JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと
【対談】地域に根ざす協同組合づくりを JC総研・冨士理事長-大妻女子大学・田代教授2015年10月14日
共益の追求が公益を実現
第27回JA全国大会は農協法改正を受けて内外から「農協改革」が注目されるなかで開催され、全国各地で自己改革の実践をスタートさせることになる。今回の農協改革の一連の流れを改めて整理し、地域社会から期待されている「協同組合」としてのJAのあり方について、JA全中元専務の冨士重夫JC総研理事長に語ってもらった。聞き手は田代洋一大妻女子大学教授。
◆「農協改革」の本質
田代 今回の「農協改革」について、全中役員として道半ばで辞さざるを得なかったと思いますが、今日は改めて一連の動きを整理していただき、これから取り組むJA改革の課題を語っていただきたいと思います。問題点を明らかにするために、まずは一昨年からの農協改革の動きを振り返っていただけますか。
冨士 政府は成長戦略の一環として農業所得の倍増という目標を掲げ、規制改革会議の農協改革の議論も、それに向けた農協の果たすべき役割は何か、足かせになっている規制は何かといった観点で議論することが本来の趣旨だったはずです。その点でわれわれもJAグループの経済事業改革という観点から、対応していく考えを規制改革会議にも提示してきました。
しかし、その後、議論のいわば第2段階では、具体的な事業に関するものではなく全農の株式会社化や信用事業の代理店化など「かたち」の問題を持ち出してきました。どのような「かたち」を選択するのかはわれわれの自主性に関わることですから、そこは組織形態を変更する場合の環境整備の問題だという認識でした。ただ、全農の株式会社化となると現在の共同販売・購入がそのまま続けられるのかという問題意識を持っていました。
そこから議論は第3段階に行き、今度は中央会制度の廃止と准組合員問題が出てきた。政府は中央会改革を60年ぶりの農協改革の目玉にするという状況づくりをしてきた。その中央会改革を実現するための方法として准組合員問題をセットで押し出し、さらに中央会問題は監査の問題となった。つまり、中央会監査を解体しないと中央会制度を廃止できないという議論です。JAが中央会監査と公認会計士監査を選択できるという考え方も途中での議論でありましたが、中央会制度を廃止するには、公認会計士監査の義務づけという方向になり、全中の監査機構も外に出して再編することになった。ほかにも大きな問題がありますが今回の農協改革は中央会制度が前面に押し出され大きな問題になったと思います。
(写真)JC総研理事長 冨士 重夫氏
◆総合事業の意義
田代 公認会計士監査への対応ということで、さらなる代理店化や、さらなる合併、とくに1県1JAという動きにもつながってくるだろうと思います。
冨士 あくまで私見ですが、1県1JAは選択としてはあるが、推奨はできないと思ってきました。やはりJAは地域性を大事にした協同組合という存在なのではないかということです。
一方で金融の論理からは一定のボリュームがないと信用事業は存続できないということだと思います。しかし、地域を支える総合事業を行うJAとしては金融事業でも主体であることが大事です。たとえば、組合員の要望に応え、将来を見据えて新たな事業に投資していこうといった取り組みも大切です。ボリュームの論理だけで、合併、あるいは代理店化ということではなく、総合農協としての事業を連合会とどう組み合わせ、一体的かつ効率的な事業として改めてどう確立するのか、そこが行くべき道だと思います。
田代 信用事業としては代理店化や合併ではなく、やはりJAバンクシステムを強化するという道を選ぶべきだということでしょうか。
冨士 今回の議論をふまえて政府が農協改革として思い描いている絵姿を改めて考えておく必要があると思います。
それは金融と保険を代理店化し営農経済事業の専門的な協同組合にしていこうというものです。そうなれば農林中金や全共連は株式会社でもよく、農協は協同組合として営農経済事業だけの単営にすべきだということです。その経済事業を支える全農や連合会には株式会社化する方向も措置されたわけです。
しかし、これから地域協同組合としての役割を発揮していくという意味では、金融事業を単協が主体として持っていない限り、高齢者福祉やくらしの活動などの事業を展開していくことが非常に困難になります。
誰が考えても利益性、収益性は金融・保険がナンバーワンで、その次が流通業であり、農業生産はもっとも収益性が低い。ですから地域貢献するための活動に対する投資などの役割としても、重要だということです。
