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JAの活動:JAしまね発足

経営資源を集中、県農業の振興へ 萬代宣雄組合長に抱負を聞く2015年3月3日

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地区本部制で新規事業に挑戦

 島根県の11JAを統合した、組合員数約23万人、全国一の規模を持つ「JAしまね」が3月1日誕生する。1県1JAは奈良、香川、沖縄に次いで4県目になるが、人口減少という将来の経済・社会環境の変化を予測し、体力のあるうちに先手を打ったところに、同県の特徴がある。県内JAグループの人材や資金・施設などの経営資源を集中・効率利用による経営基盤の確立をめざし、特に地域の条件に応じた農業・地域振興を担うために導入した地区本部制は、将来、県1JAをめざす県や、大型JAにとって、JA運営方法の範を示すという点で、大きな挑戦になりそうだ。スタートするJAしまねの萬代宣雄組合長に抱負を聞いた。(聞き手は梶井功・東京農工大学名誉教授)

 

toku1503031102.jpg◆人口減を読んで先手

梶井 島根県は出雲、石見、隠岐の3地区からなり、地域差の大きな県だが、そこでJAを一つに統合するということは大変な苦労があったのではないか。
萬代 平成18年のJA島根県大会で統合の話が出たが、そのときは、まだ時期ではないと思っていた。当時、県中央会の副会長として、統合は慎重であるべきだと考えていた。しかしいずれその時期がくるので検討だけはすべきだと考え、県内11JAの総務担当の専務、常務で検討委員会を設けて研究してきた。
当初3JA構想もあったが、人口の減少から、ゆくゆくは県1JAにならざるを得ないという方向づけだった。島根県は細長い県で、端から端まで約230あり、3つの地区からなる。農家を守り、支援するには統合して力をつける必要があることは明らかだ。このため、平成21年のJA大会で県1JAを決議した。JA合併はたやすいことではない。統合前の11JAは、9JA構想として取り組んだものだったが、2つの地域で賛同を得られなかった。特に隠岐地区で、それぞれ離れた島にある2つのJAが合併ができなかったが、県全体がひとつになるのならやろうということで賛同してもらった経緯がある。


サービス低下を懸念

梶井 新JAは、11JAをそのまま地区本部とし、支店も原則として残すことになるが、どう説明したのか。
萬代 組合員が最も心配するのは、統合によってJAのサービスが低下することだ。県内の各JAは、JAバンクの設置基準が出されたとき、それに満たない支店を廃止してきたので、JA統合のために行う支店の廃止はやめようと決めていた。
だが将来、人口減少など社会的条件の変化で廃止はありうるだろうから、その時は理解して欲しいと説得した。こうした問題は最初にはっきりさせておかないと、後でどうしようもなくなって廃止するとなると、なぜ今になって廃止かと言われる恐れがある。そうならないためにも統合によって今から頑張ろうということだ。
赤字垂れ流しのような経営にならないように努力しなければならない。地域や農業を守り、少なくとも今より悪くならないようにするのがわれわれの使命だと思っている。


まず和牛繁殖で実績

梶井 地区ごとの条件の違いが大きく、農業振興は大変だと思うが。
萬代 口では簡単に言えるが、農業振興は大変だと思っている。島根県には規模は小さくてもそれぞれ光る農産物がある。隠岐は畜産、石見はブドウやメロンなどの特産で頑張っており、邑智郡のように農産物の販売を通じた広島との交流もある。いままでJA単独で取り組んでいたことを広域化することでスケールメリットを出す工夫が必要だ。
また雲南市、横田・仁多郡などの雲南地区は島根和牛の中心地で、30年前には、優秀な種雄牛「糸桜」で日本を制覇していた。それが今は衰退したが、「糸桜」に頼りすぎ、時代の変化に対応できなくなったのだと思っている。
雲南地域には6か所あった和牛肥育センターが赤字経営で半分になるなど、ジリ貧状態が続いている。繁殖牛の管理は大変だ。それなら雲南だけでなく県全体でやったらどうかと考え、畜産総合センター機能を持つキャトルステーションをつくる計画をいま進めている。
新JA発足前から、特に和牛振興ではしっかりやろうと準備してきた。こうした事業は、個々のJAが取り組むにはリスクが大きい。そこで赤字が出たら、地区本部がその34割を持ち、残りは新JAの本部で責任を負うという仕組みづくりを考えている。
農業は生きものだ。ちょっとした天気の変化に左右され、細かい管理が求められる。それだけにリスクが大きく、新しいことになかなか踏み出せない。だから全体でリスクを負う仕組みが必要だ。和牛繁殖をその第一歩としたい。
梶井 これから地域の農業振興の立て方が重要になるだろう。地域で特徴あるものを育てるのはどのように。
萬代 単協間の塀をとっぱらって、同じ環境のところをまとめ、広域的にやること、地区本部でやること、それぞれ役割を決めて取り組むような仕組みをつくりつつある。これまで単協でやってきたことは続ける。そして同じ環境のところは横糸をつないで対応する。イチジクやショウガなどで経験したが、卸売市場やスーパーなど、量があれば買ってくれる。そして利益があれば地区本部のものになるという形を考えている。広域的な発想で取り組み、利益は地区本部のものになり、赤字が出れば、負担割合を決め、本部がみようということだ。


