JAの活動:JA全国女性大会特集2015
【鼎談】人と人のつながりを活かして、地域を引っ張る女性リーダーに2015年1月21日
○出席者
中家徹・JA全中副会長(JA和歌山中央会会長)
梅本恵子・JAとなみ野女性部フレッシュミズ部長
山田繭子・JA鳥取中央女性会フレッシュミズ代表
・交流集会を通じて全国の仲間とつながる
・農家・非農家問わず、どうやって支持を集めるか
・JAが生産者と消費者、生産者同士をつなぐパイプに
・役を受けることは、お金で買えない財産を得ること
・活動を積極的に発信し、地域に認められる組織に
規制改革会議の"提言"によって、JAの在り方が問われている。一方で、政府は「地方創生」を掲げ、「住みやすい地方」の復権に取り組み始めた。
JA全中の中家徹副会長と、JA鳥取中央女性会フレッシュミズの山田繭子代表、富山県のJAとなみ野女性部フレッシュミズの梅本恵子部長の3人に、これからのJAと女性組織が担う地域づくりについて、意見を交換してもらった。
JAの存在意義を地域へ
(写真)
右から中家副会長、梅本さん、山田さん
◆交流集会を通じて全国の仲間とつながる
梅本 私は農業がやりたくて農家に嫁ぎ、今年で20年になりました。今の目標は「若者が興味を持てる農業」。法人化して、うちにも若い社員が3人います。これからの課題は、どうすれば経営を成り立たせることができるのか。TPPの問題などが気になる中、「どんな状況でも生き残れる農業」とはどんなものかを、若手農業者と一緒に考えて行くことです。
山田 私は結婚とほぼ同時に女性会に入りましたが、本格的に農業に携わるようになったのは、三女が保育園に通い始め、直売所に野菜を出荷するようになってから。その頃から、女性会の活動にも積極的に参加し始めました。
梅本 実は、私の地元にはフレミズ組織がなくて、フレミズ全国交流集会に参加したのも今回が初めて。そんな私が実行委員長を引き受けると決まったときには、誰よりも私が驚きました。でも、そのおかげで実行委員のみんなや事務局、そして全国のフレミズと出会えたので、あの時、委員長を引き受けて良かったですね。
山田 県から始まってブロック、全国と各段階の集会で出会った人がいて、その向こう側にはもっとたくさんの人がいます。フェイスブックやLINEを使って、たくさんの人とつながることができたのはすごく大きかった。そのつながりがあったから、自分にとって「フレミズって何だろう」「フレミズで何ができるんだろう」と考えることができました。それを「フレミズの主張」に書いて最優秀賞をいただいたのが、認められたみたいで嬉しかったです。
中家 私の地元、和歌山県のJA紀南でも「女性にもっと声を上げてもらいたい」という思いで、平成8年から女性参画に取り組んでいます。現在では、総代の30%以上が女性になったほか、組合員も正・准を合わせると女性が過半数を占めるようになりました。
梅本 「自分の意見を取り入れてもらう」というと大ごとのような気がしますが、ちょっとしたことでも「聞いてもらえる」と思うと嬉しいし意見が通ったらやる気にもなります。「責任持ってやらなくちゃ!」と思いますよね。
山田 "一人ひとりの意見を聞く"って、フレミズでも大事。今、地元のフレミズでLINEグループを作って、活動を案内したり、情報を交換していますが、そこで上がる意見はメンバーの"生の声"。やっぱり無視しちゃいけないと思うんです。
◆農家・非農家問わず、どうやって支持を集めるか
中家 国が「地方創生」を政策に掲げていますが、JAはこれまでも地域の活性化のために大きな役割を果たしてきました。特に、豊かな地域を作るためには、JAの生活面の活動は外せません。そして"生活"となれば、当然主役は女性です。したがって、JAは地域の真ん中にある組織として、女性の参加・参画をもっと進めていかなくてはなりません。
山田 女性会の先輩たちは、加工品づくりの技術や地域独自の慣習など、さまざまなことに精通しています。その知識は、誰かに教わったというより、代々、くらしの中で受け継がれてきたもの。"女性会がつないできたもの"を、私たちフレミズが受け継ぎ、時代に合わせた形で次の世代に発信する。そこに、さまざまな引き出しを持つJAが協力してくれたら、地域がもっと元気になるような気がします。
梅本 JAとなみ野では、女性部活動に「おHIROME隊」という教室があります。女性部員の新規獲得に向けて、部員以外でも参加できる教室なんですけど、私もそこで何度か、アロマや寄せ植えの講師をさせてもらいました。160人の前で話すのは緊張しましたが、とても貴重な経験ですし、たくさんのことを学ぶことができました。振り返ると、この講座に育ててもらったと思います。
