JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
【現地ルポ・JAグリーン近江(滋賀県)】協同の力を結集し、水田フル活用実践2014年11月12日
・法人化と特産品開拓
・主食用は結びつき米に
・直売所が新たな拠点に
・JA改革に人づくりを
・毎日の協同こそ自己改革の実践
今年10月に合併20周年を迎えたJAグリーン近江は「元気な担い手、農業づくり」を掲げた第5次地域農業戦略に取り組んでいる。集落営農組織を核に農地利用を集積し担い手を育成、「環境こだわり米」など地域全体でブランド力を向上させた米づくり、さらに麦・大豆に加え、マーケットに対応した野菜づくりで水田農業の新たな姿もめざしている。それはJAの自己改革の姿でもある。
集落営農で守る米づくり
JAグリーン近江が取り組む戦略の柱は、一言でいえば「水田フル活用」による農家組合員の所得向上と地域の活性化だ。
管内は、米・麦・大豆が中心の土地利用型農業であり、この県下最大規模の水田をフル活用する中核を担ってきたのが集落営農組織である。
地域の農地は地域の力で守っていこうと組織化に取り組み、管内に集落営農組織は約140ある。このうち法人化したのは現在57組織で第5次農業振興計画では28年度までに70法人とする目標を掲げている。
法人化にあたってはJAが一定額を出資することにしている。つまり、法人化した集落営農組織はJA出資法人という側面も持つことになるが、これによってJAとのパートナーシップを強めて各集落の農業を持続させていこうというのが方針だ。
同時に認定農業者も含めた個別経営、各種部会組織など多様な担い手支援も重視し、水田をフル活用して新規特産品目などを生産する営農を支援するため、担い手経営革新支援事業にも力を入れている。
◆法人化と特産品開拓
この支援事業を同JAでは「TACチャレンジ事業」と位置づけているが、担い手に出向く専任職員であるTAC9名のうち、3名は「特産TAC」という全国でも例のない役割を持つ。米・麦・大豆以外の特産品の提案を市場ニーズを調査し、契約取引などの導入まで手がけて法人を含めた地域の担い手へ提案するのが仕事だ。消費者ニーズにスピード感をもって対応し、それを担い手農業者に結びつける。
たとえばキャベツなど業務用野菜の需要拡大に応えて、集落営農組織に提案するとともに、コンテナ出荷を支援して低コスト化と手取りの確保につなげる。
一方、高齢者や女性、定年帰農者には小面積から取り組める花菜の生産を提案していくといった取り組みだ。
◆主食用は結びつき米に
JAでは水田農業の改革を進めるため、加工用米や飼料用米などを一括して扱う「水田活用米穀」の取り組みと同時に、キャベツや白菜、タマネギなどを「水田活用野菜」として位置づけ、さらに集落営農組織などではそれら特産品目の団地化による産地づくりもめざす。
一方、主食用米は肥料や農薬等の使用基準などを定めた「環境こだわり米」の生産拡大に力を入れ、この栽培を「スタンダード化」することが目標だ。環境こだわり米は26年産では7700haのうち約3000haだが、これを28年産では4800haに増やす。また、滋賀県の新品種「みずかがみ」の生産拡大も図り28年産では1000haを目標にする。
環境こだわり米はこれまでも生協や量販店などから評価され、販売先と生産者を結びつけてきた実績がある。家庭用だけではなく、外食やコンビニ弁当用なども含めて実需者との結びつきは強化されており、全農経由、JA直売ともにほぼ100%が「結びつき販売」となっているという。この販売方式に基づく有利価格・早期精算などを実現させることも課題で、生産者にも「販売先が分かる」JAの米販売の取り組みをアピールしていく。
◆直売所が新たな拠点に
担い手づくりと水田農業の改革を後押しする新たな拠点も今年生まれた。7月にオープンした近江八幡市内の直売所「きてかーな」だ。管内に増えている准組合員を「地域農産物の第1消費者」として位置づけ、多様な農業者の生産物を供給し、それを地域住民への農業理解と新たな産地育成につなげていく。
出荷者は現在492名。28年度には600名、販売高6億円を目標にしている。特徴は店内にある「みにキッチン」だ。旬の野菜や米、果物を調理して試食販売してもらうコーナーで「見て味わって、買ってもらう」のが狙い。出荷者が自分のつくった農産物をPRする場にもするなど、イベントや交流の場としてこれからいろいろな活用もできそうだ。
「きてかーなは生産振興の新たな拠点。収穫体験農場や果樹園を周辺に設置するなど、JAとして思い切って発展させてほしい」と語るのは、農事組合法人ファームにしおいその理事・顧問の安田惣左衛門さんだ。JAグリーン近江出資法人連絡協議会の会長も務める地域農業のリーダーだ。
(写真)
