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JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと

【インタビュー】JA全中 奥野長衛会長  日本の特徴は「多彩な農業」2015年9月29日

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「地べたに足をつけた組織は強い」

聞き手:滋賀県立大学増田佳昭教授

 8月に就任した奥野長衛JA全中会長は現場の声を重視した組織運営をめざすと強調する。その現場とは組合員、地域住民の暮らしの向上に応えるJAの事業・活動だという。「地べたに足をつけた組織は強い」と各地での改革に期待する。(聞き手は増田佳昭・滋賀県立大学教授)。

◆米価回復が当面の課題

奥野長衛会長 増田 8月の就任会見では農産物価格の問題を強調されました。改めて農業の現状と課題をお聞かせください。
 奥野 一般的な農産物というより米に焦点を当て、いちばん大事なことはまずは米価だと申し上げました。
 米の価格は需給バランスがとれないことには回復しませんが、今年は初めて8000haの生産調整超過達成の見込みとなっています。作柄の影響はありますが、今年の概算金は全国ほぼ1万円台になったと思っています。
 米の価格は長期低落傾向ですが、そのなかで稲作を続けていくには、農地を担い手に集中させていく必要があります。担い手が何とか再生産可能になるには、60kg1万4000円でもぎりぎりかと思いますが、麦、大豆、飼料用米も作るなど、しっかりと国の施策と合致したやり方をすれば米価は回復するのではと思います。
 そのために再度の基盤整備が必要になっている農地も多く、これはJAグループの力だけではできませんから、国とも連携して支援していただくことだと思っています。
 増田 農業者やJAの自助努力で対応できることと、国の政策に期待しなければならないことがありますから、JAグループとしてきちんと政策を主張すべきだと思います。
 奥野 そう考えています。土地改良事業の問題でいえば農水省だけではなく、本当に目を開いてほしいのは財務省だと思います。将来の国家のための投資なのですから。
 それから今、厳しいのが畜産・酪農です。TPPが合意したらどうなるかと不安で、借金が増える前にやめてしまおう、という農家がずいぶん増えています。高騰した子牛を購入し肥育しても、市場に出すとき価格はどうなっているか、と不安だと思います。

(写真)JA全中 奥野長衛会長

◆地域農業の独自性を大切に

増田佳昭教授 増田 米と畜産対策は急務です。とくに日本農業を支えている土地利用型農業を守らなければいけないときちんと発信しなければなりません。
 奥野 今は、戦後に始まった自作農を育成しようという精神が大きく変えられようとしている過程にあります。その考え方に基づいて農地制度も変えてしまおうと主張する方々も居るので、それにきちんと対抗していく議論を構築していかなければなりません。
 増田 とにかく自由化すればうまくいくといった議論が横行しているのは大変おかしなことです。
 奥野 世界には多様な農業の形態があると思います。開発途上国といわれる国ほど家族農業の比率は高いですし、それで国家が成り立っています。日本もかつてはそうでした。 ところが工業化が進み先進国になればなるほど、農業も画一化された大量生産、たとえば遺伝子組み換え農産物による大量生産などが発展していきました。今はこういう農業との対立だと思います。日本は先進国ですが農業はいろいろな形態がずっと残っていて、それを大事にしていくのが特性ではないかと思います。
 私は、「多様な」というよりも「多彩な」農業という言葉で日本の農業を表現しようと言っています。日本農業にはいろいろな彩りがある、と。
 増田 「多彩な」農業、いいですね。これから企業化が進む傾向にありますが、やはり農業は家族経営が中心になっていくと思います。何でも大規模化、企業化がいいという風潮に対抗していかなければなりません。
 奥野 できるところでは大規模にすればいいと思いますが、日本の国土を考えたときに全国でそれは無理です。各地域に合った農業、独自性を大事にしなければいけません。

