JAの活動:生産現場のもっと近くで JA全農の地域振興政策を中心に
中山間地農家の所得増めざす・JA全農ひろしま2015年11月30日
ものづくり人づくりの拠点西日本営農技術センター
JA全農ひろしま(県本部)は、「生産・販売・購買」の一貫したバリューチェーンの構築による地域農業振興をめざし、(1)生産基盤の拡大、(2)販売ルートの多元化、(3)営農指導員などの人材育成、(4)担い手の育成・支援、(5)生産資材の開発に取り組んでいる。その拠点となるのが、同本部のJA西日本営農技術センターで、技術集積、JAの指導員・地域の担い手の育成などで大きな役割を果たしている。同センターを取材した。
◆土づくりからの農業再生プランを策定
県内のほとんどが中山間地域で占められる広島県は、米、和牛、果実のほか県北のアスパラガス、尾道市、三原市を中心とする県東部沿岸地域のわけぎなどの特産がある。特に園芸作物は、品目は多いものの、大きな産地は少ない。一方、農業従事者の高齢化が進み、担い手不足が深刻になっている。
このためJA全農ひろしまは、平成18年度から「土づくりからの広島農業の再生プラン」を策定し、「県民から愛される豊かな食糧基地をめざして」をスローガンに、(1)販売力の強化、(2)担い手の育成・支援、(3)営農指導体制の強化の3つを重点実施施策として取り組んでいる。
具体的には、土壌診断結果に基づいた適正な肥料設計・指導機能強化のため、平成19年度、JA西日本肥料研究所を開設。分析体制の強化とBB肥料等の低コスト資材の普及拡大に努めてきた。
さらに、平成21年度には土壌の物理性改善に不可欠な、たい肥「完熟たい肥(こだわり健肥)」の生産・販売を開始。それを活用したブランド野菜についてもを売り出した。
◆JAの指導者から担い手まで育成
こうした取組みを基礎に、「再生プラン」をより完成させるため、平成24年にセンターを開設。神奈川県平塚市にあるJA全農営農・技術センターに次ぐ、西日本の拠点となる機能を期待し「JA西日本営農技術センター」と名付けた。
従って、このセンターの特徴は、生産から販売までの一貫したバリューチェーン構築のため、品種の選定から栽培技術、それを現場に定着させるJAの指導者、さらに実際の地域農業の担い手の育成まで、幅広い事業を持つところに特徴がある。
同センターの片島恒治室長は、「農協改革でも掲げられているが、農家所得の増大には、栽培技術だけでなく、市場のニーズをとらえるマーケットインを視野に入れた取り組みが必要だ」と強調する。このため、Aコープやスーパーのバイヤーなどをセンターに招き、栽培方法を確立した園芸品種を提案する商談会も開いている。
今年9月の商談会では、同センターで実際栽培し、今後県内で普及・紹介したい品目として、アスパラガス、ミニトマト、調理用トマト、ピーマンなどを紹介した。
◆アスパラ・わけぎの技術確立と普及拡大
同センターの役割は、3つの「ものづくり」と「人づくり」にある。
特に収量・品質向上対策技術確立の主力に挙げているのはアスパラガスとわけぎだ。いずれも県の重点推進品目で、これを第1の「ものづくり」に挙げる。
特にアスパラガスは同センターの試験ほ場2.2haのうち1haを占めており、広島県が力を入れている農業生産法人への導入作目として、県内全域での普及に期待している。
わけぎは県東部沿岸地域の特産で、日本一の産地。その産地の維持・拡大に欠かせない各種の試験を実施している。
「ものづくり」の第2は、品種導入と普及試験。16作目28品種がその対象で、普及するため栽培試験を行う。消費者に受け入れられるかとうかを試すためセンターで生産した農産物を、広島市内にあるJA全農ひろしま直営の直売所「とれたて元気市場」で試験販売する。
それで導入した品目の一つに「子どもピーマン」がある。ピーマン嫌いの子どもでも抵抗なく口にできる品種で、現在県内2JAで普及に移している。プロ野球の「広島カープ」とのコラボ商品として、「Carpy(カーピィ)」のネーミングをつけた。
