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JAの活動:変革の時代 地方創生の主役は農業協同組合

【現地ルポ・JA佐渡】朱鷺と共生する郷づくりをめざして2015年1月9日

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・気象変動に強い米づくりを
・売れる「佐渡米」へ
・「特栽米」1200ha
・食味と一等比率向上を追求

 佐渡には今、100羽を超えるトキが里山に生息し空を舞っている。トキの野生復帰に向けた放鳥は平成20年(2008)から始まったが、JA佐渡ではこれを機に「人とトキの共生する島をめざす農業」を地域農業ビジョンの柱として事業と運動を展開してきた。このビジョンではトキが生息できる環境のための「生物多様性農業」(生きものを育む農法)が運動の柱ではあるが、単にそれにとどまらない。"多様性"や"共生"をキーワードにして、多様な担い手づくりや、生産者と消費者との積極的な交流による地域づくりも柱にしていることが重要だ。まさに"農業と地域に全力を尽くす農業協同組合"をめざしてきたといえる。持続可能な農業と地域づくりをめざすJA佐渡を訪ねた。

「多様な価値」を見直して

◆気象変動に強い米づくりを

水田上を滑空するトキ 日本海を寒波が襲った12月半ば、佐渡中央部の穀倉地帯、国仲平野も雪原と化していた。雪の下は佐渡米の6割が作付けされている広々とした水田。トキの餌場にもなっている。
 この雪でトキは田んぼに出てくるのか、そう簡単には出会えはしないだろうと思いながらも車で案内してもらってほどなく…、いた! 日が射し雪の溶け始めた田んぼに2羽。警戒心が強いため遠くから目を凝らすしかないが、ひょこひょこと動く姿はまさに足の短いトキそのもの。しばらくして朱鷺色(ときいろ)にキラリと輝く羽を見せ飛び立った。

 

(写真)
水田上を滑空するトキ

◆   ◆

水路では多くのトキが餌を食む姿が見られる。 トキは足が短いから、すらりとして足も長いサギのように水の深い小川や池に餌を獲りに入ることができない。しかも水かきがない。田んぼは格好の餌場だが、田植え直後にその足でどたどたと動き回られたら苗は台無しになってしまう。美しい朱鷺色の羽が珍重され乱獲されたこと、地域によっては貴重なタンパク源になったことなどが絶滅の危機を招いたといわれるが、そもそも米づくりにとってはやっかいな鳥だったという話も聞く。
 ただ、足が短いから苗が育って草丈が伸びればトキは田んぼには入ることができない。「だから、田植えが終わると、待ってましたとばかりにやってきます」。トキが生息するようになって田んぼが生存に欠かせない場所であることを実感しているとJA佐渡米穀販売課の渡部学課長は話す。
 最近は稲刈り直後は群れをなして田んぼにいる光景も当たり前になったという。

(写真)
水路では多くのトキが餌を食む姿が見られる。

◆   ◆

水稲部会の中川会長(左)と齋藤さん トキの野生復帰をめざした第1次放鳥は平成20年。以来、昨年9月の11次まで150羽以上のトキが佐渡の空に放たれ、自然界でもヒナの誕生が確認されるまでになっている。佐渡では着実にトキが増え地域の自然のなかで暮らしている。
 この環境を作り出したのがトキの餌場となるような水田づくり、米づくりである。しかし、それは単なるトキの保護活動といったものではないし、そもそもトキのために農業をするわけではない。
 「減農薬、減化学肥料に取り組もうといっても最初は、今まで通りでいいじゃないかという抵抗もありました」と水稲部会の中川保部会長は振り返る。それが今では「おじさんたちが虫取り網を持って喜んで田んぼに入っている。私も軽トラには虫取り網を積んでいます。みな意識が変わってきました」という。
 米づくりへの気持ち、郷土の風景や、子供たちとの関わり方などなど「見直すきっかけになりました」。
 ここ佐渡が取り組んできたのはトキと人が暮らしていくための、まさに農を基軸とした地域づくりそのものだといえる。

(写真)
水稲部会の中川会長(左)と齋藤さん

 

