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JAの活動:第62回JA全国青年大会特集 Keep on going ~未来(あす)へ向かって~

地域農業の未来 盟友の力で 座談会 TPP合意に若手農業者はどう立ち向かうか2016年2月15日

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出席者
天笠淳家氏JA全国農協青年組織協議会会長
横尾光広氏JA栃木青年部連盟顧問
谷口信和氏東京農業大学教授

 第62回JA全国青年大会はメインスローガンに「Keep on going~未来(あす)へ向かって~」を掲げて2月16、17日に開かれる。昨年10月にはTPP合意がなされるなど「かつてない激動の年」(天笠JA全青協会長)が始まるが、地域農業の担い手でもあるJA青年部員には、盟友とともに日本農業と地域の未来に向けた活動が期待される。大会を機に天笠会長と横尾光広JA栃木青年連盟顧問に語ってもらった。司会は谷口信和東京農業大学教授。

◆納得できない 大筋合意

天笠 淳家氏 谷口 TPPは2月4日に署名式が行われて協定文が確定し、今後各国で批准に向けて手続きを進めていく、一段高いステージに上ったということになると思います。ただ、TPPはもうすべては決まっているから、後はどう対応するかだけだというのは問題の捉え方が狭いと思います。
 天笠 まさにそこです。もう決まっているのだろうではなくもっとできることはあるという認識を持つべきだと思います。
 谷口 そのためにもTPPの合意内容そのものをどうみるかですが、いかがでしょうか。
 天笠 昨年10月5日のことは絶対に忘れないと思います。7月に大筋合意するのではないかと言われていましたが、ニュージーランドが突き返した。あの小さな国でも突き返すことができたわけです。
 われわれは5年8か月、ずっと運動を展開し、若手農業者が集結して議員会館前での座り込みや集会、要請を行って来ました。東京だけでなく各地でも地域住民の理解を得ながら運動を展開し、JAグループも1千万人署名を集めた。
 その結果としてのあの大筋合意ですから、本当に国会議員に対する不甲斐なさを感じ、当然、怒りがこみ上げてきました。重要5品目については必ず守るといっていましたよね。それが途中から言い方を濁すようになって、"再生産可能"という文言が付いているから、だから再生産可能になるよう万全の対策をとる、という言い方になっていった。これはずれてきているなと思いました。
 10月5日以降、今度は11月25日にかけて大綱策定が検討され、それぞれの団体から要請を聞きましたが、もう最初から国に道をつくられていたとしか言いようがないように感じた。
 横尾 今回の合意は、まさに急転直下という感じです。いろいろな活動をしてきたのにこんな感じで結末を迎えるのかと。甘利大臣はもっと主張すべきだったのに、前のめり過ぎるぐらいの姿勢で交渉をまとめることだけ急がせたのではないかと思います。
 それも最後まで揉めたのは農業ではなくて、医薬品の問題だったということは、農業問題は前々からすべて決まっていたのかという思いです。地方で農業をやっている人たちと、国会議員など上のほうにいる人たちとの温度差は非常にあるんだなと思いました。政府は国益を守ったというかもしれないが、私たちにとっては国益とは農業です。最後はこういう終わり方になったのか、と本当に不甲斐ないと思います。
 天笠 実際にすでに決まってしまっているのではないかという思いもありましたが、それでもまだ可能性はあると認識して前に進まなければ、自分たちの後世の人間はどうなるのか、ということでした。あのとき現場にも不安が出たわけですが、そんなことはなかったという結果をもたらしたいがためにずっと運動をしてきたわけです。
 しかし、結果として大筋合意の中身を見ると不安と不信が湧いてきたということです。ただ、われわれとしてもピンチじゃなくていろいろな意味でチャンスに変える展開方向を考えなければならないと思います。


◆輸入が増えれば 影響は確実

 横尾 光広氏谷口 合意内容とその影響についてですが、たとえば米は輸入米が増えてもその分を備蓄米で買い入れるから基本的に影響はないと政府は言っています。
 天笠 そんなことはないと思います。民間の売買契約だと言っていますが、現在でも一部の外食産業は外国産米を入れているわけです。輸入米が増えれば国内農家に影響は確実にあります。
 TPPによる輸入枠はSBS(売買同時入札)方式であり、これは民間の売買契約だから国としての約束ではないと言います。しかし、外食産業でも国産米を使うことが大前提だという政策はどこにも書いてない。政策としてそこをきちんとやってくれなければ影響はあります。ですから、TPP関連政策大綱をつくるときも、飼料用米の法制化を求めました。実現するようこれからも求めていきます。そうすればわれわれもある程度安心できる。
 一方で輸出すればいいではないかと言いますが、輸出で生産農家の所得が上がるわけがない。流通段階だけが儲かるのではないか。そこは若手農業者は自分でもきちんと販売ルートを確保することが大事だと考えていますが、改めてまず地域内での消費に結びつけようと呼びかけたいです。そして次に県域内、それから全農による全国的な流通と3段階で考えるべきで、まずは地域から盛り上げていく必要があるということです。
 自分たちはまず地域住民に対して地域の農畜産物をきちんと食べてもらう、そこを大前提にやっていきましょうということです。JAグループもそこを前提にすればいいと思います。
 谷口 米でも影響が懸念されるわけですが、横尾さんは牛肉など畜産分野の合意内容についてはどうみていますか。
 横尾 和牛の肥育経営だから大丈夫だろうと言われますが、何十年も前から日本の和牛の種はアメリカに行っているわけです。関税が下がったときに、米国産の和牛がどっと輸入されるようになるのではないかと思います。豪州産も同じです。非常に危機意識があります。
 一方、日本で起きているのは米国産牛肉と競合する交雑種の生産農家が和牛に切り替えているということです。だから子牛が高い。口蹄疫や原発の問題で繁殖農家が減っているなか、さらに子牛高が進めば和牛の肥育農家にも影響が出ます。
 結局、消費者が決めることだと思いますが、TPP合意直後からテレビはこのステーキがいくら安くなるといった報道がばかりです。果たして本当にどれほど安くなるのか分からないし、価格ではなく国産の農畜産物を求める消費者もいると思います。今はそこが見えなくなっている気がします。


