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【現地ルポ・JA信州うえだ(長野県)】住み慣れた地域で安心して老いたい2014年11月10日

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・地域の住民運動から生まれた特養ホーム
・超高齢社会におけるJAの役割を明確に
・“老い”を自然に受け止めて…

 生活の中に溶け込み、地域との壁のないジェイエー長野会の特別養護老人ホーム。これからの高齢者介護・福祉のあり方を、JA信州うえだの芳坂榮一組合長に聞いた。(JC総研・小川理恵)

地域の期待に応える、それがJAの使命

インタビュー JA信州うえだ代表理事組合長・芳坂榮一氏


――JA信州うえだで、福祉事業に取り組むことになったきっかけを教えてください。

toku1411100101.jpg 平成6年に7JAが合併し、JA信州うえだが誕生しました。合併に当たって策定した「合併基本構想」では、加速度を増して高齢化が進む地域を支えるには、福祉事業への取り組みが不可欠であることが確認されました。しかし、福祉事業に関わるのは初めてのことですから、いったい何から実践すればいいのか分かりませんでした。そこで、管内の独居老人・老夫婦・家族介護者を対象に、「JA信州うえだ助け合い訪問調査」を実施することにしたのです。
 調査票を配って記入してもらうのではなく、JAの職員・JAの女性部員のほか、地元のJA長野厚生連鹿教湯(かけゆ)病院の訪問看護師さんにも協力をあおぎ、組合員宅を訪問して、直に聞き取りを行う形をとりました。地域の生の声を聞いて初めて、本当のニーズを拾いあげることができると思ったからです。1000戸を対象に調査を行い、683戸の皆さんからご意見をうかがうことができました。

――訪問調査ではどのようなことが分かりましたか。

 地域の人々が求めているものには、大きく2つありました。1つは農業所得の増大で、もう1つが地域の福祉の充実です。特に、日常生活で心配なこととして「健康関係への不安」を挙げた方が全体の67%にも上っていることが分かりました。老人ホームやデイサービスなど高齢者が集まれる施設の設置を求める声も多く、JAへの高齢者対策への期待が高いことが示されました。そこで、平成8年に「JA信州うえだ保健福祉推進委員会」を設置し、それを保健・福祉活動を進める上の母体として、JAとしてできるところから取り組みを開始することとしました。

 

◆地域の住民運動から生まれた特養ホーム

――具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

笑い声が絶えない「手芸の会」も地域住民によるもの 訪問調査では「介護や福祉について相談できる場所がほしい」という意見が多く出されていました。そこで、その要望に応えるかたちで、福祉に関する相談受付と用具の販売を目的とした「JA福祉相談センター」を平成8年に立ち上げ、具体的な福祉事業の拠点としました。評判は上々で、徐々に相談件数が増えるとともに相談内容も高度になっていきましたので、翌年には厚生連鹿教湯病院からの出向で、医療ソーシャルワーカーを配置し、さらに平成10年にはセンター内に訪問看護ステーションも併設しました。
 その後、JAの福祉事業が少しずつ地域に浸透し行政の耳にも評判が届くようになっていきました。そして平成10年に行政からの受託で「塩田デイサービスセンター」を開所しました。JAが行政受託による施設運営を行うのは長野県でも初めてのことでした。

(写真)
笑い声が絶えない「手芸の会」も地域住民によるもの

 

――地域の声を汲み上げて、JAが実践する。それがJA信州うえだの福祉事業の本質ですね。その代表的な取り組みである、特別養護老人ホームの「ローマンうえだ」について教えてください。

「ローマンうえだ」の外観 ローマンうえだは、地域の強い要望から生まれた特別養護老人ホームです。平成11年、地域の医療体制に不安を感じた、JAの農家組合員を中心とした地域住民から、医療・福祉施設の誘致運動が起こりました。地域住民のほぼ100%の意思確認署名が集められ、その陳情は行政だけでなく、JAにも寄せられました。そこで、その要望に応えるため、JAが主体となり、厚生連、長野県と連携して、平成14年に「社会福祉法人ジェイエー長野会 特別養護老人ホームローマンうえだ」を開所しました。
 住民運動の受け皿として、行政だけではなく、なぜJAが支持されたのかといえば、JA信州うえだの福祉事業が既に地域で認知されており、「この地域で安心して暮らしたい、という地域住民の願いに応えてくれるのはJA」という意識が、地域全体に浸透していたからだと自負しています。
 ローマンうえだの敷地として、キュウリとブドウの選果場だった場所をJAが無償で提供し、建設運営資金15億円の一部を、社会福祉医療事業団から借り入れ、JAが負担することといたしました。そのどちらについても、JAの理事会などでは1つの反対も出ませんでした。
 平成15年には、敷地内に厚生連鹿教湯病院「豊殿診療所」を開設しました。また、ローマンうえだを核として、小規模多機能型居宅介護施設やサテライト特養などが新たに展開しており、地域の医療・福祉体制づくりが一歩また一歩と進んでいます。