ファーマーズ・マーケット「きてかーな」の事業に生産者・消費者の期待が高い
◆JA改革に人づくりを
ファームにしおいそは平成13年に集落営農組織として立ち上げ22年に法人化した。組織の構成員は82戸50人。26年産は水稲34ha、麦15haのほかに、タマネギ、青ネギ、キャベツなど野菜を生産している。
安田さんは法人として自ら経営戦略を立てる重要性を強調する。たとえば、野菜生産も米価の長期的な下落を前提に、それを補う所得のためにJAとともに進めてきた。先に触れたようにキャベツは業務用キャベツでコンテナ出荷などでコスト低減も図る。
一方で生産コストの徹底的な削減も必要だと強調し、生産者としてJAだけに任せず、肥料の生産工程や流通にまでふみこんで業界と協議し、お互いが知恵を出す努力も必要だと説く。そのほか地域農業の持続のために法人連携が必要になっているとの考えから、近隣4法人とともに生産資材の調達、さらに販売先に応える野菜の生産ロット確保などの具体化を進めていくという。
「こうした取り組みや、国の政策予算を活用するなどは、個別経営体では難しい。所得向上のためには、やはりJAの機能が必要になる」とし、JA改革には「現場の要望に応えられる人づくりにも力を入れるべき。それが組合員にとってもメリットとなり、還元される」と強調していた。
(写真)
安田惣左衛門さん
農協“改悪”は問題
本質もっと組合員に
インタビュー 岸本幸男・代表理事理事長
今年度から改めて協同の結集による地域農業振興に取り組んでいる同JAは、政府の規制改革会議が農協改革について実施計画を取りまとめた6月、全組合員向けに急遽、その問題点とJAとしての考え方を冊子にまとめて発信。組合員から農協改革への意見をいち早く取りまとめている。岸本幸男理事長に考えを聞いた。
農協改革は農業の成長産業化のためというが、国の成長戦略は対象農業者を絞り込み、「地域の調和」は二の次と考えていないか。成長に必要とあらば外国からも農産物やモノを仕入れるという経営展開を想定しているのではないか。かつて池田勇人首相が「所得倍増論」をぶちあげたとき、青森県の議員がそこに農民が入っているのか、という質問をしたら、首相は絶句したという話があります。
◇ ◇
今回の農業所得倍増も本当に農民のことを考えているのかと思いますが、もちろんJAは組合員の所得向上と地域活性化のため改革は必要です。
ただし、JAの改革とは、事業を遂行している毎日が改革ではないかと思います。日々、事業を運営することが自己改革であって、こうすればよくなるのでは、といつもみんなが考えて取り組んでいるのが農協の組織活動です。
◆毎日の協同こそ自己改革の実践
改革の方向に中央会を農協法に基づいた組織にしないという話もありますが、そうなると全中が行ってきた生産調整も独禁法違反の問題となるし、これから力を入れようとしている飼料用米の配分の問題もどうなってしまうのか。私たち水田農業地帯にとってはまずそう考えます。
また、中央会による監査と指導は当然必要だし、農政活動についてもTPP、FTAなど単協がばらばらではみんなの思いが力にならない。それをまとめる指導機関は必要だと思います。賦課金も負担額の問題はありますが、オール系統のなかで守るべき経費ですし、今までJAの大きな破綻がなかったというのはそうした大きなスキームが動いていたからだと思います。
◇ ◇
全農に対しても共同計算ではなく買取りが求められていますが、それは共同計算の考え方に反すると思います。米は一年に一回しか穫れないわけで共同計算で販売していくことが最適だと思います。毎月、まんべんなく食べられる量だけ出荷して国民に安定的に供給する―、これは日本の環境に非常にマッチしている事業方式だと思います。
全農を株式会社化すれば独禁法が適用され共計販売などできなくなってしまう。それは消費者にとって競争激化で安くなるかもしれませんが、安定供給という面で本当にメリットがあるのかということも考えるべきです。
今回の改革は全中・全農など全国機関を標的にしているようですが、私たちには組合員からも、最終的にはJAが標的だとの声や、だからこそJAは使命を自覚してしっかり対応しろとの意見もあります。もっと内外にJA改革の問題点を発信していく必要があります。
【JAグリーン近江(滋賀県)概要】
○組合員数:2万2355人(うち正組合員数:8855人)
○職員数:619名(うち正職員:455名)
○販売品販売高:125億円
○購買品購買高:56億円
○長期共済保有高:8393億円
○貯金残高:2473億円
○貸出金残高:499億円
(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する
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