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JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを

地方創生―主役は農業協同組合 今村奈良臣・東大名誉教授2014年11月13日

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・サッカーの戦略・戦術をJAの事業推進体制に
・地域住民をサポーターに組織化進め活力を高める
・必勝の体制づくりに中央会組織は不可欠

 この夏は、サッカー熱がわが国はもちろん世界中を覆った。言うまでもなく第20回ワールドカップ(W杯)ブラジル大会があったからだ。しかし、残念ながらわが国代表は予選で敗退したがサッカー熱だけは大いに盛り上がった。
 さて、このサッカーの戦略や戦術を農協(JA)の改革とその活性化に応用できないか、と私は考えている。

◆サッカーの戦略・戦術をJAの事業推進体制に

 昨今は安倍晋三首相のトップダウン式の指令で無謀な農協改革提案が出されているが、こうした中、農業・農村の現場に立脚する農協が、サッカーの戦略、戦術を学ぶことを通して、その活力を取り戻し、農業、農村に熱気を吹き込み、その力量を発揮できないだろうかという想いを一層強くしている。
 周知のことであるが、サッカーの通常の基本陣形は、第1図に示したように、攻撃の要となるフォワード(FW)が1?2人、試合を組み立てるミッドフィルダー(MF)が5?6人、防御を担うディフェンス(DF)が3?4人、それに守護神として失点を防ぐゴールキーパー(GK)1人である。
 この布陣の中で、もっとも重要であり勝つための戦略、戦術部門を担うのがMFである。農協になぞらえて言えば、営農企画部門にあたる。農業生産に携わる組合員を巧みに組織し、地域農業の在り方、農業生産の方向づけ、最新農業技術の注入・伝授、土地利用や施設利用の調整、「老中青婦」の望ましい結合の方策、さらに農畜産物の多彩な加工を含めた「農業6次産業化」への英智と技術の普及など多彩な分野を担当する。要するに、いかに農協管内の活力に満ちた姿を創造するかという重要な部署であり、勝利を実現する実戦に臨む作戦本部でもある。
 それを踏まえてFWの役割は、このMFと巧みに連携しつつ、いかに得点して勝利を勝ち取るかに徹底しなければならない。農協では農畜産物ならびに多彩な6次産業化の成果としての加工品などの販売担当部門に当たる。当然のことではあるが組合員の汗と涙の結晶である多彩な農畜産物や加工品などを、いかなるルートと手段、手法で最終の消費者に届け、産地銘柄の評価を高め、その成果として生産者組合員の所得確保に努めるかに全力を挙げなければならない。つまり、得点をあげなければならないという重い使命をFWは負わされているのである。
 DFは、農協の資材購買、金融、共済、財務・経理などの部署に当たると考える。金融や共済は組合員の要望と負託に応えつつ、確実、安全な管理、運用を行うことが基本となる。しかし、左右のサイドバック(SB)は、状況に即応してサイドラインを駆け上がりMFやFWに得点のチャンスを与える働きもしなければならない。
 例えば、生産者組合員が緊急に必要とする肥料や種苗あるいは資材の供給を的確に行うとか、緊急を要する組合員への資金供給を適切に実行するなど、常に機動力を発揮して組合員の活力を促すように対応しなければならない。
 GKは、管理や総務などの部門に当たるだろう。いかに失点を防ぎ、次の攻撃への起点となるか。農協にとってもきわめて重要な部署であることに変わりはない。

サッカーの基本陣型とJAの望ましい布陣

(上図)
サッカーの基本陣型とJAの望ましい布陣

 

◆地域住民をサポーターに組織化進め活力を高める

今村奈良臣・東大名誉教授 だが、これだけに止まらない。
 さらに重要なことは、サポーター、つまり力強い応援団をいかに増やし、組織化するかにある。つまり、組合員たる農業者、そして准組合員、とりわけ管内の女性の皆さん、そして次代を担う青少年たちをいかに組織化し活力を高めていくかである。
 Jリーグのサッカーの試合を観戦していて、女性や若者たちが大勢サポーターとして活躍しているチームは、活力に満ちあふれているということを想起してほしい。これからの農協は管内の女性の正組合員化、さらに女性役員のさらなる登用ととその活躍の場を拡大しなければならない。そして、サポーターに地域の住民や消費者などが重層的に加わることで活力が一段と高まっていくと思う。
 一方、JAの組合長はチームの監督であり、専務や常務はコーチの役割に位置づけられる。いずれも、その役割、立場から必勝体制に導くための戦略、戦術そしてチーム編成を熟考し、実践に移さなければならない。
 確かに現代の農協は合併に合併を重ね、かつての面識集団としての特色をかなり失ってきている。しかし、それらを乗り越え、「JAは地域の生命線」を合い言葉に、私の説くサッカー理論を実践の場に移し、勝利の道をぜひとも築きあげてほしいと熱望する。

(写真)
今村奈良臣・東大名誉教授

 

