JAの活動:生産現場のもっと近くで JA全農の地域振興政策を中心に
JAと一体 地域農業を振興・JA全農ちば2015年6月12日
JA全農は、平成25年度からの「3カ年計画」で、[1]元気な産地づくりと地域のくらしへの貢献、[2]国産農畜産物の販売力強化、[3]海外事業の積極的な展開を重点事業施策として掲げ、その具体的な取組みを展開している。
とくに各府県本部では、農業を取り巻く環境が厳しさを増し、生産基盤の弱体化が進むなかで、それぞれの地域の実状・実態を踏まえた「地域生産振興策」を策定し、元気な産地づくりに取り組んでいる。
その基本的な視点は、
[1]次世代の農業につながる「担い手の育成・支援」
[2]担い手と実需を結ぶ「振興作物選定と栽培体系の確立」
[3]実需者(取引先)への販売力を高める「有利販売の実践」
だが、各県ごとに、生産基盤の維持・拡充、農業産出額の増加と生産者所得の向上という観点から重要テーマを絞り込んで策定している。
本紙では、毎年、JA全農の事業展開などの取組みを中心に特集を企画し連載しているが、27年度は、JA全農がめざす生産力と販売力強化を実際に各県域で実践している県本部の取り組みを中心に連載していく。
第1回目の今回は、JA全農ちば(全農千葉県本部)に取材した。
◆地域の目標を明確に
JA全農ちば(県本部)では、JAグループによる地域生産振興を進めるために、関係機関と連携して「地域農業振興計画」を策定。その実践として新たな品目の提案や技術支援、販売対策を進めてきている。その具体的な成果として、例えば、JAきみつは11月から6月に出荷する加工・業務用キャベツの産地として確立してきている。
また、JA長生(本紙26年11月30日号掲載)では、出荷量が減少してきたネギについて、JAのTACと関係機関やJA全農ちばが連携して、生産者全員参加型の「長生ネギの今後を考える会」を設立し、規模拡大を考える生産者や水稲との複合経営(水稲プラスワン)を志向する生産者に栽培指導し、出荷量を増加させたり、トマトでも「反収アップによる10万ケース増」を掲げ、出荷量を着実に増加させている。
このように県内のJAで振興策が軌道に乗ってきている。これは、各JAに「地域をこうしていくという目標を明確にした『地域農業生産計画』があり、経営トップだけではなく全職員がこの計画について認識して、そのなかで自分が果たす役割が明確になっていて、現在の到達点から次のステップも見えてくるというすべての『見える化』ができ、『振興計画』に魂が入っている」からだと、JA全農ちばの加藤浩生営農販売企画部長。
(写真)畑で鉄コンテナに積込む加工・業務用キャベツの収穫。(JAきみつ)
地域の農業をどうするかという土台であるJAの地域農業振興計画の作成に全農ちばが参画し、さらにJAのTACミーティングや、トマトやキャベツなどの品目をどうするかという生産振興協議会にも参加できるようになったことが、こうした動きの「スタート」だと加藤部長。現在、県内20JAのうち12JAの会議にJA全農ちばが参加している(図参照)。
◆キーワード[1] 加工・業務用
生産振興を図るときのキーワードは、
[1]加工・業務用
[2]水稲+1(プラスワン)
[3]「生産の分業化」とそれに対応したJA全農ちば の機能
の3つだという。
千葉県では規格外のため畑で捨ててしまうニンジンを少しでも生産者の所得になればとジュースにしたり、ポテトチップの原料を供給することなどを30年以上前から行ってきている。だが、加工・業務用に全農ちばが本格的に取り組み始めたのは、平成17年に県本部として加工センターを設置し、「自分たちでカットするキャベツは県内で生産してもらわないと...」と、カット専用キャベツを生産者に提案したことからだという。
加工・業務用の取り組みは野菜だけではない。今年で4年目となる「実需者提携米」という業務用米がある。
千葉県のコシヒカリは彼岸前に収穫が終わるが、「その後に収穫できる品種があれば、いま20haだがもう5ha余分にできるのに...」という担い手の声に応えて、多収性の品種を提案。それが生産者のニーズに合っただけではなく、外食・中食チェーンの「ある程度の品質があって、コシより安価なものを」というマーケットのニーズとマッチングし、生産者の口コミで広がっていった。県本部は生産者には委託ではなく買取で対応し、JA全農ちばが間に入りマーチャンダイジングして、実需者に買い取ってもらっているので「実需者提携米」と名付けたという。
◆キーワード[2] 水稲+1
