JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
【現地ルポ・JA富里市(千葉県)】「作る力」バックに「売る力」を強くする2014年11月7日
・多様な販売事業を展開
・農家所得向上のために
・農業は地域の基幹産業
・販売は農協が責任もつ
・農協は不可欠な存在
近年「実需者など販売先のニーズに応えた生産と販売」とよくいわれる。これに早くから取り組んできたのが、JA富里市だ。首都圏に近いという地理的な条件を活かし量販店や食品加工業者の「原料基地」となるべくさまざまな工夫をしてきたことは、すでによく知られているが、今回はそれがなぜ可能だったかを取材した。
(写真)
全国ブランドの「とみさとスイカ」。上は富里のキャラクター。左「とみちゃん」と右「さとみちゃん」
◆多様な販売事業を展開
房総半島・千葉県の北部、北総台地の中央に富里市がある。東西約10km、南北約11kmとさほど広くはないが、東京都心から50?60km圏内、成田空港へ約4kmという地理的条件に恵まれ、北総台地の高台にあり高崎川・根木名川の源という肥沃な農地に恵まれた日本有数の畑作地域だ。
JA富里市は、この富里市全域を管内とし、スイカやニンジンなどの野菜を中心として、市場出荷のみに頼らない多様な販売事業を展開していることで知られている。
改めてJA富里市の販売事業を整理してみるとその最大の特徴は「販売先(実需者)を確保」した流通、「作る前に売る戦略」をたてる「組織共販」の取り組みにある。
具体的な取り組みを要約してみると、
▽卸売市場との取引き
▽仲卸業者との取引き:産地契約やスポット契約で販路を拡大。中食・外食などの業態からの野菜注文が多い。
▽量販店サービス:野菜のピッキング処理やジャストインタイムという立地を活かした多様なサービス提供。
▽原料企業との取引き:加工馬鈴薯(カルビー)、加工ニンジン(ゴールドパック)など農協主導型企画提案により組合員が契約栽培。「農協が組合員を選択、組合員が農協を選択する時代」全て権利と義務の遂行が前提。
▽食産業との取引き:加工卸企業や中食、外食産業との契約栽培。農協主導で提案し参加組合員を募集する。
▽マーケットイン(直販):量販店や食品スーパーへのインショップ。イトーヨーカドー100店舗、西友9店舗、ヤオコー13店舗など。
▽産直センター:地産池消を促進する小規模産直店舗。
▽地元業者向け取引き:学校給食、養護施設・老人医療施設などに、地方市場が衰退するなか、産直センターが給食野菜などを供給。
(写真)
富里を代表するスイカをデザインした巨大なガスタンク(※)
◆農家所得向上のために
こうした事業の展開は一朝一夕にできたわけではない。
昭和40年代後半は、今日のように生産部会が組織されておらず、生産物ごとの任意組織が多かった。そして農産物を扱う商人や肥料メーカーが多く、購買事業も販売事業も「戦国時代的な様相を呈していた」。その後、昭和50年代前半に、農家所得を確実に向上させるために、農協が各生産部会を徐々に立ち上げ、生産者と農協が一体となって市場販売に取り組み始める。
その後、市場出荷一辺倒では難しくなると考え、平成8年に産直センター1号店をオープンすると同時に、平成10年に業務を開始するパッケージセンター(PC)の前段となる業務に手をつけ、市場外の量販店などの要望に応える組織づくりに取組む。さらに、15年には地場野菜部会を設立し、大手量販店への直接販売体制を構築、16年には産直センター2号店をオープンする。
こうした取り組みによって、平成25年度の農協の販売取扱高は80億円強と8年度より約28億円も増加した(販売金額に占める米麦落花生類と畜産類の合計は7%弱)。
こうした事業に取り組んできた背景には、長年にわたってカルビーやカゴメなどの企業と取引きしてきた歴史や「開拓精神があり新しいことを手掛けることに抵抗感がなく、組合員も協力的だという」環境があったという。
だが、根本実組合長はそれ以上に「畑作地域には水田地帯のような国の施策がないので、自分でやっていくしかない。農家所得を向上させるためには、農協は組合員と一緒になってやらなければならないという使命感」が一番だったという。そして「農家のことを考えれば、どうやって生産物を有利に取引きすることができるかと考えてきた結果だ」とも。
橋本吉富常務も「いろいろなことをやってきた」と振り返る。そこには成功事例だけではなく、苦い思いをした経験もあるが「農家のためにと考え」農協が一所懸命に取り組んできたということだ。
(写真)