こうした市場を意識した取り組みがマーケットインの考えだ。これによって消費者の好みや市場の評価が分かる。ミニトマト、ピーマン、トウモロコシ、ダイコン、カブ、サニーレタス、ニンジン、バレイショなどが研究対象になっている。
◆トロ箱活用や鉄コ等 新たな栽培技術確立
「ものづくり」の第3が、新たな栽培技術の確立試験だ。その一つにトロ箱を使った「全農型養液栽培システム(うぃずOne)」がある。ミニトマトやカラーピーマンの栽培を対象に考えているが、低コストと、簡単に導入できる特長がある。
利用期間の短い水稲育苗ハウスに設置し、施設の有効活用を狙ったものだが、このように生産現場からのニーズを大切にしている。トロ箱と液肥の供給装置、それにJA全農ひろしまにおいて普及に力を入れているミニトマト「アンジェレ」をセットにして「うぃずOne」として普及を進めている。「初めての人でも初期投資や栽培技術上のリスクがなく、広い普及性がある」というわけだ。
水稲の鉄コーティング直播栽培もこのセンターで開発した新技術だ。育苗と移植作業を省力できる。「田面を均平にするなど、この栽培法の特性を理解すれば、省力効果は大きい」と片島室長。同センターでは、全農の西日本の鉄コーティング直播の普及拠点の一つとして種子のコーティングに関する試験プラントも設置設置している。「普及のためには、この技術の特性をよく理解し、高いスキルをもったJAグループ職員を育てる必要がある」という。
◆専門的な知識を活かすJA施肥マスター
そのJA営農指導員や実際に新技術を取り入れる担い手育成をするのが、同センター4つ目の「人づくり」だ。そのために「JA施肥アドバイザー・マスター資格」制度をつくった。
土壌や肥料について幅広い知識を持ち、土壌分析や作物体の分析など、化学的手法を活用した専門的な営農指導ができる人材の育成をめざす。土壌・肥料の基礎的な講習を行う「JA施肥アドバイザー」と、より専門的な知識と技術を習得する「JA施肥マスター」の2段階がある。
JA施肥アドバイザーは平成22年から、JA施肥マスターは23年から実施し、現在までに114人(12JA)の施肥アドバイザー、47人(同)のJA施肥マスターが誕生し、それぞれのJAで活躍している。また、マスター取得者による「JA施肥マスター研究会」があり、センターでの技術を現場に移す中心的な役割を果たす。
JA施肥マスターの一人、広島県JA庄原管内の高冷地で「アンジェレ」の普及に努めている同JA北部営農センターの牧原真吾園芸係長は「現場では試験したいことがたくさんあるが、農家に迷惑がかけられない。この点、センターの存在はありがたい。また最近は産直が増え、いろいろな品目の情報が必要だが、この点でも、マスター研究会による技術者同士の横のつながりが役に立つ。アンジェレやアスパラガスの産地化で中山間地の農家の所得増大につなげたい」と期待する。
◆臨時職員として採用 新規就農者支援研修
「人づくり」のもう一つの柱は、平成25年度から始めた地域の担い手育成を支援する新規就農者の支援研修だ。1年間、センターの臨時職員として採用。肥料、農薬、農業資材、農業機械、作物栽培技術について、月別に重点項目を設けて研修する。これまで3人が修了し県内で就農。現在1人が学んでいる。
今後の同センターの方針について、片島室長は、「品種・施肥技術だけでなく、商品のパッケージ提案に向けた栽培技術と生産資材の標準化などのノウハウを蓄積して体系化と併せ、販売や人の育成を視野に入れて、生産者の手取りのアップに努めたい」と、意欲を示す。
(写真)アスパラガスの試験ほ場、子どもピーマンのほ場とピーマン「カーピー」(左下)、「アンジェレ」とセットの「うぃずOne」と片島室長、鉄コーディング直播の講習
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