中家 今、規制改革会議から"准組合員制度"が問題にされています。ですが、現実的にJAは「農を中心とした地域協同組合」です。JAにとっては"営農"と"生活"この2つが両輪。どちらか一方だけではJAの事業活動は前に進みません。そのため、JAは地域のライフラインとしての役割も果たしています。もしJAがAコープやガソリンスタンドから撤退すれば、その影響を受けるのは組合員だけではありません。准組合員の利用を規制することは、地域の生活そのものに直結する問題です。むしろこれからのJAは、非農家も含めた地域のみなさんからどれだけ信頼され、支持されるかが問われています。
(写真)
中家徹副会長
◆JAが生産者と消費者、生産者同士をつなぐパイプに
梅本 JAとなみ野では「タマネギの1億円産地化」に向けて、JAと生産者が一体となって取り組んでいます。昨年はJA全体で販売高2億円を達成しました。
私たちがタマネギ栽培を始めたとき、JAが必要な機械を買って、生産者に貸し出してくれたおかげで、経済的な負担を減らせました。そうでなければ、ここまで規模を拡大できなかったと思います。
また、産地化をすすめたことで、消費者のみなさんにも、JAとなみ野を"タマネギの産地"としてアピールできました。JAの協力があっての"2億円"だと思うと、JAには感謝しかありませんね。
山田 地元でとれる野菜を知ってもらうことは本当に大事。私は女性会の「学校給食野菜会」に所属していますが、子どもたちが「地元でどんな野菜がとれるのか」「その野菜はいつが旬なのか」などを、日々の給食を通じて学べるのは、農業地帯ならではのすばらしいことだと思います。
中家 JA紀南でも、管内の小学校に給食用の食材を提供しています。さらに、地元以外にもJA紀南をPRするため、青年部が都市部の小学校にミカンをプレゼントしています。実はこの取り組みは、私が青年部事務局をしている時に始まったんです。愛知県のある小学校では、当時からずっとこの取り組みが続いていて、かつて紀南のミカンを食べた子どもが親になり、親子二代でJA紀南のファンになってくれています。
山田 生産者と消費者だけでなく、JAの直売所では生産者同士もつながれますね。直売所に出荷する人の大半が女性会のメンバーだったので、毎日出荷することで、「山田の嫁」と顔と名前を覚えてもらえました。おかげで、女性会にもすんなり馴染めたんだと思います。
中家 直売所は全国的に飽和状態になりつつあります。これからは、その中でどう差別化を図るかが問われることになると思います。
山田 同じJAの直売所でも、収穫体験や調理実習ができたり、カフェなどのスペースを設けているところもあるみたいですね。そういう事例をうまく取り入れることができれば、スーパーなどにはない、お客さんを呼び込む起爆剤になるような気がします。
中家 JA紀南は梅の産地として、観光と収穫体験をセットにして、大阪など都市部の消費者を呼び込んでいます。さらに収穫した梅を使って梅ジュースづくりを体験してもらっています。地元の人を呼び込むだけでなく、都市部にファンをつくる。そういう形もあるのではないかと思います。
(写真)
梅本恵子さん
◆役を受けることは、お金で買えない財産を得ること
中家 お二人は去年、「フレミズの主張」で最優秀賞を受賞されたり、フレッシュミズ全国交流集会で実行委員長を務められるなど大活躍でしたが、今年に向けて何か計画などはされていますか。
山田 私自身はフレミズをあと1年で卒業する年齢になりました。今年はすべての役員を降りて、後輩を支えながら、1会員としてフレミズを楽しみたいと思っています。
梅本 私は地元の東海北陸地区のフレッシュミズ集会を開催したいです。これも全国の交流集会に参加して、「他の地区には交流集会がある」ということを初めて聞いたのがきっかけです。東海北陸のフレミズにも、集会の雰囲気や、つながる楽しさを知ってもらいたいと思っています。
山田 いろいろな役を受けて、それを後輩につなげるってとても難しいですね。形があれば見せれば済むけれど、人とのつながりやそこから生まれたもの、交流集会の場の雰囲気は、やっぱり参加して、体験してみないと伝わらない。今年は、そのすごさや楽しさを後輩にも知ってほしいですね。
中家 たしかに、役を受けるということは、大変だといわれています。ですが、役をやらせてもらうということは、人との出会いや経験など、お金では買えない財産を得ることで、とてもいいことだという風潮を広げて行く必要がありますね。
梅本 今回の実行委員の仲間と一緒にいて、役を受けた向こう側に見える物を想像しました。事務局も含めた今回の全国交流集会チームのように、「もっともっとたくさんのフレミズとつながりながら、そこで得たものを地元のフレミズに還元できたらいいな」って。同じ場所で経験や感動を共有すること。なにより楽しく活動することで、地域を巻き込んで、人がつながっていけばいいなと思います。
中家 女性がすごいのは、役に就くとすごい力を発揮するところです。本人も知らなかった力で、周りを巻き込む人になる。文字通り「役は人をつくる」です。
梅本 そして、"出会いは宝"です。
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山田繭子さん
◆活動を積極的に発信し、地域に認められる組織に