「水稲+1」は、水稲農家が規模拡大し、20haを超えると家族労働だけでは対応できなくなり年間雇用せざるを得なくなる。そうなると水稲以外の作物を作る必要が出てくるが、千葉は湿田が多く、北関東のように麦・大豆には不向きなので野菜をということになる。
水稲の技術革新で、苗代から現在はビニールハウスでの育苗となっている。その後は、空いている育苗施設で春菊の生産を奨励、いま千葉県は日本一の春菊産地となっている。
前述のJA長生のネギもこの1例だ。
◆キーワード[3] 生産の分業化
もう一つのキーワードである「生産の分業化」とは、どういうことか。
生産規模が拡大してくると、苗づくりから生産・収穫・販売までを1経営体ですべて行うことは必ずしも合理的ではない。苗を作る人、機械で収穫する人、販売するためにカットしたり包装する人というように分業化する方が効率的で、生産性も上がり、規模の拡大がしやすくなる。
また「水稲+1」で、JA長生のように水稲農家がネギを生産する場合、水稲農家がネギの苗づくりをしてもなかなかうまくはいかない。苗を専門家に作ってもらい、収穫後も泥つきでJAの集荷施設に持っていき、JAが人を使って皮を剥いて包装して出荷するという分業化が行われている。
いずれはJA全農おかやまやJA全農いばらきで取り組まれているように作業受託も出てくると加藤部長はみている。
◆営農技術センターが核に
こうした生産と販売をマッチングさせている大きな力となっているのが、昭和60年にJA全農ちばが成田に設置した全農ちば営農技術センターの存在だ。当初は▽JA営農指導の支援、▽優良種苗の増殖・供給などを目的に設置されたが、その後▽土壌分析診断業務の拡充、▽栽培新技術・新品種の開発・導入へと機能を拡充し、販売と連携した産地振興をはかる拠点となっている。
例えば千葉県はサツマイモの作付面積が全国3位だ。サツマイモは栄養増殖だが毎年作り続けているとウイルスに侵されるので、営農技術センターではそれを防ぐために優良苗を30年間提供し続けている。「良いサツマイモは良い苗の提供から」と生産振興に一役かっているわけだ。
毎年開催される「オープンデー」では、JA全農ちばの生産振興品目をメインに、各種苗メーカーのイチ押し品種を展示・紹介しているが、ここではJA、生産者だけではなく、市場・取引先・県・種苗メーカーが一堂に会し情報交換をするなど、生産振興の一助としている。
(写真)種苗メーカー・市場・取引先・JAや生産者が一堂に会す営技センターオープンデー
◆地域が人を育てる
営農技術センターのJA営農指導事業の支援では、県下のJA営農指導員による協議会=千葉県農協A.T.A(AGRICULT-URAL TECHNICAL ADVISER)協議会を設け、生産技術の基礎から販売・流通など営農指導員に必要な幅広い各種の集合研修、ほ場研修を実施している。この協議会が「人づくり」の実践的な場になっていると加藤部長。
どんなに優れた計画があっても、それを実践し実現するのは人の力だ。だが「研修だけでは人は育たない」。「新しい肥料や農薬を持って生産者のところに行き、試験展示をしてもらえるようにすることが、若いJA職員の登竜門だ」と加藤部長は位置づける。
そうすれば、いやでも生産者のところに足を運び、作物を見て、生産者と話をするようになるからだ。そして「足を運べば地域も分かるし、地域でのJAの役割も分かるようになる」。そのなかで「地域が、篤農家がJA職員を育ててくれる」とも。その基盤となっているのが「A.T.A」だといえる。
◆まず仕組みをつくる
JA全農ちばとして「地域農業振興」を進めてきた経験から加藤部長は、振興計画は何を作るかという前に、まずどういう仕組みをつくるか」ではないか。生産から流通・販売までを考えると、「全農だけでは無理がある」ので、加工や流通などの専門家とチームを組み、生産と販売までをマッチングするプラットホームを作ることだという。
例えば豚は売れる部位と売れない部位があるが、このチームに預けると、それぞれが餃子だからこの部位、豚カツだからここをと、1頭を全部処理できる。その器=プラットホームを作るのが全農の仕事だということだ。
前述の「実需者提携米」もそうだ。このことで、JAに顔を向けてくれた生産者に、次は「鉄コがあるよ」とか、「水稲だけではなくネギを入れてみたら...」とか、具体的な提案をすることで、さらにつながりが強くなっていく。そのことで地域農業が伸長していく。
「県域の農業振興とはそういうもの」ではないかと加藤部長は考える。
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