JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
百姓たちが時代を創る 茨城のJA青年部から―仲間とスクラムで地域農業守る2014年11月14日
・米価下落で所得倍増!?
・農地引き受け農業経営
・地域で最善の経営実行
・全員が突出できるのか?
・食料生産を担う気概を
・JAの事業に期待と注文
・青年部の繋がり大切に
にわかに地方創生が中央で語られ始めた。しかし、地域の主役は地域で生きる人々だ。それもその土地に暮らしつづけようという若い人たちが鍵を握る。10月22日掲載の「山形置賜自給圏の挑戦」に続いて、「百姓たちが時代をつくる」第2弾として、茨城県桜川市の青年農業者たちに語り合ってもらった。
大規模化一辺倒
これが農業政策か?
(写真)
JA北つくば岩瀬青年部のみなさん
茨城県のJA北つくば岩瀬青年部の部員は12人。部員が少ないので役員会ではなく全員参加の定例会を持っているという。勉強会のほかJAの岩瀬支店の農業祭りへの出店や、県の青年協のTPP反対運動への参加など活動を続ける。今回は菱沼委員長をはじめ4人に集まってもらった。
◆米価下落で所得倍増!?
――みなさん現場の青年農業者として、今、いちばん言いたいことを聞かせてください。 市村 昨年から農業の所得を倍増させると聞かされてきましたが、米価がこれだけ下げられると言っていることとやっていることが違うじゃないですか、と言いたいです。誰しも一緒でしょうが、安心して農業をやっていきたいと思っているわけです。地方創生や所得倍増というからにはそれなりの道筋や希望に向かって歩いていけるような政策の具体的な提示をしてほしいと思います。
菱沼 私たちの地域は米麦中心の、いわゆる普通作農家が基軸ですが効率化、コストカットということばかりが強調されてきたという思いです。
市村 相変わらず大規模化して競争をさせればいいというような政策しか打ち出されないのではないでしょうか。どんどんふるいの目を粗くしていっているように感じられて。私たちのような中規模経営はその目から落っこちていくことになりはしないかということです。
やはり中規模の農家を残していくような方向性にしないと地域の農業は残れないんじゃないかと思います。
(写真)
市村龍一さん(33)父親との家族経営。米12ha、麦15ha。
◆農地引き受け農業経営
菱沼 大規模経営といいますが、経営が少数になると地域の農地の引き受け手もなくなる。要は耕作放棄地が増えるということになるんじゃないか。私たちも人の農地を借りて経営をしているわけですが、それは基本的には地域を守ることを考えなければ、ということじゃないか。そう考えると少数の大規模農家だけで地域が成り立つのかということですね。経営としてもうお手上げになってしまうか、体が持たないか、のどっちかになってしまうのではないか。今でも引き受ける農地はキャパシティ的にかなり目一杯になっているんじゃないかと思います。
――野菜中心の経営はどんな現状ですか。
野沢 作った野菜の9割は茨城県西産直センターに出荷しています。産直は20年前からの取り組みで米も直売です。
野菜も悩みは単価安が続いていることです。年々、少しづつ安値になっています。契約栽培もありますが、価格はやはり市場価格が基準になっていますから、このぐらいの価格ならいいでしょう、という話になってしまう。何を作るかや経営の効率化も大事ですが、一方で販売する力をどう持つかも考えなくてはと思っています。
(写真)
菱沼良之さん(43)元JA茨城県青年協議会会長、全青協理事。現在、JA北つくば岩瀬青年部委員長。平成13年に(有)イワセアグリセンターを設立。父親が代表、本人は常務。水稲38ha。大麦、小麦、ビール麦を合わせて100ha、大豆25ha、ソバ60haなど。社員は13名。
◆地域で最善の経営実行
――米麦だとどうしても経営規模の拡大をという話になります。しかし、現場ではそう簡単なことではないということですか。
深谷 この地域の特徴は、なかなか面積をまとめて集約するということができないということだと思っています。平坦地がずっと広がっているわけではなくやはり山があるという地形でもありますし、今はハウス栽培もあちこちに点在していて私たちのような水田農業だけで集約というのも難しい。
市村 それでも、自分たちのほ場に合わせて、自分たちのやり方で最善を選んでいるんです。時間あたりにこなせる効率的な作業量を考えて機械も揃えています。ただ、その機能を十分に発揮するような環境になかなかならないということですね。
――地域農業を維持していく取り組みとして集落営農がありますが、この地域ではどう進められていますか。
菱沼 集落営農組織をつくって地域農業を守っていく重要性は分かりますし、この地域でも営農集団づくりから取り組んできたと思います。ただ、われわれ後継者からすれば経営的に成り立つのかどうかが問題で、責任を持って法人化しようというリーダー的な人が結局は引っ張っていくのが実態だと思いますね。
市村 組織は作っていても、経営をしているのは実質は中心になっている個人経営という面もありますね。
◆全員が突出できるのか?