中家 全国的に女性組織のメンバーが減っています。新たに加入してもらうには、直売所のような「経済的なメリット」に加え、もうひとつ、"楽しい"や"役だつ"のような「精神的なメリット」。この両方が必要だと思います。それを具体的に打ち出せれば、状況も変わってくるのではないでしょうか。
山田 精神的なメリットというとやはり、「全国の仲間とこれだけつながれる」ことだと思います。私は、県内外のフレミズとフェイスブックで友達になり、その延長で、全国のフレミズの先輩ともつながることができました。これだけの規模と歴史を持ち、地域や世代を越えてつながることができる。こんな組織は他にありません。そこをもっと売りにしてもいいかもしれませんね。
中家 女性会に関して一つ気になるのが、良い活動をたくさんしているのに、対外的になかなか広報ができていないこと。地元のラジオや新聞などに外向きの発信をすることが大事です。
これまで培ってきた活動と、それを外に発信していくことで、JAだけでなく地域に女性の力を認めさせるような流れをつくることが大切だと思います。
山田 地元にこんなグループがあって、こういう活動をしている、と地域に発信することですね。自分たちだけの楽しい活動で終わるか、それを発信して地域で認められる存在になるかで、大きな差がでます。地元のケーブルテレビ局に取材にきてもらうのもおすすめです。
中家 JA紀南では、総代会の際、必ず男女各一名の議長を立てています。それは、女性にも活躍の場を設けることで、男性にも女性の力を見てもらい、認めてもらうことで、女性の参画が進むという考えです。
しかしそこには、JAトップの認識が不可欠です。女性参画を単なるリップサービスで終わらせてはいけません。女性総代の比率を上げることがゴールではなく、女性がきちんと意見を言えて、その意見を前向きに取り入れるJAがあって、初めて女性参画ができたことになるわけです。
出る杭は打たれる時代から、出ない杭が抜かれる時代になったことで、出る杭を地域のみんなで支えて行かないと地域を活性化できなくなったのだと思います。
お二人には、これからもがんばって全国の女性を引っ張っていっていただきたいと思います。
【座談会を聞いて】
女性の視点で協同の活動
西野司・JA全中くらしの活動推進部長
山田さんも梅本さんも、専業農家として経営感覚に優れ、上手に仲間づくりをしながら日々の活動を展開されており、まさに次代を担うフレッシュミズのリーダーとしていろいろなお話を伺うことができた。
組織の役員をなかなか引き受けてもらえないという悩みをよく耳にするが、楽しく活動している姿を他のメンバーに見てもらうことで「やってみようかな」という気になる仲間を見つけられるとの話をお二人から伺った。また、中家副会長からは、「役」が人を育てるという側面もあり、役を引き受けると大変だという風潮は変える必要があるとのご指摘もあった。
梅本さんからは、タマネギの産地化にあたって、地元JAが農業機械のレンタル導入など農家の負担軽減につながる支援をしてくれたことへの感謝の言葉もあり、大変心強く思った。
山田さんは、LINEやフェイスブックなどSNSを当たり前のように使いこなし、活動に参加できなかった仲間への報告や連絡事項の伝達等に活用している。活動を知ってもらうための広報対策については、フレミズ組織だけの努力では限界があり、JAの広報誌やマスコミへの情報提供など、JAの協力態勢も不可欠であろう。
折からの農産物価格の低迷や生産資材費の高騰により、今の若い農業者は、農業を専業でやっていけるか不安を抱いている。直売所という販売ルートを確保することのメリットや、直売所が単に農産物を販売するだけの場所ではなく、まさに地域の交流の拠点へと進化していく姿を描いている。
介護や食、教育といった分野は、女性目線での取組みが不可欠な分野である。
お二人のような若い女性リーダーが全国各地で育ってくれば地域活性化に必ず結びつく。それには、JAトップの理解ある姿勢が大切だ。
中家副会長の地元JAでは、早くから女性のJA経営参画に取り組み、現在、女性の総代比率は30%を超え、正・准あわせた組合員比率では5割を超えているとのこと。JAの事業・活動は、地域住民のくらしとは切っても切り離せない関係であり、地域からJAの存在義を認知してもらうためには、どうしても女性の視点が欠かせない。
一方、JA女性組織のメンバー数は、現在約61万人と、毎年2?3万人の減少が続いている。高齢化した方々が、体力・気力の限界を迎えて抜けていくのは仕方ないとしても、中堅どころの方々が集団で抜けていく傾向は、残念だ。理由はさまざまだろうが、JA女性組織は、JAグループにとって最大の応援団であり、JA女性大学など魅力ある活動と次世代への働きかけを通じ、「一緒にやってみようかな」と思ってもらえる環境をつくっていくことが不可欠である。
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