JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
【現地ルポ・JA愛知東(愛知県)】源流の環境守るJA 流域250万人の生活・農業用水に2014年11月11日
・自然・文化が宝に
・支える組織数多く
・厚生連病院拠点に
愛知県の東部の中山間地、東三河をエリアとするJA愛知東は、3つの一級河川の源流域を含む。人口の減少による過疎化が進み、この地域に住む人にとって、JAはなくてはならない存在となっている。JA愛知東は、地域の経済・生活の核となり、相互扶助の組織づくりを進めると同時に経営の確立に全力を挙げる。規制改革会議等がJA改革で唱える信用・共済の分離および単位JA"代理店化"は、こうした過疎地域で果たしているJA事業の撤退につながると、河合勝正組合長は心配する。
JA愛知東の管内には天竜川、豊川、矢作川という3つの川の源流域がある。このためJA管内全域の90%が山林で、3つの川の流域に約250万人が生活し、下流域の豊橋平野、渥美半島の生活・農業用水を賄っている。同JAの源流域の活動が、日本有数の農業地帯を支えているといっても過言ではない。
この源流域にあるJA愛知東は、管内面積で県全体の5分の1を占めるが、人口は6万人を割り、新城市以外の2町1村は、高齢化率が45%を超え、過疎化が著しい。同JAにとって、管内の大半を占める源流域の地域振興が大きな課題である。
◆自然・文化が宝に
源流域であるだけに、自然環境に恵まれており、そのなかで、人々の長年の生活の歴史と文化がある。JA愛知東は、この活用を考えた。河合勝正組合長は、「地域は自然の宝庫であり、その中に生き抜く知恵や技を持つ元気な高齢者がたくさんいる。そうした人や、昔からの農村の姿と暮らしを大事にすることが、農村地域にあるJAの役割だと思った」という。
その基本的スタンスは3つある。農村と農業の自立支援、そして農業・地域・組合員を支える健全なJAの経営基盤の確立である。
その第1弾として、地域の資源である人から始めた。県が認定する伝統的な技能を持つ技人(わざびと)の活用である。手打ちそばや豆腐づくり、鮎とり、ロープづくり竹細工など40種類以上の技人を活用。来年から技人講座の開設し、「技人工房」の設置も計画している。
次いで伝統・文化・歴史である。地域を学ぶ活動としてJAアグリラリー(歩け歩け大会)やJA文化講座などを実施。ラリーは年3回、これまで52回開いて延べ7000人、講座は61回で延べ2500人が参加した。
河合組合長は、地域住民が求める願いとして6つを挙げる。
[1]一定の収入を確保したい、
[2]健康で安心して長生きしたい、
[3]心豊かに暮らしたい、
[4]快適な環境で暮らしたい、
[5]人のために役に立ちたい、
[6]自分が主役でありたい
である。この中で、最初の経済的な願いは、条件不利地であり、他の地域に比べてハンディがあるが、それ以外は努力次第で実現できると考えている。
(写真)
地域の自然や歴史を見直すJAアグリラリー
◆支える組織数多く
ただこうした願いは一人では達成できない。そこで同JAは、願いをかなえる手段のひとつとして、小さな目的別活動の組織づくりを提唱した。JAの女性部が中心となった活動だけでも73教室の目的別組織があり、ほかにスポーツや食農教育、リサイクル・ごみの適正分別や輸入野菜の勉強会、野菜の軽トラ市への参加や料理教室など、さまざまな数多くの活動が生まれている。
愛知県厚生連足助病院も、JA愛知東の地域活動に医療・福祉の面からサポートする。同病院の理念は「安全・安心・満足の医療・福祉(介護)・保健活動を通じ、中山間部地域住民の生活を守り、自然と共生できる文化的地域づくりに貢献する」とうたう。早川富博院長は「この地域は日本の縮図のようなもの。大胆な医療ができる」と、過疎地域の医療・福祉の確立に意欲を燃やす。
医療・介護は当然ながら、高齢者が大半を占める過疎地帯では通院、買い物等の交通手段が大きな問題になる。同病院は「いきいき生活支援」事業で、輸送を含めた配食、ロコモ(寝たきり)・メタボ・ニンチ(認知)予防の充実を、地方自治体やJAと共に目指している。
(写真)