――その経営の維持や発展のために何が必要だと考えますか。
深谷 生産者に対して個人個人の力で特色を出してもっと商品として売ればいいではないかとも言われますし、実際、生産者として品質向上の努力が重要なことも理解します。マスコミもそういう話を紹介しますね。ここの米は味がいいから通常の価格よりも1・5倍の価格で売れているとか、あるいはものすごく大規模化したのではコストはこれだけ下がった、というような。
ただ、全員がトップになれるということではない。消費者も同じで、みなさん高くてこだわりのある米をいつも食べているわけではないでしょう。
そうなるとわれわれの作っている米もやはり必要ではないかと思いますし、だからやはり国を支えている食料は米だということになるのではないでしょうか。もし安い、あるいは値頃な米は輸入に頼ればいいんだということになるのなら、それでいいのかという話になると思います。今の政策では、競争力のある農業、6次産業化が叫ばれていますが、食料を頼っているあっちの国が不作になったらどうするの? という根本的な話がどこかに行ってしまっている感じもします。
市村 ブランド化や6次産業化などを通じて突出した農業者になりなさいというのが今強く打ち出されている方向だと現場では思います。しかし、それで生き残るのは何人いるのだろう、と。突出した農業者のものを買う消費者もまたピラミッドのいちばん上、ごく一部ではないのかと思います。そのときにもっと普通の、というか当たり前に食料が手に入るということがなくなってしまわないか。
菱沼 やはり原料を作るという部分も大事だと思います。特色ある農産物が必要だと思いますが、みんながそれを実現できるわけではない。だからといって、お前の米は原料なんだから、と安く、安くということではとてもやっていけない。
(写真)
深谷知寿さん(39)父親との家族経営。基幹作物は米麦。米14ha、麦22ha、ソバ22haなど。露地野菜、タマネギとネギの苗栽培も。青年農業士。
◆食料生産を担う気概を
市村 実際に、地域の米づくりでも二極化が進んできたなと思います。食味が良くて評価が高くブランド化できる人や地域はそれを追求し、一方では加工用米などの生産を増やしていくという動きがかなりはっきりしてきたし、仕方がないから加工米を作るか、という生産者も格段に増えました。それはしょうがない、コシヒカリ作るのはあきらめっか、と農業者を上と下に引っぱがすようなことではないかとも感じます。
――菱沼さんは法人経営、そのほかのみなさんは家族経営ですが、経営形態についてはどう考えますか。
野沢 家族経営は気を遣わない面があります。多少忙しくても自分で倍働いてしまえばいい、と考えますね。雇用が必要だというときもありますが農閑期の仕事はどうするのか、まず経営者としてそこを考えなければならないでしょう。今のところは家族でやっていける経営規模がいいと思っています。
市村 家族経営とは、家族のためだということでしょうね。自分も親父が大変そうだったから、やはり農家を継ぐか、というのが就農する出発点でしたし。
深谷 一方で、さっきから話題になっているように家族経営では面積規模を拡大するには限界があることも事実。
菱沼 そこで法人化して規模拡大するということになる。法人化すると雇用も必要になり十分な待遇を確保するように経営者として努力することは当たり前になります。ただし、農業者としてはどうしても温度差も感じてしまう。
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野沢和人さん(32)露地野菜約4ha。ナス、キャベツ、スナックエンドウ、カリフラワー、ブロッコリーなど。米は約3ha栽培。
◆JAの事業に期待と注文
――人を雇って大規模化、効率化すればいいといっても、農業という特質を考えると難しさもあるということですか。
菱沼 私たちのような米麦中心の農業ではなく施設園芸が盛んな地域などでは年間雇用もできるし、高付加価値化も可能だと思います。しかし、われわれのような地域に根差した土地利用型農業でどうこの地域の農地を守っていくかという課題もあるとなると、農業という仕事に対する考え方はどうなのかという話にもなると感じています。
市村 逆にいえば合理化しろ、効率化しろと言われて法人化した農業の現場からすると、その方向のなかで今、課題も出てきているのではないかと私などは思います。従業員を抱えて経営を維持、発展させていこうとすることと、地域農業の担い手を育てるということをどう考えるかですかね。
深谷 同時に合理化、効率的な経営をといわれるなかで、JAもそれに応える事業もしてもらう必要があります。具体的にはやはり生産資材価格です。農協離れを何とかしなくてはということもそれこそ新聞記事になりますが、たとえば生産資材の一部は商系に負けているわけです。協同組合だから、というメリットを感じる資材かといえばそうでもない。それは生産者としてはJAに対して厳しい態度になりますよ。
市村 たとえばJAがオリジナル肥料の開発をするからこれだけ生産コストが引き下げられるといった提案はもっとしてほしいですよね。
◆青年部の繋がり大切に
――青年部活動はどう考えていますか。
菱沼 小さな地域なのでまずは仲良く活動できればいいと思っています。農業は自営業なので情報が必要になりますから青年部活動でいろいろな話ができる。それから小さな組織ですが活動をしていれば上の組織、横の組織ともつながりができる。自分たちのような小さな組織でも、たとえば勉強会一つにしても講師を紹介してもらえるなど、組織のつながりを大事にしたいですね。
野沢 小さな組織でも仲間は大切です。自分の農業経営のことだけなく地域のためを考えることにもなります。
市村 結局、中規模程度の農家の数を増やすのがいちばんいいのはそれでスクラムを組めること。声を上げることもできると思います。
(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する
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