(写真)大妻女子大学教授 田代 洋一氏
◆組合員制度が課題
田代 総合農協だからこそ信用・共済事業を守り抜く必要があるということですね。この点はこれから大きな課題となる准組合員問題にも関わることです。
冨士 今回は5年先の大命題として位置づけられたと思います。それに対する具体案をつくらなければなりません。
そのとき、先ほどから議論になっているJAの総合事業体をきちんと担保して、地域農業と地域の暮らし、この両方を支える機関として役割を発揮していく。そのための組合員制度はどうあるべきか、と考えていく必要があると思います。
そこで共益権(議決権)の問題ですが、これもどういう共益権を与えるのかと考えてみる。つまり、組合員といってもひとつだけなのか、それともいくつかのあり方を認めるのか、と考える。そうした組合員制度が、その協同組合の色合いを決めるのだと思います。
ここは非常に重要な点で、このことが、何という名前の、どういう性格の協同組合なのかということに関わってきます。これは将来像にも大きく影響してくることだと思います。
田代 共益権については欧州の協同組合が、組合員の種類に応じて総議決権のうちどの程度を認めるかをかなり明確にしています。日本の場合はこの点がまだ考えられておらず、准組合員についてJAグループはパートナー、あるいは農業振興の応援団だと表現をしています。
それについて私は、スタンドから応援する准組合員ではなく、グランドで共にプレーする准組合員たるべき、という感じも受けます。農業と地域に役割を果たすことを考えれば「准」ではあるけれども、きちんと選手として考えるべきではないかと思います。
冨士 日本の協同組合法制は事業別協同組合になっています。ドイツやフランスのような一般協同組合法がありません。そのなかでも農協だけに准組合員制度がありますが、基本的な考え方は職能組合です。だから、地域農業振興に一生懸命に取り組み、それなり成果を上げたのだから准組合員問題はご赦免を、などはあり得ず、われわれはこの根本問題をどう解決していくかが問われる。今は、真の意味の地域協同組合としての事業を行うような協同組合は法制度上も難しい。こうした課題を広範に検討し法制度の枠組みを考えていくことも必要になると思います。
田代 そうすると一般協同組合法といった問題にも発展するということですね。
◆日本農業とは何か
冨士 それは日本における農業や地域をどう考えるかということでもあると思います。産業としての農業という面だけではなく地域社会経済における農業という見方をし、地域の社会経済を支える機関としての協同組合という面を考えたいと思います。
たとえば、JAは介護などに助け合い組織で取り組み、みんなの共益を実現するわけですが、それを地域経済社会と一緒になってやっていけば共益の追求が公益につながります。これが協同組合の特色ですし、その理解が必要です。
そのときに協同組合としての運営原則である民主的運営や、出資者であり利用者であり運営参加者であるという三位一体といわれる協同組合の基本から准組合員の位置づけを考える必要もあります。
まず基本的なことは准組合員はあくまで組合員なのであって員外利用者とは違うということです。正組合員というグループと准組合員というグループに分かれているのではなくて、同じ1つの組合員です。ただし、農業従事者ではないということですから、地域農業振興のためのさまざまな活動に関わってもらう事業の取り組みをしていく。共益権がないことについては総会、総代会への出席や発言といった法制度上にはないということにも取り組むとか、あるいは事業利用者懇談会で事業に対する意見をきちんと受け止めていく女性大学などさまざまな組合員組織の参画を促進していくことも大切です。今の枠組みでもできることはたくさんあるわけで、それを今回の全国大会ではアクティブメンバーシップといっているわけです。これを徹底してやっていく。その上で5年後に突きつけられるであろう制度問題に、きちんと今から対応していくことが大切だと思います。
田代 今後もぜひJAのあり方について発信をしていってほしいと思います。
【対談を終えて】
冨士元専務に熱い思いを語っていただいた。まず問題の推移を三段階に整理してもらい、第三段階での中央会・監査・准組合員問題の課題を明らかにしていただいた。公認会計士監査問題に対応するために、信用事業を代理店化する、あるいは1県1農協化するのではなく、あくまで地域に根ざした総合農協を堅持すべきこと、また准組合員の具体的な参画促進を通じて今から制度問題に備えるべきこと。農協が進むべき大道が示されたといえる。(田代)
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