「山と水と緑の協同組合祭」で元気な子ども八百屋さん
◆厚生連病院拠点に
病院をその拠点にするという考えで、「病院は地域のコミュニティの場であり、文化(教育・健康)の発信地にしたい。開かれた病院はその地域の文化の指標」と早川院長。
地域が一層高齢化し、独居高齢者が増えることを見越し、在宅で安心した生活ができるように、10年後までに見守りシステムの確立、医療・保健・福祉がどこでも利用できる共同カルテの導入など、具体的な課題を挙げて取り組んでいる。
流域の過疎地に住む人々の生活と営農、そして健康を守るため、JAと厚生連病院の二人三脚の挑戦が続く。
JAの事業は一体で
住む人みんなのため
インタビュー 河合勝正・代表理事組合長
東三河のこの地域は、人口の減少が激しい山間地で、人々の生活環境は大変厳しくなっています。ただ、生活のレベルで考えて、生きていく喜びという意味では、先人たちの築いてきた豊かな歴史と生活があり、地域のみなさんは、地域、ふるさと、家族を大事して、生き生き暮らしています。
田舎の社会はお金だけでは暮らせないところがあります。お互い助け合って生活するという社会風土があり、これからも、その意識を大切していくことが重要だと思っています。
本来、こうした役割は行政の仕事だと思いますが、町村は広域合併でサービスが先細りしています。要は、どこが担ってもいいのです。いかに農村と農業を守っていくか、そのためになにをするかが大事です。
いま、農村の価値が見直されつつあります。主役はお年寄りであり、女性たちです。そして大事なのは家族です。このことをしっかり押さえておくことが必要です。
JAの職員研修では、人の魅力は自分のファンをいかに多くつくるかにあり、それを主眼において事業に取り組むようにと、常に話しています。
競争の波に飲み込まれると、こうした地域はますます疲弊してしまいます。特に生活関連事業は、地域の商店やガソリンスタンドとの競争になると、小さくなる一方のパイを奪い合うことになります。これでは共倒れです。
地域をよくするには、商店街などのできないことをやるのが農協の役目だと思っています。地域社会は、商店なども含め、そこに住む人が主役です。その人の求める力を高め、共に何ができるかを考える。農協にとって知恵の絞りどころです。
地域で重要な役目を果たすJAは経営をしっかり確立させなくてはなりません。コンプライアンスを確立し、事業所ごとの経営状況をしっかり掌握し、効率を高めることが大事です。管内では毎年、年金受給者が800人前後亡くなっていますが、年金友の会の加入率は60%以上を維持しています。
JAが呼び掛けるまでもなく、JAのさまざまな組織活動に参加し、お互いに誘い合って会員になってもらっているからです。「集めるより集まる組織」にすることが大事です。このような組合員参加が、経営面でもJAの大きな支えになり、県内でも同じ規模のJAのなかでは、安定した経営状況にあると思っています。
JAの「自立」とはこのようなことだと思います。JAの組合員の組織に支えられて成り立つものだと考えています。JAの協同活動は、組合員の営農と生活両面で自立するためにあります。そのために信用・共済事業があるのであって、組合員にとってこれは一体です。もともと分離できるものではないのです。
こうした協同活動を指導してきたのがJAの中央会組織です。
単位農協が経営危機に陥っていた設立当時とは状況が違いますが、今の格差社会をみると、農業・農村を守ることで国のあるべきかたちを考えていく必要があると考えています。そこにグループとしてのJAの役割があるのではないでしょうか。
(写真)
河合勝正・代表理事組合長
【JA愛知東概況】
○組合員数:1万4339人(うち正組合員8488人)
○職員数:394人(うち正職員266人)
○貯金残高:1635億円
○長期共済保有高:4988億円
○購買品供給高:58億円
○販売品取扱高:49億円
(平成25年7月現在)
(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する
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