◆売れる「佐渡米」へ

JAのカントリーエレベーター。需要に合わせた品種への挑戦も課題になっている。 佐渡の米づくりの転機となったのは平成16年(2004)の台風被害だった。この年の全国作況は「98」だったが、佐渡は「51」。コシヒカリの出穂期に上陸して甚大な潮風害をもたらしたのだ。当時、小紙も主要米産地への緊急調査を行ったが、紙面には「相川地区570haのほ場のうち9割が皆無作となった。…年輩の方でもこれほどの被害は初めてと話す」というJA佐渡担当職員のコメントが記載されている。
 16年産米の1等比率は17%。JAの集荷量は27%減少し販売店の棚から「佐渡米」が消えた。奇しくも改正食糧法が施行された「売れる米づくり」に向けて産地が走り出した米政策改革元年。しかし、佐渡にとっては厳しい年になった。
 翌17年産の作柄は平年並みとなり集荷量も回復したが、前年に失った販売店の棚は簡単には戻ってこなかった。結局、販売不振で政府米として売却することになり、これが18年産米まで続く。さらに政府米への売却が増えたため生産数量目標は削減され転作率が上がった。
 こうした事態のなか、気象変動にも強い米づくりをめざし「売れる佐渡米づくり戦略会議」を立ち上げ、土づくりを重点にした営農指導や、化学肥料のみに頼った栽培から有機肥料を使用する栽培への転換などに取り組んだ。土壌分析も進めた。
 一方、トキの保護活動は中国から贈られたトキの繁殖が成功し野生復帰に向けて、野生復帰ステーションが開所して訓練も始まり平成20年には放鳥する方針も決まる。
 こうした動きを受けて平成18年の佐渡米生産者大会で19年産から「環境にやさしい佐渡米づくり」を決議するとともに「日本一安心・安全でおいしい農産物の島・佐渡の実現を」と題した農業ビジョンを策定する。この農業ビジョンで打ち出したのが▽人とトキの共生する島をめざす農業、▽多様な担い手の育成による活力ある農業、▽生産者と消費者が共感できる農業の3つの柱である。

(写真)
JAのカントリーエレベーター。需要に合わせた品種への挑戦も課題になっている。

 

◆「特栽米」1200ha

佐渡Kids生きもの調査隊の子どもたち。トキガイドを務めることもある。 今では「トキとの共生」を地域づくりの旗印に掲げているが、もともとトキの保護には島内でも地域によって温度差があったといい、また保護といってもケージ内で飼育していたから自分たちが暮らしている環境と密接につながる問題だという実感がなかったという。
 ところが放鳥が具体化するとトキは島全体に飛ぶらしいことも分かってきたし、さらに餌は1年間で1羽あたりドジョウ換算で68kg分が必要だと分かった。60羽を定着させようというのが環境省の方針で、そうなると約2000haものビオトープづくりが必要になると試算された。
 しかし、佐渡全体でも水田は6000ha程度。トキのために2000haものビオトープを整備するなど非現実的だ。結局は田んぼの環境を変え水田をトキの餌場にするような農法への転換が求められていることが分かってきた。こうして19年産からは慣行栽培より3割以上の減農薬・減化学肥料栽培に取り組み、20年産からはこれを「5割減減」として推進した。同時に「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度を佐渡市が整備した。要件は「5割減減」に加え、ふゆみず田んぼの実践、「江」やビオトープ、魚道の設置のいずれかを行う「生きものを育む農法」と年2回の田んぼの生きもの調査の実施などだ。
 認証米の栽培面積は20年産では400haほどだったが23年産から1300haを超え、やや減少したものの26年産も1200ha以上の取り組みがある。「5割減減」栽培だけの取り組みは99%を超えている。この8年間で環境保全型農業・生物多様性農業が急速に展開されたということになる。
 そこには行政と一体となった推進体制があった。JA佐渡の前田秋晴理事長は「島のまとまりの良さです。離島のメリットかも知れません。自分たちは気づいていないがこれも地域資源」と話す。

(写真)
佐渡Kids生きもの調査隊の子どもたち。トキガイドを務めることもある。

 

◆食味と一等比率向上を追求

 一方、農業ビジョンで掲げた多様な担い手づくりも地域の参入企業との連携やJA出資法人の設立などを進めている。JA出資法人「JAファーム佐渡」は米づくり以外におけさ柿の生産と加工、採種事業、水稲育苗などを事業活動とし、佐渡での複合経営モデルをつくることが目的。さらに研修生の受け入れも行っており担い手確保の役割を果たす。
 消費者と「共感できる農業」は交流事業が盛んになった。コープ新潟や首都圏のコープネット事業連合やコープみらいなどと農業体験で交流を行っている。行事には佐渡の子どもたち(佐渡Kids生きもの調査隊など)も参加しトキガイドを務めることも。コープネットはトキの保護で佐渡市と協定を結び、毎年募金の贈呈も行っており、その額はすでに1000万円を超えている。
 前田理事長は、共生という産地の思いが佐渡の米づくりの価値として理解され米販売の成果として現れてきたと話す。
 ただ、米づくりの課題として品質向上がある。平成25年からは島内に100人の農家をサポーターとして選任し「佐渡米未来プロジェクト90」として基本技術の実践と情報発信、生産者交流の場とする運動を展開している。また、ふゆみず田んぼを継続すると、田んぼが乾燥しないために作柄と品質にも影響することが分かってきた。
 ただし、生物多様性農法からもう転換することはない。以前からトキ保護に熱心だった新穂地区の「朱鷺の田んぼを守る会」で環境保全型農法にいち早く取り組んできた齋籐真一郎さんは「ふゆみず田んぼを続けながら、食味も良く一等米比率も高いという、いちばん難しい課題に挑戦したい」と話す。
 需要に合わせコシヒカリ以外の作付け増や、さらに飼料用米の生産も課題となる。飼料用米は島内の畜産で使用すれば畜産物にも付加価値がつく。課題は多いが、確実に故郷の環境は変わっているとみな口をそろえる。田んぼの生きもの調査では確実に生き物が増えた。トンボもドジョウも増え、それらが増えるとヘビやトンビが多くなったと実感しているという。齋籐さんはハウス栽培でイチゴなどを手がけ、佐渡での観光農業の展開も考えているというが、それも「トキとの共生」のためのさまざまな活動がきっかけになった。
 「農業経営は大事だが、経済価値ばかりではない。お金にはならないものを見直す、田舎で暮らすこと、子どもの成長など、多くの人がいろいろな価値を見直すきっかけになったと思います」と話している。