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◆他県の県本部の範に

梶井 統合で、経済事業はどうなるのか。他の全農県本部も注目していると思うが。
萬代 営農・経済事業は新JAの職員があたることになる。新JAでは、県連の職員などを混ぜることで、新しい発想が生まれ、職場を活性化させることができると期待している。名刺の肩書きが変わっただけでは意味がない。全農の職員は、スーパーや外食産業などの市場開拓に頑張ってもらいたい。
新しい産品を販売する場合、リスクは伴うもので、リスクない新しい事業はない。全農県本部はこれまで、あまり冒険をしてこなかったように思う。約400億円の事業量があるが、いずれも利益は薄いので、新しい事業にはどうしても二の足を踏む。新JAでは、 経済事業も地区本部で賄うのだという発想でないと、なかなか前向きの事業に取り組めないのではないか。多少のリスクを背負ってもやってもらいたい。
県1JAになった奈良、香川、沖縄の先行3県では当初、経済連が残ったが、JAしまねは全農県本部も統合。島根県では、JAいずもで、3代前の吉田組合長のとき、新しい発想で総合生活店舗の「ラピタ」をつくった。そこで商品を安く仕入れるには単協、経済連、全農という経済事業3段階は無駄が多く、組織3段階、事業2段を発想された。島根県にはそうした流れがあったので、経済連と全農の統合も全国で最初だった。
「足もとが明るいうちに」と、体力にあるうちに統合を、と説得してきたが、JA規模の大小から、明るさにも差がある。昭和30年代92万人いた島根県の人口は、いまや70万人を切り 2020年には55万人になると予測されている。11JAが一緒になるのも大変だったが、こうした将来の人口予測をすると、
が大変だと思っている。


◆収支均衡を基本に

梶井 地区本部の経営に不安はないのか。
萬代 その不安はある。JAが大きくなると「われらが農協」という意識が薄れがちだ。依頼心が出るというか、これだけ大きくなると、組合員は「自分一人が協力しなくても」いう気持ちが生まれる。そうなったらおしまいだ。組合員から「うちの地区本部は、収支均衡でやっているが、大丈夫か」いわれるようにならないとだめだ。それには組合員との接点を疎かにしないということであり、地区本部はそのためにある。これを外したら、我らの農協という基本が崩れ、組合員離れが起こるだろう。
収支均衡には、特に経費の節減に努める。統合JAでは、統合前の約270人の役員が74人に、6000人強の総代が1000人になる。それだけで2億円近い経費が減る計算だ。信用事業も一本化できるので、どのように効率化するかを研究している。総務関係等、集約できるものはできるだけ集約し、効率性を高める努力をしなければならない。
また、JAいずもとJAくにびきの2JAだけで実施していた総合ポイントの「お財布カード」が県内一本になる。経済事業だけでなく、貯金、共済、貸付けなどの事業全体に拡大して生活の利便性が格段によくなり、組合員から、「いままでよりもよくなったな」と、統合のよさを実感していただけると思っている。


◆組合員の心配忘れず

梶井 これからどのように心掛けて新JAを運営する考えか。
萬代 各地区本部も知恵を出して、広域的に事業をやろうという発想も生まれるだろう。それによって、島根県の農業や地域は、これから必ずよくなるという確信を持っている。そして、結果として組合員から「統合してよかった」と言われるようにしたい。
統合にあたって実施した賛否の投票では、11JAの総代から97%という、高率の賛成をいただいた。だが3%の反対があったのはなぜか。規模が大きくなってサービスが低下するのではないかと心配する組合員がいるということだ。こうした組合員の気持ちを忘れないようにしたい。



【インタビューを終えて】

1県1JAといっても、今まであったJA単位に地区本部を置き、地区本部別損益管理をおこなう新組合設立による支店・事業所等の統廃合は予定していないという合併予備調印書を読んだとき、これで1JAにする意味があるのかしらと思った。
が、単協間の塀をとっぱらって、同じ環境のところをまとめ、広域的やること、地区本部でやること、それぞれ役割を決めて取り組むという萬代組合長の説明を聞いて納得した。
各地域にある規模は小さくてもそれぞれ光る農作物への取り組みを広域化させることでスケールメリットを出させよう、そこで赤字が出たら、負担割合を決め、本部がみようとというこの仕組みは、新しい取り組みに伴うリスクを危惧しての躊躇をなくするのに有効に働くだろう。
JAしまねの取り組みは、広域JAの優れた運営モデルになり得るのではないか。

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