左から島田さん、根本組合長、橋本常務
◆農業は地域の基幹産業
富里市は市長自らが「基幹産業は農業」と位置付け、農業振興に力を入れている。富里の代表的な農産物といえばスイカだ。スイカの出荷の最盛期である6月には「富里すいかまつり」が、そして第4日曜日には、全国から1万2000人余のランナーが参加する「冨里スイカロードレース」が富里市をあげて毎年開催されている。
しかし、JA富里市の資料を見ると出荷実績がある農産物は、37品目もある。ここには「花き類」「地場野菜」とまとめて表記されているものもあるので、実際には50品目近くあるといえる。
なかでもスイカと並ぶ富里の代表的な農産物がニンジンだ。生産部会である「人参部」は「西瓜部」の190名を上回る384名の部員がいる(25年度)。富里市によればニンジンの市町村別収穫量は2万トンで「全国一」。11月下旬には富里の自然や史跡を巡る「富里にんじんウォーク」が開催される。
このほか、ダイコン、トマト、サトイモ、ゴボウ、ショウガの収穫量も千葉県内トップクラスにあり「1年中いつでも旬の味に出合える首都圏の農業王国」(「とみさとノート」富里市発行)だ。
◆販売は農協が責任もつ
ニンジンが富里で生産されるようになったのは、昭和50年ごろだという。ニンジンの産地は日本全国にあるが「北総台地が一番合っている。他の産地とは色も味も違う」と人参部(生産者部会)の島田満部長は胸を張る。なぜなら、土質がもっともニンジンに向いているからだ。
昭和50年代までの富里はスイカ全盛で面積も販売高もいまの倍はあった。また、馬鈴薯、ダイコンやハクサイも生産され個人で市場に出荷していたが、所得を向上・安定させるためにスイカや馬鈴薯の「裏作」としてニンジンが導入された。「販売単価も良かったので収入も年間通し安定してきた。そして収穫や洗浄などの機械化が進み効率的になったこともあって作付面積は年々増えてきた」と島田さん。現在の作付面積は500haで、さらに増える見通しだという。
人参部は、農協の営農指導と協力して新品種の試験栽培から品種選定を行っているが、品種の決定にあたっては「誰が作ってもよくできるものを選ぶ」ようにしている。産地として集荷する品質のばらつきをなくすためだ。
そして選果・箱詰めは生産者がするので「どの箱を開けても同じ規格・品質」でないと販売先からクレームが出て販売単価が下がるので、「選果はきちんと責任をもってやってもらう」ことを徹底している。
事前に農協の販売担当と相談はするが、出荷後の販売については「全面的に信頼しているので、農協にまかせている」。生産者は「作り手としてあくまでも、高品質で高収入を得られるものをつくるか、生産に集中」したいからだと島田さん。
富里の生産者は「個の力が強く、熱心で前向きで精一杯できるだけのことをやって、他には負けないという意識をすごくいっぱい持っています。スイカでもニンジンでも全国一をめざしている産地」だと島田さんがいうように、強い「作る力」を持っている。この力を背景に農協は販売に責任を持ち「売る力」をつけてきた。この二つの力が相乗効果をあげ、いまのJA富里市という農協の姿がある。
(写真)
ニンジンの収穫量は全国一(※)
◆農協は不可欠な存在
これからの課題としては、「経営規模が大きくなってくると経営的には法人化していくだろう。そのときに簿記を含めて農協が経営指導していく必要がある。また、売上げ規模が大きな経営体には、販売はもちろん資金的な面を含めて緊密な関係をつくっていくことが大事だ」と橋本常務は考えている。
「農協改革」について、「農協をなくそうとしているとも見える。農協がなくなったら私たちは困る。私たちは農協とともに歩む」と島田さん。地域の基幹産業である農業を守るためには「農協は必要不可欠な存在だ」と根本組合長は語った。
(写真)
収穫したニンジンを選別する島田さん(※)
(※の写真は、富里市「とみさとノート」提供)
【JA富里市(千葉県)概況】
○正組合員数:1780名(うち女性325名)
○准組合員数:1126名(うち女性244名)
○農家組合:39農家組合
○職員数:132名(うち役員16名)
○貯金残高:196億円
○長期共済保有高:969億円
○販売品販売高:74億円
○購買品供給高:18億円
○資産管理事業:3222万円
○産直事業:6億円
(平成25年12月末現在)
(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する
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