JAの活動:変革の時代 地方創生の主役は農業協同組合
農業は地域の総合産業 黒田義人・JAえひめ南(愛媛県)組合長2015年1月20日
・人口減少で負の悪循環
・裾野の広いマザー産業
・准組合員は同根枝分れ
・過去の貢献いま恩返し
多くの離島やへき地を抱えるJAえひめ南は、それ故に地域に住む人々の生活インフラを維持することが、JA存立の大きな前提となっている。そのためJAは、農業を地域総合産業として位置付け、総合事業を通じて、効率・利潤追求でなく?必要性?の価値観に基づいた地域づくりを目指す。黒田義人組合長に、その考えと取り組みを聞いた。
「効率・利潤」と異なる価値観で
――今の農村と農業の状況をどのようにみますか。
黒田 地域社会は過疎化が急激に進み、少子高齢化の影響がさまざまなところに出ています。管内人口は、平成9年の合併当初15万人余りでしたが、昨年の4月1日現在では12万1000人でした。一昨年だけで年間で2076人減り、年々減少ペースが速くなっています。
平成9年の合併時、1兆円を超えていた長期共済保有高は6000億円台にまで減少し、受け取り奨励金が減り続けています。背景には高齢他界や若者流出による家族規模の縮小等があります。農業および農村の状況反映の一端です。
信用事業においても農業を初め、管内諸産業の不振低迷から融資は伸び悩み、貯貸率低下がとまりません。将来への夢や展望を描きづらいことから、積極的投資ができず、融資がないからます萎縮していくという負のスパイダルが大きくなっているように感じます。
(写真)
黒田義人組合長
◆人口減少で負の悪循環
管内の農産物はミカンが主力です。平成22年に柑橘専門農協宇和青果との統合を果たし、当農協の販売事業は一挙に拡大しました。専門農協では、資金繰りのため巨額の有利子負債が恒常化し、組合員の負担増を招いていました。それが総合農協の中に入ったことで、他部門運用資金投入が可能となり、一挙に解決しました。総合農協の信用事業兼営という仕組みが組合員利益に直結していることの好例です。
柑橘農家だけでなく、およそ組合員が営農資材を購入するときの代金支払いにつき、一定の期間猶予が可能です。組合員に代って、農協の負担で大量の在庫も受け持っています。これも資金を介した相互扶助の仕組みです。信用事業を譲渡すると、固有の運用資金がなくなり、この仕組みは崩壊します。
単位農協は、資金調達力が伴いません。一方、農林中金は逆の性質です。両者の分業的相互補完体制は相互扶助であり、単協安定運営の担保でもあります。信用事業分離論は組合員利益を毀損する暴論です。終戦直後、進駐軍との交渉の末、農協法の国会提案があったわけですが、信用事業兼営や准組合員を認めなければ農協はやっていけないではないかという真面目な本音の吐露が記録されています。
◆裾野の広いマザー産業
――その総合農協が日本の農業と農村を守ってきました。その役目をどうみますか。
黒田 農業は“マザー産業”です。有史以来、土木、測量、天文学、気象学など多くの学問を育ててきました。一方で農業は、食料を通じて国民の生存権を保障するものです。従って、食糧が偶然や多少の思惑によって影響をうけるようなことがあってはいけないのです。国民の生存権は、最大限利潤追求の市場原理主義よりも上位にある理念だということを、我々はしっかりと押さえておく必要があります。
水利や溜池の管理などで分かりますが、農業には、人間のエゴイズムを「超克」するものがあります。それは互助と互譲の精神であり、他人を思い遣る気持ちです。これは、過度の分業化、人事異動を前提に成り立つ工業化社会が失ったものです。その意味で農業は総合生命産業だということができます。
(写真)
買物弱者の生活を支援する移動購買者
◆准組合員は同根枝分れ
――その農業をグローバリゼーションのもとにさらしてもいいのでしょうか。
黒田 自由主義経済といえども国境措置は絶対に必要です。国境が不必要なら軍隊もいらないでしょう。税関や検疫、領土・領空・領海があって、経済活動のみが自由ということはおかしいのではないでしょうか。
食料も同じです。食べ物はモノではありません。国民の精神面での作用と、食料自給権、つまり国民の生存権に関わるものです。それを守るには国境措置は不可欠です。TPPで、重要品目を守る国会決議にはそういう意味があるのです。
――地域のインフラではどのような活動をしていますか。
黒田 いま地域が萎えているなかで、JAえひめ南の子会社が、行政の支援のもとで離島とのフェリーを就航させています。戦後、まもなく始めたもので、農協がやるべき事業ではないという声もありますが、これを止めたら通学や通院の人はどうなるのでしょうか。
またへき地では、高齢者等の買い物弱者のため2台の移動購買車を走らせています。農協は地域を背負って立つ組織だと定義していますが、そのためには、地域の人々が、さまざまなインフラ、ライフラインを分け隔てなく利用できるようにしなければなりません。行政でできないのなら、農協が取り組むのは当然だと考えています。これも総合事業だからできるのであって、最大利潤を求める企業では不可能でしょう。
准組合員の問題も同じだと思います。「もう准組合は農協の利用できないよ」といったら、その人たちはどうなるでしょうか。企業がフォローしてくれますか。農協の信用事業は、今は過疎となった地域の人々が営々と築いてくれたものです。その蓄積が今の農協を支えていることに対して、私たちは今、その恩返しをしているのです。
零細なため農地を手放して准組合員となった元正組合員も多くいます。こうした人々を、私は「三日月湖」だと思っています。蛇行する河川の取り残された河道が湖になった三日月湖は、本流から離れることはなく、その流域の運動領域として、本来の河川の姿を示しています。
准組合員はこれと同じで、地域から離れることはありません。“同根枝分かれ”です。政府はこれを切り離してどうしようというのでしょうか。
(写真)
JAえひめ南が運営するフェリー。離島に住む人々にとって、欠かせない交通手段となっている
◆過去の貢献いま恩返し
――支所の機能はその恩返しでもあるのですか。
黒田 JAえひめ南は、経営的に苦しいなか、いまも50数か所の店舗や出張所を維持しています。農協は“地域総合産業”です。簡単につぶすことはできません。効率、能率の利潤追求の尺度では計れない価値観、つまり“必要性の経済”だと考えています。これができるのは農協であり、行政であると思います。
農協の職員は地域に居住し、地域密着産業なのであると同時に、多くの職員を有する地域で最大規模の事業体です。経験を積んだ農協職員はOBも現役も地域に欠かせない存在になっており、集落営農や消防団、集落の世話役として重宝されています。市町村合併で行政の機能が統廃合され、いまや農協の支所は地域の人々にとって大きな精神的な拠り所、交流拠点になっています。
政府は「地方創生」と言いますが、特に過疎地では農協がその主役として役目を果たしており、これからもさらに必要性が高まると思います。
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