◆地産地消徹底し 国産の底力示せ

谷口 信和氏 谷口 昔は所得水準によって異なる消費をしていました。高級品を食べている人は安いものは食べませんでしたし、安いものを食べている人は高級品には手が出ない、と。しかし今はTPO消費ですから、今日は誕生日だから高級な和牛を食べましょうなどと、普段は安いものを食べている人でもあるときは高級品を食べる。だから、安いものの価格がさらに下がれば高級品の価格もそれに影響を受けて下がることになる。こうした影響を考える必要があります。厳しい状況にありますが、天笠会長からは、改めて地域内に自分たちの農産物を提供することが大事だいう方向が示されました。
 天笠 国産農畜産物の消費を伸ばしていける対策をわれわれ自ら考えていかなければならないと思います。ブランド化が大事だと盛んに言われますが、それ以上に地域内消費、これをまず第一に考えていこう、と。これができていけば必然的に国産の生産量は伸びて国民理解につながると思います。広報活動も大事で安ければいいのではないと訴えていく必要もあります。
 そのためにも若手農業者は制度や政策に無頓着であってはいけないと思います。自ら勉強もしなければなりませんが、ぜひ地域に密着しているJAがサポートをしてほしい。これはJAの自己改革の問題とも関係しますが、政府はこれから准組合員問題などでJAに問いかけしてくることになる。そのときに地域の方々がJAに対して理解度を増していればJAもがんばれるということだと思います。

◆農業の仕事に 誇りの共有を

今こそ、農業と農業者の価値を確認したい 谷口 ブランド化といってもブランド名を調べてみるとやはり地域名が圧倒的に多い。ということは農業は地方や地域と離れて存在してはいないということです。
 天笠 地域とは歴史と伝統と文化、この3つがワンセットになっていてそれを農業者が伝えていっていると思います。農家に行けば昔のことが分かる、と。それが財産だと思います。
 地域内で人とモノと金をうまく循環させていければ外部には逃げないわけです。そのうえで足らない部分についてはJAグループという大きな組織があるのだから、必要に応じて横の連携を使っていく。それこそオールジャパンで闘うんだという姿勢として、産地間リレーに取り組み、その国産の力を国民のみなさんに見せて理解を促せるような取り組みにしていくべきだと思います。
 私は農業者は純粋な人たちだと思っています。国民の生命維持産業という大きなものを背負っているのだからがんばらなければ、農業者である自分たちも苦しむけれども、それは国民も同じなんだという話をみんなにしていこうと思います。
 谷口 農業者というのは他の職業にくらべて自然が相手で、しかも自然から得たものが最後は人間の口に入って命を支える。人間が生存していくうえで不可欠な仕事です。
 その誇りの部分が失われて今の農業改革の議論は金儲けだけに行ってしまっているのではないか。むしろ青年部のみなさんにはお互いに自分たちの仕事はこんなすごい価値があるということを確認してもらい、誇りを持って結びつきをつくることが必要ではないかと思います。
 横尾 自分たちが農業をやっているのは地域の誇りだったり、地元愛だったり、食を提供することの誇りだったりします。そこは意地、プライドだと思う。地域コミュニティの形成はやはり農業者がやっていますし、そういう意味で担い手対策といってももっと幅広く見ることも必要ではないかと思います。それを一言で、これからは儲かる農業だと言われても、自分たちは泥まみれになりながらも農業をやるんだという意地が支えている。そこを安倍さんは分かるのかという率直な気持ちがあります。


◆国民の理解は 生産者自ら

 谷口 そんな農業と農業者の価値を今度の大会でみなさんに改めて確認してほしいと思います。最後に盟友に向けて2人からメッセージをお願いします。
 横尾 農業元年ではないけれども、新たに農業が生まれ変わる年が始まったという思いです。そこに自分がいることの重みと、同時にこれから農業をどうしていくか楽しみでもあるという意気込みも持ちたいと思います。みんなで一つの目標に向かって進んでいきたいです。
 天笠 大会は1年に1回ですが、今年度ほどいろいろな意味で激動の年はなかったと思います。逆にこれから新たなステージに向かうというような前向きな考え方をもってみなさんには活動してもらいたいと思います。
 やはりわれわれ農業者が先頭に立って動く必要があると思います。国民に対する理解を求める運動でもJAが主導で行うのではなく、生産者自ら行わなければ何も変わらないと思います、そういう共通の認識を盟友とともに持っていきたい。TPPの大きな波が来たとしても1人の農家もなくすことはないと希望を持っていきたいと思います。
 谷口 みなさんに期待します。
(写真)天笠 淳家氏、横尾 光広氏、谷口 信和氏、今こそ、農業と農業者の価値を確認したい

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