JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと
小規模農家が協同の力 直売所を核に〝地産都商〟2015年10月14日
JAしまね雲南産直振興推進協議会
小規模な農家が集まって大きな力を発揮。協同組合の理念そのものを実践する、協同組合の創生期のような産直組織がある。島根県雲南地区の奥出雲産直振興推進協議会は、各農家が自分の体力、経営の可能な範囲で野菜を栽培する。少量多品目の野菜や加工品を、ネットワーク化した直売所で販売。それも消費人口の少ない中山間で市場の限界を見極め、都市での販売に挑戦し、地産地消から、都市で商売する〝地産都商〟へ産直を拡大している。
島根県の雲南地区は、八岐大蛇(やまたのおろち)で知られる斐伊川の中流地域で、雲南市を中心に1市2町からなる。農地は斐伊川とその支流の周辺に広がる平地と、中国山地沿いの高原に限られる、地区の大部分は中国山地で、過疎化・高齢化の進んだ典型的な中山間地域である。
標高が100~1200メートルあり、気候・地形など、自然条件の多様性から、繁殖和牛、酪農、園芸を初め、さまざまな農産物が栽培されているが、それぞれの経営規模は小さい。
木材や縫製産業が衰退し、農業以外に目立った産業がなく、農家の高齢化で、農業生産も年々減少傾向にある。2000年に約7000戸あった販売農家は2010年には5500戸に減り、経営耕地面積は同じ期間に6200haから5600haに減った(農林業センサス)。
この状況にJA雲南(当時)が危機感を持った。高齢者でもでき、収入を得る農業はないものかと探していて目にとまったのが、当時、あちこちにあった農産物の直売所だった。管内に20か所以上の直売所が点在していた。ただJAが設けた直売所はなく、すべて行政や農家のグループ、民間企業が運営していた。
直売所の規模や経営形態はさまざまだが、大半は農家の女性や高齢な農家の運営による小規模なもので、品ぞろえや客の確保に苦労していた。
もともと消費人口が少なく、それも分散しており、大きな商店街もないこの地区で、農産物だけの直売所を運営するのは難しい。そこで平成10年、点在する直売所をネットワーク化した産直振興推進協議会が生まれた。
JA雲南の職員(JAしまね雲南地区本部の営農部次長)で、現在、推進協議会の事務局を務める須山一さんは当時、「共選共販の出荷量を拡大するだけでなく、地産地消を支援し、小規模農家の流通支援もJAの役割ではないか」と考えた。
旧町村単位の10地区を回り、協議会への参加を呼び掛けたが、これまで直売所事業に取り組んでこなかったJAに、対し、農家は冷たく、「いまさら農協にきてもらわんでもいいがね」という反応が多かったという。
それでも粘り強い説得で、10地区すべての直売組織が参加し、13年に奥出雲産直振興推進協議会発足にこぎ着けることができ、直売所のネットワークがスタートした。
直売所を継続させるためには品物を安定して確保することがポイント。出荷する生産者が少ない直売所ではこれが難しい。また雲南地区の山間部のような積雪地帯では、冬場に地元の野菜が確保できない。
そこで、推進協議会は、まず農産物の集荷体制の整備に取り組んだ。管内に40か所ほどの集荷場を設け、JAのトラックで集荷。その時点で出荷者は、自分の希望する直売所を指定する。つまり、これまでの直売所のエリアを超えて、複数の直売所から自由に選び、出荷することができる。
それぞれの直売所の売上げはPOS(販売時点情報管理システム)で管理されており、2時間ごとに更新された店舗の売上情報を、インターネットやファクスなどで、生産者は家にいながらリアルタイムで得ることができる。こうした情報は蓄積し、中長期の栽培計画にも役立てる。
さらに消費者からの注文連絡が生産者に直接入るシステムの導入も検討している。生産者は注文を受けた品物を集荷場に出すと、集荷担当者が配送業者を使って消費者に届けるというシステム。消費者との距離が縮まることで、生産者の意欲と商品の品質向上が期待できる。
産直生産者には、JAが「QRコード」(二次元バーコード)対応の出荷表示ラベル発券機を提供。集荷場に持ちこまれた時点で、商品の価格や出荷日、賞味期限、食べ方などのメッセージをプリントしたバーコードラベルがついている。 既存の設備を最大限利用し、JAはソフト面で支援する。これが推進協議会の基本的スタンスで、集荷場にはほとんど金をかけない。大半は集落内の自治会館や空き倉庫、廃止されたJAの支店などを使っている。
「農協は笑顔の種をまいている」(JAしまね雲南地区本部のキャッチフレーズ)
産直が地域の活力に 都市で〝宿借り商法〟
◆設備に金をかけない
雲南地区1市2町の人口は6万人余り。農家世帯約8000戸の農村地帯。農産物の消費市場としては限界がある。そこでJAのエリアを越えた販売に取り組んだ。県内の松江市や県境を越えて広島県の三次市、さらに兵庫県の尼崎市などに販路を広げた。JAはこれを〝地産都商〟として、「地産地消」と両輪で行く考えだ。
都市ではスーパーなどのフロアを借り、産直市を開く。この販売方法を須山次長は〝ヤドカリ(宿借り)商法〟と呼ぶ。設備に金をかける必要がなく、集めた商品の量によって産直市の規模が異なるときは、それに応じて借りるフロアを変える。体の成長に合わせて殻(店舗)を取り換えるヤドカリに例える。