(写真)
「ローマンうえだ」の外観

 

◆超高齢社会におけるJAの役割を明確に

――JA信州うえだでは、健康福祉部という専門部署を設置し、この他にも多くの福祉事業を手掛けておられます。経営の難しい福祉事業に二の足を踏むJAも多いなか、積極的に推進する理由とはなんでしょうか。

 高齢化が待ったなしとなった今、福祉を切り離して地域を成立させることはもはや不可能です。介護問題を悩みに持つ農家組合員も増えています。介護を家族だけに委ねれば、家族は疲弊し、農業に専念することもできなくなります。農業生産を担保しつつ、地域を支えるという使命がJAには課せられているのです。だからこそ、福祉事業はJAが取り組むべき重要な事業の1つだと考えます。
 福祉事業は収支のバランスが難しい一面があることも事実です。しかし、これまで苦労して地域を築いてきた方たちが年を重ね、介護や看護が必要となったとき、それを見捨てることができるでしょうか。JA信州うえだが福祉事業に取り組むのには、その根底に先輩方への感謝の気持ちがあるからです。その思いは忘れてはならないことです。

――最後に、福祉事業の観点から、県の中央会やJA全中の役割について、ご意見をお聞かせください。

 政府のうたう成長戦略では、今後10年間で農業所得を倍増させるという目標が掲げられていますが、その利益を享受できるのはほんのひと握りの大型の農業法人などに限られるのではないでしょうか。日本の農家の8割は、一つひとつの小さな農家です。地域農業を守るためには、まずはその方たちが元気になること、農家の老いを支えることの方が先決で、そこに地域における介護・福祉事業の重要性があります。
 そういった地域の実情を理解し、地域から発せられる小さな声を拾い上げるのが単位JAの役割ならば、さらにその意見をまとめてリードするのが県の中央会やJA全中の役目です。旗振り役がいなければ、地域の声を活かすことはできませんから、より一層の指導性を発揮してもらいたいと思います。そして、JAが担っているのは農業分野だけではない、福祉も含めて地域全体を支えているのがJAなのだということを、組織を挙げて発信してほしい。そこに、国民から信頼される、これからのJAグループの未来があるのではないかと思います。
 JA信州うえだでは、「JA信州うえだ高齢者福祉構想」を介護福祉法に沿って策定し、「高齢社会」をキーワードとした事業の組み立てを行っています。厚生連や行政と一層の協力体制を構築しながら「支え合いの地域づくり」を率先して行っていきたいと思います。

――ありがとうございました。

 

 「住民参加型」福祉施設
「ローマンうえだ」


 平成14年にオープンした「ローマンうえだ」は特養90床、短期入所10床のほか、通所介護・訪問介護・居宅介護支援事業を行う複合施設だ。
 ここに集うのは利用者であるお年寄りばかりではない。ボランティアをはじめとする近隣住民たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、とてもにぎやかだ。
 施設の誘致が決まった後、地域住民たちは「『安心』の地域づくりセミナー」という勉強会を自主的に開講した。自分たちで実現した施設とどう関わり施設を支えていくかを皆で学び合うためだ。セミナーは毎年継続して行っており今年で15期目。これまでに約400人の地域住民がセミナーを修了した。その事務局はJAが務めている。

 

◆ “老い”を自然に受け止めて…

定年退職したご夫婦の「ローマンうえだ」で定期的に開店しているボランティアのカフェ 学びがそのままで終わらないように、セミナー修了者たちは「同窓会」を結成。その同窓生たちが、ローマンうえだを活動の場として思い思いのボランティアを行っている。「施設にいると、利用者のお年寄りたちが社会から断絶されがち。でもローマンうえだではボランティアの皆さんが、“地域の風”を運んできてくれる。お年寄りにとってそれが何より嬉しいこと」(ローマンうえだ櫻井記子副施設長)。一方、ボランティアを行っている地域住民も、セミナーでの学習やボランティアを通して、“老い”を自然に受け入れられるようになる。認知症などに対する必要以上の不安も払拭され、この地で安心して年を重ねることができるようになった。
 「ローマンうえだには協同の精神が流れている。それはJAが主体になっていることが大きい」(櫻井副施設長)。住民が創り上げてきた、地域に開かれた支えあいの福祉施設ローマンうえだ。特養の待機者数は500人を超える人気だという。

(写真)
定年退職したご夫婦の「ローマンうえだ」で定期的に開店しているボランティアのカフェ

 


【JA信州うえだ(長野県)概況】(県)
○正組合員数:1万7613名(うち法人32)
○准組合員数:1万2535名(うち法人298)
○職員数:792名
○貯金残高:3271億円
○長期共済保有高:1兆637億円
○販売品販売高:82億円
○生産資材供給高:27億円
○生活資材供給高:14億円
(平成25年2月28日末現在)

 

(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する

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