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農業・食の安全守る運動を TPP阻止で生産者と連携  山根香織・主婦連合会会長2015年1月27日

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・子供達の将来へ安全な食べ物を
・輸出国の圧力でルール変更危惧
・消費者への思い産直でひしひし
・交流機会増やし相互理解深めて

 エプロンとしゃもじをシンボルとする主婦連合会(主婦連)。しゃもじで豊かな食べ物をよそいたいという発足当時の願いは、食の安全性に対する国民の関心を高めた。その食の安全がいま、輸入食品や遺伝子組み換え食品などの増加が懸念されるTPP(環太平洋連携協定)によって脅かされている。
 主婦連の山根香織会長は、安全で安心な食べ物を提供する国内農業を守るため、生産者と消費者の連携の必要性を強調する。(聞き手:小林綏枝・元秋田大学教授)

◆子供達の将来へ安全な食べ物を

山根香織会長――主婦連は消費者運動として、食品の安全性や生活の向上に大きな功績を挙げています。いま日本は、TPPへの参加が大きな問題になっていますが、これまでの活動を踏まえどのように対応しますか。

 山根 主婦連は1948(昭和23)年、配給品の粗悪なマッチを取り替えさせ、マッチの配給を打ち切らせたのがきっかけでできました。それが台所から政治を動かそうという運動として広がり、中身と表示の異なるうそつき缶詰の告発など食の問題を持ち寄って、食品の表示方法を初め、さまざまな法律をつくる運動を展開し、成果を挙げてきました。

――最近、外国の観光客が、日本の食品を喜んで買っている。それだけ日本の食品は信頼されているということですが、その基礎をつくったのは、日本の消費者運動です。そのことを今の消費者にもっと知っていただきたいですね。

 山根 TPPは本当に心配です。無理なルールの押し付けで、悪影響が様々な場へ広がると思われます。重大な問題の1つは食の安全です。子どもたちの将来のために残したい法律やルールが崩されることは許せません。食べ物を生産する大事な国内の農業や地域産業を破壊し、コミュニティーをばらばらにするのではないかと、とても心配しています。

――特に消費者の視点から、どのような問題がありますか。

 山根 遺伝子組み換え食品や農薬、食品添加物など、これまでの消費者運動で獲得してきた安全基準等が緩和されたり撤廃されたりするのではないかと懸念しています。

(写真)
山根香織会長

 

◆輸出国の圧力でルール変更危惧

――TPP交渉でアメリカは、日本の安全基準が非科学的だと言っていますが。それは日本の消費者が決めることではないでしょうか。

 山根 その通りです。人の命の源である食の安全の決まりを経済ルールで変えてはいけません。儲かればよいという市場原理で決めるのは絶対受け入れられません。

――食品には、あれだけ注意してもアトピーなどのような病気が出ています。心配するのは当然です。

 山根 みなさんが消費者運動に参加するきっかけは、子どもの食べ物が心配で、という理由がほとんどです。表示にしても、これだけ情報が増えているにも関わらず、きちんと分かるものになっていません。

――アトピーなどのアレルギー物質を含む食品に関する表示法が改正され、今年から実施されるようですが。

 山根 消費者にとってよい改正になっているとはあまり思えず、不十分です。基本理念に「消費者の権利」は文言として入っていますが、事業者優遇で現行の法律を一本化し、とりあえずスタートするといった印象です。どこでどのように作られ、何がどれだけ入っているかがわかる表示となるよう、これから消費者の権利に基づき、さらに運動していく必要があると思っています。

――消費者の啓発ではどのような取り組みをしていますか。

 山根 消費者の教育啓発は大事なテーマです。消費者が賢く商品を選択することで、社会は大きく変わります。ただ、それは正しい情報、わかりやすい表示があってのことです。複雑で事業者本位のルールを先に改めることが重要です。

――TPP参加になったとき、最も懸念されることはなんでしょうか。

 山根 一番は日本の農業です。輸入食品がさらに増えるとどうなるのでしょうか。自給率がさらに低下すれば、何か事が起こり輸入が滞った時にたいへんな状況になります。政府は、食品が安くなって消費者にメリットがあると言いますが、安ければ何でも良いというような声を消費者から聞いたことがありません。
 食品の値上がりに今、消費者はたいへん苦しんでいます。しかし、だからといってTPPで安い食品をどんどん輸入することは望みません。消費者はみんな、財布と相談しながら、少しでも安全なものを買おうと知恵を絞っているのです。主婦連は弱い者いじめの消費増税にも反対しています。

 

◆消費者への思い 産直でひしひし

――農家の女性の多くは、結婚によって単身で夫の家に飛び込み、家族や地域と折り合いをつけながら頑張っています。その実態をもっと消費者に知って欲しいですね。

 山根 TPP反対の運動に関わり、生産者と話す機会が増えました。知っているつもりでしたが日々自然と関わりながら、消費者に安全な農産物を届けたいと頑張り、農家の女性が農業を支えているということがよく分かりました。そうした農村の女性がもっともっと注目され、輝く社会になって欲しいですね。。

