JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと
【農機会社からエール・インタビュー】(株)クボタ 石橋農機国内営業本部長 地域を知るJAが地域を変える2015年10月1日
担い手がもっとも信頼するのはJA
(株)クボタは、日本農業の発展を支えてきた日本有数の農業機械メーカーだ。農業機械の進歩がなければ戦後70年の日本農業と食料を語ることはできないだろう。だが、クボタは農機だけではなく、低コスト栽培技術やICTを活用した営農支援システムなど、幅広く農業に関わってきている。そうした立場から、いま日本農業をどうみているのか、JAグループに何を期待しているのかを、石橋善光農機国内営業本部長に聞いた。
◆担い手へシフトしている日本農業
――御社は農機メーカーとしてはもちろん、鉄コーティング水稲直播技術、あるいはICTを活用した稲作技術など、さまざまな形で農業に関わっておられますが、現在の日本農業についてどのようにみておられますか。
農業機械でいうと市場規模が大きいのは小型機械です。しかし、販売の状況は消費税増税以降、減ってきています。反対に担い手農家が使う大型機械の販売ボリュームが増加傾向にあります。
徐々にそういう傾向になるとは思っていましたが、高齢化や政策的な方向、米価の低迷などから担い手へ頼む人が増えているからでしょうか、大型機械へのシフトがかなり加速してきています。
その一方で、担い手には、様々な課題があります。
例えば、規模拡大を検討している50ha作っている担い手がさらに20ha増やそうと思えば、機械設備への更なる投資が必要ですし、人手も必要です。さらに自分で販売をする方はライスセンターなど乾燥調製施設も必要ですが、資金としては4000~5000万円が必要です。しかし、十分な貸付体制がありませんので、大規模化するにも難しい面があります。
作業受託による規模拡大においても飛び地となるなど、条件が良い農地ばかりではないという課題もあります。
また、経営の安定化を図るべく、東北や北陸では水稲だけでなく、施設栽培など複合経営を考える方が増えています。水稲とは違う栽培ノウハウが必要ですから、すぐにはできないという課題もあります。
(写真)石橋善光氏 (株)クボタ執行役員・農機国内営業本部本部長
◆低コスト栽培技術の開発―鉄コーティング直播栽培
――そうしたなかで御社は、農機メーカーというよりも総合的な農業関連企業というイメージになってきていますね。
農機販売以外で一番最初に取り組んだのは、鉄コーティング水稲直播栽培(鉄コ)です。稲作の更なる省力化、低コスト化等、お客様の課題を解決するためには、ハード面である機械化体系だけでなく、ソフト面も含めた提案が必要だと考え、取組を開始致しました。
そして3年前から、全農と連携した取組を展開させて頂き、各JAのご協力もあって、飛躍的に作付面積が増え、今年は1万5000ha超と昨年の5割増しになりました。
大規模化しようとする方においては、育苗施設を増やせないので直播で、という方は増えています。
この技術は育苗施設が必要ありませんし、いまは播種と同時に肥料や殺虫殺菌剤を散布できるので、収穫までの中間管理の手間の省力化が期待できます。慣行栽培と比較すると各種条件によっては収量がやや少ないところがありますが、少し少なくても手間が省けるならという農家の方は増えてきております。
――全農とは輸出米でも提携し、米の生産から消費まで一緒に携わっているわけですね。
生産から流通まで、クボタにしかできないことは何かと考えました。
そして低コストでお米を作っていただく。私たちもそのための努力をする。そしてそのお米を消費者に届ける。国内消費は全農や米卸会社がいますので、私たちは輸出でとなったわけです。
◆技術の実証と担い手支援―クボタファーム
――御社が「生産法人を設立」というような報道されていますが...
「クボタファーム」構想によって生産法人を設立する目的はいくつかあります。
一つは、技術的な面です。それは、鉄コをはじめとした低コスト栽培技術の実証をしたいということです。
さらに、ICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)を活用した「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」を開発しましたが、これのどこをどう改善すれば農家の方々が使いやすくなり、一番お困りのところまできちんと管理ができるようになるのか。さらに、流通小売業あるいは消費者が求めている安全・安心に応えるトレーサビリティができるようになるのか。そうしたことを実証していきたいということです。
そういう意味で、水稲など農産物を「作るところから出るところまで」をというのが目的の一つです。
――その他の目的は...
