事業の大きな柱である。
農業参入希望者を対象とした「新規就農コース」、市民農園等の利用者を対象とした「基礎セミナーコース」、農産加工品の製造販売希望者を対象とした「農産加工起業セミナーコース」と、実力や目的に応じて、細かくコース分けがなされているのが特徴だ。
なかでも「新規就農コース」は、定年帰農者を中心に、新たに農業者として農業参入を希望する人向けのもので、実践研修を柱とした本格的なカリキュラムが組まれている。年間50万円以上の売り上げ目標という具体的な指標を掲げつつ、就農に必要な知識や技術を、農場での露地野菜の慣行栽培実習を通して、2年間かけて学ぶ。
無事修了した受講生には、秦野市内の農地が斡旋される。コーディネーターは農業委員会だ。受講生からすれば、学んだことをすぐに実践できる場所が用意されるから本気で取り組めるし、一方、地域にとっては、農業従事者の高齢化や後継者不足による農業生産力の低下への歯止めとなる。
基本的には市内の住民が対象ではあるが、たとえ市外・県外からの応募であっても、秦野市内での就農が可能な人ならば受講を受け付けている。募集の際に、面接による綿密な選考が行われるのもそのためだ。「新規就農コース」は毎年7?8人が受講し、これまでに延べ59人が修了、うち47人が市内で実際に就農している。
(写真)
常時出荷者約400人、年間10億円販売の「はだのじばさんず」
◆農産物直売所 新規就農に販売の場
丹精込めて育てた農作物を売る場として、農産物直売所「はだのじばさんず」という販売ツールが確立されていることは、新規就農者にとって実に心強い。出荷者自らが販売額や販売量を決め、売れ行きも直接確認できる農産物直売所は、生産規模が小さい新規就農者の有効な販路であり、それがやりがいに直結していることは言うまでもないだろう。
「はだのじばさんず」は、2002年11月の営業開始以来、順調に売り上げを伸ばしており、ここ数年は、毎年約10億円の販売高を誇っている。また、現在出荷登録者数は849人、常時出荷者は400人にも上る。もちろんこの中に、「新規就農コース」の修了者たちも含まれている。
この高い売上額と出荷者数の多さは、「はだのじばさんず」という直売事業と「はだの市民農業塾」をはじめとした営農指導が一体化しており、その結果、バラエティーに富んだ少量多品目生産が実現して、「作る側」と「買う側」の双方が満足を実感していることの現れだ。
「はだのじばさんず」では、年間売り上げ100万円以上を達成した出荷者を、毎年1回行われる「じばさんず元気いっぱい生産者大会」で表彰しており、生産者の意欲向上に一役買っている。
◆組合員教育 地域のリーダー育成
地域のやりがいづくりを仕掛ける一方で、JAはだのでは、組合員教育事業による地域のリーダー育成も積極的に行っている。「本物の組合員づくり」は「組合員教育」にあり、それはやがて「我がJA」への帰属意識となって、「自分たちの地域は自分たちで盛り上げる」という意欲の高まりへ直結する。その中核となるのが、地域をまとめるリーダーたちだ。
1982年に、全組合員数を7000人と想定して、組合員1人当たり5万円、合計3億5000万円を目標とした積み立て基金を開始。それを財源に、1983年から継続して組合員講座を開催している。
講座は、新たに加入した准組合員向けの基礎(予備)講座、農政コースと生活コースからなる組合員講座、そして組合員講座の修了者を対象とした協同組合専修講座の3つで、2013年度末時点で、講座修了者が1997人となった。これは全組合員数1万3500人の約14%に当たる高い割合だ。
この講座で学んだ人たちが、それぞれの地域のリーダーとなり、学んだことを地域で広める役割を果たす。学びの結果、各地でリーダーが育ち、それまでばらばらだった地域がまとまり、そこから新たなつながりが生まれている。
(写真)
新規就農者にも心強い直売所
組合員との絆が職員育てる
古谷茂男・代表理事組合長
――JAはだのでは、組合員や地域住民の生きがいづくり・リーダー育成を積極的に行っています。それを支えるのがJAの役職員の役割ですが、一方で組合員と役職員の心の乖離という問題を抱えるJAも多いのが現状です。