◆六次産業化で地域振興をはかる―JAあしきた―

 みかんと葉タバコしかかつては無いような地域であったJAあしきたは、農協による「組合麺」の製造・販売から始めて、いまや九州一はおろか日本を代表する農業六次産業化の先進JAへと発展してきている。高峰博美組合長の「六次産業化は他力本願ではできません。JAの事業そのものだと取り組んでいる。甘夏みかん、デコポン、辛味の少ないタマネギ、そしてあしきた牛、これらをすべて加工し付加価値をつけて、多彩なルートを通し、販売し、消費者ファンを喜ばせています」。
 まさに、サッカーに例えるならば優れたMFの連携、そして販売戦略を担うFWの連携により得点を重ね、着実な守りで失点を防ぎつつ、次から次へと新しい路線を開発していく頭脳集団が指導している姿が浮かび上がってくる。全国の農協はあしきたを見習ってほしい。

 

◆多彩な販売戦略による産地づくり―JA富里市―

 JA富里市の活動を一言で表現するならば「作る前に売る戦略・戦術をたて、それをベースに作付計画の実践・実現を通じて組合員の所得の確保・実現をはかる」といってよいであろう。サッカーでいえば、いかにFWが得点するかという体制を整えたところへ、MFが得点しやいような球出しをするというシステムが巧みに構築されているということである。こうして首都圏有数の野菜産地はJAの指導のもとに作られてきたのである。しかし、それは一朝一夕できたものではない。私の旧知の仲野隆三前常務らの血のにじむような努力と指導のもとにその原形はでき上がり、いまに継承・発展されているのである。名コーチ無くしては必勝体制は作れないということを教えてくれている。全国のJAの特に役員の皆さん、JA富里市の戦略・戦術を是非とも学んで欲しい。

 

◆集落営農の組織化で地域を守る―JAグリーン近江―

 JAグリーン近江は「水田フル活用による組合員の所得向上と地域活性化」を基本路線におき、それを実現するために全力をあげて「集落営農の組織化」を推進している。管内の集落営農組織は実に140組織を数えるが、そのうち法人化したのは57組織という多数にのぼっているが、それを70法人にまで育成しようとしている。これらの法人の活動により「水田フル活用」をはかり、琵琶湖の環境保全を前提にした「環境こだわり米」で消費者を引きつけ、かつ水田の高度利用を前提にした多彩な野菜などの生産、さらにそれらの加工・販売などの六次産業化へ向けて全力を投入している。特に「きてかーな」という直売所は地域消費者の心の拠り所にもなってきている。
 集落営農、特に都市近郊地帯の集落営農の活動を拡げたいと考えているJAは是非とも一度はJAグリーン近江を訪ねてほしい。

 

◆源流域の農業と生活を守る―JA愛知東―

 JA愛知東は日本を代表する大河川、天竜川、豊川、矢作川三川の源流域を基盤とするJAである。源流域が廃れると下流の農業はもちろん、水利も危機に陥らざるをえなくなるが、その源流域の農業を守り、組合員の生活を守り、そのために中山間地域の特性を生かした多彩な農業の展開、推進をはかるとともに、高齢化が急速に進む組合員の健康と生活を守るために多彩な活動をJA愛知東は進めている。特に組合員の健康と安心を実現するために女性部が中心になり実に73に及ぶ目的別教室を作りすぐれた活動をしていることは、中山間地域をかかえる全国のJAにとって勉強になると思う。
 また、これと関連するが愛知厚生連足助病院のすぐれたたゆまない活動には頭が下がる思いがする。

山桜の里山づくりに参加した住民(JA愛知東管内で)

(写真)
山桜の里山づくりに参加した住民(JA愛知東管内で)

 

◆特養ホーム「ローマンうえだ」に結実―JA信州うえだ―

 組合員は、第一に農業所得の増大を、第二に地域の福祉、とりわけ高齢化が進む中、高齢者福祉への活動と施設の充実を望んでいる。JA信州うえだは関係機関の全面協力も得ながら「ローマンうえだ」に象徴される多彩な活動をこれまで推進し、全組合員の心と願いをひとつに結び上げている。学んでほしい。

 

◆地域づくり、人づくり、絆づくりはJAから―JAはだの―

 大都市近郊にありながら、JAはだのが誇るものは、その設立はわが国でもトップランナーとなった農産物直売所「はだのじばさんず」、そして8年目になった「はだの市民農民塾」、さらに営々と続けてきた毎月26日の1万世帯に及ぶ全組合員宅の職員の訪問。JAは管内組合員を結ぶ多彩な絆を作り上げるとともに管内、周辺の都市の消費者たちと手を結んでいるのである。

 

◆必勝の体制づくりに中央会組織は不可欠

 いま、農協改革路線で中央会機能とその組織の廃止が打ち出されているが私は基本的には反対である。周知のようにサッカーのJリーグには、チェアマンを置き理事会を設置し加盟チームの熱戦の推進を図っているように、JAのより一層の活動の推進と農村地域振興のためには中央会機能とその組織は欠かせない。JAの必勝体制を実現するうえでは中央会組織とその機能は欠かせない。

 

(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する

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