いつでもどこでも産地の都合でできる出張販売である。平成18年度から始めた尼崎市での出張販売では、地元スーパーのフロアーを借り、「島根産直市」として毎週1回、定期的に開催。新鮮さと豊富な商品、それに餅つき、売り場に流れる島根県の民謡などで、周辺の消費者にとって馴染みの産直市になっており、年間1億円以上を売り上げる。
雲南市から尼崎市までは高速道で4時間余り。前日に生産者から集めた農産物を運び込み、JAの職員と現地スタッフ(都市在住の島根県出身者や産直市のファンなど)が、商品の陳列から接客、レジ打ち、撤去まで一連の作業をすべてをこなす。すべて自前で、場所を貸すスーパーはタッチしない。
産直振興推進協議会の目的は農家の収入を増やすことにあるが、その成果は数字に表れている。発足以来、毎年確実に売上げを伸ばしており、発足時6000万円ほどだった売上げは毎年拡大し、26年度は10倍超の7億5000万円に達した。27年度や8億円、当面10億円をめざす。
会員は3000人余り。これは地区内の総農家数の4割近くに達する。1人当たり平均の売上高は25万円前後になる。会員の大半は60~70歳代で、収入の増大と併せ、高齢者の大きな生きがいともなっている。
また産直は、地区の農家の収入に万遍なく貢献している。管内10地区の販売実績は、当初2~3地区で大半を占めていものが、次第に均等化してきた。市街地と、山間部それぞれ直売所の立地条件が異なっていることを考えると、販売条件の悪い地区が頑張り、全体の底上げができたことであり、〝都商〟を含めた産直の貢献が大きい。
奥出雲産直振興推進協議会の活動は農家の生産意欲を高めている。同協議会は農業の経験が豊かで優れた技術を持つ生産者を「アグリキャップ」(産直相談員)として任命。
委嘱状では、「安全でおいしく、健康的な農産物を作るとともに、昔から地域に根付いた野菜づくり、加工品づくりを学び、本物の食文化を伝えていく」とうたっている。
農業をリタイアした高齢の生産者にとって、新規就農者や後継者育成に役立ち、大きな生きがいになっている。
(写真)小規模直売所のひとつ
◆中高生の商人体験も
また、有料の産直売れ筋野菜栽培講習会も活発になった。生産者のほ場を借り上げ、産直商品で通年の売上げの多い、ニンジンやゴボウなど、種苗会社の技術者を招いて、畑づくりから種まきなどを学ぶ。
こうした取組みを通じ、産直振興推進協議会では、「奥出雲つくり人の5つの約束」を定めている。(1)第一に土づくりに徹します、(2)農薬に頼らない栽培方法を行います、(3)加工品の原材料は奥出雲のものをつかいます、(4)商品には自信と責任を持ちます、(5)奥出雲地域の振興を考えますーだ。
食育活動や地域の消費者との交流も活発になった。尼崎市での産直市には、地元中・高生が修学旅行の折など、売り場に立って〝商人体験〟する。
地域の消費者を招いた生産者による食のフェスタや地産地消弁当コンテスト、女性を中心とした農産物加工の6次産業化の取り組みなど、さまざまな地域の活動が生まれている。
(写真)高校生が"商人体験"
◆安定した価格に魅力
島根県とJA(JA雲南)は、昨年、雲南地区の産直活動の調査結果をまとめた。そこで、産直に参加した農家の「産直に取り組んで良かった点」を聞いた。主な意見は次の通り。
【産直に取り組んで良かった点】
・以前は食べきれず、もったいないと思いながらも捨てていた自家用野菜が売れる。
・新たな栽培品目や品種が増えて自宅の食卓も豊かになり、家族も喜んだ。
・退職してからも世間や人との交流ができ、直売市に出荷すると収入になる。
・数多くの直売所を見学して、出荷の工夫を学んだ。
・年寄りでも相手にしてもらえたことや、栽培者同士の交流ができた。生産者や仲間から新たな品目の苗を分けてもらったり、作り方を教えてもらった。
・畑や山で採れたもののおすそわけができた
・これまでつくったことのない品目や新品種の栽培ができた。
・野菜の市場単価が下落したとき、優品やB級品を直売市でさばくことができた。
・直売市ではエコロジー野菜の価値を理解してもらえた。
・少量多品目で楽しみながら体力に合わせた取り組みができる。
・価格を自分で決めて、納得して出荷できた。
【食と地域を守る戦略 JAしまね 萬代宣雄組合長】
◆産直事業に期待する
島根のような中山間地域を多く抱える県で、直売事業は農業所得向上に向けた主要な販売戦略の一つであると考えます。
また、こうした小規模な直売所を核とした取り組みは、雇用の創出や情報発信の起点など、地域を活性化させるものとしても評価されています。
そうした観点からもJAが中心となって取り組むべき事業です。今後、一層の拡大、発展を目指していく必要があると認識しています。
農政の先行きが不透明な中で、大規模経営が困難な中山間地域の農業が生き残るための重要な戦略の一つです。
また、産直は専業農家にとっても市場出荷との組み合わせによって経営の安定化を図ることができる事業でもあります。零細小規模、高齢農家に限らず、一層の躍進が期待されていると考えます。
農業所得向上のための取り組みであることはもちろんですが、産直は生産者が地域・消費者と直接にふれあいを重ねることのできる場であり、「売れる商品づくり」の楽しみ・喜びを実感することのできる場でもあります。
食と地域を守るJAとして、今後も産直を重要な事業として位置づけながら、関係機関と一体となって組織育成・支援対策に取り組んでいきたいと思っています。
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