JAはだのが実践していることはいたってシンプルです。毎月26日を「組合員訪問日」として、管内の全組合員宅約1万世帯を職員が訪問しています。
訪問日を曜日ではなくて日にちで決めたのは、毎月訪問日が変わるとなかなか覚えてもらえないし、なんといっても、農業は曜日で動いてはいない、という組合員目線で考えた結果です。だから、たとえ日曜日だろうと、祝日に当たろうと、毎月必ず26日に実行しています。
――毎月継続するのはとても大変なことだと思います。組合員訪問の効果とはなんでしょうか。
組合員訪問ではJAはだのが毎月発行している機関紙を配布するのですが、そこには隠れた2つの効果があります。1つは組合員の生の声を聞くチャンスだということ。そこから解決すべき問題点が見つかったり、新たなアイデアが生まれたりすることもあります。もう1つは、JA職員が自ら考えることを学ぶ機会としての意味合いが強いということです。
組合員の意見を直に聞けば、「この人たちのために何が必要なのか。自分には何ができるか」を真剣に考えるようになる。それは職員の自主性を醸成し、強いモチベーションとなって彼らを支えます。
訪問は240人いる正職員のうち、留守番部隊90人を除いた150人で行います。1日で1人平均73戸をまわるのですからかなりハードです。でも、昭和43年8月に始まって以来、これまで一度も休まず実行しています。
それは、月に1日の訪問が、組合員と職員の心を結び、それが、地域の新たな絆となっているからです。今ではJAの留守番部隊を思いやり、26日にJAを訪ねてきたり、電話をしてきたりする組合員ががぜん減りました。そこまで、組合員訪問日は地域に浸透しています。
――組合員と職員の強い絆が、職員のモチベーションを高め、人材育成につながっているのですね。その他に、組合員と職員の結びつきを深める仕掛けはありますか。
20年以上前から、毎年、春と秋に1度ずつ座談会を開催しています。今年の秋は9月29日から10月14日まで、84会場で行いました。JAからは係長以上の役職員が9班に分かれて各会場に赴き、組合員と直接対話して、意見・要望や、時には苦情も伺います。1会場に集まる組合員は15?16人。できるだけ小さい規模にし、ブロックを増やしているのは、少人数の方が発言しやすく、組合員の本音を聞くことができるからです。
座談会に正式に出席するのは係長以上の役職員ですが、一般の職員も、一度はどこかの会場に参加することにしています。座談会も、組合員訪問と同様、職員教育の一面も持ち、職員が組合員の方を向いた事業展開を考えるきっかけになっています。職員の階層別研修なども積極的に行っていますが、それらの研修以上に、組合員訪問や座談会が、職員の人材育成に当たって重要な役割を果たしていると思います。
――最後に、今、政府による一方的なJA改革が叫ばれています。特にJA全中の役割が不明瞭だとの指摘がありますが、その点についてどう思われますか。
協同組合というのは、弱い者同士が集まって力を発揮するための場。一つ一つのJAが持つ力は弱く、それぞれがバラバラに声を発しても、政府にも国民にも届きません。その声が1つになったとき、初めてムーブメントが起こる。
そのためには、それぞれのJAの想いを拾い上げてくれる、まとめ役が必要なのです。その役割を担っているのがJA全中だということを、各JAがもっと認識すべきだと思います。自己改革が求められている今、全国694のJAがそれぞれの地域で思いを巡らせ、それをJA全中に結集させて、声を挙げていくことが必要です。今こそJAの総合力発揮のときだと思います。
――ありがとうございました。
【JAはだの(神奈川県)概況】
○正組合員数:3034名(うち法人9)
○准組合員数:1万506名(うち法人19)
○職員数:403名
○貯金残高:2063億円
○長期共済保有高:4636億円
○販売品販売高:25億円
○購買品供給高:39億円
○産直事業:6億円
(平成26年3月末現在)
(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する
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