――農村女性の頑張りはどのようなところで感じますか。

 山根 道の駅とか、産直市などで新しい野菜や女性ならではの加工品などを見る機会も増えました。東京の四谷の主婦連のあるビルのロビーでも、はるばる八丈島の女性団体が直売市を開いています。農業とも離島とも縁のなかった都心の消費者との会話が生まれています。
 またTPPに関する集会で多くの農村女性と出会いますが、沖縄の女性はサトウキビがなくなると沖縄がなくなると訴えていました。全国で農村の女性は頑張っているなと感じています。

――TPPが締結されると沖縄や北海道の農業は壊滅的影響を受けます。農家の人は、もっと消費者とつながりを持ちたいと考えています。取り組みのヒントはないでしょうか。

 山根 都会にいると、食べ物は工場で作った工業製品のような感覚になります。相互の理解はまだ不十分です。消費者と生産者はもっと交流をしなければなりません。

――米の消費が減っています。どう考えますか。

 山根 心配です。特に若い人の消費が減っているようですが、ご飯に合うおかずの研究開発も必要ではないでしょうか。菓子パンやスナック菓子で食事を済ますようなことはしないようにしてほしいですね。

――最近は3食食べない人も増えています。それもコンビニの前の舗道の縁石に座って済ますことも。こうなると日本の文化、伝統が壊れてしまいます。家族で一緒に夕食をとらない。瑞穂の国で米の消費が減る一方で小麦輸入に頼る。カナダ国境で収穫した小麦がアメリカのミシシッピー川を下り、ニューオリンズからパナマ運河を通って日本に運ばれる。その小麦で作ったパンを喜んで食べている。なぜでしょうか。

 山根 食事は便利で簡単、でき合いでよい、という考えが広がっています。そこを変えるのは大変ですが、何よりも家族で食卓を囲むことが大事だと思います。働き方や家事の分担など見直すことがたくさんあり、社会全体の問題ですが、「食」の大切さに気付けば、お米の消費も増えるのではないでしょうか。

1月都内某所で(左はインタビュアーの小林綏枝元秋田大学教授)

(写真)
1月都内某所で(左はインタビュアーの小林綏枝元秋田大学教授)

 

◆交流機会増やし相互理解深めて

――日本の農業を支える農村の女性にエールを。

 山根 もっと表に出て顔を見せてほしい。頑張っていることをアピールしてほしい。そして社会のことを一緒に考え合いたいと思っています。これまで距離が遠く、伝えたいことがなかなか伝わらなかったことが多かったように感じます。近づくことが大切です。

――最近は曲がったキュウリが問題にならなくなりました。だれも曲がったキュウリは買わないと言っていないのに、それが通ってしまう恐ろしさがあります。手を挙げて発言しあう。これが大切なことですね。

 山根 私たちは、形や規格で買うわけではないよと言うと、生産者は、「えー」という反応をします。消費者、台所のニーズと生産者の想いが、流通の途中で途切れてしまっていたのですね。

――東日本大震災で電源が切れ、倉庫には玄米しかなかったとき、JAの女性部は精米を一升ずつ持ち寄って炊き出しをしました。その人たちの「農家でよかった」と言う声を聞いて、こういう人たちが地域を支えているのだと実感しました。その農村をTPPはぶち壊そうとしています。集会などで、組織上は共闘していますが、生産者と消費者はもっと具体的な連携ができないものでしょうか。JA女性部は消費者でもあるのです。

 山根 運動は広がってきていますが、日常的に連携してもっと強化する必要があります。TPPは、農家への影響が甚大であること、消費者にとって重大な問題となることをもっと直接的に、目に見えるように示す必要があると思います。

――主婦連には地方の会員もいます。地方から澎湃(ほうはい)と抗議の声が出るように働きかけていただきたい。農業者は熱い目で消費者を見ています。「家計は苦しいが、食べ物は国産で」という頑張りが必要で、お互いそれを目指していきたいものです。

 山根 その通りです。環境に配慮しなかったり、児童労働で作ったりした商品は買わないという運動が世界的に広がっています。景気が悪くて厳しいけれど無駄なものは買わない、質の良いものを選びたいという考えも浸透しつつあります。
 山や農地を維持し、安全な暮らしを守るなど、農業の力は偉大です。もっと農業を大事にしなければなりません。生産者と消費者は目的を同じくするところがたくさんあります。
 命を育む女性が繋がり、力を合わせ、その健やかな命を未来へ繋げることが出来るよう、努力することが大事だと思います。

――新自由主義は「協同」を目の敵にしているようです。それが今の安倍政権の農協潰しだと思います。人々のつながりを大事にしたいものです。本日はありがとうございました。

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