担い手を支援するような体制をクボタとしても考える時期ではないかと思います。
いま担い手の方々の資金は必ずしも潤沢とはいえませんので、企業と提携したいという方もいます。そうであれば、クボタグループと連携いただき、担い手を支援していければ...ということです。担い手の方々が求めているのは、農村にとって「顔が見える企業」です。クボタは長年、農機販売を通じて農業関係に携わり、「顔がみえる」活動を展開させて頂きました。
農地集積をはかるために「農地バンク」がありますが、借り手はたくさんいるのに、貸し手が非常に少ないです。借り手の「顔が見えない」ので、農地を貸して、何かあったら地域に迷惑をかけるという心配を農家の方がされているということが理由だと思っています。
そうした心配や不安を取り除いて安心して農地を貸すようにできるのは、JAではないでしょうか。そういう意味でもJAに期待する企業は多いです。
――すでに稼動している生産法人は...
すでに設立されたのが新潟です。現地の販社である新潟クボタが担い手の方とタッグを組み、輸出米に取り組んでいます。
もう一つは、農業特区の兵庫県養父です。ここは近畿クボタと現地の担い手がタイアップして生産法人を立ち上げる予定です。ここでは輸出用米と、施設栽培です。施設栽培では、ビニール農法といわれている、薄いビニール上で栽培する「アイメック栽培」(メビオール(株)が開発)でトマトを作ります。水をあまり与えずに栽培することで、糖度が高いトマトができます。
◆JAは農村のシンボル的な存在
――企業とJA・全農との関係がいろいろいわれていますが、すでにJAグループと経団連が連携してワーキンググループをつくり、全農を中心にいろいろ取り組んでいます。先ほどのKSASもその一つです。今後もこうした連携が必要だとお考えですか。
私は、必要だと考えています。もちろん一部には、直接、企業と手を結ばれている担い手もいます。マスコミはそういう人たちをクローズアップして取り上げますが、日本全体を見渡すとそういう方は1%もいません。
基本的に担い手の方が頼られているのは、JAです。そして担い手だけではなく、農村がJAを頼っていると私はみています。農村地域、その地域を支えている農業、そして農業関連企業について一番よく知っているのは、JAです。
ですから、企業が農業参入・農村参入するとき、JAの果たす役割は大きくなると思います。それはさまざまな斡旋だったり、出資をして一緒にやるとか、いろいろな形が出てくると思います。
――JAは重要なパートナーということですね。
クボタは農機販売を通じて農村を知っていますが、農村の方々のJAへの信頼が強いこともよく分かっています。将来的な農業のあり方などについては、常にJAと話しながらやっていくようにしています。
◆一緒に考え行動する重要なパートナーに
――最近、全農とはいろいろな面で連携していますね。
鉄コや米の輸出をはじめとして色々と連携させて頂いております。JAグループが持っている力を良く知っていますし、力があるところと一緒にやっていかなければと考えていますので、重要な戦略的パートナーです。
――JAグループと農業をよく理解している企業が手を結んでいくことが、これからの日本農業にとって大事だといえますね。
JAは、農村地域、農家にとってシンボル的な存在であると同時に、寄せる期待は非常に大きいです。「その期待に応えることが自分たちだけでは難しい」「一緒にできる企業も必要」と考えるJAも増えています。
クボタは、そのときに一緒に考え行動できるパートナーになりたいと考えています。
――そうした期待に応えていくためには、JAあるいはJAグループは何を考えていく必要があると思いますか。
一つは、農産物販売面で、これからの時代はブランドだけでは売れなくなると思います。ブランドにプラスする差別化が必要になります。生産方法、生産者及び生産物の個別データなど、出荷までの情報を一番持っているのはJAです。その強みをどう活かすかです。その強みを活かすためには、ICT技術が必ず必要になってきます。
もう一つは、JAは金融関係も含めて農村・地域全体をよくご存じですから、この地域をJAとしてはどう変えていこうとするのか。それは、何かを売ったり買ったりすることだけではなく、もっともっと地域に深く入り、地域のコーディネーターとなることを私は期待しています。
(いしばし よしみつ)
昭和35年生まれ。昭和61年慶應義塾大学商学部卒業。久保田鉄工(㈱)(同社は平成2年4月に、(㈱)クボタに社名変更)入社。平成18年10月関連商品営業部長、同20年4月トラクタ事業推進部長、同22年4月機械営業統括部長、同24年4月アグリソリューション推進部長兼クボタアグリサービス(㈱)出向(現在に至る)、同25年12月農機国内営業本部長(現在に至る)、同27年4月執行役員(現在に至る)
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