(写真)滋賀県立大学 増田佳昭教授

◆JAの現場からの声を集約

 増田 JAグループのあり方については現場の声を重視して運営していくと話されています。お考えをお聞かせください。
 奥野 私は「改新」という言葉を使っていますが、本当の意味は元に戻ろうということです。
 今、全国のJA数は700を切りましたが、JA経営を任されている方々は本当に毎日毎日、現場の仕事に必死だと思います。しかし、そういう声がなかなか政策に反映されない。そこをどうするのか。各地域の声を大事にしていく組織運営にしていかなければと思っています。
 増田 JAの多様性を重視するということでしょうか。
 奥野 そうです。JA段階で市や町とも密接な関係を持ちながら意見を積み上げ、県段階でもいろいろな意見を集約し、それで初めて全国での方針ということになると思います。そして、現場での努力に対して、こういう事例もありますときちんと道筋をつける作業も中央会に求められると思います。
 増田 都道府県の中央会はどんな位置づけになるでしょうか。
 奥野 各都道府県はそれぞれに地域特性がありますから、その地域ごとでJAグループの事業をどう絡み合わせていくのかが大事な役割になると思います。また県ごとの政策をまとめながら、県行政に提案していくのも仕事です。 
 一方、JAについては、私はいちばん大事な仕事は「くらしの活動」だと思っています。昔は農業そのものが暮らしだったわけですが、現在では少数派にあります。しかし、多くの人がJAの貯金や共済を利用してくれます。病院事業や各JAでの介護事業もある。いろいろな結びつきのなかで、人々の生活のなかにさまざまなJAの事業を確立していくという考え方が大事だと思います。現場重視とはこれだと思います。
 増田 JAが主体的に対応することが求められますね。
 奥野 JA経営のために組合員がいるのではなく、組合員の生活をいかに向上させるかのためにJAがあるということです。

◆地域のニーズに応える事業

toku1509290803.jpg 増田 ただ、今回の農協法の改正では准組合員の利用規制問題がいずれ正念場を迎えます。どうお考えですか。
 奥野 私は自分の育った村をずっと分析してきました。かつては150戸の集落でそのうち130戸が家族農業でしたが、今は250戸に膨れあがっています。その理由は分家です。集落外からの移住者も何人かはいますが、ほとんどが分家。それが准組合員です。
 一方、たくさんの農家が農業をやめ、JAがつくった集落営農組織に農作業を任せています。しかし、農地を持つ地権者として、担い手だけに任せては倒れてしまうだろうと、全員が草刈りや水路管理などに出ています。つまり、農業をやっている人だけでは農業はできない。これが今の集落の実態です。
 増田 産業としての農業を振興すればいいといっても、それを支える地域の人たちがいないと成り立たないということですね。ただ、心配するのは都市部を中心に農業と関わりがなく事業を利用するだけの准組合員の問題です。つながりをどう強めていくか。
 奥野 それはたとえばファーマーズ・マーケットなどが鍵を握るのではないかと考えています。極端な例ですが、都市部の農地では栽培している最中に、この畝全部下さい、と注文があると聞きました。目の前で農産物が育っているのを見ると安心する。地産地消、身土不二を大事にしたいという気持ちは必ずあると思います。
 増田 「食」と「農」がキーワードですね。
 奥野 そうです。それから介護も重要な課題になっていますが、JAは女性部を中心に助け合い組織からスタートして訪問介護事業まで行っているところも多いです。地域のみなさんが今いちばん困っていることに注力していくこともJAには求められていると思います。
 理屈からは、介護事業は生協がやればよくて、何も農協がやる必要はないのではないかということかも知れません。しかし、戦後の生活のなかから生まれてきた農協の仕事にはやはり地域のニーズがあるわけです。それを止めますというわけにはいきません。

(写真)9月7日 東京大手町のJAビルで

◆改革の実践 JA先頭に

 奥野 農協法改正論議ではみんな大騒ぎをしました。しかし、私の感覚からすれば東京の空中戦だったのではないかと思います。本当の意味で地べたに張りついて仕事をしている農家の声が聞こえてこなかった。そこに大きな問題があったのかと思いますから、組織のあり方を変えなければいけない。
 増田 これから地上戦をやらなければならないということだと思いますが、その実戦部隊は農業者でありJAだということですね。
 奥野 地べたにしっかり足をつけている組織は強い。そこがすべてです。

【インタビューを終えて】
 印象に残ったのは、現場のJAの声を大事にしたグループ運営を貫こうという強い意思だ。今回の政府主導の農協改革騒動の中で、十分に現場のJAの意見が反映できなかったとの思いが強いのであろう。これまでは「空中戦」で、これからは「地上戦」だというのも、JAの置かれている状況を表しているし、これからの粘り強い取り組みへの決意表明とお聞きした。JAグループにとって文字通りの正念場だが、何よりも現場目線を大事に、頑張っていただきたいと思う。(増田)

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