自然を守り持続的農業を
前田秋晴・JA佐渡代表理事理事長

前田理事長 われわれがめざしているものは何かを考えると、規制改革会議などの農業・農協改革の考え方には非常に違和感があります。競争力のある農業という方向を全否定するつもりはありませんが、佐渡でめざしているのは持続可能な農業と地域をつくっていこうということです。
 そのために大事にしたいのが多様性です。生物多様性を大事にした農業と同時に、大規模な担い手もいるし家族経営の農業もあるといった多様性のある姿です。
 規制改革会議などの考え方は農業という産業の競争力を強化していこう、その手段として企業の参入だといいます。企業の参入も否定しませんが、それ一辺倒ではないかと思います。しかも、企業が参入するときには協同というシステムは邪魔だから、これを縮小再編しようという姿勢が明らかで、ここは大いなる間違いです。

 

(写真)
前田理事長

◆   ◆

 佐渡ではすでに地域の企業が農業に参入していますが、農協の組合員になってもらっています。これだけ担い手が不足しているのですから多様な担い手は必要で、島内の企業には大いに農業に参加してもらえばいい。独自販売もしていますが、栽培技術や資材の購入は農協と連携しています。 しかし、規制改革会議などの主張はそうではなく、地域に落下傘のように降りてきた企業が農業の活性化を担うのだ、というものです。仮にこの佐渡にも外から企業が農業参入したとして、効率が悪く経営が成り立たないからと撤退し、農地が耕作放棄されてしまうようなことが起きれば、持続可能な地域農業は実現できない。
 また、農協は准組合員も含めてライフラインを維持し地域の皆さんの生活面を支えています。人間は生活するために農業をやっているのであって、幸せを感じながら生きていくことがいちばん大切だと思います。そのためライフラインを農協、あるいは地域の協同で維持することは非常に大事なことです。そうした協同をつぶして企業が参入すればいいんだという考え方は、まさに佐渡のような農村地域の実態を想定していない。
 政府や規制改革会議に何といわれようが、地域の垣根を越えた協同によって地域を持続可能にしていこうという取り組みはぶれないで進めていこうと思っています。
 その軸にしてきたのが「人とトキの共生する島」をめざす生物多様性農業です。この取り組みはかなりの成果をあげていて、26年産の佐渡コシヒカリは集荷量1万5000tですが、すでに購入申し込み数量の方が上回っています。仮渡し金は各地と同じように下げざるを得ない状況でしたが、消費者・実需者からは支持されているということです。

◆   ◆

 ここまでの成果を上げることができたのは、われわれの農産物の価値を評価してくれたからだと思います。それは食味や品質に加えて、どういう物語が農産物づくりにあるのかです。こうした価値を消費者が評価してくれる。企業が農業をやれば効率的だといいますが、それは単に手段の話であって手段が評価されるわけではありません。
 われわれは人とトキとの共生という価値を地域の協同活動としてつくりあげようとしています。われわれも生産者に佐渡での米づくりに運動として取り組む価値を改めて訴えていかなければならないと考えています。行政も含めて一体となって取り組んで成果を出すことができること自体が佐渡の地域資源だと思います。これも内外にアピールしたい。
 農協というのは法人であると同時に運動体であって協同によって地域を維持していこうというものです。厚生連病院やふれあい福祉会もその象徴で、これは農協という法人の力というよりもみんなで出資し合ってがんばろうよ、という協同の力です。農協は農業振興だけの組織ではありません。地域の協同を壊すことは地域を豊かにすることになりません。

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